NARUTO~行商人珍道中~   作:fall

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遅れて申し訳ない。今後も二週間か三週間に一回くらいの更新ペースに成ると思います。
早く続きを書ければいいのですが、何分私は社会人な物でして仕事が最優先に成ってしまいます。
少し、仕事の方が忙しい為のんびり更新になると思います。

私のような素人の作品と言うのも烏滸がましい駄文を楽しみにしていてくれる方が居るのかは分かりませんが、のんびりとお待ちくださると有りがたいです。


11 闘争の序曲

NARUTO~行商人珍道中~

 

11 闘争の序曲

 

 

 

 

 

「くくっ……さて、策は練った後は結果を御覧じろってな。くふふっ」

 

 悪戯を考え付いた悪ガキの様な笑顔を前面に浮かべるアマミヤの顔には忍び札が彼方此方に乱雑に貼り付けられていた。両の目には当然の様に貼り付けられており、それで前が見えているのかと見ている方が心配に成るが彼の足取りは確りとしたものであり、その心配は無用であることが伺える。

 

 彼が両の瞼に張り付けている忍び札は≪秘伝・しゃりんがん≫と≪秘伝・びゃくがん≫の二種類である。効力は説明するまでもないだろう。察しの通り、≪日向≫並びに≪うちは≫の血族でも無いに関わらず、≪写輪眼≫と≪白眼≫を使用可能にするというとんでもない反則級の忍び札である。

 

 白眼で周囲の状況を探知。写輪眼で対峙する相手の動きを察知する。まさにいい所取りと言えるだろう。しかし、これにも弱点がある。これらを発動すると常時チャクラを消費してしまうという点である。

 

 元々チャクラ等という超常のソレを持ち合わせていなかったアマミヤは、カンポウ丸によってソレを無理やりに手に入れたのだ。結果としてチャクラを手に入れることはできたが、それのコントロール技能は最低。現在においては放出する事しか出来ないのである。加えて、無理に手に入れたアマミヤにはチャクラの形質変化が出来ないという欠点も存在している。……とは言え、それを克服する方法は既に確立されており、実質的の問題点はチャクラコントロールの未熟さと絶対的なチャクラ量の少なさのみである。

 

 しかし、チャクラ量の問題もまた簡単に覆してしまうのが神より授かり受けた力の恐ろしいところである。≪忍び札・九尾のチャクラ≫本来であればナルトのみが装備・使用出来るソレをアマミヤは装備出来ると共に使用することが出来るのだ。効力は、一度チャクラを一定量支払い、十二分もの間必要なチャクラ量を無視してチャクラを行使する事が出来る様になるという完全にぶっ壊れのアイテムだ。此れとチャクラを回復させる≪チャクラ丸≫を始めとするアイテムを使用してしまえば、ほぼ無尽蔵にチャクラを行使することが出来てしまう。

 

 それ以外にもハクの持つ氷遁を始めとする血継限界や不死等という札まで存在している。これらすべてを今のアマミヤが併用しており、尚且つ暴走を引き起こしたり等すれば……再不斬どころか水の国、ひいては世界が危険な状態に陥るであろう事は自明の理である。

 

 

 

 

 

 

 

「見ぃつけたぁ、今助けるからねぇ……ハク」

 

 忍び札はと言えば顔中に札を張り付け、目に見える場所にある腕やら胸やらにも同様に貼り付けられている。その見た目からして完全に奇人変人の類ではあるが、今のアマミヤは何を仕出かすかわからない恐ろしさを纏っている。精神的にも不安定な状態で、ゆったりとした足取りでハクのもとへと歩き出すアマミヤは幽鬼のそれに似ていた。

 

 

「よォ、久しぶりじゃあねェか。どうした?面白れェ面構えに成って来やがったじゃねェか。あの間抜け面(ツラ)を隠すために態々、札を顔面中に張り付けるセンスは分からねェが、テメェの大事な連れならもう既にオレ様の玩具だぜ?クックック、なあ白よ」

 

「はい、ボクは再不斬さんの道具ですから」

 

 アマミヤの気配に気が付いたのか振り返りながらに挑発をする再不斬。それに応えるようにハク、否白は能面染みた顔を薄く歪ませ再不斬の言葉を肯定する。対するアマミヤはそんな事に興味はなさそうにしてハクへと歩を進める。

 

「助けに来たよぉハク。今すぐに助けてあげるから、ちょっとだけ待っててねぇ」

 

「ハァ?助けるってェ?誰がどうやって誰を助けるんだよォまさか、テメェ如きがオレ様を倒そうなんて考えてるんじゃあねェだろうな?……そうだとしたらテメェら揃って馬鹿ってなもんだぜ。クックックック、ハァーハッハッハッハ」

 

「あー煩いなぁ、もう俺は今、ハクに話しかけてるんだってばぁ虫けらの相手なんてしてないの。分かったぁ?ごめんね、ハク。この前は助けて上げられなくて。今度はさ、こんな奴さっさと片づけちゃうからさぁ……少し、待ってて」

 

 再不斬はアマミヤを小馬鹿にし、アマミヤは再不斬の事など眼中に無い様子でハクへと続けて間延びした声を投げかけ続ける。当然、一度殺した男に自身が馬鹿にされるどころか無視までされ、怒り狂った再不斬は背負っていた首切り包丁を手に掛け、苛立ちの元を早く解消してしまおうと不意を付くようにアマミヤに向けて素早く斬りかかる。

 

 殺った。そう確信した再不斬は口元に笑みを浮かべる。アマミヤの身体に刃が降り注ぐ。そのまま当たってしまえば一刀の下にアノ悪夢と同様、真っ二つにされてしまうだろう。凶刃がアマミヤの身体に触れる。その刹那、再不斬の動きがピタリと止まった。しかし、それは一瞬の出来事であり、そのままいとも容易く、斬りつけられたアマミヤの身体は無残にも両断されてしまった。

 

 

 色鮮やかな赤色が再不斬を。草木を。大地に降り注ぎ、紅く染め上げる。あれだけの大言を吐きながらも呆気なく両断されたアマミヤをやはり、口だけだったかと落胆と失望をしながら白へと振り返るとそこには傷一つない≪無傷≫のアマミヤのみが存在していた。

 

「テメェ……一体どんな手品を使ったのかは知らねェがどうして生きていやがる。それに、オレ様の道具を何処へ遣った?」

 

「くふっ、くひひ、さぁてなんででしょうねぇ?……そもそも、お前の道具なんてもうこの世の何処にも存在していないのに、ね。後ろを振り返って見ると良い。面白いものが見えるよ…………そして、俺と同じ苦しみを存分に味わうと良い」

 

 アマミヤの言に訝しげな表情を浮かべながら再不斬はアマミヤの挙動に注意しながら、先ほどアマミヤが両断された筈の場所である後方へゆっくりと振り返る。確かに、ヒト型は両断されて居た。…………ただし、アマミヤとは似ても似つかない幼い少女が。と注釈が付くが。

 

「……テメェ。ソイツはテメェの大切なモノって奴じゃあ無かったのかよォ……ッ!変わり身の術か?ヒデェ事をしやがる。反吐が出るぜッッッ」

 

「くははッ……ソレをお前が言うのか?俺から大事なモノを根こそぎ奪っていったお前がッ!……なんだ、情でも移ったのか?アノ≪鬼人≫が?くくっこれは面白いッ人の命を奪いに奪い、挙句の果てには攫って行った年端もいかない少女に思慕を募らせたと?……これを笑わずして何を笑えというんだ。くくくっくっくっく」

 

 狂った様に笑い出すアマミヤは両の手を大きく広げ、まるで演説をするかのように朗々と再不斬に向かって語りかける。

 

「なぁ……どんな気分だよ。初めてなんじゃ無いのか?お前はいつも奪う側で、力のない者達からその何もかもを奪っていく。尊厳を踏みにじり、泣いて許しを請う者の命を奪い。その亡骸へ唾を吐き掛ける。それが、今は真逆だ。自身の手で大切な道具とやらを壊して、その怒りの対象を俺へと向けようとしている。くくっ、でも残念。……お前じゃ俺には勝てねぇよ。俺が受けた絶望をお前にも味遭わせてやる」

 

 

 アマミヤのその言葉を皮切りに、再不斬は無言で走り出す。その顔に憤怒の形相を浮かべながら両の手に握る首切り包丁を強く、強く握りしめ。殺すべき敵を正眼に捉え駆ける。

 

 

――――ころす。コロス。殺す。殺してやる。必ず、どんな手を用いても。殺してやる。あのふざけた野郎を。

 

 接敵、武器を未だに持たないアマミヤに上段から斬りかかる。しかし、それはまるで風に吹かれる柳の葉の如くゆらりゆらりと簡単に避けられてしまう。なれば、忍術だと素早くチャクラを汲み出し、印を組む。しかし、それを待っていたと対峙するアマミヤは口元に歪んだ笑みを浮かべる。再不斬が結んだ印は奇しくも≪カカシ≫との初戦に於いて用いられた≪水遁・水龍弾の術≫の印だった。再不斬と同様、否それ以上の動きで印を組み上げるアマミヤ。当然、先に術を発動させる者は再不斬ではなくアマミヤであった。

 

 チャクラが巨大な水龍を形作る。出来上がったソレは青々とした体躯に大きな顎を備え、生誕を喜ぶように天に向かって咆哮を上げる。操り手であるアマミヤが手を再不斬に向けて翳すとそれに呼応するようにもう一度咆哮をし、その体躯に似合わぬ素早い速度で地を這いながら再不斬へと突撃する。

 

 何故、自身が発動させようとした術を先取りされたのかと混乱気味の再不斬は、アマミヤから遅れる事数秒後、同様に水龍を作り上げ、アマミヤの作り出した水龍を相殺するように指示を出す。

 

 激突。龍と龍とが互いにぶつかり合い、絡み合って錐揉みし、最後には両者共に身体を構成していた大量の水を周囲に四散させ掻き消える。

 

「テメェ、一体どう言うつもりだ?どうして俺の行動を先読み出来やがった」

 

「素直に教えるとでも?くくっ、一つ教えてやるよ、俺には未来が見えるんだよ。……その未来で、お前は死ぬ。戯言だと言いたいのなら言っていると良い。直ぐに俺がその通りにしてやるからな」

 

 無駄話しは終わりだと締めくくり再び対峙する両者。双方、相手の出方を伺いながら策を巡らせる。余裕綽々の表情を浮かべるアマミヤに対し、再不斬は表向き平静を装いながらも内心動揺していた。

 

――――オレ様が死ぬ?それもあの男に殺られてだと?未来が見える何て言う妄言は一先ず置いておくにしても、奴はどうやって俺の手を読んだ?そもそも前が見えているのかも分からない珍妙な(おかしな)格好でオレ様の攻撃を避け続けられている事自体が可笑しい。……奴には本当に未来が見えているとでも言うのか?

 

 じりじりと距離を縮めながら再不斬は考察を続け、己の得物の間合いにアマミヤが入ったことを確認し、再度二人は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、これ以上勘違いされる前にいい加減ネタばらしに移ろう。現在、再不斬は≪幻術≫に罹っている。当然嵌めたのはアマミヤである。初め、不意打ち気味に襲い掛かった再不斬の動きが停止した時にとある瞳術を発動させたためである。

 

 朱い眼。ソレと視線が合ってしまったが故に一瞬の間動きを止めたのだ。朱い眼の正体は当然、写輪眼である。正しくは写輪眼の前に≪万華鏡≫と付くが。≪万華鏡写輪眼≫それは、うちは一族に伝わる最強にして最悪の眼である。発眼条件は写輪眼を使用することが出来る男性、かつ親しい友人、若しくは直系の家族を自身の手で殺めるか、殺害される瞬間を自身の眼で見る等の何れかである。

 

 発眼した場合、その眼に浮かぶ模様がまるで万華鏡に映る模様に酷似したものに変わる事から、この様な名称が付いたのだ。万華鏡写輪眼を保持する者には特別な能力が付与させる。例を上げるのならば再不斬に対して使用した強力な幻術を見せるモノ。精神に多大なダメージを与えるモノ。消す事の出来ない黒焔を出すモノ。等々、多種多様な強力な効力を発揮するモノが多い。その反面、使用するための膨大なチャクラ量やそもそもの発眼条件。使い過ぎれば失明するなど弱点も確かに存在するが、それらの殆どは今のアマミヤには関係の無いことなのだ。

 

≪忍び札・秘伝・うちはの力≫この札の効力により、万華鏡写輪眼や火遁を始めとするうちは一族の得意とする忍術・瞳術はほぼ全て使用可能となっている。そして、右眼に張られた忍び札である秘伝・しゃりんがんは、とても厄介な性質を持っている。札を貼っているのにも拘らず視界は札を透過し、相手の目と視線が合えばその効力をいかんなく発揮してしまうのだから。

 

 

 今、再不斬が見ている幻術は≪うちはシスイ≫が使用したとされる瞳術を使用したモノである。アマミヤ(変わり身)が斬られ、しかし本当に斬られていたのは白(幻)だったと誤認させる。大見栄切って助けると宣言したにも拘らず助けようとする少女を非情にも身代わりにする所業に当然、再不斬は戸惑いを覚える。後は、幻術によって出来たアマミヤが救い様も無い悪役(ヒール)を演じる。再不斬が激昂したのは予定外の事ではあった様ではあるが、怒りは思考を停滞させ幻術に傾倒させるためマイナスではなくプラスにしかなっていないのだ。

 

 効力の程は、掛った相手が幻術に掛っている事を理解する事も無く、同士討ちを引き起こすか幻惑に惑わされ、自身の意志とは関係なく自傷を行ってしまう等の受ける側からすれば途轍もなく厄介な瞳術の一つである。

 

 当然、幻術である為解除する術(すべ)は存在しているが、今の激昂し不安定な精神状態の再不斬では自滅するのも時間の問題である。……そう、自身から戦闘などする必要はないのだ瞳術にさえ嵌めてしまえば後は勝手に自滅をするか手傷を負ってくれるのだから、正々堂々正面衝突なんて事をしようとするのは阿呆の考えであると言えよう。

 

 

 

 アマミヤと白の視線は虚空に向かって斬りかかったり水龍を出したり激昂したりといった奇行に走る再不斬へと向けられていた。アマミヤは上手くいったと確信して口元を薄く歪め、白は能面めいた顔を驚きへと変えていた。

 

「ふぅ……初めて使ったにしては上出来だな。それと、久しぶりだねハク。大丈夫だったか?痛いこととか酷いことはされていないか?」

 

「貴方は誰ですか?どうして再不斬さんはあのような奇行をしているのですか?もし、再不斬さんの敵であるのならば……殺します」

 

 安心させるように微笑を湛えながら話しかけるアマミヤに、氷の様に冷たい現実が突きつけられる。アマミヤを見る目は凍てつき可笑しな挙動を少しでも起こせば言葉通りにハクの後方中空に待機させた無数の氷の杭を射出させることだろう。

 

 「覚えて、いないのか……?約束もした筈だ。俺と一緒に旅をするんだと、必ず迎えに行くと。本当に覚えていないのか?ハク」

 

「くどいです。貴方の事など知りません。ボクと一緒に旅をしているのは再不斬さんただ一人です。……それに、例え知っていたとしても今の貴方の顔では誰が見ても分かりませんよ」

 

 再度、知らないと拒絶され、そして剰え一緒に旅をしている人物の名前がアノ再不斬であるとハク自身の口から聞いてしまう。顔の約半分以上を札で隠して居るのは必要な事であり、剥がしてしまえば当然効力が消えてしまうため素顔を晒せないのである。それに、例え素顔を晒したところでハクの記憶が戻るか否かの確率は五割有るかどうか、であるとするならば多少手荒な真似をする事も吝かではない。

 

 「最後に聞かせてくれ、アマミヤという名前に聞き覚えや何か感じることは無いか?……身勝手で泣き虫で弱弱しくて女々しい男の名前だ」

 

 「だから、知らないと何度も言って……ぁ、マミヤ?おじさん?路地裏。薬。綺麗な和服…………ッしらない、知らない知らないよッッッボクは、こんなの知らないッ!誰っ!?誰なのッ貴方はッッッ!!誰か、助けて……怖い、胸が痛い、苦しいっ助けてよッ」

 

 アマミヤの名を聞くとハクは頭を抱えてしゃがみ込み、苦しみ始める。その表情は苦悶に彩られ額に玉のような汗をかき、頭痛がするためか時折眉根を歪ませる。痛い。苦しい。助けて。何度も何度も繰り返し壊れたレコーダーの様に繰り返すハクの姿はとても痛ましく、楽に出来るのであれば早くして上げたいと願うばかりである。

 

 

 

 

「完全に記憶が消えたり、無くなった訳じゃない。……ただ、心の奥底に封印しているだけさ」

 

 凛として透き通った声がアマミヤの鼓膜を叩く。後方から二つの足音が聞こえ、新手の敵かと急いで振り返るアマミヤ。しかしてそこに立っていたのは、良く見知った顔だった。

 

「なんだ。撫子とナズナか、驚かすなよ。危うく斬りかかるところだったぞ」

 

「ふんっ、貴様程度の腕では返り討ちに遭うのが落ちだ。……何故、私を置いていった?それに、コイツは一体何だ」

 

 コイツと言ってナズナを顎で指す撫子は私怒ってますっと言わんばかりに嘘は許さないと強烈な睨みを利かした。睨まれているナズナはと言うと何のことやらとばかりに小さく小首を傾げながらに、一応背にある≪雷神の剣≫へと手をかける。まさに一触即発のこの状況。これに油どころかガソリンをぶちまけたのは当然のことながらアマミヤであった。

 

「両方とも落ち着け。今は、そんな事はどうでも良い。説明は後回しだ」

 

「どうでも良い……だと?私にとって重要極まりない事をどうでも良いだと?ふふふっ……後で覚悟しておけよアマミヤ」

 

「嗚呼、その時はお手柔らかに頼むよ。ナズナも自己紹介とか考えておいてくれると助かる。よろしくな」

 

「はい、了解致しました。しかし、主(あるじ)。自己紹介とは一体どの様にすれば宜しいのでしょうか?お恥ずかしい話ではあるのですが、私(わたくし)戦闘面以外はからっきしなものでして。御教示頂けると幸いでございます」

 

「うん、それじゃあ蹴りが付いたら一緒に考えようか?といっても俺もそこまで得意じゃないんだけどね」

 

「ん、んん゛アマミヤ。あの娘の事はどうするつもりだ?」

 

 朗らかに初々しいカップルの様に二人だけの空間を作り出すアマミヤとナズナに蚊帳の外にされて居ると感じた撫子は当然二人の仲を邪魔をしようと声を荒げて会話に割り込んだ。当然、見知った顔を見て気が緩んでいたアマミヤはハッと現実に引き戻される。

 

「ありがとう撫子。約束通り、ハクの治療をお願いしても良いかな?」

 

「出来るかどうかの確約は出来ないが、約束はどんな手を使ってでも必ず果たすのが私だ。が、さっきのお前らの会話を聞いていたらモチベーションが下がった。なので、今度街に着いたらまた買い物に付き合ってくれ」

 

「くくっ嗚呼、その位なら何時でも大歓迎だ。それにこれは、お前にしか出来ないし、お前だからこそ頼んでいるんだ。だから、頼むぞ。撫子」

 

「ふんっ、今更ご機嫌取りをしたって遅いわ、馬鹿アマミヤ。……でも、その信頼には応えてやる」

 

 顔にはほんの少ししか出さないが首筋が紅く染まっている撫子。素直になれない乙女が確かにそこに居た。

 

 

 

 

 

 

「さて、治療といったが実はやる事は簡単だ。まぁ、多少荒療治には成ってしまうがな。今できる治療はやっておくから、あの喧しい男を何とかして治めて置け」

 

「嗚呼、了解した。再不斬は適当に黙らせておくから撫子は治療に専念していてくれ。それと何かと手が必要だと思うからナズナをサポートに付けておくからな」

 

「っ主、それは私(わたくし)が戦力にならないと言外に仰っているのですか?もしそうであるとするのならば私は全身全霊を以ってその認識を変えさせて頂かねばなりません」

 

「いや、そうじゃない。今回は俺一人で十分だと判断しただけだ。ナズナも弱者をいたぶるのは好きではないだろう?それに、今回の俺の目的はあくまでもハクの奪還とその心の治療にある。当然、お前の実力は良く分かって居る。忍び札を使用したとはいえ、経った一週間足らずでハク達を発見してくれたその順応力の高さは恐らく誰にも劣る事は無いだろうし、俺を主と仰いでくれるその誠実さも良く分かって居るつもりだ。だからという訳ではないが、お前を信頼して撫子のひいてはハクの治療の手伝いをして貰いたい。」

 

 最後に頼むと言って首を垂れるアマミヤにあたふたと焦りの色を浮かべるナズナ。自身が主と仰ぐアマミヤに頭を下げさせてしまってどうすればいいのかと困惑顔で撫子に助けを求める。が、肝心の撫子はと言えばその光景を面白がってニヤついた笑みを浮かべるのみで助け船を出そうとはしない。パニックに陥ったナズナはもうどうしていいのか分からずに、あうあうと言葉にならない声を上げ、頭からは知恵熱を出したかのように煙が出ている。

 

「ふふっ、アマミヤ。そろそろ頭を上げろ、ナズナとやらが大変なことになっているぞ。助手が使い物にならなくなると私としても困るのだがな」

 

「ん?ッナズナ!?頭から煙が出てるぞっ大丈夫かっ!?」

 

「あうあうあう~主に恥を掻かせるなんて、忍者失格です。今すぐ自刃致しますのでどうかお許しをっ」

 

 自刃、つまりは切腹である。をすると言って背の雷神の剣を抜き放ち自身に向けて突き刺そうと大きく振りかぶる錯乱状態のナズナに急ぎ駆け寄りその狂行を止めるアマミヤと撫子。

 

「待て待て待てっ!俺は別に恥をかいたなどと思っていないし第一、恥何て物は今まででそれこそ数えきれないくらいにかいてきたんだ。今更、一つや二つ増えた所で別にどうってことはないぞ」

 

「そっそうだ。アマミヤの言う通りだぞ。アイツは絶えず恥をかき続けているようなものだからな。気に病む必要など欠片も無いぞッ」

 

「おい、それは一体どういう意味だ。まるで俺が生きていること自体が恥みたいな言いぐさじゃないかっ」

 

「ふんっ、今更気が付いたのかその通りだ。大した力もないくせに自分より強い者に対して無謀にも突っ込んで行く所とか、少しの失敗で泣きべそかいたり剰え……わ、私に慰められたりしていたではないかっ」

 

「ぐっ、それを言うならお前だって、街に繰り出した時にアレは何だとかこれは美味いっとか、はしゃぎ回って俺に話しかけてくるもんだから物凄く見られて恥ずかしかったんだからなっ」

 

「なっ……そ、それは仕方がない事ではないかッ!そもそも私は知識としてそれらの物を知っていても実際にみることは無かったのだっ初めて見るものに感動することは恥ずべき行為ではない筈だっそれに、貴様の方こそ」

 

 撫子が反論を返そうとしたところでクスリと笑い声が両者の耳に入る。発生源はどこだと探すと肩を震わせながら必死に笑いを堪えるナズナの姿を見とめた。

 

「ぷっ、あははははっ……あっ、申し訳ございません。御二人は本当に仲が宜しいのですね。私(わたくし)妬いてしまいそうになります」

 

「何処をどう見たらそんな風に見えるのか知りたいが、まぁ殺し合いをするほど仲が悪い訳でもないし、良いか悪いかの二択で聞かれたら良いと答えるんじゃあないかな?撫子はどう思う?」

 

「ふんっ、忌々しい事にお前と同意見だ。だが、勘違いをするなよ。私とお前は忍識札という楔(契約)によってこの関係を保っているに過ぎないのだからな」

 

「あははっ撫子さんは素直では無いようですね。……では、僭越ながら私(わたくし)が主を頂きますね。従者と主の禁断の関係。良いと思いませんか?」

 

「ふ、ふざけるなっ!アイツは私が先に目を付けたのだッ貴様のようなどこの馬の骨とも知れぬ後から来たものに遣るものかっ」

 

「ふふっ、先も後も関係ありませんよ。……そういう関係に成ってしまえばね。それこそ早い者勝ちと言うものです。ですが、撫子さんは素直に成れない御様子。少しハンデを差し上げましょう。この件が解決してから一週間、私(わたくし)からは主に手出ししません。逆に求められれば話しは別ですが。どうします?乗らないのであれば、私はすぐにでもアプローチを掛けますが?」

 

「くっ卑怯なッ!……分かった、一週間だな。良いだろう、貴様などには見向きもしない様一週間以内に私色に染め上げてやるっ」

 

「ええ、どうぞ頑張って下さいな」

 

 炎のごとく燃える撫子。流水のごとく静かなナズナ。両者の視線からは火花が散っていた。そうして今、此処に女同士の熱い戦いの火蓋は切って落とされたのであった。

 

「おーい、いい加減に戻ってきてくれないと困るんだが。撫子とナズナの仲がいいのは良く分かったから早くハクの治療をしてくれないか?早く助けてやってくれ。その間に、俺は奴との蹴りを付ける」

 

「アマミヤッ約束は確りと護れよっ!」

 

「主、私(わたくし)の約束もお忘れ無きよう」

 

「嗚呼、分かって居るからハクの事は頼んだぞっ二人とも」

 

 各々、目的は違えど今だけは強固な協力関係を築き上げていた。この一件が無事に終われば。と期待に胸を膨らませるのは彼ら全員の総意であった事だけは間違いない事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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