つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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俺の想い、私の想い

レオSIDE

 

 屋上で一瞬だが乙女さんの姿を見た俺は近衛と別れ、乙女さんの後を追って竜宮まで来ていた。

 

「乙女さん……」

 

 気を探って物置部屋の前に立つ。

 

「!……レオ!?な、何でココに?」

 

 俺が現れたことに驚く乙女さん。明らかに動揺している。

 

「乙女さんが屋上の入り口に居るのを見つけて……」

 

「そうか……」

 

「何で、あんな逃げる様に……」

 

 言いながら俺はドアを開けようとするが……。

 

「開けるな!!」

 

 突然乙女さんは大声を上げ、俺は思わずその手を止める。

 

「盗み見したのは謝る。だが、今は一人で居たいんだ……戻ってくれ」

 

「けど……」

 

「頼む……(こんな表情(かお)、レオにだけは見せたくない)」

 

 乙女さんの声は……泣いていた。

その悲痛な声に俺は何も言えず、その場を離れるしかなかった。

 

 

「…………クソッ!!」

 

 竜宮を離れて俺は悪態をつく。

ムカついていた……自分の情けなさに。

……乙女さんが、大事な従姉が泣いているのに俺は何も出来ないのか……。

 

”大事な従姉?それだけか?”

 

 突如として俺の中の何かがそんな事を言い出した。

 

(それだけって……どういう意味だよ)

 

”本当は抱きしめたかったんじゃねぇのか?近衛の時みたいに”

 

(それは……)

 

 俺は乙女さんの事を、どう思っているんだ?

 

 

 

NO SIDE

 

「あ、あの…対馬先輩!」

 

 レオが物思いに耽っている時、突然背後から声をかけられる。

 

「え?あ……君は?」

 

 思考の渦から引き擦り出され、レオは声がした方へ目を向ける。

声の主はやや小柄だが目は大きく、可愛らしい顔つきで髪型はボブカットの少女だ。

 

「1年の平井唯菜です」

 

 名前を聞いてレオは思い出す。

平井唯菜……彼女は1年生の中でもトップクラスの美少女として名を馳せている少女だ。

その手の話には疎いレオだったが、以前フカヒレが告白しようとして失敗したことがあるのでわずかに覚えていた。

 

「何か用?」

 

「あの……放課後、空いてますか?」

 

 頬を赤く染めながら彼女はレオに聞いた。

 

 

 

乙女SIDE

 

 放課後になって、私は速めに校門の見張りを切り上げて部活動に専念していた。

校門に居ればレオと顔をあわせてしまう可能性が高いからだ……。

情けない……レオと顔をあわせるのが、レオに自分の思いを知られる事が怖くて私は逃げているだけだ。

 

(とんだ根性無しだな、私も……)

 

 心の中でそう自嘲しながら何もかも忘れようとして身体を動かす。ちなみに今は拳法部の全員との組手だ。

 

「次の者、来い!!」

 

「く、鉄先輩……もう全員倒れています」

 

「あ……そ、そうか」

 

 いつの間にか全員倒してしまったようだ。

 

「今日はずいぶん張り切ってますね……やっぱり、対馬にリベンジするんですか?」

 

 『ズキリ』……と、レオの名前を聞いて私は心が痛むのを感じた。

 

「あ、ああ…一応、武闘家としては負けっぱなしというのは気に入らないしな……だが、今はそんなこと関係ないだろう」

 

「す、すいません」

 

 半ば強引に会話を打ち切って私は一人その場を離れ、鍛錬用の竹刀で素振りを始める。

だけど……レオの事が頭から離れることはなかった。

 

 

 やがて部活も終わり、帰路に着く。

 

「…………レオ」

 

 もうすぐ家に着く。だけど家に近付けば近付くほど、私の足は遅くなっていく。

レオに会いたいと思っている、だけど会うのが怖い……もし私の思いがレオに知られて拒絶されてしまったら……そう思うと怖くて、自然と私は家から離れていく。

 

「私らしく……ないな」

 

 普段の私なら突撃あるのみ、なんて考える(かもしれない)が……今の私は近衛の一件ですっかり臆病になってしまっている。

 

「どうすればいいんだ?」

 

 公園のベンチに座りながらつい独り言を漏らす。答えてくれる相手なんていないのに……。

 

「乙女さん」

 

「!?」

 

 突然声をかけて驚いてしまった。

そこにいたのは今最も会いたくて最も会いたくない人物だった……。

 

「レオ……」

 

「乙女さん」

 

 近付いてくるレオに私は思わず後退ってしまう。

 

「な、何の用だ?」

 

 ダメだ、来ないでくれ!今お前と顔を合わせたら自分が抑えきれなくなってしまう。

 

「話があるんだ」

 

「私に話すことなんか無い!帰ってくれ!!」

 

 レオに自分の気持ちが知られてしまうことが怖くて、私はその場を離れようとする。

 

「っ!?」

 

 しかしそれはレオに強引に腕を掴まれて遮られてしまった。

 

「大事な話なんだ」

 

 真剣な面持ちで私を見るレオに私は抵抗できなくなってしまう。

 

「俺、告白されたんだ」

 

「!!」

 

 頭の中が真っ暗になった。それと同時に絶望が心を支配し、目から涙が溢れそうになる。

 

(だ、ダメだ!泣くな!!たとえ失恋したってレオは大事な弟分なんだ、従姉として祝福しなければ……)

 

 必死に涙が流れるのを堪え、無理矢理笑顔を作る。

 

「そ、そうか……良かったな。相手は誰なんだ?」

 

 私が感情を抑えてつむいだ言葉にレオは静かに首を横に振った。

 

「断ってきたんだ。俺、他に好きな人がいるから」

 

 

 

レオSIDE

 

〜数時間前〜

 

 午後の授業が終わり、俺は平井さんとの約束通り待ち合わせ場所である屋上に来ていた。

 

「話って何?」

 

 正直今の気分じゃあんまり気が乗らないのだが約束を無碍にする訳にもいかないしなぁ……。

 

「あ、あの……」

 

 平井さんは何故か頬を赤らめながら俺を見てくる。

 

「わ、私……以前から対馬先輩の事格好良いと思ってて……」

 

 え?

 

「それでずっと前から対馬先輩に憧れてて……この前の体育武道祭でその気持ちがますます強くなって……」

 

 お、おい……これってまさか……。

 

「私、対馬先輩が好きなんです!!付き合ってください!!」

 

 思わぬ告白に絶句してしまった。生まれて初めて女の子から告白されてしまった……。

 

「俺の事、そんな風に思ってくれるのは嬉しいよ。だけど……」

 

 こんな可愛い娘に告白されるなんて、普通なら凄く嬉しく感じるはずだけど……。

 

”何で………………………………じゃないんだ”

 

「でもゴメン……俺、平井さんの想いには応えられない」

 

 俺のその答えに平井さんの表情が失意に染まっていく。

 

「どうして……ですか?」

 

 涙を堪えながら平井さんは俺に理由を聞いてくる。

 

「それは……」

 

 俺は静かにその理由を話す。彼女が勇気を出した告白を断ってしまったんだ。

そんな俺がココで逃げるような資格はない。

 

「……そうですか」

 

「……ごめん」

 

「謝らないでください。私嬉しいです、先輩が本音で喋ってくれて……」

 

 罪悪感がこみ上げてくる。俺は……

 

「早く行ってください」

 

「え?」

 

「泣き顔、見られたくないんです」

 

「ゴメン……ありがとう」

 

 俺は静かに平井さんに謝罪し、そして深く感謝し、屋上を後にした。

 

 

 そして今、俺は公園にいた乙女さんを見つけて、彼女の目の前にいる。

俺は最低かもしれない……平井さんが一生懸命勇気を出した告白なのにそれを嬉しいと感じなかった。

平井さんから告白された時、こう思ったんだ。

 

『何で目の前にいるのが乙女さんじゃないんだ』と……

 

 それで気付いた。

 

俺が……俺が本当に好きなのは……彼女にしたいのは……。

 

「俺が好きなのは…………乙女さん、なんだ」

 

 顔が熱くなって、頭の中が何も考えられなくなる。

ただ感情のままに本音をぶつける事しか出来ない。

 

「いつ好きになったとか、何がきっかけとか全然分からない。だけど……俺は乙女さんの事が好きなんだ!だ、だから、その……彼女にしたい、俺と付き合ってほしいんだ!!」

 

「れ、お……」

 

 俺の告白に乙女さんの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 

 

 

乙女SIDE

 

 もう、止まらなかった。

レオからの告白に私は今まで溜めていた涙を流し、レオの胸に飛び込んでいた。

 

「乙女、さん?」

 

「レオ……私も、お前の事が、大好きだ!!」

 

 抱き疲れて困惑するレオに私は溢れんばかりの想いを口にした。

そんな私をレオは抱き締め返し、優しく頭を撫でてくれた。

 

凄く幸せな気分だ……。

 

「レオ……」

 

「乙女さん……」

 

 それからしばらくの間抱き合った後、私達の顔の距離は自然と縮まり、そして……

静かに、音も無く私達の唇は重なり合った。

 

 

 

レオSIDE

 

 それは一瞬なのか永遠なのかも解らない不思議な感覚だった。

ただ一つ解ることは、それは凄く幸せな感覚だったと言う事。

乙女さんとの口付けは、ただそれだけで満たされるような甘美な行為だった……。

 

「帰ろうか……」

 

「ああ……」

 静かに手をつないで家に帰る。

無言の帰宅……だけど言葉なんて必要無いほどに俺達の心は今繋がっていた。

 

「キス……してしまったな」

 

「うん……」

 

「これで晴れて恋人同士だな」

 

「そうだね」

 

 部屋に戻って軽く言葉を交わし、乙女さんは俺に肩を寄せてくる。

 

「レオ、私は今、凄く幸せな気持ちだ」

 

「俺もだよ」

 

 それからまた抱き合って、見詰め合って、またキスして……。

そうしている内にまた胸が高鳴っていく。

 

「乙女さん……」

 

 俺が少し強く乙女さんを引き寄せると乙女さんは一瞬緊張したように体を強張らせるも抵抗する事は無かった。

 

「レオ?」

 

「俺……乙女さんが欲しい……」

 

「私も……本当は結婚するまで取っておこうと思ったが、我慢できない……」

 

 顔を真っ赤にしながらも乙女さんは俺を受け入れてくれた。

俺は静かに乙女さんの着ている制服のボタンにその手をかけた……。

 

 

 

………………………………………………………

………………………………………………………

………………………………………………………

 

 

 

乙女SIDE

 

 レオとの行為は私にとってもレオにとっても今までに経験したことの無いほどの快感だった。

さすがに膜が破れたときはかなり痛かったがそれを差し引いても最高の快感だ。

 

「シーツ、染みになってしまったな……」

 

 レオの腕を枕に私はそうつぶやいた。

 

「構わないよ。っていうか良い記念に……痛テッ」

 

「変な事言うな、恥ずかしい。ちゃんと洗っておけよ」

 

 レオの冗談を腕を抓って叱る。

 

「まったく…………レオ」

 

「ん?」

 

 レオの体に自分の体を密着させ、ありったけの思いを込めて抱き締める。

 

「もう離さないからな、レオ」

 

「俺もだよ、乙女さん」

 

 レオの逞しい体に包まれながら私は途方も無い幸せを感じた。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

フカヒレSIDE

 

 あ〜〜暇だなぁ〜〜。

カニの部屋に来てゲームで対戦したまでは良いんだがもう飽きちまったし……。

 

「つーか何で僕の部屋?レオの部屋に行けばいいじゃん」

 

「いや、何か嫌な予感がするんだ。今レオの部屋に行ったら見てはいけない光景(もの)を見て悲しみの余り町中を走り回ってしまうような気がしてな」

 

 イヤ、マジで……。

 

「は?何だよそれ?」

 

「随分ピンポイントな予感だなぁ……けど悪い予感ほど当たるって言うし、今日はカニの部屋で良いんじゃねぇか」

 

 おお!流石スバル!話が分かるぜ!!

 

「フカヒレの予感なんてアテになんねーよ!どーせレオだって暇してるだろうし行っちゃおーぜ!!」

 

 そう言ってカニは窓からレオの部屋へ飛び込もうとする。

 

「お、おい!ちょ待てよ!」

 

「フカヒレがキ○○クの真似してもなぁ……」

 

 うっせーよ!!

 

「おーい、レオーー!!どーせ暇なんだろーー一緒に騒ごう…………ぜ………」

 

「おいおい、どうしたんだカ…………ニ」

 

「………こりゃまた、何とまぁ……」

 

 俺達の目に映ったのは乙女さんとキスしているレオの姿……しかも、裸で……。

 

「「う、うぉぉぉぉおおおあああああああぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」」

 

 ショックの余り、俺とカニはその場から逃げるように走った。

 

 

 

NO SIDE

 

 走り去ったフカヒレとカニは町中を絶叫して走り回った。

カニはショックの余りバイト先のカレー専門店『オアシス』に飛び込んで店長をぶん殴って激辛カレーを平らげ、そしてフカヒレは一人海に向かって叫んでいた。

 

「何故だ!何故なんだ!!何故じゃあーーーーー!!!!何でレオと乙女さんがああなってるんだよ!?何でレオがいつの間にか彼女持ちになってんだよ!?何で俺だけ童貞のままなんだよぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 フカヒレの魂の叫びは拡声器よりも響いたらしい。

 

後にこれは松笠市の都市伝説『絶叫童貞男』として未来永劫語り継がれていくこととなる。


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