LIBERAL TAIL   作:タマタ

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第19話: 真実

エルザが攫われ、その後を追跡していたナツ達はある一隻の小さな船で追っていたが、もうすでに一晩を明けていた。もうすでに今は明朝であった。

 

「ジュビア達、迷ってしまったんでしょうか・・・」

 

「ナツ、本当にこっちであってるの?」

 

船に乗る際に仕方なくビーチで使っていた水着を着たルーシィが訊く。

 

「うん・・・っぉぶ・・・」

 

「オメーの鼻を頼りにしてきたんだぞ!!もし迷ったりしたら容赦しねぇからな!!!」

 

「グレイ様の期待を裏切りなんて・・・信じられません!」

 

ジュビアはそうナツに怒りを込めて、言い切った。その後、ジュビアは暗そうな表情になり、口を開いた。

 

「エルザさん程の魔道士がやられる―――」

 

「―――やられてねぇ!!エルザのことを知りもしねぇで、そんな口、叩くんじゃねぇ!!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

グレイのジュビアに対する怒声と目つきでジュビアの身体はぶるっと震え上がった。グレイの気持ちが収まらず、次の言葉を発しようとした時にルーシィが割って入った。

 

「グレイ、落ち着いて!!」

 

グレイはその後、短く舌打ちを零すと、重々しい表情に変わる。

 

「あの四人組、エルザの昔の仲間って言ってた。エルザ自身からも。あたし達だって、エルザの事・・・全然、分かってないよ」

 

グレイはようやく、落ち着き、エルザのことを考え直していた。皆がルーシィの言葉に対し、沈んだ空気になり、全員が黙り込んだ。

 

「!!」

 

その時、いきなり、ナツを看病していたリーナがその場で立ち上がり、驚いた表情で向こう側を見つめていた。

 

「どうした!?リーナ!」

 

「この魔力・・・邪悪な魔力を感じるの・・・」

 

そして、リーナの視線の先には何もない場所で次々に鳥が死に、海へと落ちていく光景があった。その数が10となると、さすがに不思議に思えた。

 

「一体、どうなってんだ?」

 

皆が死にいく鳥を見ていると、船がぐらっと揺れ、水面に視線を向ければ、そこには大量の死んだ魚達が水面上に現れだしていた。

 

「魚もか!?」

 

「ハッピー喜ぶだろうな・・・」

 

いつの間にか、この出来事に勘づいたナツは魚を見て、そう呟いた。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!!」

 

「グレイ様、あれ!!」

 

突然にジュビアが声を発す。振り向いたグレイはジュビアが人差し指で示した方向に視線を向けた。

 

「あれが、塔ではないでしょうか?」

 

「そうだな・・・」

 

「あれが、楽園の塔・・・」

 

「あそこにエルザさんが」

 

「よし、行くぞ!!」

 

それぞれが楽園の塔へと視線を向けた。そして、楽園の塔へ向かって船は動き出した。

 

 

 

ここは楽園の塔、内部。檻の中で拘束されるエルザの前にはショウが立っていた。そして、檻の付近にはシモンが堂々と立ちはだかっていた。

 

「儀式は今日の夜中だよ、姉さん。それまではここでいてね」

 

「(儀式!!?Rシステムを作動させるのか!!)」

 

目を大きく見開き、エルザは驚いた表情でショウを見つめた。両手首はミリアーナのチューブによって固く縛られ、足が軽く地面に付く程度で吊るされていた。

 

「裏切った姉さんが悪いんだ。こうなるのは当然だよ。ジェラールは怒っている。でも、光栄なことだよ。儀式の生贄は姉さんに決まったんだよ」

 

顔を近づけて、エルザに恐怖を与えるショウはまるで、面白がっている。

 

「楽園の塔のためだからしょうがないよね」

 

ショウはエルザの両手に目を向け、震えていることに気づき、また続けた。

 

「生贄になるのが、怖いの?それとも、ここが・・・あの場所だから・・・」

 

 

 

 

 

 

 

塔から脱走しよう企み、計画を立てて、決行したエルザ達だった。しかし、見張りに運悪く見つかり、拷問をされていた。

 

「誰だって訊いてんだよ。立案者は・・・」

 

「わた―――」

 

「―――オレだ!この立案者であり、この指揮した!!」

 

エルザが涙を流しながら、自分と主張しようとすると、青髪の幼年、ジェラールが自らが立案者だと言い張った。しかし、男はジェラールを見つめると、こう言った。

 

「ほう・・・。なぁるほど・・・違うな。お前じゃねぇ。そこの女だ」

 

そう言い、指を差されたのは大粒の涙を流すエルザだった。

 

「連れてけ!!」

 

「違う!オレだ!!オレがやったんだ!!エルザは関係無い!!」

 

それでも、ジェラールは必死に自分がやったと言い張った。しかし、その反乱も虚しく男が放った紫色の雷でジェラールは悲鳴を上げた。

 

「うるせぇんだよ」

 

「・・・・・・エルザを・・・放せ!!」

 

脇に挟まれ、段々と遠く離れていくエルザを悔しそうにジェラールは見つめる。エルザは抵抗せずに俯いたまま、涙を堪えていた。

 

「私・・・私は大丈夫。全然、平気・・・」

 

まるでそれは、自分に言い聞かせるようであった。声も小声で泣きながら言っているのが一目で分かる。

 

「エルザ!!」

 

ジェラールが必死に名を呼ぶ。それに対し、エルザは涙を決死に我慢し、満面の笑顔を見せた。

 

「ジェラール言ってくれたモン。全然、怖くないんだよ・・・」

 

「ぅぐっ!!」

 

その言葉に決死に我慢するエルザの感情を読み取り、ジェラールは自分の力の無さに怒りを覚えた。そして、この悔しさを抱え込んだまま、呟いた。

 

「エルザ・・・・・・」

 

そして、今度は悔しさを声に変えて、放った。

 

「エルザぁぁぁあぁぁあぁああ!!!」

 

その声はエルザの耳に悲しげに響き、楽園の塔に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

「あの時はゴメンよ、姉さん。立案者はオレだったんだ。けど、怖くて言い出せなかった。ホント・・・ずるいよね」

 

ショウは自分の情けなさに落ち込むようにエルザに謝罪した。しかし、エルザは話を変えようと試みた。

 

「そんなことはもういい・・・ずっと昔のことだ。お前たちはRシステムで人を蘇らせることがどれほどの危険性を持っているのか理解しているのか?」

 

「へぇ、Rシステムについて分かってるんだ。意外だね」

 

「リバイブシステム・・・」

 

「そう。大勢の生贄と引き換えに一人の死者を生き返らせる。それがRシステムだ」

 

「やっていることが奴らを変わらんではないか!!」

 

「違うね。ジェラールの考えていることは違う。ジェラールがあの方を復活させる時、世界は生まれ変わるんだよ」

 

そういいながら檻を出ていこうとするエルザはその隙を突き、ゆっくりと足を使って身体を浮き上がらせ、逃げ出そうと試みていた。そんな事に気づかないショウは次々に語り続ける。

 

「俺たちは支配者となる。全ての者に悲しみ、絶望、恐怖を与えてやろう!!!そして全ての者の自由を奪ってやる!!!俺たちが世界の支配者となるのだァ!!!」

 

狂ったショウは可笑しな事を叫び始め、やがて、その表情は狂った邪心を持った悪者へと変貌していた。

 

「な!!?」

 

いつの間にか、拘束されていた身を解放し、エルザはショウの懐まで屈みながら疾走していた。そして、縛られている両手でショウの顎に両拳を炸裂させた。

 

「ぐぁ!!!」

 

ショウは檻の柵に後頭部を打ち付け、その場に倒れ込んだ。

 

「ショウ・・・」

 

エルザは昔の無邪気で楽しそうにするショウの笑顔を思い出した。そして、今のショウとその表情を比べ合わせる。すると、無意識に両肩が震えだした。

 

「何をすれば、ここまで人は変わる・・・」

 

そして、エルザは颯爽といつのも鎧に換装し、血相変えて、怒りの籠った表情を露わにした。

 

「ジェラール・・・貴様のせいか」

 

 

 

「ジェラール様・・・先程、申し上げた通り、エルザが脱走しました」

 

「ふっはははは!!やはりエルザは良い女だ。そうでなくは面白くない。俺が勝つか、エルザが勝つか。Rシステムの余興だ。せいぜい、暴れるがいい。楽園ゲームでな・・・」

 

 

 

「見張りが多いな・・・」

 

「突っ込むか?」

 

「ダメよ」

 

「見つかって逆に返り討ちにされちゃうわよ」

 

「だったら、負けなかったからいいんだろ?」

 

「バカね。ハッピーやエルザが危険になっちゃうわよ」

 

楽園の塔に上陸したものの、一歩も近づけないナツ達は討論を繰り返していた。なぜか、そこにはジュビアの姿はなかった。

 

「そりゃ、分が悪いなぁ・・・」

 

「不味いわね」

 

「やっぱ、突っ込むか?」

 

皆が悩んでいる時だった。水中から現れたジュビアが水中から地下へと続くルートを見つけたと言った。

 

「よっしゃ!ナイスだ、ジュビア!!」

 

一旦、陸に上がったジュビアは距離とかかる時間を説明した。

 

「10分くらいなんともねぇよ」

 

「楽勝だぜ」

 

「ムリムリ・・・」

 

「できるわけないでしょ」

 

「では、これを被ってください。水中でも息が出来るよう酸素を閉じ込めてありますので」

 

「おぉ・・・」

 

「スゲェなお前。つーかお前誰だ?」

 

ジュビアは自分の存在感の無さに落ち込む。ナツは悪気がなかったようにジュビアの出した水塊を被った。

 

「んじゃ、行くか!」

 

そう言って、全員が海の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

* * *

 

 

 

「ここがあの塔の地下か・・・」

 

「エルザとハッピーはどこだぁ?ここか?」

 

「なわけないでしょバカ!」

 

ナツが岩を退かしながら探す姿にリーナがツッコミをいれる。

 

「それじゃあ、こっからは慎重に行くか」

 

「グレイ様の言うとおりです・・・」

 

「そうね。見つからないように救出しないと・・・」

 

「よし、じゃあ、もう突撃していいんだなぁ!行くぞ、コラァア!!!」

 

いきなり、ナツが火を体全体で噴きながら颯爽と駆けていく後ろ姿を見ながらリーナが叫ぶ。

 

「話、聞いてたぁ!!?」

 

「バカやろッ!!勝手に行くな!!くそナツ!!!」

 

そして、呆気なく騒がしいナツは見張り役の兵に。

 

「侵入者だぁぁぁぁ!!!」

 

見つかってしまった。

 

「やば!」

 

「最悪・・・」

 

「もう、こうなったら・・・」

 

「やるしかねぇな!」

 

駆け抜けていくナツの背中を迷惑そうに見ながら、それぞれ戦闘態勢に入る。

 

「うぉぉおおおお!!!」

 

「な、なんだ貴様!!?」

 

「アァ!!?教えてやんよ!!!」

 

身体中に火を纏い、壁を伝いながら兵達の立っている橋に降り立った。そして、大声で叫びながら兵が群がるところに突っ走る。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!!!バカヤロウ!!!」

 

叫びながら兵達に向かって強烈な火拳を叩き込む。

 

「ぐあぁっ!!!」

 

「うわぁ!!」

 

その衝撃で橋は崩壊し、一気に崩れ落ちる。大きな爆発と崩れ落ちる橋の轟音が響き渡ったのを境に、他の者も戦闘を始めた。

 

「開け!!処女宮の扉!!バルゴ!!」

 

「お呼でしょうか?姫・・・」

 

呼び出したバルゴはあっという間に兵達をなぎ倒していく。

 

 

 

「なっ!!?コイツぅ!!」

 

水流斬破(ウォータースライサー)!!!」

 

「ぐぅあぁ!!」

 

作り出した水の刃が兵達を切り裂く。

 

 

 

「シャイン!!」

 

「ぅごぉお!!」

 

リーナが作る光の弾が兵達を吹き飛ばす。

 

 

 

「アイスメイク・戦斧(バトルアックス)!!」

 

「がぁあぁぁ!!!」

 

グレイの巨大な斧が兵達を薙ぎ払う。

 

「オイてめぇ、四角はどこだ!!」

 

「通じる訳ないでしょ・・・」

 

「粗方、片付いたな」

 

兵達は呆気なく倒されていき、ほぼ全滅だった。しかも経った数分しか経っていなかった。

辺りは騒然とした空気から束の間、静寂とした空気へと一変し、静まり返っていた。

 

「…んだ?」

 

微かな異音に気付いたナツがその音源の場所へと目を向ける。

上へ続く階段が現れ、まるで、誘っているかのような雰囲気を醸し出す。

全員がその階段へと視線を送り、疑問符を浮かべる。

 

「上へ来いってか?」

 

「どうする?」

 

「んだよ、決まってんだろ!行くぞ!!!」

 

ナツの一言で全員が上る決心を決め、上へと上り始めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

上の階へと着々と足を進めるナツ達は現在の階を駆け回っていた。

 

「どこだぁあ!!四角野郎!!!」

 

「うるせぇ、黙れクソ野郎」

 

その大声に察したグレイがナツを押し止める。その光景を一瞥しながら、ルーシィとリーナは辺りの捜索を行っていた。

 

「本当、ナツってば…」

 

「でも、今更、隠れたところで無意味じゃ」

 

互いに思案しながら、捜索を行うものの進展する気配はなく、途方に暮れていた。その時…

 

「侵入者だぁぁ!!!」

 

流れ込む様に人の大群が押し寄せてきた。各々、武器を掲げ、大声を上げながら、此方へと接近してくる。ルーシィとリーナは短い怯えた悲鳴を上げながら、後退する。一方は対照的でナツとグレイ、ジュビアは前へと出た。

ナツは拳をパキパキ、と鳴らし、戦闘態勢に入る。

 

「懲りねぇ奴等だな」

 

拳に炎を纏ったその時、大群は一斉にして崩れ、あっという間にその人数は減少した。

まるで、川に別の激流が押し入った様だ。束の間、兵は全滅し、そこに立っていたのは剣を流れる動作で振るう―――

 

「「エルザ!!」」

 

「良かった…」

 

「か…か、かっこいい」

 

其々がエルザの登場に感想を述べ、喜びの声を上げた。一方ではエルザはその皆の登場に驚愕し、僅かに立腹している。

 

「お…お前たち、何故ここに…!!?」

 

「何故もクソもねぇよ!!このまま、引っ込んでられるかってんだ!!」

 

グレイが唐突にそう、声を荒げた。全員、一致の意見である。

 

「帰れ」

 

エルザは冷たくそう言い放つと冷徹な光を瞳に湛えた。剣先を此方に向け、もう一度、言い放った。今度は圧倒的な威圧感が込められて。

 

「ここはお前たちの来る場所ではない」

 

「ふざけんなっ!!ハッピーが捕まってんだ!!ぜってぇ、助けるぞ!!!」

 

「ハッピーが?…ミリアーナか」

 

ナツはエルザの呟くその人物名に耳を傾け、気迫の篭った雰囲気で問う。

 

「ソイツはどこだ!?」

 

だが、エルザは答えることなく俯き、無視していた。分からない、そんな雰囲気がナツに伝わる。

 

「ハッピーが待ってる!!今行くぞォ!!!ハッピー!!」

 

そういうとなりふり構わず駆け出した。すると、その後ろ姿を見兼ねたリーナが追う様に駆け出した。

 

「待ちなさいよ!!ナツ!!!」

 

怒鳴りながら、その後を追う。二人、この場からあっという間に居なくなってしまった。

 

「追うぞ!!!」

 

グレイも続けざまに大声を放つ。だが、

 

「いっ!!?」

 

「駄目だ。帰れ」

 

グレイの眼前には剣が突き出され、その行動を征した。グレイは仰け反る様に後退し、剣を突き出すエルザを睨む。そして、次の言葉を待った。

 

「お前たちを巻き込みたくない。すぐにここを離れろ」

 

背を向け、そう言い放つ。勿論の事、総員、納得するハズなど微塵もない。

 

「巻き込みたくねぇだぁ?ふざけた事言ってんじゃねぇぞ。さっきのナツを見ただろ」

 

「そうだよ、エルザ一緒じゃなきゃ!!」

 

「私達、力になるよ?どんなエルザだって受け入れられる…絶対に」

 

ルーシィのその優しい声にエルザは首を横に振る。背を向けたまま、弱弱しい声で、再び…

 

「か……帰れ…」

 

と、告げる。

 

「…らしくねぇな。いつものエルザじゃなきゃ、こっちが戸惑うじゃねぇか」

 

と、軽口をたたきながら、グレイは頭を掻く。その後、漸くエルザが振り返る、その眼に涙を浮かべながら。

 

「エル…ザ……?」

 

涙を拭いながら、「すまん」と告げると顔を上げた。

 

「この戦い…勝とうが…負けようが…私は表の世界から姿を消すことになる」

 

「えっ…!?」

 

「どういう事だッ!?」

 

唐突な言葉に総員は驚愕の言葉を無意識に発し、声を荒げていた。表の世界から姿を消す、つまりは死。

 

「これは、抗う事の出来ない事。私が存在しているうちにすべてを話しておこう」

 

エルザは意味不明な微笑みを一度だけ浮かべ、全てを露にし、語り始めた。

 

「楽園の塔。別名Rシステムは死者を蘇らせる魔法の塔を建設しようとしていた。勿論、非公認の作業だった為、各地から集めた人々を奴隷としてこの塔の建設にあたらせた。幼かった頃、私もその一人だったのだ」

 

そして、全てを露にするのだった。エルザを連れ去った四人組が、この塔の主であるジェラールが、奴隷であった事を語り、エルザを庇い、罰を受けるジェラールを助けるために反乱を起こしたことを語り、それを境にジェラールが悪に染まり、楽園の塔の完成と共にゼレフを蘇らせると告発したジェラールの事を語った。

 

「私は非力だった…」

 

「そんな事ないよ」

 

「あぁ。そんな苦しい現実を仕舞い込む程の心を保てるのはスゲェ事だぜ」

 

「すまん」

 

そういいながら、流れそうな涙を再び拭うとエルザは表情を一変させた。

 

「私は……ジェラールと戦うんだ」

 

そうして、一つの頑固たる猛然な決意を言い放ったのであった。暫くの間、受け入れがたい現実に皆は呆然とし、言葉を失っていた。

 

「おい、ゼレフってのは…」

 

「ああ、魔法界の史上、最凶最悪と言われた伝説の黒魔導士ゼレフだ。動機は分からんがな…」

 

「そうか…」

 

そして、再び一同は言葉を失った。重く沈んだ空気に口を閉ざされ、沈黙が流れた直後であった。これを機会にしていたかの様に突然にして声を発した影が現れた。

 

「……ど…ど…どういう事だよ?」

 

突如として現れたのは四人組の一人であるショウという少年であった。その表情には驚愕と激怒が込められている。

 

「俺たちの事を何も知らないくせに!!!八年もかけてこの塔を完成させた!!!ジェラールだけが俺たちの救いだったんだ!!!八年だ!!!ジェラールの為に!!!」

 

悲痛な叫びが断末魔の様に轟く。やがて、その声は衰え、更に弱々しいものへと変わった。

 

「その…その全てが嘘だって?正しいのは裏切り者だった姉さんで、間違っているのは救世主だったジェラールだと言う…のか……?」

 

「…そうだ」

 

エルザではない、その声はまたショウの出てきた曲り角から聞こえてきた。そこにはあの巨漢の男がいた。

 

「…シモン」

 

僅かに涙を浮かべながら、振り返ったショウがその巨漢の男にそう呟く。シモンはその場で重々しく頷き、一同に敵ではないと語る。

 

「全員騙されていたんだ。オレはそのフリをしていた。迂闊に動く事はできない、機が熟すまでは。オレは初めからエルザを信じてる。八年間、ずっとな」

 

シモンはそういいながら照れ臭そうに告げると、頭を掻いた。呼応する様にエルザが歓喜の笑みを浮かべ、シモンへと返した。

 

「なんで……何で、俺は姉さんを信じ…られなかった。何でみんなは…信じられる…」

 

そう言いながら、膝を折り、その場に泣き崩れる。そんなショウを全員が同情し、視線を投げかけた。

 

「くそぉおおぉおおぉぉっ!!!」

 

ショウの悲痛な叫びが木霊する。

 

「何が真実なんだ!!?俺は…俺は…俺は!!!」

 

やがて、困惑し、怒り狂い、心が狂い始めていた。

 

「今すぐに全てを受け入れるのは苦しい。私はこの八年間、お前たちを忘れたことなど無い。私は非力だ、何もできなかった、すまなかった」

 

そう謝罪し、泣き崩れるショウを優しい温もりで包み込んだ。

 

「だが、今ならできる。そうだろ?」

 

シモンが近寄り、そう問いかける。エルザは立ち上がり、その勇ましい背中を向けながら、頷いた。


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