NO SIDE
「「ハァアアアッ!!」」
試合開始と同時に互いに突進し合い、ぶつかり合う瀬麗武と刻。
「セャァァ!!」
一瞬早く肉薄し、一歩前へ踏み込んだのは瀬麗武だ。
「クッ……流石に早いっすね。けど……!」
「ぬ?……これは!?」
一瞬でも反応が遅れれば鍔迫り合うまでもなく痛手を受けていたっであろう一撃に冷や汗を流しつつ、刻は両手足に力を込め、徐々に押し返す。
(コイツ、何てパワーだ。これは、鉄とほぼ同等のパワー!?)
押されつつある体勢の中、瀬麗武は戦慄を禁じえない。乙女と同等のパワーを持つ者など、そうそう居はしない。ましてやそれが同年代なら尚更である。
少なくとも瀬麗武が知る限り、該当するのは先のトーナメントに出場していた大倉弘之ぐらいである。
「戦って早々に、嫌な事を思い出させてくれる、なっ!」
苦い敗北と失恋の記憶に苦虫を噛み潰したように表情を顰め、足に稲妻を纏わせる。
「《迅雷脚!》」
「クッ!うぐぁぁっ!?」
そして放たれる一閃の蹴り。
咄嗟に棒でそれを防ぐ刻だが、電撃はガードを素通りし、刻の全身にダメージを与える。
「まだまだ行くぞ!」
「くっ!」
続けざまに模擬刀を横殴りに振るい、刻に斬りかかる瀬麗武。
だが刻とてやられたままではない。即座にバックステップで後方に下がって回避し、自らの獲物である棒を振るって迎え撃つ。
「甘い!」
だが、その攻撃を瀬麗武は逆に利用した。
まず斬撃を止めて跳躍。そして、その勢いで刻の棒を踏みつけ、踏み台代わりにしてより高く跳躍して見せたのだ。
「何っ!?」
「《弾空連脚!!》」
そこから繰り出される打点の高い連続蹴りが刻の顔面を打つ!
「グガァッ!!」
「このまま決めてやる!」
強烈な一撃に仰け反る刻を瀬麗武は見逃さない。
一気に止めを刺すべく刀を再び握り直し、得意の電撃を纏わせる。
「《死殺技・鳴雷!!》」
刀に纏わせた雷が一気に開放され、刻の身体に獣のように襲い掛かる。
先のタッグ戦で乙女苦しめた大技・鳴雷だ。
「グガァァァッ!!………クッ、グ…………!!」
「何ぃ!?」
稲妻による強烈な電撃に刻は叫び声を上げる……。
が、刻はそれで終わるような軟な男ではなかった。
一度は仰け反りながらも両脚でマットを踏みしめ、電撃を耐え抜いているのだ。
「この程度でやられてたら、準師範代なんて名乗れねぇっす!!」
未だに放出される電撃の中、それを浴びながらも駆け出し、瀬麗武の眼前まで迫る!
「くっ!」
「かかったっすね!」
慌てて後ろに退避する瀬麗武。だが、刻は獲物を罠に捕らえたかのようにニヤリと笑みを浮かべる。
この時、刻の狙いは瀬麗武ではなかったのだ。
「《メテオ・インパクト!!》」
振り下ろされた棒が、瀬麗武の手を……、
より正確に言えば瀬麗武が手に持った刀を打ち据えた!
「うぐっ!?
……し、しまったぁ!狙いは武器(こっち)か!?」
「その通りっす!そりゃあぁ!!」
『バキンッ!』という大きな音を立て、瀬麗武の持つ刀は根元から折れ、刀身と持ち手が切り離されてしまった。
そして、それに驚く瀬麗武の見せた隙を突き、回し蹴りが瀬麗武の身体を穿った!
「ぐおぉっ!!…………ま、まさか……模擬刀とはいえ、鉄製の刀が……」
「伊達に力自慢を気取ってる訳じゃねぇっすよ!
これでこっちが有利。それでもまだ続けるっすか?」
蹴飛ばされるも、体勢を整え直しながら、驚きの表情を見せる瀬麗武に対して、刻は勝ち誇った表情で語りかける。
そんな挑発に対し、瀬麗武は目を鋭く細め、先程折られた刀の取っ手を握り締めて構える。
「フン、甘く見るなよ。
…………ハアァァァァッッ!!」
気合と共に瀬麗武の気が高まり、それが刀に集まって光の刀を作り上げる。
「!?……これはまた、凄い技を」
「これぞ、《鉄装剣》……本来は刀の切れ味強化の技だが、媒介になる物さえあれば即席で剣を作る事も出来る。
これで一気に勝負をつけてやる!取って置きの新技でな!!」
「望む所。こっちも全身全霊で行くっすよ!!」
己の全身全霊を掛け、決着を着けるべく、2人は構え直したのだった。
レオSIDE
「……もうすぐ決まるな」
「……うん」
乙女さんの言葉に俺達は皆納得するように頷く。
橘さんは鉄装剣で刀を作ったけど、媒体である刀が根元から折れている状態じゃ使用する気の量は大きい筈だ。
そして対戦相手の月乃……ぱっと見では分かりづらいが、橘さんの必殺技を連続して受けていたので総合的なダメージ量は橘さんよりも大きく上回っている。
橘さんが月乃の動きに目を慣らせばダメージを与えるのは困難になる。
つまり、2人とも短期決戦で決めるしかないのだ。
「この勝負、先に隙を見せた方が圧倒的に不利だ……」
NO SIDE
武器を構えながら互いににらみ合い、瀬麗武と刻はじりじりと相手との間合いを詰めていく。それは時間にして数十秒程の短い時間だが、当人達と周囲で観戦しているものにはその数倍に感じる。
その間、沈黙がリングとその周りを支配する。
だが、やがてそれも終わりの時を迎える。
「「…………勝負!!」」
両者同時にマットを蹴り、それぞれの武器を振りかぶる。
「《雷神閃!!》」
「《メテオ・インパクト》」
同時に繰り出される二人の必殺の一撃。
鳴雷の時とは比較にならないほどの莫大な稲妻を纏わせた瀬麗武の刀による斬撃の一閃!
そして、刻はそれを先の刀をへし折った一撃……『メテオ・インパクト』で迎え撃つ!
「ハァアアアッ!!」
「喰らえぇぇーーーーっ!!」
フルパワーで放たれた一撃が轟音を立ててぶつかり合い、一瞬ではあるが鬩ぎ合う。
その一瞬が技同士のぶつかり合いの勝敗を決めた。
「っ!!…棒が!?」
技と技のぶつかり合い……軍配が上がったのは瀬麗武!
雷を纏ったその剣は、刻のパワーを上回り、彼の獲物である棒を中央から真っ二つに切り裂いたのだ。
「貰ったぁぁーーーーっ!!!」
「うぐぁぁっぁっ!!!!」
そしてそのまま勢いに乗せ、刻の身体に斬撃を見舞う!!
「入った!これで決まりだ!!」
「いや、まだ浅い!アイツ、攻撃が当たる直前に身体を逸らしてダメージを軽くしやがった!」
リングサイドで観戦しているスバルが瀬麗武の勝利を確信して声を上げるが、レオがそれを否定する。
勝負はまだ終わっていない……………。
「これで、最後だぁぁーーーーっ!!!!」
コーナーポストまで追い詰め、先程の攻撃でふらつく刻に、瀬麗武は跳び上がり、空中から二発目の雷神閃を繰り出す!
(く、クソ……このままじゃ、やられ……ん!?)
迫り来る一撃を前に、刻はあるものが自分の腕に触れたことに気づき、それを見て目を見開いた。
「これだ!!」
それは鉄柱……四方に設置されたコーナーポストを支える鉄柱だった。
まさに火事場の馬鹿力とでもいうべきか、咄嗟に見つけたそれに、刻は逆転の一手を見出した!!
「ダァアアア!!」
思い付くや否や、刻は凄まじい腕力で鉄柱を一気に引き抜いた!
そしてそれを盾代わりにして瀬麗武の斬撃を一瞬だけではあるが防いだ!!
「今だぁぁーーーっ!!」
「っ!!?」
その一瞬こそが勝敗の分かれ目だった。
技を防がれた事で瀬麗武生じた1秒にも満たない僅かな隙。
その隙を見切り、刻は切り裂かれて短棒となった武器を左手に握り、最後の一撃を繰り指した!!
「《ヴァイク・インパクトぉっ!!》」
「ぐぉぉっっ!!!!」
瀬麗武の胸部の中心へと打ち込まれる渾身の突き。
まさに乾坤一擲にして最後の一撃とも言うべきカウンターが見事に決まった!!
「ガッ…ハ……………さすが…神霆流……見事だ…………」
マットに叩きつけられ、息も絶え絶えになりながらも、賞賛の言葉を呟く瀬麗武。
やがて瀬麗武の身体から力は抜け、マットに大の字で倒れたまま気を失ったのだった。
「ハァ、ハァ……そっちこそ、見事っすよ。
リングという地形を利用できなければ、負けていたのは僕の方でした」
刻はロープに凭れ掛かりながら瀬麗武の言葉に答える。
その言葉に嘘偽りは無い。彼もまたそれ程に満身創痍だったのだ。
先鋒戦
○月乃刻―橘瀬麗武●
決まり手・ヴァイク・インパクト
※鉄柱の使用に関してですが、
ルール上『当人たちの合意さえあれば使用可能』であり、
加えて、瀬麗武自身が負けを認めているので問題ありません。
次回予告
先鋒戦を飾り、このまま勢いに乗るべく黒戦チームは、和人と並び師範代の称号を持つ副リーダー・十六夜志郎を次鋒として投入。
対する愛羅武勇伝チーム次鋒は、不知火流の若き分身使い・山城優一が出陣。
果たして、勝負の行方は?
志郎「お前の影分身はたった今完全に見切った!」