NARUTO~行商人珍道中~   作:fall

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4 倒れた者と俺の出会い

NARUTO~行商人珍道中~

 

4 倒れた者と俺の出会い

 

 

 

 

 決意を新たにした後、倒れた子どもに≪ちょうぜつ印の万能丸≫を無理やり飲ませ、なんとか衰弱状態から脱させることができた。しかしそれでもなお、幼い体に熱を帯びぼんやりとしている子どもを路地裏にそのまま放置するわけにもいかず、泊まろうと思って目をつけていた宿屋まで背負っていったのだが。

 

 

 背負った子どもの身なりを見るなり、門前払いをくらわされ、彼方此方走り回った結果。ボロボロで隙間風すらする安い宿屋に宿泊することになった。

 

 ベッドは固くとてもじゃないが、安眠できるとは思わなかったので深い眠りについている子どもを寝かせ≪てぬぐい≫を取り出し、同じく取り出した≪カラクリ≫の水を使って濡れタオルを作成し、額へと置く。暖を取らせるため掛け布団として≪四代目のマント≫を複数枚重ねて被せる。

 

 

 自身は四代目のマントと≪暁のマント≫とを重ね合わせた即席の布団を作成し床に敷き眠りについた。四代目並びに暁の皆様方、あなた方の御力、有りがたく拝借させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が窓の隙間から差し込み始めたころ、俺は微睡みから目覚めた。大きな欠伸を一つしながら凝り固まった体を伸ばしてほぐす。

 

 

 今日も一日頑張ろうと、顔を勢いよくはたき気合を入れる。ふと、ベッドの方を見やると訝しげな表情を浮かべた子どもが一人。

 

 

 とりあえず、コミュニケーションの基本は挨拶だと思い。「おはよう」と安心させるように声をかける。返答は口ごもって聞き取りづらかったが、か細い声で「っはよぅ」と返してくれた。

 

 さて、どうやってこの子どもに説明しようか。理解力を五歳児に求めるのは酷だろうし。なるべく分かり易い説明をしなければならないな。と一人意気込む。

 

「あー、とりあえず自己紹介しないか?」

 

 そう、まずは自己紹介から始めよう。名前が分からなければ、呼び方が、おいとかお前とかだと冷たい言葉になってしまい、恐怖心を煽る事に繋がってしまうだろうし、何よりそんな呼び方はあんまりだと思う。

 

 というわけでだ、まずは自己紹介、時点で好きなものとかを話して甘味を食べさせて心を開いてもらう。餌付けするみたいであまり気が進まないがそんなことは言っていられない。続いて、この場に居る理由を砕いて説明した後、親や兄弟等の家族に関してできる限り話してもらう。

 

 最後に、帰る場所が有るのなら、そこまで送り届けるように便宜を図る。もし、いやこの場合高確率で当たりそうな口減らしもしくは、親が戦争やらで亡くなっている場合の可能性もあるという事もこの世界の根底からして予想しておくべきだ。

 

 常に最悪の状況を想定しているべき。そう、昔の偉人は言った。俺もそれに倣うわけではないが、一応そんなことも有るだろうと頭の片隅に常に置いておこうと思っている。

 

「じゃあ、まずは俺から、俺の名前はアマミヤ。好きなものは読書かな、キミの名前は?」

 

 できる限り、やさしい声で目線をかがみ込んで合わせながら反応を待つ。

 

「……くは、ゅきか、っはくでっ」

 

 長い間、話さなかったのが原因だろうとあたりをつけ。声がか細く小さかったため名前らしく聞こえたのは、ユキとハクという言葉のみであった。自分の声が余りにか細く弱弱しいことに動揺しているハク(暫定)に大丈夫だと言い。ゆっくりでいいから、もう一度いってごらんと声をかける。

 

 

「ぼくは、ゆきかぜはくです」

 

 幾度も繰り返しそのたびに段々と声がしっかりとしたものへと変わり、ついには拙いながらも名前を言うことができた。よくできました。の声と共に赤子をあやすよう、やさしくゆっくりと頭を撫でる。

 

 見知らぬ場所に加え、見知らぬ男に突然出会い緊張していた、ハクは次第に体を震わせ嗚咽を漏らしだした。ハクが泣き止むまで頭をゆっくりと撫で続ける。

 

 もう大丈夫だと、怖いものはもうどこにも有りはしないと声を続けてかけていく。その言葉たちがハクの琴線に触れたのか、小さく漏らしていた泣き声は次第に大きくなり、部屋中を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、落ち着いたか?」

 

 先ほどより幾分かましになりながらも未だしゃくりを上げるハクに大丈夫かと問う。

 

「っひく、はぃ、だいじょうぶです。いきなり泣き出してごめんなさい」

 

 頭を下げようとするハクに、待ったと言って押しとどめる。

 

「腹へってないか?減っているのならこれでも食べると良い」

 

 そう言いながら、ストレージから取り出した、≪白玉あんみつ≫を手渡す。

 

「腹が減ってると、悪いほうへ悪いほうへと考えが暗くなるからな。それでも食べて元気を出せ」

 

 突然差し出された餡蜜に驚きの表情を浮かべるハクに思わず笑ってしまった。

 

「そんな表情(かお)もできるんだな。安心したよ。さっきから、泣き顔と今にも死にそうな顔しか見てなかったからな。」

 

 俺の言に顔を上気させ頬を赤く染め、俯くハク。

 

「いや、済まなかった。今の発言は無神経だったな。悪い、許してくれ。」

 

 

 俺が頭を下げようとすると、先ほど部屋中を包んだ鳴き声よりも大きな声でそんなことはないっと否定の言葉を投げかけられた。

 

 

「そ、そんなことは、ないよ、おじさんは、ボクをたすけてくれたんでしょ?ボク、しってるよ。おじさんがおくすりを飲ませてくれたこと。おんぶしてこの宿まで走り回ってくれたこと。ぜんぶは聞き取れなかったけど、でもっ、ボクをたすけてくれたのはおじさんだよっ!だからっ、だから……ありがとう。」

 

 吠えるように、金切り声に近い大声を上げるハクに俺は感謝した。

……ありがとう。その一言だけで俺がこの子を助けたかいがあった。どうして、あのまま死なせてくれなかったのかなんて言葉を言われる覚悟もしていた。それゆえに俺はハクに深く深く感謝した。

 

「ありがとうは、俺の台詞だ。生きていてくれてありがとう。生きようとしてくれてありがとう。……キミがもし、生きることを諦めていたら、きっとキミは助からなかっただろう。これは冗談でも何でもない。キミ自身の意思で勝ち取った生だよ。俺はキミの手助けをしただけさ。だから、感謝するのは俺の方だ。ありがとう。」

 

 自然と俺の頬をつぅっと涙が伝っていくのを感じた。あぁ、俺はまず一人、救うことができたんだ。仮初の力ではあるけれど、人を一人救うことができた。

 

 これほどにうれしいことはない。俺にも救うことが出来たんだと。安堵するとともに張りつめていた心と肩の荷が降りるような気がした。

 

 

 

 

 ハクがベットから身を乗り出し、こちらに手を差し出してきた。病的なまでに白く幼いほっそりとした腕だ。白魚のような指と表現してもいいくらいに美しく、触れてしまえば壊れてしまうような陶磁器を彷彿とさせる。それは次第に俺の目元へと向かい、流れ続ける涙をせき止めるようにして置かれた。

 

「おじさん、どこか痛いの?」

 

 突然に泣き出した俺に困惑の表情を浮かべ、片方の手で先ほど俺がしたように頭をゆっくりと撫でられる。情けないなぁ……あぁ、情けない。

 

 こんな子どもに気を使われるだなんて本当に情けない。でも、もう少しだけ、キミの温もりを感じていてもいいかな?ハク。

 

 声には出さず、やさしく撫でられることを享受する。

 

 

 

 

 

 暫くして、俺の涙も止まった。ほんとうにだいじょうぶ?と尋ねてくるハクに、少し目にゴミが入っただけだと苦しい言い訳をして話を元に戻す。

 

 

「キミを助けたのは確かに俺だ。とは言え、薬を飲ませてこの宿まで運び、多少の看病をしただけだが。それで、ハク、一つキミに聞きたいことがある。ご両親や兄弟はどうした?なぜ、あんなところに倒れていたんだ?」

 

 助けたのが俺と聞いて喜びの笑みを浮かべる。しかし、俺が続けて家族の話をすると次第にハクは表情を曇らせていき、ぶんぶんっと首を激しく横に振り始める。

 

 言いたくない、ようだな。こうなることも一応は予想していた。恐らくは、考えうる最悪のパターンがくる可能性も大いに有るだろう。

 

「言いたくないのなら、言わなくてもいい。俺の事が信用できないのも無理はない。それに、無理に聞き出そうとしてもキミを傷つけるだけだろうしね。」

 

 俺の予想が正しければ、捨て子の可能性が一番高い。あのような所に倒れて動けない状態だったのだ。着た切り雀で一体どれ程の間生活していたのか、髪も服も皺やシミ、汚れや擦り切れが目立つ。

 

 なれば、わざわざ昔の話を掘り返すのもハクに悪い。親に捨てられた。あるいは親が亡くなってしまった。ことを思い出させるのは五歳児にとってストレスにしかならないし、せっかく助けることができた命が不要な事をしてしまい危険に晒してしまえば俺がしたことの意味がなくなってしまう。

 

 ハクは少し、考え込むような姿勢をし、ぽつりと呟いた。ごめんなさい。と、その言葉は一体何に対してのごめんなさいだったのか、純粋に深く問い詰めなかったことに対して言ったのか。それとも……俺ではない、別の誰かへと向けたものなのか。

 

 多少の疑惑を抱えながらも、流石にいつまでもすり切れてボロボロになった着物を着させているのは忍びないという考えに至った。

 

「よしっ、買い物にいこうか?ハク。」

 

 またしても、突然に声を投げかけられ、きょとんと小首を傾げるハク。

 

「ええと、どうして、ボクも一緒に行くんですか?」

 

 一体どうして、買い物に付き合わされるのだろうと心底不思議に思っていそうなハクに対し、服を指さす。

 

「ハク、キミはそんな恰好でいつまでも居るつもりかい?」

 

 そんな恰好とは一体何のことだと目線を俺から外し、段々と下へ下へと下げていく。あ、っと今更に気が付いたような素っ頓狂な声を出し、見ないでくださいといって顔を赤らめ、毛布に包まる。

 

 ああ、少し意地悪だったかな。

 

「少し待ってな、何か外套的なものはあったかな?」

 ストレージを探る。……お、これなんかいいんじゃないだろうか、≪風のはごろも≫羽衣って言うくらいだから外套系の防具だと思う。

 

 うおっ!?これは流石に……というか、一人称がボクであるからして男であろうハクにこれを着せるのは如何なものかと。布地が袖と胸、下半身の一部にしか付いておらず、新手の水着か何かかと見間違えるほどに奇抜な羽衣であった。当然着せる訳にはいかないのでそっと元に戻して別の外套を探す。

 

 暫くしてこれなら何とか、着れそうだと思う≪木の葉のはごろも≫を手に取る。

 

「ほら、とりあえず今着ている着物を着替えると良い」

 

 布団にくるまりながらも、顔だけは此方に向けていたハクへと放り投げて渡す。あわわわっ、と慌てふためきながらも投げられた羽衣を受け止めようと手を広げて伸ばし、顔から受け止める。

 

「うわぁっ!綺麗な着物。おじさんこれどうしたの?」

 

「あぁ、昔ちょっとな。それより、早く着替えないと時間が勿体ないぞ」

 

 目をキラキラとさせながら聞いてくるハクに不愛想にしながら誤魔化す。

 

「これ、本当に着てもいいの?」

 

 嬉しさ半分、本当に着てもいいのかと疑う気持ちも半分にして、上目遣いをしながら此方をじっと見つめる。っ……あぁ。とこれまた情けない声で肯定する。内心、男にそれも五歳児相手に何をドギマギしているのだと己を叱咤する。

 

 後ろを向いていてほしいと言われ、その通りに後ろを向く。するすると布がこすれる音が微かにし、見ちゃだめだからねっ!と念を押されつつ着替えが終わるのを待つ。

 

 

 

 少しの間そうしていると、もういいよの一声が掛り、振り返る。そこには、一輪の黒百合が咲いていた。

 

 手櫛である程度整えたのか、長く足元までに届きそうなくらいの長い黒髪が未だ開かぬ蕾を思わせる。白をベースにし、袖と胸元は若葉色で色付けされている、木の葉模様を要所要所にあしらった羽衣が地肌の病的な白さと相まって、儚げな姿を幻視させる。

 

「どう、ですか?」

 

 不安げな、それでいて何かを期待するような声で伺い立てる。

 

「あぁ、綺麗だ。よく似合っているぞ、ハク。」

 

 似合っている。と言われ頬を赤く染め、嬉しさに口元が緩んでいるのが見て取れる。世の中、本当に男の娘なんて者が居るのだと何故か感心しつつ。

 

「でも、それだとまだ、野花だな。買い物の前に、風呂屋と床屋に行くとしよう。素材が良いんだから、生け花のように綺麗にしてもらえよ?」

 

 冗談めかして、ニヤつきそうになる自身の頬を引き締めながらも、行くべき場所が増えたことにこの後の計画を練り直していく。はいっ!と嬉しそうにハニカム顔が見れただけでもこの子を助けることが出来て良かったと改めて思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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