つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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決戦!ドラゴンファイターズ!! その3

NO SIDE

 

 レオと乙女、互いの持つ最高の技と技がぶつかり合って起こった閃光、そして舞い上がる砂埃……観客達は二人の様子を知ろうと目を凝らす。

 

「い、一体これはどういう事だぁーー!?二人はどうなってしまったのだぁーーーー!?」

 

 唖然とする会場でいち早く我に還り実況を続けるカニ。それを皮切りに観客達はざわめき始める。

やがて砂埃が晴れ、視界が良くなったと同時に二人はその姿を見せた。

 

「だ、ダウン!!二人ともダウンしています!!あのすさまじい奥義を以ってしても決着は着かないというのかぁーーーーー!!?」

 

 レオと乙女は、両者共倒れていた。

互いの最高の一撃はお互い相手に甚大なダメージを与え、吹き飛ばしていたのだ。

 

「か、カンチョー!この場合、どうすんの?」

 

 カニの言葉に試合の最高責任者である平蔵に観客達の視線が移る。

しかし……その時だった。

 

「へっ……おいおい、お前ら……」

 

「勝手に終わらせるな……まだ……」

 

「「決着はまだ、着いてない!!!!」」

 

 言葉と共に傷だらけの体を無理矢理起こし、レオと乙女は立ち上がった。

 

「た、立ったぁぁぁーーーー!!立ち上がったぁぁぁぁーーーー!!!!二人はまだ闘うつもりだぁぁぁぁぁーーーー!!!!!」

 

 傷だらけの体に鞭打ち、二人は静かに歩み寄った。

 

 

 

素奈緒SIDE

 

「ま、まだ闘うつもりなの?」

 

 全身傷だらけになっても闘おうとする対馬と鉄先輩を見て私は無意識の内に声を出した。

 

「もう良いでしょ!?これ以上やったら二人とも危険よ!!ねぇ対馬!あんたが強いのは分かったから!!鉄先輩も!これ以上やったら二人とも死んじゃう!!」

 

 しかし私の声も空しく二人は歩み寄り、再び構えた。

 

「二人ともやめて!!どうしてそこまでして闘わなきゃいけないの!?」

 

 

 

レオSIDE

 

 乙女さんを目の前にしていつの間にか俺は笑みを浮かべていた。

不思議だ、こんなにボロボロで肋骨の2、3本は確実にイッてるってのに、戦意は下がる所かどんどん上がっていき、気持ちは昂ぶっている。「もうやめて」なんて無粋な声が聞こえてきたがそんなもん無視だ。

 

「この勝負に引き分けなど無い。そうだろう、レオ?」

 

 気がつけば乙女さんも笑っていた。その目は俺と同じように戦意に溢れている。

 

「当然、どっちかがぶっ倒れるまで続けてやらぁ」

 

 言い返して再び構える。たとえ骨が内臓に突き刺さろうが絶対に諦めねぇ!!

 

「二人ともやめて!!どうしてそこまでして闘わなきゃいけないの!?」

 

 また無粋な声が……理由か……。

 

「理由なんか必要ねぇ!!」

 

「目の前に好敵手がいるから……闘士が闘う理由などそれだけで十分!!」

 

「「御託も大義も、必要無い!!!!」」

 

 その言葉と共に俺たちは互いにその拳を振り上げた。

 

 

 

NO SIDE

 

 二人の拳がそれぞれの顔面に打ち込まれ、それを皮切りに次々と攻撃を繰り出しあうレオと乙女。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「ハァァァァーーーー!!!!」

 

 レオが殴る、乙女が蹴る。互いの攻撃一つ一つが確実に相手に打ち込まれる。

最早二人に防御も回避も技も必要無い。ただひたすらに己の体力と精神力が続く限り殴り合い続ける。

 

「こ、のぉぉぉぉ!!!!」

 

 乙女の膝蹴りがレオのボディに叩き込まれる!!

 

「ガハッ!!……クソッたれがぁぁぁぁ!!!!」

 

 口の中にたまった血を吐き出し、倒れそうになりながらも足で踏ん張って喰い留まりダウンを防ぐレオ。そのまま渾身の頭突きを乙女の鼻っ柱に見舞う!!

 

「グゥァッ!!……ま、まだまだ!!」

 

 整った顔を鼻血で汚しながらも乙女はその右手を握り締め、レオの顔に叩き込む!!

 

「嘗めるなぁぁぁぁーーーーー!!!!」

 

 しかしレオも負けてはいない!乙女の右ストレートを顔面に受けながらもそれに耐え、自らも右ストレートで殴り返す!!

 

「「ハァハァ…………」」

 

 満身創痍の二人。それでもその戦意は衰える事を知らない……。

 

 

 

「二人ともやめて!ねぇやめてってば!!」

 

 ズタボロになって尚闘い続けるレオと乙女に対して素奈緒は悲痛な叫びを上げ続ける。

彼女以外にもこの戦いの凄まじさと血生臭さに一部の生徒からも試合中止すべきという声が上がり始める。

 

「無駄だ、もう止める事なんて出来ない」

 

 素奈緒の背後から宥めるように村田が声をかける。

 

「何言ってんのよ!!このままじゃ二人とも……」

 

「誰も止められないさ。それに見てみろ、あの二人の顔を……」

 

 村田に促され素奈緒はレオ達の表情を見つめる。

 

「え、何で……何で笑ってるの?」

 

 レオと乙女……二人は今、笑っていた。まるで友人と遊びまわる子供の様に。

 

 

 

レオSIDE

 

「ガハァッ!!…………ヘヘ、ハハハハ!!」

 

「グァッ!!…………フフ、ハハハハ!!」

 

 もう何発殴り何発殴られたかも分からない。お互い全身ズタボロで顔中痣だらけで痛くて堪らないっていうのに、笑いが止まらない。

 

「レオ、お前は最高だ……最高の好敵手(ライバル)だ!!」

 

「その台詞、そっくりそのまま返すぜ、乙女さん……こんなに熱くなる勝負は生まれて初めてだ!!」

 

 言葉を交わした直後また殴り合う俺達。ヤベェ、楽しくってしょうがない!!

 

 

 

NO SIDE

 

 レオと乙女の殴り合いはいつまでも果てることなく続く。

その闘いに技も何も無い。ただ力と力、体力と気力のみを競う勝負。

壮絶で血生臭い、優雅さなんて微塵も無い。それでもその闘いには人を惹きつける何かがあった。

気がつけば今までの試合中止を訴える声は消えうせ、観客達はその闘いに魅了されていた。

 

「行けぇぇぇ!!レオォォォッ!!!!」

 

「しっかりしろぉぉ!!弟属性の底力を見せるんだぁぁぁ!!!!」

 

「鉄ぇぇぇ!!拳法部の意地を見せてやれぇぇぇ!!!!」

 

「てっちゃん!!頑張れぇぇぇ!!!!」

 

「対馬ぁぁぁ!!負けんなぁぁぁ!!!!」

 

「鉄先輩!!頑張れぇぇぇ!!!!」

 

「そうだ!立てぇぇぇ!!二人とも頑張れぇぇぇぇっ!!!!!」

 

 声援が湧き上がる。最早二人の闘いを止めるものはどこにもいない。

会場中の誰もがレオを、乙女を、あるいは両者を応援していた。

 

 

 そして長く続く闘いもやがて終結の時が訪れる。

 

「ハァ、ハァ……(ヤベェ、頭ボーっとしてきた)」

 

「ハァ、ハァ……(クソ、意識が……ぼやけて……)」

 

 互いに体力の限界を感じ、覚悟を決めるレオと乙女。

 

(次で最後の一撃だ!!)

 

(これで決めてみせる!!)

 

 表情を引き締め、互いにその右拳に残りの力全てを込める。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「ハァァァァーーーー!!!!」

 

 

「「これで最後だぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!!!」」

 

 

 ありったけの力を込めた一撃が繰り出された。

 

 

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 レオと乙女の最後の一撃に観客達の声援は止み、会場中を静寂が支配する。

そして当の二人はその相手の拳を顔面で受け止め、直立不動のまま動かない。

だが…………。

 

「ぐ……ぁ……」

 

「れ、レオ!?」

 

 先に体が傾いたのはレオだ。そのまま重力に引かれるように体勢を崩し、膝を付く。

 

「こ、これは……鉄の勝ち……」

 

「い、いや、待て!!」

 

 レオより数秒遅れ、乙女が体勢を崩す。

 

 

そしてそのまま鉄乙女は…………倒れた。

 

 

「お、乙女さんが倒れた…………」

 

「あ、ああ……レオは膝を付いてるだけ……………………って事は」

 

 会場中が一つの結論を出したとき、橘平蔵は静かに立ち上がる。

 

「そこまで!」

 

 平蔵の手によって試合終了の銅鑼(ゴング)が鳴ったと同時に会場中が歓声が鳴り響いた。

 

 

 

レオSIDE

 

 ギリギリの勝利だった。あと少しでもパンチの入るタイミングが違えば、勝敗は違っていた。だけど……

 

「ハァ、ハァ……か、勝った……やったぜ、コノヤロウ……!」

 

 この壮絶かつ最高の闘いを制した。その喜びを俺は噛み締めた。

 

 

 

乙女SIDE

 

「う……ん……」

 

 周囲からの歓声で私は目を覚ます。

目に映るのは膝を付きながらも倒れずに意識を保っているレオの姿。

そうか……。

 

「また、負けてしまったか……」

 

「乙女さん……」

 

 私に気付き、レオは私の方に目を向ける。

 

「不思議な気分だ……負けて悔しい筈なのに、それ以上に清々しい気分だ」

 

 以前負けた際は悔し泣きしたというのに、今回は全然違う。

 

「そりゃ、ここまでボロボロになって体力も精神力も全部使い果たせば、そんな気分にもなるさ」

 

「勝っておいてよく言う……」

 

「解るよ」

 

 レオは少し強い口調で私の言葉を遮る。

 

「だって俺が乙女さんの立場でも同じ事思う筈だから」

 

「……そうだな」

 

 レオの言葉に納得し、私は痛みを堪えながら体を起こす。

 

「対馬、鉄、二人ともよく戦った。儂はお主らを誇りに思う」

 

 館長がレオの勝利を宣言するためこっちに近付いてくる。

 

「館長、その役目は私に任せてもらいませんでしょうか?」

 

 私がそう言うと館長は満面の笑みを浮かべて頷く。

承諾を得た私はレオの腕を掴み、その腕を天高く突き上げさせる。

 

「レオ……お前の勝ちだ」

 

 私がレオの勝利を宣言したのと同時に会場中が大喝采に包まれた。


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