レオSIDE
『これより、一回戦第二試合を開始いたします!!』
第一試合を錬と大倉先輩のザ・リバーシブルが快勝し、20分ほどの休憩を挟んで第二試合の時が来た。
既にリング上では大和と姫のエスズキングダム、空也とゆうじのサラマンダーボーイズが準備を完了していてた。
「レオ、お前はどっちが勝つと思う?」
俺達の中では空也たちと付き合いが最も短い乙女さんが訊ねてきた。
「戦闘力で言えばサラマンダーボーイズに分がある。大和もかなり強いけど身体能力がまだ発展途上だから純粋な戦闘力は空也には劣るし、姫は他の3人とかなり差を空けられている。……だけど大和と姫にはそれを補う智略と戦術がある」
「となると、その戦術がどこまで柊達に通用するかが鍵だな。しかし……何か引っかかる」
エスズキングダムの方を見ながら乙女さんは訝しげに呟く。
「引っかかるって何が?」
「大した事ではないと思うが、姫の服装だ」
「服装?確かにそれは俺も思ったけど」
姫が着ている服は私服やブルマ姿(乙女さんや館長に手ほどきを受けるときは大概この服装)ではなく、なぜか錬と同じ胸元に『猿』と書かれた中国風の拳法着だ。
「まぁ、姫って美的センスがおかしい所があるし……姫らしいといえば姫らしいと言えるけど」
「ああ、だがどうにも違和感がな……姫のようなプライドの高い人間がタッグパートナーとはいえ簡単にお揃いの服を着るのか?」
言われてみれば……う〜ん、解らん。
NO SIDE
第一試合の興奮も冷めきらない中、いよいよ第二試合のゴングが間近となった。
「大和が相手とは……師匠の親父の代からの因縁がココまで続くとなると運命すら感じるな」
感慨深く空也はそう呟いた。
空也の師であり兄弟子でもある男、リョウ・サカザキと大和の師、リー・パイロン。そしてリョウの父にして空也のもう一人の師、タクマ・サカザキとリーの養父リー・ガクスウ。
彼等はその昔、サウスタウンにおいて父子二代に渡り拳を交えた間柄であり、今まさにその弟子達がぶつかり合おうとしている。
まさに因縁と言う他無いだろう。
『それでは第2試合、エスズキングダムVSサラマンダーボーイズ……試合開始!!』
そしていよいよ戦いの火蓋は気って落とされた。
空也SIDE
「まずは俺が行く。ゆうじ、敵の実力をしっかり見とけよ」
「はい、気をつけて」
まずは俺が先陣を切ってリングに上がる。
相手側の一番手は霧夜エリカ……要芽姉様(上から2番目の姉で弁護士)の仕事を手伝った時に会った事があるけど、彼女の実力はスバルの奴と大差無かったはず……それに気付かない阿呆とも思えないが……とりあえず様子を見てみるか。
「シッ!」
開始早々に霧夜が先制攻撃の蹴りを放ってきた。
(……速い!?)
回避しながら驚愕する。以前体育武道祭で見た時より遥かにスピードも鋭さも上がってる!
(だが、俺には及ばない!!)
「ぐっ!」
カウンター気味にパンチを繰り出し霧夜を弾き飛ばす。
「ッ!!」
しかしココで大和が乱入して霧夜の援護に入ろうとする。
「させるか!!」
しかしこっちもゆうじが乱入して大和を止めに入る。
「(ニヤリ)……!!」
「うわっ!?」
しかし突然大和は体の向きを変えて俺ではなくゆうじに飛び掛り、二人はそのままリングの外で揉み合いになる。
「ゆうじ!」
「大丈夫です。そっちをお願いします!!」
「分かった!!」
ゆうじの無事を確認し、俺は再び霧夜の方へ向き直った。
ゆうじSIDE
リング上での闘いを空也さんに任せて僕は場外で大和さんと対峙する。
歳は僕と殆ど変わらないけど空也さんが一目置くほどのファイターだ、油断は出来ない。
「行くぞ!」
まずは様子見だ。駆け寄って袈裟斬りのように棍で殴る。
「チッ!!」
紙一重で避けられる。だけどまだまだ……。
「《旋風棍!!》」
「グッ!?」
棍を回転させながら再び突撃。大和さんは鉄爪で防ぎながら後ろへ飛び退く。
「ッ!!」
バックステップの直後、即座に体勢を立て直し大和さんは飛びかかり、僕の懐へ入ろうとする。
「甘い!!」
すぐさま棍を手放して地面に落とし、相手の鳩尾に膝蹴りを叩き込む。
「カハッ……!」
「棒術だけが僕の取り柄じゃないんだ!《暫烈拳!!》」
怯んだ相手に拳の連打を叩き込む。
イケる!空也さんが一目置く程の策士でも策を出す前に畳み掛ければ勝てない相手じゃない!!
「これでラス……」
『むにゅ』
「へ?」
あ、あれ……何だ?この感触……男にしては妙に胸が…………。
ま、まさか…………!?
空也SIDE
霧夜との闘いは当初こそ霧夜が一気呵成に攻めてきたがやがて身体能力の差が表れ始め、今では霧夜は防戦一方になりつつあった。
「悪いが一気に決めるぞ!《飛燕疾風脚!!》」
ダメージを受けた相手が怯んだ隙を見逃さず一気に跳び蹴りで畳み掛ける。これで決まりだ!!
「空也さんダメだ!!そいつは……」
「え?」
「もう遅ぇよ。《空転爪!!》」
ゆうじが何かを叫んだと同時に霧夜がそう呟いた。
いや、この声は霧夜じゃない。この声質は大和だ!
「しまっ……ぐぁぁぁぁ!!!」
気付いた時にはもう遅く、大和は隠し持っていた鉄爪を装備したその腕で俺の胸板を切り裂いた。
「ケ〜〜〜〜ケッケッケッ!!引っかかりやがったな、最初から俺達は入れ替わってたんだよ馬〜〜鹿!!」
師匠譲りの悪役笑いと共に大和は顔に付けていたマスクとカツラを引っ剥がし、服の中に入れたパッドを取り外した。
「空也さん!……クソ!!」
慌てて俺を助けようとリングに向かってくるゆうじ。しかしそうはさせまいと大和も動く。
「ハァァァァ!!」
大和の気合の声と共にリングを気の壁が覆い、ゆうじの行く手を阻んだ。
「《我流・気闘障壁》……これでリングは完全に遮断された。あとは空也先輩、戦闘権を持つアンタを倒せば俺達の勝ちだ」
畜生……最初からこれが狙いでゆうじを場外で戦わせたのか。
完全にやられたわけじゃないがさっき胸に喰らった一撃はかなりのダメージ……やばいなこりゃあ……。
こうなったら……覇王翔吼拳を使わざるを得ないかもな。
レオSIDE
「なるほど……違和感の正体はこれだったのか」
完全に決まった大和の策を目にして乙女さんは一言漏らす。
まず姫に変装した大和がリング上で空也と戦う。格下が相手だと思わせて油断させ、気闘障壁に必要な分のエネルギー戦いながら溜め込む。
次に大和に変装した姫がゆうじを場外に誘い出し、リングから遠ざける。
つまり最初から姫の役目は足止め。全ては空也に手傷を負わせ、孤立させるための布石。
「あの障壁を破るには術者のエネルギー切れを待つか、それ相応の威力を持った気の技でなければ無理だ。だが大技というものは威力が大きければその分隙も大きい。完全に試合のペースは直江が掴んでいるな」
「うん、空也はかなりのダメージを受けてるから時間切れは期待できない。となると大技で突破するしかない。空也はかなり不利だ……だけど」
それでもアイツはそう簡単に負けるようなタマじゃない。
なぜならアイツは柊空也、天をも越える昇龍だから。
NO SIDE
「この技そんなに長続きしないんだ、即効で決めさせてもらいますよ空也先輩」
不適に笑いながら大和は両手に付けた鉄爪を構えて跳び上がる。
「切り刻んでやるよ!《華中飛猿爪(かちゅうひえんそう)!!》」
凄まじい勢いで回転しながら空也めがけて突っ込んでくる。
「ぐああぁぁぁぁ!!!」
目にも留まらぬその速度のその攻撃は傷付いた身体の空也に避ける事は不可能。瞬く間に空也の身体に無数の切り傷が刻まれる。
「一撃だけだと思うなよ……《気爪跳弾陣(きそうちょうだんじん)!!》」
だがこれで終わるような大和ではない。回転したまま自らが生み出した気の壁に跳ね返り縦横無尽にリング内を飛び跳ね、再び空也の身体に斬撃を叩き込む。
「ぐがあああぁぁぁぁ!!!!」
「空也さん!クソ!!」
空也が傷つけられる一方でゆうじは懸命に障壁を破壊しようと棍で障壁を殴りつけるがまるで効果が無い。
「ゆうじ……お前はそこにいろ。霧夜が余計な邪魔しないようにな」
「で、でも……」
「…………」
「……分かりました」
なおも心配するゆうじを空也は真剣な眼差しで見詰める。その表情を見てゆうじは空也が何を言わんとしているかを理解し、頷く。
「ごちゃごちゃ喋ってる暇は無いぞ!!」
しかしそんなことはお構い無しに大和の斬撃が空也を襲う。
「グゥッ……いい気になってられるのも今の内だぜ……」
幾度と無く襲い掛かる斬撃に耐えながら空也は構え、気を蓄える。
「覇王翔吼拳か……確かにそれなら障壁は破壊出来るな。だがその技は威力がでかい分隙も大きい。俺に当てることが出来なきゃどっち道アンタの負けだ」
「だろうな。だけど逆に言えば当てさえすりゃ俺の勝ちって事だろ」
不利な状況の中でも空也は笑みを浮かべて大和を見据える。
「一撃に賭けるってワケか。なら俺も次で決めてやるよ。行くぜ!」
掛け声と共に再び回転しながらリング内を飛び回る大和。
そのスピードは先ほどの比ではない。予告通り次で止めを刺す算段だ。
「……………」
空也は直立不動のまま動かない。ただ静かに構えながら機を待つ。
「とどめだ!喰らえぇぇーーーー!!!!」
そして遂に大和が動いた。空也めがけて一直線に襲い掛かる!!
「(今だ!!)《覇王翔吼拳!!!!》」
大和が攻撃を仕掛けるその一瞬、空也の両手から巨大な気の塊が放たれた!!
「かかったな!!」
しかし、自らに迫りくる気の砲弾のを前にして大和は笑った。
空也がそれに気付いた時、気弾は大和のからだをすり抜けてしまった。
「残像拳!?」
「大正解。これで終わりだ!!」
空也の背後から勝利を確信した大和の声が聞こえる。
大和は笑みを浮かべたまま空也に飛び掛る。
「ああ、終わりだな……ただしお前がな!!」
「!?」
しかし勝利を確信していたのは空也も同じだった。
不自然な空也の態度に大和は覇王翔吼拳の飛んだ先を見て、そして愕然とした。
障壁が破壊され、尚も飛び続ける気弾の先にはゆうじが棍を構えて立っていたのだ。
「《リフレクトシュート!!》」
そのままゆうじは気の砲弾を棍で大和めがけて打ち返した。
「しまっ……がああぁぁぁぁっ!!!!」
大和がそれに気付いた時には既に遅く、ゆうじによって打ち返された気弾は大和に直撃し、大和は上空へ吹き飛ばされた。
確かに鹿島ゆうじは空也達と比べて基礎能力は劣っている。だがそんな彼にも一つだけ誰にも負けないと自負できるものがあった。
それは防御。敵の攻撃を防ぎ、飛び道具を跳ね返すなどの防御という面においては空也たちをも上回るテクニックを秘めていた。
「ゆうじの技をもう少し調べとくべきだったな……コイツでラストだ」
落下してくる大和を前に空也はありったけの気を拳に集中させて構える。
「極限流一撃必殺奥義……《真・天地覇煌拳(しん・てんちはおうけん)!!》」
「グォァァァッ!!!」
驚異的な威力を込められた正拳突きが大和の体に鉄杭のように打ち込まれる。
その破壊力はまさに一撃必殺と呼ぶに相応しい。
「カ……ハッ……」
極限流の奥義を続けざまに喰らっては流石の大和も立ち続けることは出来ず、そのままダウンした。
「カ、カウントをとります……1……2」
凄まじい戦いに呆然とするレフェリーだったが、大和のダウンと同時にカウントを数え始める。そして……
「9……10!!勝者・柊空也!!!!」
遂にカウント10を迎え、試合終了のゴングが鳴り響いた。
●エスズキングダム―サラマンダーボーイズ○
決まり手、真・天地覇煌拳