つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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やっと完成……お待たせして申し訳ありません。

今更ですが、何故コミケで格闘イベントがあるのかをちょっと解説。
本作の世界観において、格闘技はブームになりつつあり、レオ達が参加したタッグトーナメントで松笠や七浜を中心とした都市や県はそれがヒートアップしたって事で。


影分身VS脅威の二本鎌!

レオSIDE

 

「大丈夫か、橘?」

 

「ああ……すまない」

 

 第1試合にて敗れた橘さんは、乙女さんの肩を借りながらリングから降りる。

まさか、弱点(トラウマ)を突いたとはいえ乙女さんをアレだけ苦しめた橘さんが負けるなんて……。

 

「ほら、湿布薬だ。貼っとけ」

 

「ああ……」

 

 大和から湿布薬を受け取り、瀬麗武はその場に座り込んで先の戦いで自分を破った刻達を見る。

心なしかその表情は冷や汗を流している。

 

「負け惜しみに聞こえるかもしれんが、奴のパワーは鉄と遜色無いレベルだった。

恐らく、他の面子の戦闘力も私達全員とほぼ同等だろう」

 

 橘さんの言葉は事実だろう。

少なくとも橘さんが戦った月乃って奴と比べて他のメンバーの力量は、どんなに過小評価したとしても同等以上。

確実に苦戦は必至だろう……。

 

「次は俺が行く。一気に巻き返してやる」

 

 次鋒に名乗りを挙げたのは優一。

名乗り出るや否やリングに上がって臨戦態勢を取る。

 

「……なぁ、レオ」

 

「どうした?……ん?」

 

 そんな中、不意にスバルから声が掛かり、俺はある違和感に気付く。

 

「フカヒレ?」

 

 いつもなら騒ぐかボケをかます筈のフカヒレだが、今回は違った。

何やら訝しむ様に桐ヶ谷達を見詰めて首をかしげている。

 

「フカヒレの奴、さっきから妙に大人しいが、どうしたんだ?」

 

「何か変な物でも拾い食いしたんじゃね?」

 

 カニがまたもやアホな推測でものを言う……。

 

「流石にそれは無いだろ?お前なら有り得るが」

 

「んだとゴラァ!!お前ボクの事そんな風に思ってたのか!?」

 

 そう思われて当たり前なことばっかりやってる癖に良く言う……。

 

「さっきの技、見た事ある……」

 

「え?」

 

 カニとのアホらしいやりとりの中、フカヒレの思わぬ言葉が耳に飛び込んできた。

 

「あれは確か、ALOで……ま、まさか、アイツらって…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

 一方、先鋒戦で勝利を決めた神霆流側でも、二番手が決まろうとしていた。

 

「次は頼むぞ、志郎」

 

「任せろ、ココで一気に流れをこちら側のものにしてやるさ」

 

 特注品の二本の大鎌(模造品)を両手に持ち、志郎は優一の待つリングに上がった。

 

「社交辞令って事で、名乗らせてもらうぜ。

俺の名は山城優一。不知火流師範代候補だ」

 

「神霆流師範代・十六夜志郎……通り名は乱撃。いらん世話かもしれんが、素手で良いのか?」

 

「模造品なら素手でも十分戦える。

本物の刃物ならプロテクターぐらいは必要だけどな」

 

「……それを聞いて安心した」

 

 大鎌を得物とする志郎に対し、優一は素手のまま身構え、それに応じて志郎も構えを取る。

 

「行くぞ!!」

 

「来い!!」

 

 やがて闘志が一気に高まり、二人の間に火花が散る。

それが合図となったのかのようにゴングが鳴らされた。

 

 

「ハァッ!!」

 

「ッ!?」

 

 開始直後に優一が動いた。

持ち前の瞬発力を活かし、瞬時に志郎の懐に入り、右腕を振りかぶる。

 

「《昇竜弾!!》」

 

「グッ!」

 

 振りかぶられた右腕から鋭い一撃が繰り出される。

これを志郎は避ける暇もなく右手に持つ大鎌の柄でこれを防御する。

 

(今だ!)

 

 直後に志郎の背後に優一の影分身が生成され、跳び蹴りを繰り出すが……。

 

「フンッ!」

 

「何っ!?」

 

 直後に優一は驚愕する。

迫り来る攻撃に対し、志郎は振り返る事無く左手に持ったもう一本の鎌で分身を薙ぎ払ったのだ。

 

「そこぉっ!!」

 

「あぐっ!」

 

 その隙を突いて優一の鳩尾に膝蹴りを喰らわせる。

急所への一撃はより大きな隙を生み、優一の身体は大きく仰け反った。

 

「《クレセイル!》」

 

 更に続けて繰り出される追撃。

さながら三日月を描くが如く、大きく振り下ろされる鎌が優一に迫る。

 

「チィッ!」

 

 だが優一もただやられのを待つお人好しではない。

眼前に分身を精製し、コレを盾にして防ぐ。

 

「《斬影拳!!》」

 

 そして分身を巻き込む形で超高速の肘打ちが繰り出される。

 

「ぐぁぁっ!!」

 

 直前まで分身が目隠しになっていたため志郎の反応は遅れ、胸板への一撃を許してしまう。

 

「まだまだ……!」

 

 形勢逆転し、優一は一気に畳み掛けるべく志郎に飛び掛かる。

 

「《影分身・修羅の型!》」

 

「!?」

 

 再び懐に入るとほぼ同時に優一の両肩からそれぞれ2本、計4本の腕が生えてくる。

元々の腕と合わせて全6本もの腕で身構えるその様相はまさに阿修羅の名に相応しい姿だ。

 

「《阿修羅六道蓮華ーーッ!!》」

 

「うぐぁぁっ!!」

 

 そのまま一気に繰り出される6本の腕による拳撃の嵐。

息吐く間も無い連撃が容赦無く志郎の身体を穿つ。

 

(ま、まるで動きが読めん……避けきれない!?)

 

 フック、アッパー、ストレート、ジャブ……6本の腕から放たれる拳はそれぞれ違う動きを見せ、志郎に動きを悟らせない。

故に志郎は拳撃全てをその身に受けてしまった。

 

「グ……ぐぁ…………」

 

 強烈な拳撃に吹っ飛ばされてダウンし、早くもグロッキー状態になりつつある志郎。

だが優一はそれに情けも容赦もしない。一気呵成に勝負をつけるべく倒れる志郎に追い討ちを仕掛けるべく跳び上がる。

 

「とどめだ!!」

 

 ダウンしている志郎に上空から3本の右腕を振りかぶる優一。

このまま急所に3発同時にパンチが決まれば志郎でもKO、もしくはそれに近いダメージを追うのは必至だ。

 

「くっ!嘗めるな!!」

 

 ここで志郎も反撃に移る。

左手に持った鎌をブーメランの様に優一目掛けて投げ付けた。

 

「うぉっ!?」

 

 カウンター気味に投擲された鎌を優一は慌てて回避する。回避に費やした時間は僅か一瞬だが、その一瞬を志郎は見逃さなかった。

 

「貰った!!」

 

 一瞬の隙を突き、志郎は優一……牽いては彼の右腕目掛けて飛びつき、そして……

 

「腕を増やせば、絶対有利だと思うなよ。こうやって三本まとめて料理すれば!!」

 

 右腕3本を纏めてキャッチし、そのまま勢いに乗せて腕固めの要領で締め上げた!

 

「ギャアアア!!」

 

 腕を締め上げられたまま組み伏せられ、優一の口から悲鳴が上がる。

いくら影分身で作った仮初の腕でもそれを動かしているのは自身の肩である。

即ち、3本の腕が一気に締め上げられれば、肩にかかる負担も3倍だ。

 

(か、解除、しないと……!)

 

 激痛に苦しむ中、優一は分身を解除して分身体の腕を消し、その際に出来た隙間を利用して志郎の腕固めから脱出する。

 

「漸く解除してくれたな。その厄介な腕を!」

 

 待っていたとばかりに志郎は早々に体勢を整え直し、

 

「《ルナクス・オンフェ!!》」

 

 先のお返しとばかりに志郎の技が繰り出される。

鎌を円形に振り回しながらの縦斬りが優一の身体に叩き込まれる!

 

「うぐぁぁぁっ!!!」

 

 強烈な斬撃をその身に受け、優一の身体は大きく仰け反る。

 

「もう一発!」

 

「くっ……《飛翔拳!》」

 

 追撃を仕掛ける志郎だが、優一も黙ってはいない。

迫り来る志郎に対し、の掌から気弾が放ち、コレを迎撃しようとする。

 

「!…《ルナクス・ディーフェ!》」

 

 対する志郎は鎌を回転させ、これを盾代わりにして気弾を弾き飛ばした。

だが防御に費やす僅かな時間を利用し、優一は体勢を立て直し、志郎と距離を取る。

一方で志郎も深追いはせずに先程手放した鎌を回収する。

 

「「…………」」

 

 距離を取り合った二人は一瞬だけ睨み合い、そして……。

 

「「ハアァァァ!!」」

 

 雄叫びにも似た叫び声と共に同時に動き出す。

 

「《デッドクロス!》」

 

「チッ!……ぬおぉぉぉーーーーーっ!!」

 

 今度は志郎が先に仕掛ける。

2本の鎌から繰り出されるは×を描く様な軌道の斬撃。

その斬撃を優一は怯む事無く突っ込み、両腕でそれを受け止める。

 

「肉を切らせて、骨を断つ!」

 

「何っ!?」

 

 ガードした両腕の痛みも気にせず、優一は周囲に多数の影分身を生成する。

そして直後にその内の2体が志郎の両腕に組み付き、動きを封じる。

 

「一気に決めてやる!」

 

 そしてそこから本体を含めた総勢8体の猛攻が開始された!

 

「うぐぉっ!」

 

 まず組み付いた2体が志郎をマットに叩きつけ、倒れ伏す志郎目掛けて他の2体が二ードロップで追撃。

 

「ガアァァッ!!」

 

 更に5体目と6体目が志郎を持ち上げ、7体目がそれを蹴り上げて志郎の身体を宙に浮かせる。

 

「《影分身・死刑執行!!》」

 

 そして仕上げは本体の優一がジャーマンスープレックスを決める!!

 

「グガァァァ!!!!…………く、そぉっ!」

 

 だが、志郎はまだKOされてはいない。

強引に優一の腕を振り解き、そのまま両手に持った鎌を振り回す!

 

「うおぉぉーーーーっ!!」

 

「チッ……無駄だ!」

 

 振り回される鎌に分身体が全て破壊され、優一にも僅かに斬撃は命中するがそれは大ダメージには程遠い。

その上分身は優一の気が尽きるまで無尽蔵に生成できるため、すぐに新たな分身体が生成される。

 

「まだだぁ!!」

 

 しかし、それでも志郎は鎌を振るい続け、優一を分身体諸共攻撃し続ける。

だが繰り返し現れる分身体と疲弊しているとはいえ志郎よりは十分に体力を残している優一では、どちらが有利か火を見るより明らか。

加えて優一の分身は傷跡まで本体とほぼ同じに作られているため、本体へのピンポイント攻撃も望み薄だ。

 

「ハァ、ハァ……っ」

 

「無駄だって、言ってんだろ!《八蹴超裂波弾!!》」

 

「グァァァァッ!!!!」

 

 遂には疲労困憊でふらついてしまった志郎。

そこを見逃さず、優一はトドメの一撃を見舞いに入る。

分身体を含めた8人分の蹴撃が一斉に志郎の身体に叩き込まれた!

 

「ガ……ッ…ぁ……」

 

 打ちのめされ、ズタボロとなった志郎はマットに力なく倒れ伏す、が……

 

「っ!」

 

 だが、志郎はまだ意識を保っていた。

ダメージに震える手でロープを掴み、強引に立ち上がったのだ。

 

「何ぃ!?」

 

「クク……やはりお前も疲弊しているようだな。何とか耐え切ってやったぞ。

そして……お前の影分身はたった今完全に見切った!この勝負、俺が貰った!!」

 

 不敵に笑い、志郎は勝利を宣言する。

 

「……フン!」

 

 それに対し優一は戦慄を覚えるが、それで尻込みするような真似はしない。

再び分身と共に身構える。

 

「そんなフラフラの状態ででかい口叩きやがって……見切れるモンなら、見切ってみろぉっ!!」

 

 渾身の力を込め、一斉に飛び掛かる優一と分身達。

志郎はそれを一瞬睨み、そして……

 

「ハアァァァーーーーーッ!!」

 

 雄叫びと共に狙いを定めた標的目掛け、一気に駆け出した!

 

「本体は、お前だぁっ!!」

 

「!?」

 

 繰り出される志郎の斬撃。

あらん限りの力を込めたその一撃が標的に叩き込まれた!

 

「何、だとぉっ!?」

 

 驚愕の声が耳に響く中、志郎は己の手に確かな手応えを感じる。

そして、それは自身の策が功を制した証だった。

 

「《ヴァンディエスト!!》」

 

 全身全霊最後の力を込めた志郎の必殺技。

8連撃の鎌による斬撃、その全てが優一を襲った!!

 

「がはぁぁぁぁっ!!!!」

 

 志郎のフルパワーとカウンター効果が併さった斬撃が優一の身体を直撃し、その身体を吹き飛ばす。

やがて先の瀬麗武と同様、優一はマットに倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何故……ピンポイントで?

目印になるような傷は全て分身にも模倣していたのに……」

 

「…………」

 

 立つこともままならない中、優一は自分を見下ろす志郎に問う。

志郎は静かに優一に近づいて胸元の傷……小さく乱雑なその傷を指差した。

 

「アラビア語で耳という意味だ」

 

「?」

 

「お前にとってはただの小さい乱雑な……つけた本人も忘れるような傷としか思えんだろうが、その傷はアラビア語の文字を元にしてつけたものだ。

この意味が解るか?」

 

「……そういう事か」

 

 志郎の言葉に優一は全てを察する。

マーキングを悟られないようにするためには相手の認知していないマークをつけてしまえばいい。

さすがに認知していない文字までは模倣する事は出来ないのいだから。

 

「成る程な、大した奴だ……」

 

「お前もな……。だが、今回は俺の勝ちだ」

 

 僅かに目を伏せ、志郎は倒れる優一に背を向ける。

 

だが…………

 

 

 

 

 

 

 

「そいつは、どうかな!?」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

 突如としてリング状の”ある物”が動きだし、異変が生じた。

 

「か、影が!?」

 

 動いたもの……それは志郎の影。

いや、正確には志郎の影に擬態した優一の影分身だ!!

 

「《擬態分身・影法師!》」

 

 姿を現した分身体は志郎の首をチョークスリーパーで締め上げる。

それはココに来て優一が見せた最後の足掻きだった。

 

「ぐ、ぁぁ……っ。は、離、せ……!」

 

「ハァ、ハァ……こ、今度こそ、無駄だぜ。もうお前には反撃する余力は残っちゃいない!

このまま絞め落としてやる!!」

 

「がぁぁ……だ、だったら…………お前が、力尽きるまで、耐えて………やる!」

 

 残った気を総動員して分身を操る力を強める優一。

それに対して志郎は必至にもがき、耐え続ける。

ココに来て勝負は持久戦にもつれ込んだ!

 

 

 

 

「頑張れ優一!そのまま絞め落とせ!!」

 

「志郎、負けるな!相手はもう力尽きる寸前だ!!」

 

 

 

 

 両陣営から激励が飛び交う。

最早戦いは意地と意地のぶつかり合い。先に心が折れた方が負けるという状況だ。

 

 

 

 

 そして数十秒後、時間にしてみればごく短いものの、当人たちにとって長い時が経った時、勝敗は決した。

 

「かはっ……」

 

 分身体が消滅する。

それと同時に優一の身体は糸が切れたマリオネットのように脱力し、今度こそマットに沈んだ。

 

「ぐ……ぁ…………」

 

 だが、それとほぼ同時に志郎の身体からも力が抜け、そのまま志郎は仰向けに倒れる。

慌てて審判が駆け寄り二人の様子を見る。そして…………

 

 

 

「両者ダブルKO!引き分け!!」

 

 

 

 審判の口から出た言葉と同時に試合終了のゴングが鳴り響く。

次鋒戦は壮絶な相討ちに終わったのだった。

 

 

 

次鋒戦

 

△十六夜志郎―山城優一△

 

両者KO

 


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