―― ここは、定例会が行われる会議室 ――
「これにて定例会を終了する・・・む?」
老人は兵隊らしき若者に一つの紙を渡され、老人は目を動かしながらすらすらと読んでいった。突如、表情が変わり、呆れた様子で
「マカロフ。少し残れ」
「・・・なぜじゃ―――まさかっ」
「そのまさかじゃ。主のガキどもが“ギルド一つ”壊滅させおった」
「なぁぁぁぁぁっ!!?」
マカロフは絶望と驚愕の感情が入り混じり、口と目を大きく開け、出す言葉すらも見つからずに沈黙していた。
* * *
そして、また一日が過ぎ、マカロフはギルドへと戻り、皆から事情を聞き、愕然としながらも納得していた。
「こりゃあ・・・またハデにやられたのう・・・」
マカロフは半壊したギルドを見て、腕を腰の後ろらへんで組んで突っ立っていた。
「あ・・・あの・・・マスター・・・・・・」
とても弱気で小さな声でリーナがマスターに話しかけるが、マスターは少し無愛想に言った。
「んー?お前も大変な目にあったのう」
マカロフは振り返り、リーナの目を見つめた。そんなマカロフに対し、リーナは罪の意識だけを感じ、今にも泣きそうになっている。肩が震え、目の端に薄らと涙が溜まっている。
「ごめんね。リーナ。私があの時、助けられなかったから・・・」
そうやってリーナに謝罪するルーシィに対し、リーナは下を向きながら何度も首を横に振った。その時、涙が目から零れ、地面に染み込む。それと同じようにリーナの心に大きく傷が染み込んでいる気がした。
「リーナ。楽しいことも、悲しいことも全てまでは行かないが、ある程度は共有できる。それが、ギルドじゃ」
励ますように言う、マカロフは微笑みながらその小さな背で俯いて聞いているリーナの顔を覗き込んで続けた。
「1人の幸せは皆の幸せ。1人の怒りは皆の怒り。そして、1人の悲しみは・・・みんなの涙。顔を上げなさい。既に君は共有しておる」
その後、少し間があいた後、マカロフは太陽と重なり、微笑みながら伝えた。
「君は
その時だった。リーナは大粒の涙を、大きな泣き声を、座り込んで空へと響かせるように泣いた。
* * *
あれから、1週間という長いような短いような日が流れ、
一方、その中に必死に大量の木材を体全体で運ぶナツの姿があった。とても苦しそうな顔で運ぶナツはグレイに挑発していた。
「重てぇ~・・・」
「はっはー!!グレイは軟弱だからこれぐれーのは持てねぇんだろぉ・・・」
「あぁ?んなモン、楽勝だぜ」
そう言ってナツよりも大量の木材を担いで、グレイはナツに挑発し返した。しかし、明らかに辛そうだ。大量の汗を流し、根気強く粘る。しかし、量は然程ナツと変わらない。
「どっちが速く運ぶか競争だ、グレイ!!」
「やってやろぉじゃねーか、ナツ!!」
そう言い合った二人は睨み合いながら、脚に力を入れ、走る態勢に入る。
「よーい、ドン!!」
その合図とともに二人は大量の木材を激しく揺らしながら騒々しく駆け抜けていった。
「「おぉぉぉおおぉぉおっ!!!」」
遂には大声までも出していた。気合の入った声はルーシィの耳には段々と小さくなっていき、やがて、消えていった。
「バカねー」
「そう・・・ですね。・・・・・・ん?」
熱いような殺気の視線を感じ、驚いて物陰を見るが、誰もいなかったため、気のせいだ、思い込んでその場を後にしたリーナであったがそれが、ジュビアの視線だったということはまだ誰も知らない。
一方、ナツVSグレイの決着は。
「オレのが速かったぞ!!」
「いいや、オレだっ!!」
勝利したほうが分からないまま喧嘩に繋がっていた。
「おーい、ナツ!グレイ!勝ったのはどっちでもいいけどよぉ、その木材もう、いらねぇから!」
「は!?」
「んだとぉ!?」
そのことを聞いてとぼとぼと木材を元の場所に返していくナツとグレイだった。
「そこ!!なにをしている!!遊んでいる暇があったらさっさと運ばんか」
少々、起こり気味に言っているエルザはかなりの気合が入っているようで指示を次から次へと出している。とても忙しそうだが、木材を運んでいない点に対してはどうも、納得がいかないメンバー達は逆らえず、その思いを喉に抑え込んでいた。
* * *
一ヶ月という月日は流れた。ようやく、ギルドも形として成り立ってきていて仕事の受注も再開し始めていた。そして、机に座り込んで、リーナとルーシィが会話していた。
「ねー、リーナ」
「なに?ルーシィ」
「えっとね、ちょっと気になっていたんだけど、天の魔力って何なの?」
ちょっと戸惑ったリーナを察してすぐさま、先ほどの質問を取り消そうとするルーシィより先にリーナが口を開く。
「母さんから受け継いだ魔力なの」
「え・・・?どーゆーこと?」
「天の魔力っていうのはね、天空のエネルギーと匹敵するほどの膨大な魔力なの。この世界に一つしかない魔力でどうやって作られたのかはまだわからないらしいの」
次々に説明していくリーナの顔には少し悲しげな笑みが浮かべられていた。
「それでね。私の母さんは突然、病気で体が弱くなってしまったからその天の魔力を私に与えるっていう事をして私がこの天の魔力を貰ったって事」
「へぇ・・・そうなんだ」
ルーシィはなんだか嬉しそうにその話を聞いていた。
「これは母さんから受け継いだ大切な魔力だから、絶対に悪いことに使わないように誓ったの。これは唯一の母さんの遺産なんだからね」
「大切にしなきゃね。・・・私もね、小さい頃にはママとパパがいたんだけど、いろんなことがあってギルドに迷惑かけちゃったんだ」
「えっ!?ルーシィが!?」
「うん。リーナと一緒ね」
そうやって微笑みながら会話する中にナツとグレイ、ハッピーが割入ってきた。
「何話してんだ?」
「どうだっていいじゃねぇか!グレイ・・・勝負だ!」
「なんでそーなんのよ」
「面倒くせぇからあっち行ってろ。ナツ」
そんな他愛もないいつもの会話をして、盛り上がっている時。突如、いつもとは少し違い怒声が後ろの方から聞こえてきた。
「もういっかい言ってみろ!!ラクサス!!!」
「この際だ。ハッキリ言ってやるよ。弱ぇヤツはこのギルドには必要ねぇ」
そうやって少し怒り気味に言っているラクサスはその場で立ち上がって、怒声を上げた者を乱暴に退かし、去っていった。
「ラクサス・・・あんのヤロォ。今度、会ったらぶん殴ってやる」
そこにエルザが歩いてきて、場の空気を明るくしようと話を持ちかけてきた。
「アイツと関わると疲れる・・・。それよりどうだろう、仕事にでも行かないか?」
エルザの誘いにナツは一瞬、目を丸くして驚く。
「もちろん、グレイ、ルーシィ、リーナも一緒だ」
「はい!?」
「え!?」
「私も・・・ですか!?」
何故か、敬語を使うリーナ。やはり、まだエルザの怖さに慣れない様子だった。
そんな中で、仲の悪いあの二人は互いににらみ合い、呟く。
「「こ、こいつ・・・と・・・」」
そこにエルザが、
「・・・どうした、グレイ、ナツ。私の意見が不満か?」
「「いえ、滅相もない!!」」
と、一瞬にして厄介事は片付いた。
「では、仕事だ。カルーラ城にいる嬢王が闇ギルドの浪人どもに狙われているらしい。その浪人どもを叩く」
「それって、エルザだけで一瞬で終わるんじゃね?」
グレイがそう聞こえない程度に呟くが、エルザはそれを聞き逃してはいなかった。
「いや、向こうの数も未知数だ。それに、もしもの場合もある。期待しているぞ」
そのエルザの声はなんだか、少しだけヤル気になったナツ達であった。
* * *
ギルド建設中の前に一人、静かに考え事をしているマカロフ。右手には酒の入ったビン。頬は既に紅潮している。明るい三日月に照らされながら、マカロフは一杯、酒を喉に押し込んだ。
「引退・・・か」
そう悲しげに呟くマカロフは三日月を眺めながら黙り込んで、一人、上の空へと入っていた。引退を前提に考えているマカロフの自問自答もそろそろ、答えが纏まっていくその時だった。
「マスター!こんなトコにいたんですかぁ~!」
「ん?」
なんだか、少し懐かしげな声が聞こえ、その方を見れば、ミラが書類を振って、マカロフを見上げていた。
「またやっちゃったみたいです」
「なぁ!?」
ミラの言葉に段々と先が読める。迫り来る絶望にとうとう気持ちが大きくなる。
「エルザ達がカルーラ城を半壊させたそうですよー!あと、闇ギルドを一つ潰したみたいです~!」
「おおお・・・おっ・・・。は・・・・・・は・・・半壊・・・」
目を真っ白にしてマカロフの魂は抜けていく。そして、気づけば立ち上がり、大きな声で夜空に向かって叫んでいた。
「引退なんかしてられるかぁぁぁぁっ!!!」
* * *
時間は少し遡り、ナツ達が仕事を終えたすぐ後の話。
「だー、暴れ足りねぇ!」
「十分暴れたじゃねーかよ。ナツ」
「いや、暴れすぎだと思うけど・・・」
「暴れすぎどころか関係のない人まで巻き込んじゃったね」
「しょうがないではないか。こういう時もある」
と、言ったものの報酬を貰うどころか、依頼主にさんざんと文句を言われ、帰宅する途中だったエルザ一行は森への入口へ差し掛かろうとしていた。
すると、遠く離れた場所に茶色の髪した男、ロキをナツが見つけた。
「あれ、ロキじゃねーか?」
「ホントだ」
「あれ?」
ロキの方もこちらに気づいたらしく、こちらを見つめている。ナツはその方へと向かい、話しかけた。
「偶然だなぁ。お前もこの辺で仕事してんのか?」
「いや。僕はただ、ここら辺が騒がしかったからと来てみたけどナツ達だったのか。ん?・・・・・・どぅあっ!!ルーシィ!!?」
そう飛び退くような驚き様でロキはルーシィを見つけた。
「じゃ、俺、帰るわあああぁぁぁぁぁっ!!!」
と、いってロキはルーシィが近寄るのを酷く拒むように走り去っていった。
その後ろ姿を見つめるルーシィはポカーンとしていた。そして、怒りっぽい様子で小さくなっていくロキを睨む。
「な・・・なによ、アレ~・・・」
「お前、アイツになにをしたんだ?」
グレイがあの様子からしてとても酷いことをしたと感づいてルーシィに問いかける。そこにナツが首を突っ込む。
「相当、避けられてんぞぉ。ルーシィ、謝っとけ」
「なにもしてないぃぃ!」
ルーシィはナツとグレイに向かって大きく否定し、また怒った。
「まぁまぁ、ルーシィがなにかをしたのは放っておいて、今日は宿に泊まりません?」
「私はなにかをした前提!?」
ルーシィがリーナの言葉にツッコミを入れつつ、少し機嫌悪そうに落ち込んだ。
「いいアイデアだ」
と、エルザは言って周りに紫の雲をたなびかせる夕日を眺めた。そして、エルザ達はまたカルーラ城下町へと引き返した。
一方、勢いよく走り去ったロキは。
「はぁ、はぁ、はぁ」
辛そうに息が上がっている様子は全力疾走したからではなさそうなほど、辛く見えた。
「はぁ・・・はぁ・・・僕の命ももう・・・・・・」
木の幹にもたれ掛かる。悲しげな表情をしたロキの視線には白い花が茶色っぽく濁り、散っていく光景があった。
* * *
ここは、日がすっかり沈んだカルーラ城下町。そして、その中にあるかなりの有名な温泉宿。
カルーラ城下町の東にある山から取れる温泉をここまで、流しいれたという人気の観光地である。
エルザ達はこの温泉宿で一晩を過ごすことにしていた。
「それにしても・・・なんなのよ、ロキの奴」
湯船にゆったりと浸かるルーシィは未だにロキのことについてブツブツと文句を言っていた。その隣にリーナが寄ってきて、話しかける。
「いいじゃない。ロキだって色々あるんだよ。きっと」
「う~・・・それもそうね。今は楽しみましょ」
気を取り直して湯船で体を癒すルーシィを見て、リーナは安堵するとともに月を眺めた。
「月が綺麗だな」
「そうね・・・って鎧ぃ!!?」
「この方が落ち着くんでな」
鎧のままで温泉に入るエルザを見て、ルーシィは唖然とし、リーナは呆気にとられながら笑うのであった。
浴衣姿でそう叫ぶのはナツだった。
「枕殴り始めんぞ、コラァ!!」
「枕投げだよ・・・」
ナツは早速、枕を両腕に挟んで布団に入っているグレイに投げ飛ばした。
「テメェ!!コノヤロォ!!」
「だぁっはっはっ!!だっせぇ、グレイ!!」
そして、グレイは自分が寝ている時に使っていた枕を掴み取り、ナツめがけて投げた。
「ぅおらぁっ!!」
「ぶほぉ!」
ナツの顔面に枕が激突した。ナツは壁に頭を突っ込みながらも無傷で立ち上がった。
「次はぁぁ、エルザだ!!」
「・・・やるな。グレイ」
エルザはグレイが投げた枕をいとも簡単に受け止め、そう言った。
「オラオラァ!!」
「うぱー!」
そんな楽しそうなところをルーシィとリーナは見ていた。参加しようとも思っていたが、その迫力にどうも参加できなさそうな二人だった。
「うぉおおっ!!」
と、その時。ルーシィの方に飛んできた枕が見事、ルーシィの腹部に直撃し、ルーシィは枕もろとも、外へと放り出された。
「おっと、ルーシィすまねぇ!」
そうやって、ノーテンキにいったナツはすぐさま、枕殴り(?)に枕戦争に再戦した。
「ルーシィ!大丈夫!?」
「だめ、死んぢゃう」
そう言って、ルーシィは倒れ込んだ。
「ちょっと、待ってて。なんか、持ってくる!」
心配そうにリーナはどこかへ走っていった。
ルーシィはリーナの背中を見つめながら、空を眺めた。すると、向こうの方で草ががさっと揺れたのがわかった。
「ん?なんだろ・・・あれ・・・ロキ?」
と、ルーシィは向こうの方でうろちょろするロキを見つけた。
ちょっと、へんな終わり方でしたが。しかも、題名と本文の繋がりがあまりわからない気もしますね・・・。あ、そうだ。リーナのプロフィール!
~ リーナ・バナエール ~
‐所属ギルド‐ フェアリーテイル
‐年齢‐ 17歳
‐魔法‐ 天穹の魔法&基礎魔法(少しだけ)&援護・強化魔法
‐好きなもの‐ 甘い物、仲間、妖精の尻尾
‐嫌いなもの‐ 苦い物、辛い物、仲間を馬鹿にする人、怖い人は苦手例)エルザ