「・・・ショウ・・・なのか?」
「久しぶりだね。姉さん」
声が恐怖するように震え、顔を驚愕に染め、エルザはショウを見つめた。
「姉・・・さん?」
状況の把握ができないルーシィはただショウという青年とエルザを交互に黙視することしかできずにいた。そうしているうちにエルザがまた口を開く。その唇は僅かにぷるぷると、震えていた。
「無事・・・だったのか?」
「・・・無事?」
「あ・・・いや・・・・・・なんでも」
完全に動揺しているエルザはショウを見るのも辛そうにしていた。
その頃、グレイとジュビアは巨体の男と睨み合っていった。
「エルザはどこだ?」
「教えるかよ!」
グレイと男は互い睨み合い、威圧感をぶつけていた。その間合いにジュビアが流れるように割って入り、両手を広げて、グレイを庇うように言う。
「グレイ様には傷一つ付けさせない。ジュビアが相手します」
「ジュビア・・・」
「エルザさんにキケンが迫っています・・・。すぐにでもエルザさんの下へ」
ジュビアは相手に聞こえないように小声で伝えた。突如、男が指を頭に翳し、ブツブツをつぶやき始めた。
「見つかっただと?だったら、もう、始末していいんだな・・・。了解」
グレイが見つかった、という言葉に驚き、急いでエルザの方へと疾駆しようとすると、突然、辺りが真っ暗に染められ、視界が真っ黒になった。
「なんだコレはぁ!!?」
「グレイ様、下がってください!!」
「闇の系譜魔法、闇刹那」
次の瞬間、鈍い音だけが響き、グレイとジュビアに痛覚が走った。暗闇の中に二人の短い悲鳴が響いた。
「が・・・!?」
口に銃を突かれているナツは上手く話すことができず、辺りが暗くなったことに戸惑っていた。
「なにコレ!?停電・・・じゃなさそうね」
「どこー!!」
ハッピーやリーナの声がするものの、姿が見えずナツは叫ぼうとするが、銃が邪魔で叫ぶことができない。すると、眼前から声がした。
「グッナイ・・・ボーイ!」
「んがっ!?」
銃声。そして、リーナとハッピーの声が暗闇に響く。
「「ナツぅぅぅ!!!」」
「ネコと嬢ちゃんも眠りな」
ウォーリーがそう告げた瞬間、リーナの背中になにかが突き当たり、しだいに意識が朦朧とし始めていた。
「うっ・・・何コレ・・・意識が・・・」
意識は飛び、やがて、リーナが地面に倒れる音が小さく聞こえた。
エルザとルーシィも暗闇に戸惑いを隠せず、驚きの声を上げていた。
「暗っ!!」
「これは一体!?」
少しずつだが、辺りが薄らと明るくなり始めていた。いつの間にか辺りに光が戻っていた。すると、突如、辺りの床にカードが散らばっていた。
「カ・・・カードの中に人!!?」
「ショウ、お前がやったのか!!?」
「姉さんと同じように俺も魔法を使えるようになったんだよ」
エルザはただ驚愕した様子でショウという男ばかりを視線に向けていた。不敵な笑みを浮かべたショウを見ていると、今度は向こうの方から声がした。
「みゃあ」
「えっ?きゃあ!!?」
ルーシィが声に驚いて振り返ろうとした時には橙色のチューブが体を縛り付けていた。そして、完全に身動きの取れない状態になった。
「ルーシィ!!」
縛られ、横たわるルーシィの後ろのテーブルに座るネコのような少女がエルザに話しかけた。
「みゃあ。元気最強?」
「その声はミリアーナか!!?」
ミリアーナをみて驚愕するエルザの不意を付くように後ろから声がした。
「すっかり色っぽくなっちまってョ」
「ウォーリーか!?」
次々に現れる衝撃の人物達にエルザは驚くばかりであった。
「コツさえ、つかめば魔法は誰にでも使える。なあ、エルザ」
突如、気配がなかったが背後にいた巨体の男に気づき、エルザは飛び退きながら言った。
「シモン!?」
いきなり現れた四人組にルーシィが縛られ、辛そうにしながらもエルザに質問を投げ掛けた。
「エルザ・・・こいつら一体なんなの!!?」
「本当の弟ではない。かつての仲間達だ」
その言葉に疑問を抱くルーシィはまた問いかける。
「え!?でも、エルザって幼い頃から
「それ、以前ということだ。頼む、ルーシィを解放してくれ」
いつもの勢いあるエルザではなく、なぜか、頼むように言っていた。
「それはできないな、姉さん」
「なにをしに来たというのだ!?」
「連れ戻しに来たのサ」
「みゃあ」
「帰ろう、姉さん」
「言うこと聞いてくれねぇとヨォ」
と、ウォーリーが片腕を銃に変形させ、銃口をルーシィに向けた。すぐさま、焦るようにエルザが叫ぶ。
「よ、よせ!!頼む!!ルーシィは仲間なんだ!!」
「僕たちだって仲間だったでしょ?姉さん」
エルザを困らせるように放つショウの言葉に動揺するエルザ。その隙を突いてウォーリーは銃になっていた腕を消し、エルザの背後に出現させた。
「ぅあ・・・」
一瞬にしてエルザの腰部が撃たれ、エルザは重心を前に倒していった。
「エルザ・・・痛っ!?」
「目標確保。帰還しよう」
「ちょっと!!エルザをどこに連れて行くつもりよ!!返しなさいよ!!!」
拘束されているルーシィは必死に叫ぶが、四人はルーシィを無視して去っていく。そして、ミリアーナがルーシィに人差し指を向け、ルーシィを縛るチューブを強めた。
「痛ッ・・・!!」
「そういや、ミリアーナ。君にプレゼントだゼ」
ウォーリーがミリアーナに差し出したのは青い猫、ハッピーだった。
「わぁ!!ネコネコ~!!貰っていいの!?」
ハッピーをぐぅっと抱きしめながらはしゃぐミリアーナ。
「姉さん、帰ってきてくれるんだね。楽園の塔へ」
と、ショウは言い残すと、去っていった。
「・・・楽園の塔?何よそれ・・・痛ッ!!!」
ショウの言い残した言葉にルーシィは疑問を抱くが、チューブにまた強く縛られた。思考を変え、チューブから脱出することを念頭においた。
* * *
「痛えぇぇぇぇぇぇ!!!」
炎を噴き上げて立ち上がるナツ。
「あんの四角野郎!!逃がすかコラァ!!!」
そういって、会場を駆け抜け、怒り狂った表情で出口に向かっていく。その姿を見つけたルーシィは必死に呼び止める。
「あっ、ナツ!!!ちょっと、ナツ!!待って!!!」
「四角ぅ・・・ん?ルーシィ!?」
「このチューブ外してくれない!!」
「いいけど、なに遊んでんだ?」
「遊んでるわけじゃないわよ!!」
縛られ辛そうにしながらも、ツッコミをいれたルーシィに向かってナツの片手に炎が纏われる。
「それより、ナツはどうしたの?」
「あぁ?四角野郎にがよぉ、弾を口にぶち込みやがって。普通、口に弾ブチ込むかよ!!?痛ぇだろ!?へたすりゃ大ケガだぞ!!?」
「そ・・・そう。普通の人なら死んでたけどね」
「チューブ燃やしてやる、動くなルーシィ」
「熱いから!!ナツちょっと・・・辞めっ」
ルーシィの止める言葉を無視してナツが大量の炎を噴き出した。
「熱ぅぅぅううう!!!」
「どーだ。よかったな、ルーシィ。チューブ外れっ―――ごふっ」
ナツが無邪気に言っている途中でルーシィが激怒しながらナツの顔面に拳を叩き込んだ。
「なにすんだよ、ルーシィ!!」
「なにすんだよじゃないわよ!!!アンタのせいで服、燃えちゃったじゃない!!熱かったし!!」
「なんで燃えてんだョ!!?」
「アンタのせいよ!!!」
「うごっ」
と、またナツにアッパーを叩き込んだルーシィであった。
「それで・・・どこいこうとしてたの?」
「あ、そうだ!!四角野郎ォォォオ!!!」
と、怒声を上げながらまた出口の方へと疾走していくのであった。
「はぁ・・・。ま、いっか。それよりグレイ達を探さなきゃ」
懸命に探すルーシィの前で崩壊したバーが視界に入った。そこに壁にもたれかかり、ピクリとも動かないグレイの姿があった。
「グ・・・グレイ!!?」
一気に駆け寄り、グレイの頬に手を添える。そして、絶望と驚愕の入り混じった表情で悲しげに呟いた。
「冷た・・・い」
体が冷たい、それは死を意味することに繋がった。ルーシィの頭に嫌な予感が通り過ぎる。すると、ルーシィは必死にグレイの体を揺さぶった、次の瞬間、グレイの体に幾つも亀裂が入り。
「え?」
粉々に砕け散った。
「きゃあぁああっ!!」
しかし、よく見るとそれは氷であったことにようやくルーシィは気が付いた。すると。
「安心してください」
すると、すぐ傍の床から水が漏れ出し、その水がやがて人型へと変わっていった。
「ア・・・アンタは!!?」
「グレイ様は私の中にいました」
「ゲホゲホ!!」
と、ジュビアの下からグレイが出てきた。口から水を吐き出すグレイは苦しそうに言った。
「突然の暗闇だったんでな。身代わり造って様子、見ようとしたんだが」
その言葉に先ほど壊してしまい、粉々になった氷の破片をルーシィは見つめた。
「敵に気づかれないようにジュビアがグレイ様をお守りしたのです」
「余計なことしやがって。逃がしちまったじゃねーか」
「ガーン!」
グレイの厳しい言葉に落ち込むジュビアだった。そんなジュビアを無視してなんとか、グレイがルーシィに問いかける。
「・・・つーか、なんでお前、裸なんだよ。俺の真似すんじゃねぇ」
「アンタと違って脱いだわけじゃないから!!?」
そんな冗談は置いといて、すぐさま、表情を変えたルーシィは簡単に状況の説明をする。
「エルザが攫われたの!!アイツ等、確か楽園の塔とか言ってたわね。あと、ナツが追いかけて行って・・・」
「どこに行った!?」
「えっ!?」
「ナツだよ!!アイツの鼻は獣以上だ!!」
グレイがルーシィを急かす中、瓦礫が崩れ、中から人が出てきた。
「ナツなら、四角い人を追っていったわ」
「リーナ!?」
「リーナ!大丈夫!?」
瓦礫から出てきたリーナが小さく咳き込み、駆け寄ってくるルーシィになんとか、事情を説明した。
「ケホ、ケホ。・・・睡眠弾を撃たれたから頭がクラクラするけど、平気・・・」
「良かった」
「ていうか、なんでルーシィ裸?」
「帰りたくなってきた・・・」
リーナをゆっくりと起こすルーシィにまた、グレイが急かすように叫んだ。
「安心している場合じゃねぇみたいだぜ!!急ぐぞ!!!」
いつも以上に急ぐグレイの背中を見ながらルーシィ達も駆け始めた。
* * *
薄暗い、汚れた空気の中に不気味な塔、楽園の塔が邪悪なオーラを放って、聳え立っていた。その塔の一室である場に玉座に座る影がった。その影は灰色の服を身に付け、フードを深々と被っている。その青年は足首まで長い黒髪の男を見下ろすようにしていた。
「ジェラール様。エルザの捕獲に成功したとの知らせがありました。こちらへ向かっているようです」
お辞儀をしながら黒髪の男はそう言った。ジェラールと呼ばれた玉座に座る青年は口の端をつり上げて見せた。
「しかし、何故、今頃になってあの裏切り者を?ジェラール様の力があれば、あの女など容易く消せるのでは?」
「ふっ・・・ふっはっはっは。それじゃあ、ダメだ」
「なぜ・・・でしょう?」
「この世界は面白くない」
ジェラールが放った言葉に首をかしげる黒髪の男は少しの間、黙り込んだ。
「時はきたのだ。オレの理想の為に生け贄となれ。エルザ・スカーレット」
荒れ狂う海がより一層、この辺りを不気味にさせていた。
楽園の塔へと向かう船はゆっくりと薄暗い海を航海していた。荒れ狂う波を諸共せず、突き進んでいた。その船の中にある倉庫でエルザとショウは会話をしていた。
「オレは会いたかったんだ!本当に!姉さん!」
「ショウ・・・」
「できれば、こんな事なんてしたくなかった」
ショウは必死に拘束されているエルザにしがみつく様に抱きついていた。涙がエルザの肩に落ちてくるのがエルザには分かった。
「なんで・・・なんで俺達を・・・ジェラールを裏切ったァ!!!」
急激な怒声にエルザは驚愕し、目を大きく開かせ、瞳を揺らめかせた。
「もうすぐ、楽園の塔だ。帰ってきてくれるんだね、姉さん」
そんな会話をしている間にも刻々と時間は過ぎていき、楽園の塔は目視できるところまできていた。
「(ジェラール・・・)」
そう何度もジェラールの顔を頭に隅々に巡らせているエルザは過去の幼年期だった頃のジェラールと自分を思い出していた。
恐怖に震える自分に手をそっと差し伸べ、安堵させてくれるような暖かい視線でこちらを見つめてくれていたあの優しかったジェラール。
「俺達は自由を手に入れるんだ。未来と夢を。行こう、エルザ!」
手を差し伸べてくれたジェラールの手を僅かに戸惑ったものの、歓喜の籠った返事とともにその手に。
「うん」
自分の小さな手を重ねた。そして、優しく握り合った。