レオSIDE
第三試合までが終了し一回戦第四試合、いよいよ俺達の出番だ。
俺と乙女さんはリングに上がり、二つのコーナーポスト越しに対戦相手の二人と相対する。
「しかし上妻か……松笠以外にも闘技場があったとはな。レオ、お前はあの二人について何か知ってるのか?」
「いや、俺も噂程度にしか……他の闘技場の事は存在以外あまり知られていないんだ」
ちなみにこれにはれっきとした理由がある。
元々地下闘技場は非合法にも近い施設。
そこで体面を保つために形式上は『大企業要人のボディガード選抜のための施設』という名目で運営している。
そこで一番問題になるは闘技場同士による抗争だ。
松笠には霧夜カンパニー、上妻には霧島重工と闘技場にはかなり大きいスポンサーが就いている。
これでもし闘技場同士の抗争なんて事になったらそれは大企業同士の抗争にも発展する可能性がある。
それを防ぐために日本中の闘技場には不可侵条約が結ばれている。
極稀に偶然別の闘技場の選手同士が喧嘩などになったり、今回の俺達の様になった場合も企業は一切関与しない事でそれぞれの企業は勢力の均衡を保っているのだ。
『これより、一回戦第四試合を開始いたします!!』
そうこうしている内にいよいよ試合開始の時が間近に迫ってきた。
相手側の一番手は……予選で志村を一撃で倒した山城優一だ。
「よし、私が先に行く」
「乙女さん、油断しないようにね。たぶん相当強いよ、アイツは」
「ああ。任せろ!」
強気にそう言い放ち、乙女さんはロープを飛び越えてリング内に立った。
乙女SIDE
試合開始のゴングと共に私と山城はリング中央で構え、睨み合う。
「……骨法か。随分と珍しい技を使うな」
山城の構えに思わずそう漏らす。
骨法とは主に忍者が用いると言われる武術だ。
空手やボクシングなどのメジャーなものと比べ、一般人には余り名は広まっていない。
「珍しいからって嘗めてかかると怪我じゃ済まねぇぜ」
私の言葉に山城は挑発的な笑みを浮かべる。
油断する気など更々無い。油断と慢心は敗北の親、レオとの闘いから学んだ事だからな。
『それでは第四試合、D&IハリケーンズVS獅子蝶々……試合開始!!』
「行くぞ!《斬影拳!!》」
開始と同時に山城が仕掛けてきた。
(早い!!)
一瞬にして間合いを詰め、残像を伴なう程の素早い踏み込みからの肘打ちが私の胸板目掛けて迫り来る。
(だが、早いといってもレオ程ではない!!)
紙一重で左手で肘打ちを左手で防ぎ、開いている右手でカウンター気味にストレートを繰り出す。
「おっと」
だが相手の反応も素早く、身を屈めて私の拳を回避する。
「《昇竜弾!!》」
そのまま山城は両腕を曲線を描くように振り回しながらの打撃を繰り出す。
「グッ!」
体をそらして何とか回避するがわずかに体を掠めてしまう。
「《幻影不知火・飛影!!》」
「な!?……グアァッ!!」
一瞬で私の背後に!?その上蹴りを見舞ってきた!
クッ、コイツ……瞬発力が半端じゃない。
「クソッ……嘗めるなよ……」
吹っ飛ばされながらも体勢を立て直して気を整える。
「何する気か分からんが、速攻で倒す!《飛翔拳!!》」
私を逃がすまいと山城は気弾を撃ち出してくる。だが……
「《波動双光弾!!》」
山城の気弾に私も気弾で返す。
私の気弾は山城の気弾とぶつかり合い、そしてそれを突き抜けた!
波動双光弾は気弾を二重にして放つ波動光弾の発展技。一発の威力が同じなら間違いなく私の気弾が打ち勝つ!!
「ウグッ!!」
「さっきのお返しだ!!《疾風突き!!》」
気弾を喰らって仰け反る山城のボディに追い討ちの正拳突きを叩き込む!!
「ゲホッ!!」
「(よし行ける!!)《零気光撃弾(れいきこうげきだん)!!》」
鳩尾への一撃に怯む山城へ零距離からの気弾を撃ち込む!!
しかし……。
「ッ!?」
突如として私の体は背後から何者かに捕まれて持ち上げられ、私が放とうとした気弾は見当違いの方向へ飛んで行った。
馬鹿な!?山城(コイツ)のパートナーである小野寺は場外から動いていないし遠距離からの気弾を放ったようなそぶりも無かった。第一そんな真似をしてもレオがカットに入る筈だ!
「!?……グァッ!!」
ジャーマンスープレックスでマットに叩きつけられる直前私は見た。
「か……影分身、だと」
私の体を掴んでいるのは他ならぬ山城優一本人だった。
NO SIDE
「チィッ……まさか一回戦から影分身(コイツ)を使う事になるとはな」
攻撃を喰らった鳩尾を抑えつつ優一は体勢を立て直す。
影分身……それは自身の気を練り合わせることにより実体を持った分身を生み出す技である。
先程の反撃方法はいたってシンプル。乙女が追撃を加えようとした時咄嗟に乙女の背後に影分身を生み出し、そのままジャーマンスープレックスで投げ飛ばしたのだ。
「こんな技を持っているとは……厄介な奴だな、貴様は!!」
影分身による拘束を振り解き、乙女はそのまま分身体を蹴り飛ばす。
ダメージを受けた分身体はあっけなく崩れ去り消滅してしまう。
「所詮は気で作った人形か、力はある程度真似る事が出来ても強度はそれほどでもない」
「まぁな、だが汎用性は高いぜ」
乙女と向かい合いながら優一は静かに笑みを浮かべながら再び影分身を生み出す。
その数は本体の優一を加えて8人。その8人の山城優一が乙女を取り囲む。
「ココからは本気だ!再起不能になっても恨むなよ!!」
「面白い、かかって来い!!」
再び戦闘体勢に入り、優一は分身体と共に乙女を取り囲み、襲い掛かる。
「行くぜぇ!!《空破弾(くうはだん)!!》」
まずは一人目の優一が仕掛ける。気を纏ってのドロップキックを繰り出す。
「チッ!」
しかしこれは回避。しかし二人目が背後で待ち構える。
「やられる前に!」
優一が仕掛けるよりも先に乙女は素早く相手の体を掴んでマット目掛けて投げつける。
しかし他の分身体二人がマットに激突する前に優一の体をキャッチして激突を防ぐ。
(チッ…流石にそう簡単に消えてはくれないか。……だが、影分身を七体も動かすとなればそれ相応の集中力が必要の筈。ならば一人一人の攻撃を確実に捌いていけば必ずチャンスは来る!!)
続けて残り三人の内の一人が乙女に飛び掛り、拳を繰り出す。
(速い!本体か!?だが……!!)
速すぎるとも思える本体からの直接攻撃のタイミングに一瞬面食らいながらも乙女は繰り出された拳を受け止め、そのまま優一を引き寄せ、肩固めに捕らえ、一気に頚動脈を締め上げる。
「ウグア…!」
乙女は持ち前の怪力で締め上げを強め、優一の顔からは血の気が失せ始め、苦悶の表情を浮かべる。
「完全に捕らえたぞ!この体勢なら分身体や小野寺に邪魔されてもお前を盾に出来る!!」
「そ、それは……どうかな?」
苦悶の表情の中に優一は笑みを浮かべだす。
そして次の瞬間、突然優一の両肩から何かの異物が”生えてきた”。
「な!?」
流石の乙女も目をギョッと見開いて驚愕する。
優一の肩先から生えてきたもの、それは紛れも無い”人間の腕”だ!!
「俺の影分身はただ人数を増やすだけじゃない!こうやって器用に体の一部だけを分身させる事も出来るんだぜ!!」
叫びと共に優一は影分身で生成した二本の腕で乙女の顔面を殴り飛ばし、肩固めから脱出する。
「ガッ……!!」
「貰ったぜ!!《八蹴空破弾(はっしゅうくうはだん)!!!》」
思わぬダメージに怯む乙女を取り囲み、優一は分身体を含め8人一斉に乙女目掛けて空破弾を放った!!
「クソッ…まだだ!」
しかし乙女の闘気は未だ消えない。自分に襲い掛かる攻撃を見据え、全身に力を蓄える。
「《爆発波!!》」
「!?…うわぁああ!!」
優一の八方からの蹴りが命中しようとしたその刹那、乙女の全身から文字通りまるで爆発するかの様に気が放出され、優一は吹き飛ばされ、分身体は全て消え去った。
「喰らえぇぇーーーー!!!!」
吹っ飛んだ優一の顔面に乙女は追撃のローリングソバット(空中後回し蹴り)を叩き込んだ!!
「ふぐぉおお!!!」
鼻っ柱にクリーンヒットし、優一は思わず仰け反る。
しかしそれでもまだダウンはしない。倒れそうになる体を足で支え、鼻血を拭いながら乙女を睨み付ける。
「チッ……今のでダウンしないか……これ程出来る奴とは」
「ケッ……こっちの台詞だ」
まさに一進一退……互いに一歩も譲らぬその戦い。
しかしこれはこの戦いの前半でしかない。
乙女SIDE
「乙女さん!」
レオが私の方に向かって手を伸ばす。選手交代(タッチ)を求める合図だ。
長くなりそうだし、ココは一旦退くべきか……
「ああ、分かった。頼んだぞ、レオ!」
私はこれに同意し、獅子蝶々側の戦闘権はレオに移る。
「優一、俺達も交代だ!」
「ああ」
そして山城も小野寺と交代し、戦いはレオと小野寺の一騎打ちへと変化していく。
NO SIDE
『若獅子』対馬レオと『鳥人』小野寺拓己……互いに獣の異名を冠する両者、果たして軍配が上がるのは?