NARUTO~行商人珍道中~   作:fall

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8 拘束された俺、式とは

NARUTO~行商人珍道中~

 

8 拘束された俺、式とは

 

 

 

 

 綱手によるデコピン制裁を受け意識を落とした俺だったが、目を覚ますと街道からタンバの街に逆戻りしていた。というのも、綱手が≪口寄せの術≫を使用して≪カツユ≫と呼ばれる蛞蝓を呼び出し俺を背負って近場の街であるタンバへと引き返していただけだったのだが。

 

 ハクと再不斬は俺が死地から戻った際には既におらず、あの日から既に五日が経とうとしている。のだが俺は目を覚ましてから一歩も動けずにいる。

 

 綱手から絶対安静にしろと言われ文字通り、ベッドに拘束された俺は傷が快復するまでの間自分から動くことを禁止された。当然、綱手自身も俺と同室に居を構え見張りとして四六時中監視を行っている。

 

 疲れないのかと聞いてみたがむしろ悠々と楽しそうにお前は見張っていないと何を仕出かすか分からんと一蹴されてしまった。……何故脱走することがバレたのだろうか。そんなこんなで動けないことを仕方なしに適度に相互、コミュニケーションを行いつつ、≪式≫について説明をしてもらった。

 

 綱手曰く、式とは平安時代をベースにした漫画によく有る陰陽師が使役する≪式神≫と似たような存在らしい。死に至る一撃を受けるか、完全に力を使い果たしたときに元の札俺の場合は≪忍識札≫が消滅し召喚された式も同時に一時消滅するのだとか。

 

 それって、仮にとは言え一度殺されたことになるのではないか?と聞いたところ。厳密にはそうではないらしい。痛みは確かに受ける様だが、俺の場合は忍識札自体を幾らでも用意・使用することが出来るため忍識札が消滅しても、次に取り出した若しくは既に取り出している同一の忍識札に意識が移るのだとか。

 

 しかし、出来ることならば消滅はしたくないらしく……当然か、受ける痛みは本物なのだから、俺も幾ら完全とは言えないもの生き返ることが出来るとしてもあれ程の痛みと喪失感は二度と体験したくない。その他にも、オリジナルとの相違点や他の式を呼び出すときの注意点を教えてもらい、綱手にはとても感謝している。

 

「綱手様。何かお礼をさせて貰えないでしょうか?とは言え俺で叶えられる範囲であればでは有りますが」

 

 俺が礼を申し出ると、綱手は待っていました!と言った風に目をきらりと輝かせた。

 

「ほぅ……何でも良いとな?であれば、私に名をくれ。そして、その妙ちきりんな敬語を辞めろ」

 

 酒をくれとかギャンブルをさせろとか即物的なものじゃあ無いだと……?それに、名前?どうしてそんなモノを欲しがるのだろうか?

 

「何をしている。早く名前を付けんか。それとも、何か不都合でも有るのか?」

 

「いえ、そう言うことではないのですが……どうして名前を?今のままでも宜しいのでは?」

 

「敬語は辞めろと言ったはずだが?……まぁいい、アマミヤ。私が誰か言ってみろ」

 

「ぇ?ええと、伝説の三忍の紅一点綱手様……嗚呼、成程合点がいきました。つまりはそっくりそのままなお姿と名前で呼ばれるのは非常に拙いというわけですね?」

 

「うむ、加えて私のオリジナルは≪伝説のカモ≫やら名医等と彼方此方で名と顔が売れている。厄介ごとに巻き込まれたくないお前なら分かるだろうが、お前の式である私も無類のお人よしでは無くてな、巻き込まれるのは御免だ……というわけでだ。さっさと新しい名前を寄越せ。この私がお前如きの付けた名を名乗ってやるのだ感謝しろよ?」

 

 ふふんっと腰に手を当て胸を張り、早くしろと催促してくる綱手に一瞬でも可愛らしいと思ってしまったのは一生モノの不覚だ。……幾ら見た目二十代の金髪美人だとしても相手は五十代だぞ、見た目にだまされるな俺。

 

「今、齢のことを考えていなかったか?アマミヤ。女性に対してそれはいけないな」

 

「い、いえ。けしてその様な事は。俺はどんな名前が似合うだろうかと……」

 

「ふんっそう言うことにしておいてやろう。ただし、次はないぞ。それと敬語を辞めろと何回言えば分かるのだ?」

 

 やばい、怒らせてしまった。これで、名前の選択を誤ったら今度はデコピンなんか目じゃないくらいの拳が飛んできそうだ。…………どうする。名前なんて飼い犬のベロニカ位しか付けたことはないぞっ!?ベロニカ、元気だろうか。

 

 

 

 

 

「な、撫子(なでこ)ってのはどうで……だ?」

 

 これ以上怒らせては命の危険に関わりそうなので恐る恐るのうちにふと頭に浮かんだ名を口に出す。

 

「ほぅ?何故その名にしようととしたか聞いても良いか?」

 

「え゛、あの、その、撫子(なでしこ)の花言葉は気高いとか……あと、その変な意味ではないのですが、長く続く愛情と言いまして…………貴女に似合っているかなぁと」

 

「そ、そうか。気高く……愛か。ふふっ撫子。よし、これより、私の名は撫子だ。くれぐれも間違えるなよ?アマミヤ、よろしく頼む」

 

 こちらこそと差し出された手を握り返す。……ふぅ、どうやら無事機嫌を直すことが出来た。助かったぁ。ホッと胸を撫でおろし、バクバクと緊張によって脈打っていた心臓を宥めすかす。

 

 殊の外上機嫌になった綱手、ではなく撫子は小さく己に新たに付けられた名を繰り返して呟いていた。時折、口の端を弧を描くように歪ませる様から嬉しさが滲み出ているのが見て取れる。しかし、本当に見た目は完璧に美人だなぁとその姿をぼーっと眺める俺に気がついたのか、顔を少し赤らめながらに詰め寄ってくる。

 

「あ、アマミヤ!これは違うぞっ別に新しい名前が嬉しかったとかそう言うのではなくてだな。そう、花の名前をもじっただけだというお前のセンスを笑っていただけというか……」

 

「んじゃあ、別の名前に変えようか?……気に入らなかったのならもっと早く言ってくれれば良かったのに。もしかして気を使わせてしまったか?すまない」

 

「いやっ良い!この名でいいんだっ……そうだっ!お前がどうしてそこまで力に固執するのか聞いても良いか?」

 

「遠慮しなくてもいいのだが。……それにしても、俺が力を手に入れる事に固執する理由、か。」

 

「ああ、あれほどの傷を受けてなお無理にでも動き出そうとするのは余程の理由が有るのだろう?でなければこの私に忍体術を叩き込んでくれ等と頼み込まないだろうしな」

 

 そう、俺は気絶していた約二日を除いた三日間の間、撫子に忍術と体術を教えてくれるように頼み込んだ。しかしそのたびにぬらりくらりと先の様に話を逸らされ、色よい返事を貰うことが出来なかった。

 

「そうだな。撫子には話して置くべきだな。……俺がどうして、力を求めているか。それはある人を助けるためだ。どうしようもなく無力で情けなく、そして愚かな自分のせいで攫われてしまったあの娘を」

 

 ぎりりっと歯ぎしりを一つして爪が掌に食い込み血が出る迄に強く握りしめる。

 

「そうか、しかし、その人物の身の安全は保証されているのか?もしかしたら既に……」

 

「ッそんな事はないっ!……筈だ。連れ去った奴は≪手に入れてみるのも一興≫と言って居たから、生きては、居る筈だ。ただ、ハクの心がどうなっているのかは分からない。」

 

「ハクというのだな。そいつは、そこまでお前に思われている、か。とても幸せな奴だな。安心しろ、例え心が壊れていようと命が有りさえすれば時間は掛るだろうが、この私が治してやる」

 

「本当かッ!?忍体術の教示共々よろしく頼む撫子ッ」

 

 地獄に救いの糸が垂らされたかのように暗く不安だった心は撫子という希望の糸で随分と楽になった。感謝してもし切れないと拘束され身動きが取れない体を必死に動かし頭を下げる。

 

「よ、止さないか。大口は叩いたが、実際にそいつと逢った時にしか治療が必要なのかどうかすらも分からないのだから、今お前が頭を下げる必要はない……し、しかし、どうしても礼をしたいというのなら。貰ってやらん事も無いぞ?」

 

 無理やりに頭を下げる俺にアタフタとした様子で再度礼を求める撫子。礼と言われても、何か欲しい物でもあるのだろうか?

 

「ああっ!何でも言ってくれ!叶えられる事なら幾らでも叶えてやる」

 

「ほ、本当かっ!?言質は取ったぞ?やはり、無理だ等と言っても聞かんからな?」

 

「おうッ男に二言は無い!」

 

「そ、それなら……明日、買い物に付き合ってくれ。」

 

「了解、買い物だな。金は十分に有るから気にせずに必要なものを言ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日のことだ。久々にベットから解放され、自由の身となった俺は撫子と共にタンバの市場を見て回った。ハクとは違って撫子は、見るもの見るものに目を輝かせ、まるで、知ってはいるものの、初めて見る全てに驚きと関心を示すかのように、はしゃいだ。

 

 アレは何だとかアレを食べてみたいとか。見た目と言動がかみ合わない彼女。俺はそれに合わせ、彼女の要望を聞いて回る。

 

「アマミヤッ!何をしているっ!早くしろ置いていくぞッ」

 

 興奮気味に捲し立てる撫子は、それはとてもとても、綺麗な笑顔を浮かべていた。嗚呼、ハイハイ今行きますよと適当に返事を返しながら、はぐれない様に駆けまわる撫子を追う。時々立ち止まり、チラチラと此方を伺う様はさながら気分屋の猫の様だ。

 

 アクセサリー店。呉服屋。食い物関係の屋台やらを次々に見て、買って、食べて回るとあっと言う間に日は沈んでいた。ごねる撫子を連れて、約四日もの間、監禁されていた宿屋へと足を向けた。

 

 

 部屋に着くと同時に彼女が昨日話した式の説明をぼんやりと思い出す。彼女は、いや、彼女らと言った方が良いか。俺の式達は知識は持っていても、経験や、彼ら本来の記憶は持ち合わせていない。

 

 簡単に言うとするのならば、呼び出した瞬間に誰のモノとも分からない知識を自身のモノとしてインストールされる様なものだ。そして、呼び出されると同時、召喚主である者に一定の好意を持ち合わせるようになっており、裏切りを引き起こさないように、何らかの形で好意を抱くように、刷り込みを行う……らしい。

 

 戦闘の経験は無い。しかし、知識として有るソレと同じように体は動く。初めて出会う者に無理やりに好意的な感情を抱く。……なんて恐ろしいことなのだろうか。己の事が知識としてしか分からなく。何処で生まれて、育って、誰かを好きになって、喧嘩して、戦闘技能を磨いて……でも、その記憶は自分のものではなくて、挙句の果てには呼び出した者の奴隷同前の都合の良い存在として存在しなければならない。彼女が、撫子が名前を欲しがった本当の理由が分かった気がする。

 

 面倒事に巻き込まれたくない。何て言うのは方便だ。本当は、自分が自分として存在していないことに恐怖を抱いていたんだ。オリジナル(綱手)と劣化品(撫子)の間に起こる差を。ふてぶてしく、不遜な言動をしているのもそのためだ。

 

 

 記憶が無い。それは、とても悲しいことだ。己を生んで育ててくれた者の暖かさを知らない。バカをやって一緒に叱られる友人との経験も無い。人を好きになるという甘くて苦いそれも。全部が、偽物で彼女たちには、無い。

 

 

 便利な、道具。たまたま、それが人型を模しているだけだとそう考えれば、割り切れば…………無理だ。彼女は生きて、いるんだ。例えそれが、忍識札という道具によって生み出された偽りの命なのだとしても。

 

 どうしてこう、嫌な気分になるのだろう。力を貰った時にはあれ程までに嬉しく、気持ちが良かった筈なのに。多分、こうなることは分かって居た筈なのに。

 

 神は恐らく、俺の願いを全て叶えた上で今の俺を見て哂っているのだろう。原作の前にトリップさせたのも、ハクを助けるように仕向けたのも、ハクと一緒に笑いあって、仲良くなって……そして、再不斬と出会って、大切なものを喪った。……道化だ。あの女が用意した舞台の上で愉快に踊らされているピエロ。それが俺だ。どうしようもなく、愚かな俺はこれ以降も踊らされ続けるのだろう。それこそ壊れて、死ぬまでずっと。

 

 

「おいっアマミヤッどうした?」

 

 不安げな顔がハクと重なる。全く似ていないはずなのに。どうして、見間違えたのだろうか。……嗚呼、そうだ。キミのその純粋さが、本当に心の底から心配しているその表情が。ハクとそっくりだ。

 

「泣いて、いるのか……?全く、仕方がない男だな」

 

 そう言って、差し伸ばされた手もあの娘を思い起こす。よしよしと声を掛けつつも、赤子を撫でるように頭を撫でる撫子。

 

……ガキか、俺は。実年齢は零歳と呼んでいい位に心が育ち切っていない撫子に心配を掛けて、剰え(あまつさえ)あやす様に頭を撫でられるなど、恥ずかしさで死んでしまいそうだ。

 

「アマミヤは泣き虫だな。あの時もそうだった」

 

 あの時?一体何時のことだろうか。ハクとは直接有っていないだろうし、それにあの時には撫子はストレージで眠りについていたはずだ。撫子に何時の話だと尋ねてみたが、「何のことだ?そんな事より明日から修行を付けてやる」と上手く誤魔化されてしまい、まぁ無理に聞き出すべきでもないかと思い直し追究するのは辞めた。

 

 本音を言えばそれよりも、忍体術の修行の方が気になったからである。明日以降には念願の三忍の一人の指導の下、忍術を習得するための授業が始まる。

 

 それに、撫子の事を信用し過ぎるのも良くないと思ってしまったからでもある。いくら、俺に友好的な態度を取っていても、それは所詮洗脳染みた刷り込みによる結果だ。いつ何処で、それが裏返り、俺に反旗を翻すか分からない。

 

 

…………嗚呼、嫌だ。誰も信じられない俺が。疑心暗鬼に成りつつある腐って行く心が。でも、漸くだ漸く、貰った力ではなく、本当の意味での俺自身の力を手に入れることが出来るんだ。待ってろよハク。必ず、助け出して見せるから。

 

 だから、もう少しの間、待っていてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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