要塞の中にずっと続く通路。その狭く長い通路に二人の男と青いネコはいた。男同士で睨み合い、威圧感をぶつけ合っている。
「二つ…訊きてぇことがある…」
「なんだ、言ってみろ…」
ナツが出した言葉にラルドは少なからず驚いて返す。
「何でリーナを欲しがるんだ…?」
「フン。そんなことか。俺達、
「どういう意味だっつーの…!」
「これ以上は言えねぇなぁ……」
「言いやがれ、この野郎!」
ナツは床をばんばんと踏んで腕を振り上げ怒った。
「で?二つの目の質問は?」
一瞬、沈黙が流れ、緊張感が高まった。その時、ナツが口を開いた。
「…なんで俺は酔わねぇんだ?」
「知るかっ!!!」
思わぬ変てこな質問に思わず転倒しそうになったラルドはツッコミを入れた。
「ま…いっか。行くぞっ!!」
「フン、早く来い…!」
そして、二人は弾丸の様に飛び出した。
拳が重なり、風圧が散る。
急激にラルドの力が前へと抜け、バランスが崩れる。ナツが咄嗟に拳を退けて、力を抜けさせてバランスを崩させたのだった。
無防備なラルドの腹にナツの蹴りが直撃する。
「火竜の鉤爪!!!」
炎を纏った脚はラルドを大きく吹っ飛ばす。空中で一回転したラルドはすぐさま、起き上がり、態勢を立て直す。更なる追撃を狙うナツにカウンターをかけた。
「
と、声を張り上げて叫んだ。
急に足を止めることはできず、ナツは真正面から飛んでくる腕を避けることはできなかった。ましてはガードすらできずにモロ食らった。
「あがっ!!!」
ナツは床を転がる。その後を砂ぼこりが追い上げる。砂ぼこりの中にナツの姿が消えた、と思った瞬間、砂ぼこりが急に穴を空け、そこから炎の塊が飛んできた。
「火ぁ竜の…咆哮っ!!」
ナツの吐いた炎はラルドを包み込んだ。ラルドは紅の炎に包まれた黒い影と化す。
黒煙が立ち籠めた。その黒煙も既に消え失せていた。
「効かねぇな…」
「いっくぞぉおお!!!」
床を蹴り飛ばし、身を前に押し出して突っ込む。
「
その声とほぼ同時にラルドの脚が巨大化する。その脚はラルドの上で弧を描かせた。
そして、天井をほんの少しだけ剥がし、ナツの脳天から降りかかった。ナツの頭と脚の間合いがほんの数センチまで縮んだ瞬間、思いっきり床を蹴り飛ばし、ラルドに向かって跳んだ。
「なにっ!?」
足が床に着く瞬間に張り上げられたいい声と炎を纏った熱々しい拳が同時に放たれた。
「火竜の…鉄拳ッ!!」
顔面に直撃した拳はそのまま、振り抜かれた。ラルドは大いに吹っ飛ぶ。床を砂塵が舞い上がってラルドは滑った。
「仲間のためなら…俺は強くなれる!!」
「そうか…。面白い。なら、見せてみろっ!!仲間の力と言う奴を!!!」
そう言った直後、ラルドはお得意の魔法により腕を大きくさせて、向かってきた。速い。先程とは全く比べ物にならない。驚いたナツは一瞬、反応が遅れた。
「らァッ!!!」
怒声の様な声がナツに耳に入る。ほぼ同時に巨大な拳が鉄の床を砕く、轟音が鳴った。
横から振られた拳を躍って避ける。
その直後、ラルドは蹴り上げる。ナツは後ろに体を倒して避けた。
前から襲い掛かる巨大な拳をバク転して避けてから、飛び退いた。
「仲間の力は避けるだけの力かぁ!!?笑わせるなっ!!」
ラルドはそう言って巨大な拳、腕、脚を振るう。だが、ナツはそれをバク転して、側転して、飛びのいて、避ける。
ラルドは短く舌打ちを零した。
がむしゃらに振るってナツに当てようとする。だが、ナツはすれすれで躱していた。
大きく飛び退いたナツは後ろに違う道があるということに気がつく。そして、そちらに急いだ。
ナツの考えはこうだ。
(壁に隠れて不意打ちしてやる!)
とのことだった。
分かれ道の右に曲がり、身を潜めた。匂いと足音を頼りにタイミングを見計らう。そして、その時は来た。
「おりゃぁぁあッ…!!!……いっ!!?」
目の前に現れたのは既に拳を構えたラルドだった。思わず驚愕する。そして、殴り掛かっていた思考や体はすぐさま、飛び退いた。
ズゴォオオオッ!!!
砂ぼこりが舞い上がった。三段ほどの小さな階段が砕け散り、轟音が響く。
その砂ぼこりから轟音が鳴った直後にナツが飛び出してきた。高く飛びあがっていたナツはその真下に着地し、違和感を覚えた直後、理解した。
そこは鋼鉄の黒々と光る柵が鉄の橋に沿って造られた小さな短い橋だった。
だが、そんなことに気を囚われていてはならない。目の前からは既にラルドが拳を構えて突っ込んできていた。
振り下ろされた拳は鉄の橋を僅かに砕く。だが、橋が壊れる気配がない。かなりの丈夫さだろう、と考えられる。
ラルドの追撃を避け、着地したナツは足の裏から炎を噴き出させ、突撃した。
「火竜の劍角!!」
全身に炎を身に付け、凄まじい勢いで飛び出す。
しかし、ラルドはその攻撃を素早く最小限の動作で避けてから、拳を横殴りに振った。
後ろを確実に取られたナツはどうすることもできずにそのラルドのカウンターを受けて壁に激突した。激突した真ん中らへんから砂ぼこりが飛ぶ。
「うぐぐぐっ…!」
ナツは再び突っ込んで行く。壁を蹴ってラルドに向かっていった。
足に炎を纏い、振る。
「火竜の…鉤っ!!?」
攻撃を放とうとして蹴った瞬間、全身が圧迫感を覚えた。あの巨大な拳で全身を締め付けられている。向こうからしては握っているのだ。
「いぎぎぎぎっ…!!」
あまりの圧迫感と苦痛に声が漏れる。
ナツは数秒も経たずに橋の外側、つまり、真下の階に投げ飛ばされた。
「いっ!?」
空中に投げ出されたナツは落下する。その後を追うようにラルドを自ら飛び降りる。その瞬間。
「火竜の劍角ッ!!!」
大きな瓦礫に脚を任せていたナツは体を炎で包み、踏ん張っていた。そして、ラルドが飛び降りて来た刹那、思いきり瓦礫を蹴って飛んだ。そして、その勢いでラルドの腹部に強烈な頭突きを叩き込んだ。
「ごはぁっ!!!」
上に打ち上げられたラルドは一瞬、なにが起きたのか理解不能になる。だが、理解するのにはそう時間は要らなかった。
「あぐっ…おのれぇ~~」
打ち上げられたラルドは橋の上にまた降り立つとすぐさまナツに向かって突撃していった。着地したばかりのナツには反撃する有余がなく、一旦、飛び退いた。
埃が舞い散る。砕けそうになった橋だが、まだ耐える。
「らァ!!!うるァアッ!!!」
ラルドが振るう巨大な拳はナツには当たらず、橋を滅茶苦茶に壊す。終に橋の一部が砕ける。
その時、ほんの少しの隙があった。反撃できていなかったナツは半分ぐらいしかないこのチャンスを逃さないと言うように跳び付いた。しかし、
ガッ!!
「ありっ!!?」
動かなくなった右足に驚き、振り返る。振り返れば、右足は鋼鉄の柵に引っ掛かっていた。
「ラッキーだな…!」
その声に反応したナツだが、間に合うはずもない。
「オラアァ!!!」
「ぶほっ!!」
巨大な裏拳で殴られたナツは橋の粉砕した方に吹っ飛んでいき、橋が切れたところの切れ目にぶつかってから跳ね上がり、奥にある道の方へと回転しながら吹っ飛んでいった。
だが、反撃した勢いを殺さずにナツは立ち向かっていく。
「だぁりゃあぁぁッ!!!」
「オラッ!!!」
タイミングを合わせてラルドは思い切り殴った。巨大な拳はナツの全身を捉え、押し倒す。が、
「効かねぇなぁ…」
「な、何!!?」
ナツは拳をモロ喰らったはずなのにそこから微動だにしていなかった。
「くたばれぇぇえっ!!!!」
そして、巨大な拳を潜り抜けて、ラルドを思い切り回転の要領で蹴る。
「ゴハッ!!」
柵を破り、下の階へと落下する。
ナツも続けて自ら落下した。
ズゥゥウウウン!!
二人同時に着地した。自分を円の中心として、その周りに砂塵が小さく舞う。
「行くぜっ!!すぐ終わらしてやる!!
先程までずっと一つの拳だったのが、今は両腕が巨大化している。
「いっ!?」
「オラオラオラッ!!!」
その両腕を乱暴に振るってナツに襲い掛かった。
その巨大な両腕を躱すナツだが、周囲を状況を判断できていなかった。背中がなにかにぶつかる。
壁だ。
「もらったぁあああ!!!」
壁に気を囚われ、反応が遅れたナツは巨大な両腕をモロ喰らった。
ズゴゴォォォオオオオオオ!!!!
ラルドの背中向きに砂塵が吹っ飛ぶ。壁の破片が混じって飛んでいた。轟音はこの大広間に何度も響いた。
「もう一発!!」
ラルドはそう言ってまた殴った。その度に壁が大いに削られていく。辺りは砂塵だらけで立ち籠めていた。
「ふっ…この程度か…。
その時、白い翼の生えた青いネコ、ハッピーがこの大広間に追いついた。だが、遅かったことをすぐに理解した。
「ナツぅぅぅぅ!!!」
大声で叫ぶその声も虚しくナツはラルドに持ち上げられた。そして、後ろに向かって放り投げられた。
「そういえば、ここがテメェの入ってきた場所か…」
ラルドは一つの大きな壁に空いた風穴を見つけ、そう確信した。その跡には証拠の焦げた後があるし、後ろには倒れ、焦げていしまっている部下達がいる。
ナツは片腕を床にバンッ、と叩きつけ、ふらふらと起き上がる。
「最後にちょっとしたお詫びをやろう。…オレの最強の魔法でテメェを吹っ飛ばしてやる」
無言で立ち上がったナツはまたふらふらと歩く。そして、また立ち尽くし、やがて、倒れ込む。
「ナツぅ……」
叫ぶ言葉を失ってしまったハッピーはただその光景を見ることしかできなかった。
「ヤベェ…動…け…ねぇや」
諦めたような声を出して、ナツはまた立ち上がろうとする。足に激痛が走る。
「ボロボロだな!
そういった途端、片腕が白く光った。腕の付け根らへんから魔法陣が現れる。魔力が高まり、小さな破片をほんの少しだけ浮かせた。
「
この広間を潰してしまいそうな超巨大な腕がラルドの後ろに聳えた。大きな影をつくり、辺りを暗くしてしまう。
「終わりだぁっ!!!堕ちろッ………サラマンダァァァァァァァァ!!!!」
超巨大な腕は床を削り、破壊し、凄まじい勢いでこちらに向かってくる。風圧がその後を追って来るかのようだ。まるで、向かってくるのは突進してくる像。ナツには錯覚なのかそう見えた。
ドンッ!!!!!
ナツは全身でその腕を受け止めるが、踏ん張る脚も虚しくどんどんと滑っていく。足の先からは砂塵が吹き荒れるように舞う。あっという間に直ぐ後ろには大きな風穴の空いた、壁があり、そこには果てしなく続く青い空があった。だが、そこはナツにとっては墓場の様な場所であったように思える。
その時だった。諦めかけている自分を奮い立たせる様な希望の声が、家族の声が。
“
「ナツゥゥウウウウ!!!」
全身の芯に力が入り、士気が跳ね上がる。体中が熱く燃える。一滴、一滴の血液が紅に染まり、激しく燃え上がった。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
体のすべてを使って、受け止める。
「なっ!!?うお……らぁぁぁああっ!!!」
ラルドも精一杯の力を振り絞って押し出す。
全身が真っ赤に燃え上がり、周囲に激しく燃える紅蓮の炎がまた勢いを上げた。
「まだ増えるのか!!?チィッ!コイツ…どんだけの魔力をォ!!!?」
その時、巨大な腕の奥に―――凄まじい怒号を上げる
「竜っだとォ!!?」
「ぁぁあああぁぁぁああっ!!!!」
止まった。
かかとに当たった鉄の破片が広大な大地へと落ちていく。
「!!!」
とまっただけでは無い。ラルドの腕は押し返された。
「いぎぁああッ!!!」
ラルドは壁に向かって吹っ飛んだ。その大きな反動はラルドの体力と魔力、気力を奪った。自分の最強の魔法を押し返されてしまったラルドはただ、唖然と絶望の入り混じった感情に立ち尽くす。
ハッと気づけば、自分の直ぐ下には桜色の男が拳を構えていた。
「何なんだ!!?お前はっ!!!」
「俺は
もの凄く燃え上がる業火に包まれた、仲間のための拳がラルドの頬に炸裂し、轟音を轟かせた。
ドッゴォオオオオオオオオオオン!!!!
「覚えておけ…これが、
ナツはそう言い残しハッピーを連れて、この大広間を出た。
* * *
「なんだよ、コレ…」
焼け焦げた後。倒れている
「さすがだな。ナツだろう…」
「アイツか!」
「こうしてはおれん!!私達もすぐに別れてリーナを探すぞ!!」
そう言ったのは緋色の髪をしたエルザだった。
「俺はこっちだ!!」
「じゃあ、私はこっちね!!…強い人がいませんよぅに……」
「では私はこちらへ行こう!!」
そう言って、分散したグレイ、エルザ、ルーシィであった。
「フゥー…ハァ…フゥー…ハァ……!」
「匂いで辿り着いたか!
「行くぞ…
「遊んでやるよ!!
「しんしんと…ジュビアは
「何じゃそりゃ…。悪ィけど…女だろうが子供だろうが仲間を傷つける奴ぁ容赦しねぇからよォ」
ジュビア 対 グレイ
「やはり、貴様か…。ザーロ」
「俺の名前を知っているのか、
ザーロ 対 エルザ
「アンタ、弱い女じゃんー!キャッキャッ!!早く終わりそぅ~~~!」
「私だって
シェルナ 対 ルーシィ
「この空に二頭も竜はいらねぇ。堕としやるよ……
「燃えて来たぞ、鉄クズ野郎」
ガジル 対 ナツ
今、
――――開幕!!!
いやぁ…とうとう、本番ですね~。マカロフいないのに、マスターどうやって倒そう…と今、悩んでます。一応、この話にも深い(?)理由的な奴があるとは思います。そういうのがあって妖精の尻尾は面白いんで…。では、次の話でお会いしましょー!
おまけ…です。
ハッピー)「そういえば、ラルドって人、激戦としてはカウントされてないみたいだね」
ナツ)「そりゃぁ、俺が圧倒的に勝ったからなっ!」
ハッピー)「えぇ?でもナツ、諦めかけてたよ?オイラのおかげで助かったんだよねー」
ナツ)「違ぇッ!!あれは……ルーシィの家賃の悲鳴が聞こえたんだぁ!」
ハッピー)「怖いねぇ~~~~!」
ルーシィ)「怖くなぁぁぁい!!!あ、でも確かに家賃…払えない……」
へこむルーシィであった。