NARUTO~行商人珍道中~   作:fall

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6 出立、二度目の……

NARUTO~行商人珍道中~

 

6 出立、二度目の……

 

 

 

 

 ハクを身綺麗にし、買い物を滞りなく終えた俺達は、軽食をとっていた。イギリス名物のフィッシュアンドチップスのようなものだ。白身魚の切り身とじゃがいもをフライにし、食べ歩き出来るように包装紙で包んだものを露店で売っていたため、朝食兼昼食にもってこいだと考え、こうしてハクと食べている。

 

「中々にいけるな、ハクはどう思う?」

 

「はい、おいしいです。作り方は簡単なのにこんなにおいしいなんて思いもしませんでした。」

 

 ニコニコと笑顔でフライを頬張るハクに熱いから気を付けて食べるんだぞと注意を呼びかけておく。

 

 

 

 

 

 暫くして、軽食を食べ終え、今後のことをどうするか検討する。まずは、ハクだ。親や家族がいるのかいないのかは分からないが、分からないまま連れていく訳にもいくまい。

 

 よしんばいないとして、俺とともに同行するにしても。行商の道中全てが安全とは言えないだろうし、もしかしたら俺自身の命を落とすことも有るかもしれない。

 

 人に殺されるか野生動物に殺されるのか、はたまた事故死かは分からないが、仮に殺されたとして、困るのはハクだ。

 

 力を持たない普通の少女。逃げ出せたとしても、また俺が助けたときのように浮浪児として無事に街や村にたどり着ける保証はない。加えて、たどり着けたとしても、金も親も知り合いさえも居ないそんな場所で生きていくことは過酷で難しいと言えるだろう。

 

 もしかすれば、俺のように気の良い人に拾ってもらえるのかもしれないが、そんな都合の良いことは早々起きはしない。俺と一緒になって、カンポウ丸による底上げや修行でもすれば良いのかもしれないが、戦闘に関してはまるっきりの素人な俺に戦術的な指導などできるはずもなく、誤ったことを教えてしまう可能性もある。

 

 以上のことからこれらに関しては、ハクの意思次第で決めようかと考えている。

 

 

 

 

 次に知っておきたいのは、今が、いつ頃、なのかだ。これは、現在の主人公らの現状を知りたいがためである。

 

 まずないとは思うが、原作が終わった後の時間軸なのかも知れないし、原作中のどこかなのかもしれない。更に言うならば始まってすらいない時間軸なのかもしれない。……ということが今の俺には分からないのである。

 

 もし、原作が終わっている時間軸ならば、これ以降世界を揺るがしそうな大きな事件は恐らく余り起こらないであろう。だが、原作中もしくは原作の前の時間軸ならば当然その最中に行われるイベント(事件)に巻き込まれる可能性が十二分にある。

 

 加えて言うのならば、俺の原作知識なぞ≪サスケ≫の奪還編辺りまでと飛ばし飛ばし立ち読みした疾風伝編、友人から聞かされたネタバレ的なアレコレしか覚えていないのだ。

 

 そのネタバレも時系列的にどのあたりに位置しているのか皆目見当が付いておらず、≪カブト≫の小物臭が半端じゃないということ程度しか明確に分かっていない。であるからして、まずもって向かう先は≪火の国・木の葉の里≫だ。

 

 ここで、今が一体何時頃なのかある程度聞き込みや見回りを行う。出来ることであれば、原作前か後で頼むぞ。原作中であれば、体を鍛える暇すらないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハク、俺はこれから先行商人として様々な国や街、村へと商売をしに行くわけだが、キミはどうする?俺に付いて来るか来ないかは別として、家族や知り合いが未だにいるのかだけは教えてくれないか?もし、居ないのであるとすれば一緒に連れて行ってもいい。……だが、嘘は吐くなよ」

 

 急に真剣な声色で話しかけられたハクは、鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた表情を浮かべ狼狽える。

 

「ぃ、いきなり、どうしたのおじさん。家……族はもう誰も、居ないよ。僕一人だけ。もう、一人は嫌なんだ。…………何もできない僕だけれど一緒に連れて行ってくれますか?」

 

 縋るように、懇願する様に両の手をギュッと握りしめながら此方を見上げるハクは何かを思い出したかのように黒く澄んだ瞳から小さく零れた雫がきらりと光る。

 

 

 

「ああ、連れて行ってやるとも。いつまでだってどこまでも、ハクが望む限り。」

 

 そこで、ハクの涙腺は完全に決壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハクを連れていく事になり、早一週間が経過した。この期間のうちにまたしても露天商を二度ほど行い当面の資金を稼いだ。近くに出店していた同業者からはかなりキツイ睨みを利かされたが、もうそれも今日でおさらばだ。

 

 

 呼子はハクに担当してもらい、可愛らしい容姿のハクに連れられて男連中が集まり、商品を大量に買っていって下さった。尚、イチャイチャシリーズは限定販売として前回使ってしまったので流石に自重した。アイテム化できた、食料品関連もそこそこに売れ、繁盛したといっていいだろう。

 

 

 

 では、このタンバの街も見納めだ。長いようで短く、色々と勉強させてもらった街だった。ありがとう。感謝している。心中で感謝しながら街を出て、西へと向かう。次の目的地は港町、ナギサだ。此処で船に乗り本土へと渡る。

 

 頼むから、山賊や厄介ごとに出くわさないでくれよと願いつつ、ハクを伴いタンバを後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 タンバの街を出て一日半、ハクと共に初めてまともな野営を行いつつナギサへと向けて移動している。地域住民の間で比較的、安全な街道と呼ばれている近くにマングローブ林が生い茂るハマヅラ街道を通行していると、前から一人、誰かがやってくるのを視認した。

 

 

 

 齢の程は十五、六だろうか?格好は≪イルカ≫や≪シカマル≫が着用していた中忍・上忍用のベストを着ている。顔の下半分を覆い隠す包帯。おまけに背中からチラチラと見え隠れする長い出刃包丁のような巨大な刀。

 

 

 

 

 

 

 

――――あ、再不斬だわコイツ

 

 

 気づいた瞬間、引き攣りそうになる頬を変えさせないように力を入れて睨む様にして前を向く。内心、思いっきり原作前じゃねぇか、いやしかし、コイツがこんなにも若いってことは少なくても五年いや、十年は前ってことになるんじゃあなかろうか。と総突っ込みを独り入れる。

 

 というかだ、あいつ、俺たちの方へと段々と向かってきていないか?いや、タンバの街へと行く予定があるとするなら俺たちが来た方角で合っているのだが。

 

 

 

 互いに歩を進める。それは次第にお互いが近寄っていく事に繋がり、俺は会釈をしてその横を通り過ぎようとした。

 

 

 

 

 が、そうは上手く行かなかった。

 

「オイ、お前止まれ」

 

 近くで見るとより一層悪人面が目立つ、眉毛が無いことも有ってかその人相はかなりひどいものだ。目は鋭く口と鼻に包帯を巻いているため声がくぐもって聞こえる。それにより対峙する者を否が応でも威圧する。

 

 はい、なんでしょうか?と出来る限り愛想の良い表情と声で再不斬へと聞き返す。

 

「お前じゃねェそのガキだ、ガキから血のにおいがする。それも一人や二人じゃあない」

 

 何のことだ?ハクから血のにおいがする訳がないじゃないか。風呂にも毎日入れているし、どこか怪我をしている様子もない。俺は再不斬が何を言っているのかが理解できなかった。

 

「一体、何の事ですか?ハクは普通の女の子ですよ。血のにおいなんてする訳がないじゃないですか」

 

 俺が問いかけると気が付いていないのかと怪訝そうな表情を浮かべ、クックックと不快な笑いを上げる。

 

「なら、お前の隣で震えているガキに直接聞いてみればいいじゃないか、ククッ」

 

 まるで面白いものを見たと言わんばかりにニヤついた笑みを浮かべながら俺の足にしがみ付いているハクを指さした。

 

 

 

「ああ、そうさせて貰うよ。だが、それは今じゃなくてもいいだろう。ハクが自分から話そうとする時を気長に待つさ。所で、話はこれで終わりか?だったら俺たちは次の街へと行きたいんだが」

 

「クックック、そう慌てるな。久々に面白いものを見つけたんだ。……手に入れてみるのも一興だろう?」

 

「手に入れる?何をだ。……ッ!ハクの事かっ!そんな事はさせないっ」

 

「クク、その威勢いつまで持つかな?」

 

 そう言って背にある≪大刀・断刀首斬り包丁≫へと手を伸ばす再不斬。

 

「ッ待て、こんな街道でおっぱじめるつもりか?人が来たらどうする。それに、ハクに殺し合い何て物を見せるつもりは俺には毛頭ないぞ。殺り合うにしても、場所を移したらどうだ」

 

 興が削がれたような表情を数瞬浮かべたかと思うと向かって右にある森を首切り包丁で指す、森の奥で待っているということか。……奇襲、暗殺が得意な奴にとって有利なフィールドに引きづり込まれてしまった。

 

 精々、最後の別れ話でもしておくんだなと言い残して森へと消えていく。

 

 

 

 

 再不斬の奴が森へと消え、見えなくなった瞬間俺のひざはガクガクと震え、立っていられなくなった。初めて向けられた≪殺意≫に情けなくも虚勢を張って耐えることしかできなかった。

 

 すると、足にしがみ付いていたハクも座り込み、気が抜けたかのようにホロホロと涙を流す。大丈夫だ、俺が護ってやるからと言って優しく胸元へとハクの頭を抱き込み背中を撫でる。

 

 正直、原作の数年前とは言え、首切り包丁を既に持っているアイツに勝てるとは思ってはいない。そこまで、己惚れるほど俺は堕ちちゃあいない。

 

 

 良くても、相討ち、悪ければ……死ぬ。トリップして来てから最初で最大の強敵となることだろう。あのカカシでさえ、≪水牢の術≫に嵌められ危うく命を落とすところだったんだ。精々の戦闘能力が下忍並みもしくはそれ以下の俺がまともに殺り合って勝てる訳がない。

 

 

 が、一応の手は有る。それは完全に打つ手なしとなった時に唯一使える最後の賭けと呼んでもいいほどに成功確率がかなり低い手なのだが。

 

……自爆特攻は当然できない。それをしてしまえば奴に大ダメージを与えることは出来るかも知れないが、これは実体を持つ≪水分身の術≫による数の暴力や≪変わり身の術≫何て物が使われてしまえば、俺の負けは確定し、結果ハクのみを悲しませることになる。

 

 また、奴が得意とする殺し方は≪無音殺人術(サイレントキリング)≫と呼ばれるもので、その名の通り音もなく近づき気が付いた時にはすでに時遅しとなっている暗殺術の担い手なのだ。

 

 まさに、八方塞がり。デッドエンド確定のこの状況。回避する術は天運に身を任せるか、前述したとおり、成功確率が五パーセントあれば良いほうの生か死かどちらかしかない賭けのみ。例え成功したとしても、ハクの身の安全は……保証できない。

 

 分の悪い賭けは嫌いじゃない。誰だったかは忘れたがそんな事を言った奴がいた気がする。確かに、分の悪い賭けほど成功する場合もある。が所詮、それは実力や経験を持った者が言うからこそ、その様な大口を利けるのである。

 

 俺のような戦争を体験したことが無く、お遊びみたいな喧嘩を数回した程度の人間が殺し合いを行おうとするのは無謀だ。敵とは言え人に向けて剣を振るうのなんてとても出来ないだろう。それは、日本では当たり前で、ここでは、異端だ。

 

 

――――死にたくなければ、生きていたいのならば、殺せ。

 

 

 心から、黒くて暗い感情が滲み出てくる。死にたくない、失いたくない、でも、殺したくない。矛盾している事は分っている。敵を、再不斬を倒さなければ俺は殺され、ハクは連れ去られるだろう。

 

 人を殺さずに生かして捕えるには、相手よりも上の力量を持っていなければいけない。しかし、今の俺は弱い、それはドーピング丸薬を使用したとしても。力が、じゃない。確かに、それも有るのだろうが、俺に足りていないのは、圧倒的な戦闘経験の無さ、そして……人を傷つけ、殺す覚悟。

 

 俺と再不斬の状況を例えるのなら、世界王者のボクシングプレイヤーに無手で挑もうとする三下チンピラと言った所か。俺がチンピラという立場なのがとても嫌なのだが、事実チンピラと五十歩百歩なので仕方がない。

 

 分かり易く簡単な例を出したが、この差にプラスして忍術という代物も上乗せされるためこれ以上に再不斬と俺との間には確たる差が存在している。対話によって御帰り願いたいが、そんな甘っちょろい人間ではないだろうから十中八九戦闘になるだろう、役に立つかどうかはわからないが一応の対策を立てて置く。

 

 兎に角守備に徹する。奴の首切り包丁はかなりデカい、懐へと入り込めば一太刀は与えられるだろう。しかし、相手は少なく見積もっても百人以上は殺している、人殺しの鬼だ。そうそう、隙を見せてくれるとは思わない事だ。

 

 攻撃的な忍術を使われても一発程度なら九尾の帷子が耐えてくれる。本当に怖いのは、急所への無音攻撃。これの対処法はアレさえ使えれば何とかなるのだが、如何せん今の俺はチャクラを使えないので不可能だ。つらつらと再不斬に対する対処法を考えどう乗り越えようかと思案する。

 

 

 

 

 

「ボク……本当のことを話すよ。おじさん、いいえ、アマミヤさん。聞いて、くれますか?」

 

 抱きしめられながら涙を流していたハクは覚悟を決めたかのように、赤く染まった両の目で真っ直ぐに俺の目を見つめる。

 

「辛いのなら、苦しいのなら、言わなくても良いんだぞハク。俺はいつまでも待っているから」

 

「いいえ、今お話しておかないとアマミヤさんがどこか遠くへ行ってしまうような、そんな気がして。だから、今、お話しさせてもらいます」

 

 そう言って、ハクは静かに語り始めた。己の犯してしまった罪を。懺悔を請う様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハクが生まれたのはこの≪水の国≫の北部に存在した雪が年中降り注ぐ小さな山村だったそうだ。そこで、両親と共に幸せに過ごしていたハクは、物心が付き始めた四歳の頃に、父親が母親の首に手を掛け殺して居るところを見てしまったのだそうだ。

 

 何故、母親を殺したのかと問い詰めたところ、ハクの母とその血を受け継ぐハクには≪血継限界・氷遁忍術≫と呼ばれる、類稀なる才能が受け継がれて居たからなのだとか。

 

 

 血継限界は特殊な一族並びに血筋にしか現れない珍しく強力な能力を有しており、またそれらを保持・所有している者は忍となって居ることが多い。しかし反面、大きすぎる力は災いを呼ぶ。と真かウソか分からない噂により、廃れた血筋の者の殆どは煙たがられ又、排斥されている。

 

 ハクが持つ氷遁忍術は文字通り、氷を操ることが出来る能力である。これは、風と水とのチャクラの形質変化を用いることによって出来る。雪一族が持つ血継限界であり、年中雪が降り積もる雪深い山村において警戒される要因の一つになったのだろう。

 

 

 

 このことを父親が知ってしまい、恐怖した父親は母親を殺し、その血を受け継ぐハクも殺そうと首に手をかけられたのだと語る。しかし、手をかけらた後の記憶はハクには存在せず、ただ気が付いた時には赤く血に染まった自身の体と物言わぬ父だった骸がそばに横たわっていたのだと語る。

 

 そこからは、村中を巻き込んだ氷の暴走。嵐のように空から氷が降り注ぎ、大地からは氷の柱が生えた。これによってハクが住んでいた村は氷の暴走に犯され、村人のすべてが死に絶えたのだと。

 

 そうして、這う這うの体で命からがら近くの街や村を約一年の間放浪し、行き着いたタンバの街で俺と出会ったのだという。

 

 

 

 

 

 ようやく……気が付いた。何故俺がハクを見てあれほどにも焦ったのかを。ゆきかぜハクは…………原作キャラの一人、白(はく)なのだと。俺が、ハクを助けなければ、再不斬の奴がハクを白として助けたことだろう。

 

 言い知れぬ恐怖が体を駆ける。知らない間に起こっていた否、起こしていた、原作への介入行為。この俺の行いで、もし、白が再不斬と共に≪アノ終わり≫を向かえなければ、主人公達はどうなる?初めての殺し合い、忍者に成るという事は人を殺す覚悟を、味方が殺される覚悟をしなければならない。

 

 あの事件の結末は白が居たからこそ主人公たちの心を、覚悟を強くする事が出来たのだ。その大事な経験が、無くなってしまうとすれば…………もしかしたら、歴史の修正力とやらが働いて、ハクの代わりに別の誰かを宛がうのかも知れない。

 

 しかし、そんなモノが無ければ……?俺は、とんでもないことを仕出かしてしまったのかもしれない。ハクを助けたことに後悔はしていない。ハクを助けようと決意したアノ誓いは嘘にはできないし、したくはない。

 

 だが、もし……なんてことが頭の中をグルグルと回る。

 

 

 

 

 不安げな表情を浮かべ、此方を見つめるハクに気が付いたのは数分後のことだった。

 

 

 

「やっぱり、こんな人殺しと一緒に旅をするのは嫌、ですよね……アマミヤさん今までありがとうございました。もう、ボクは貴方の前に姿を見せることは無いようにしますから、最後にもう一度だけ、抱きしめて貰ってもッいいですか?」

 

 涙ながらに悲痛な声を上げ最後に抱きしめてほしいと懇願するハク。

……俺のバカ野郎がッ!こんなにも可愛らしい少女が泣いているのにも関わらずに、自分の事ばかり考えていやがってッ人を殺した?原作のキャラクターだ?未来がどうなるか分からない?そんなことは今はどうでも良い。

 

 今はただ、この泣き続けている少女を慰めてあげたい。後の事なんてその時考えれば良い。

 

「違うッ!そうじゃないっ……嗚呼、ハク。俺は本当にバカ野郎だ。こんなにも、娘のように大切なキミを俺の身勝手な考えで泣かしてしまって、本当に済まない。俺はキミを嫌ったりしないし、キミを傷つけるようなこともしたくない。人殺しだ、血継限界がなんだと言うんだ。キミはそんなモノを持つ前にただ一人の普通の可愛い女の子だ。一緒に、旅をしよう。どこまでも、この狭い国から飛び出して、世界中を一緒に見て回るんだ。いいね?俺との約束だ。」

 

 約束と言って右手の薬指をハクへと差し出す。つられて差し出されたハクのソレと絡み合わせる。

 

 

――――ゆびきり、げんまん、うそついたら、はりせんぼんのーます、ゆびきった。

 

 

 

 

 

 

 

 指切りをしてハクから離れようとした時、背後からザクリッとナニかの音がして何かが腹部から飛び出てきたのを視認した。見紛うことなくそれは硬質で赤い液体が付着した鈍く光る鉄の塊。

 

 

 

 

 ぁあ?どうして、俺の腹に、首切り包丁が生えてるんだ……?まるで、他人事のように、理解できない、いや理解したくないというべきか理由など分かり易いほどに分かり切っているというのに……奴は、再不斬は初めから森でなんて待っていなかったのだ。

 

 ズサッと突き刺さっていた刃が引き抜かれた。腹部から吹き出る血しぶきがハクへと飛びかかる。

 

「アァ、胸糞わりィもん見せてんじゃねェよ。おかげで今のオレ様の気分は最悪だァ」

 

 そう、唾棄する様に俺に言い放ち、首切り包丁に付いた俺の血を横なぎに振り払い、纏わり付いていた血を払い飛ばす。

 

 

 

 

「嫌ぁッ!アマミヤさんッ!アマミヤさんッッッ!」

 

 一体何が起きたのかまるで分らないという様子で体中にべっとりと俺の血を纏わり付かせたハクが追い縋って倒れ伏した俺へとしな垂れかかる。

 

「死なないでッ!独りにしないでッ!独りはもう嫌なのッ!一緒にッ、旅に連れて行ってくれるんでしょッッッ!」

 

「ぁ……、済まな、そ、約束は出来そ、になぃ。」

 

「嫌っ嫌だよっ……ボクを置いて行かないでよッ!」

 

「いつ、か……迎え、に行く…………だか、らそ、れまで、ッ待っててくれェッッッ」

 

「うん、うんうんッ!待ってるッずっと待ってるから!……だから、早く迎えに来てね」

 

 

 嗚呼、漸く思い出した。この感覚(痛み)はあの時と同じだ……神を自称する女と出会う前、明らかに暴走するトラックに撥ねられ錐揉みしながら吹き飛ばされ、アスファルトに激突したあの日、あの時と同じだ。体はミノムシの様にしか動かなくて、体中が熱くて、痛くて、それでも手足から段々と寒くなって、頭が朦朧として何も考えられ無くなって最後には光も、音も何もかもが消えて行って、空虚になる。そんな感覚。

 

 何故、今の今まで忘れていたのだろうか、あれほどまでに恐ろしく、全身の毛が逆立って身震いするほどの死への、無への恐怖を。

 

 視界が霞む、ドクドクと今もなお流れ続ける赤い血をぼぅっと眺めたまま、手も足も、出ず。ましてや気配さえも気づくことが出来なかった己の不甲斐なさを後悔しながら霞む意識を振り絞り、俺はアイテムストレージを音もなく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……詰まんねェ茶番だったぜ、まぁいいか、邪魔な奴は排除した。後は、コイツを連れていくだけだ」

 

「……っさない、許さない、許さないッ!アマミヤさんをよくもッッッ!」

 

 ハクの体から吹き出る白く凍えるチャクラが足元を伝って辺りを霜で覆っていく。

 

「なんだぁ?お前が殺り合おうってのか?このクズの為に?クックックック、面白い、道具として使えるかテストしてやる。オラ、かかって来い」

 

「嗚呼ぁあああああああああああああッ!」

 

 のどが張り裂けんばかりの咆哮、そしてチャクラの暴走によって次第に出来た氷柱が地面を伝って再不斬へと襲い掛かる。

 

「遅せェよ、そんなんじゃ飛んでるハエも殺せやしなねェ。血継限界、それも氷遁忍術なんてレアなモノを持っててもそれじゃァ宝の持ち腐れだ。忍術ってのはなァこうヤるんだよォッ!≪水遁・鉄砲玉≫ァッ!」

 

 肺一杯に空気を吸い込み、吐き出した時には巨大な水球となって、ハクへと殺到する。しかし、ハクの前に突如として現れた氷の板が再不斬のそれを阻む。続けて放たれた氷の礫が再不斬へと飛翔するが、それらは全て両の手に握られた首切り包丁で切り払われてしまう。

 

「オイオイ、これまた随分と面白ェモノを出しやがるな。誉めてやろう。だが、遊びはこれで終わりだ、褒美にとっておきを見せてやる≪水遁・水龍弾の術≫」

 

 再不斬が高速に腕を動かしたかと思うと彼の右隣に水でできた巨大な龍が突如として現れる。その龍はまるで意識を持っているかのように大きく口を開け、咆哮したかと思うとハクへと猛烈な速度で殺到する。

 

 対するハクも先ほど作り出した氷の板を複数枚新たに作り出し、層を重ね氷の盾として受け止める。

 

「くぅ、嗚呼ああああああああああああああッッッ!」

 

 衝突、否、激突後、拮抗するもじりじりと押されていく氷壁、ついにはぴしりと音を立てて罅が入った直後砕けてしまい、勢いを削げ切れなかった水龍の猛攻を直に受ける。水龍はハクの体を喰らい散らかすようにして飲み込む。しかし、それだけでは満足できないと周囲を巻き込みながら込められたチャクラが胡散する間暴虐の限りを尽くし、消えていった。

 

 水龍が消えると同時にハクは三、四度と地面へと叩きつけられるようにしてバウンドしながら吹き飛ばされる。ハクの体は既に満身創痍、羽衣の防御力が無ければ即死していても可笑しくない程の暴力の限りを彼方此方に受けていた。

 

 さして鍛えてもいない少女の体がこれ以上動ける訳もなくそのまま地へと倒れ伏す。

 

「ッぁ、アマミヤさん、すみません。敵討ち……出来ませんでした」

 

 アマミヤへと弱弱しく手を伸ばしながら言い残し、物言わぬ骸へと姿を変えたアマミヤを数瞬の間見つめたかと思うと、完全にハクの動きが止まった。

 

「フゥ……まさか覚えたてのこの術を使う羽目になるとは思いもしなかったぜ。血継限界それも氷遁忍術、か上手く道具として育てることが出来れば、有るいは……クックックック、ハァーハッハッハッハッ」

 

 

 再不斬以外、意識が有る者は街道には存在してはいなかった。彼の特徴的な狂気と野心に満ち満ちた笑い声が街道中をいつまでも、いつまでも響き続けていた。

 

 

 

 

 




BADEND


これにて完結








何て事にならないように、頑張ります

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