つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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※本作での生徒会合宿は原作より一週間ほど早いという設定です。


合宿サバイバルは甘酸っぱい物語?

レオSIDE

 

「強化合宿?」

 

 6月ももうすぐ半ばに入りもう随分暑くなってきた今日この頃、姫は突然そんな事を切り出した。

 

「そ、今週の金曜日、生徒会メンバーは特別休暇ということで強化合宿。あと場所は海だから水着も用意しておけって館長が言ってたわ」

 

 海か……。

 

「マジ!?タダで行けるの!?」

 

「当然、館長が私物の乗り物で連れて行ってくれるって」

 

 女性陣にはなかなか好評、実は俺も嬉しかったりする。だってタダだよ。すっげー得じゃん。

 

「海!!それこそまさに男のロマン!!白い砂浜!まぶしい太陽!!そして女の水着姿!!!」

 

 テンション全開な馬鹿(フカヒレ)が一人。

 

「いつも思うんですが、対馬先輩達ってよく鮫氷先輩(あんなの)と友達でいられますよね」

 

 椰子に哀れむ目で見られた。

 

「椰子の言いたい事はよく解るよ、だけどあれでも一応悪人ではないんだ」

 

「…………」

 

 余計哀れむような目で見られた……。

 

「生徒会全員で行くのか?」

 

「当然♪もちろん全員強制参加」

 

「チッ……」

 

 強制と聞いて椰子が舌打ちした。バックれるつもりだったのか?

 

「という訳で、全員金曜日は空けとくようにね♪」

 

 強引に決められてしまいました。

 

「よっしゃあ!水着買いに行くぜ!!フカヒレ、荷物持ちよろしく」

 

 カニは既に行く気満々。早速フカヒレをパシる。

 

「は!?ふざけんなよ!俺は他の女の子達が水着を買いに行くのを手伝いに……」

 

「いらな〜い、よっぴーと一緒に行くから」

 

「私もそういうのはエリーで間に合ってるし」

 

「既存の物で十分です」

 

「私も水着は間に合っている」

 

「私、フカヒレさんさんみたいな人は仕事でない限り声もかけたくありませんの。ごめんなさいね」

 

 フカヒレの野望は脆くも崩れ去った。

 

「レオぉ、スバルぅ、助けてくれ〜〜」

 

「行ってらっしゃ〜〜い」

 

「せいぜいこき使われてこい」

 

 俺たちはフカヒレを見捨てることを選んだ。悪いなフカヒレ。

 

「薄情者ぉ〜〜!!」

 

  叫びも空しくフカヒレはカニに連れ去られた。

 

 

 

 

 まぁ、そんなこんなで時間をすっ飛ばして金曜日になりました。

 

 

 

 朝9時、松笠公園(集合場所)

 

 集合場所に着いたら既に(遅刻魔の祈先生を含めて)全員集合していた。

 

「1人も欠けずに来たな、結構結構。では出発するぞ」

 

「ヘイゾー、乗り物って何だ?ダンプか?それともトラック?」

 

「ふふ……いずれ分かる。ついて来い」

 

 自身ありげに笑う館長。何だかワクワクしてきた。

 

「こ、これは!?」

 

 なんとその答えはクルーザー。すごいスピードであっという間に陸がどんどん見えなくなっていく。

 

「こりゃスゲーぜ!!このスピード!普段自分の足で出すスピードを超えるこの速さ!!テンション上がって血が騒ぐぜ!!」

 

 最高の気分だ!!

 

「何か対馬君、キャラ変わってない?」

 

「ああ、アイツってスピード重視の男だからこういう速い乗り物になるとハイになっちまって……軽いスピード狂なんだ」

 

 おいコラそこ(よっぴー&スバル)、陰口叩くなよ、スピード狂で悪いかコノヤロウ。

 

「ヘイゾー、この船どこに向かってんの?」

 

「竜鳴館の所有島、烏賊島である」

 

「……へ?」

 

 一気にテンションが冷めた。

 

「そ、それって島流しの場所じゃないか!」

 

「へー、私行くの始めて。楽しみだな」

 

 姫、そんな楽しんでる場合じゃ……。

 

「今回の目的は海水浴ですわ」

 

「あそこの海は綺麗だからな、せいぜい派手に遊んで親睦を深めるが良い」

 

 そうか、それならまぁ…………。

 

「お!見えてきたぞ」

 

 乙女さんの声を聞いて前方に目を向ける、確かに烏賊島だ。

 

「まぁ、島流しじゃないなら悪い様にはならないか……」

 

 

 

NO SIDE

 

 生徒会メンバーの予想に反して烏賊島はなかなかに風光明媚な島だった。

 

「うわ、こりゃスゲーな」

 

 スバルが思わず感嘆の声を上げてしまう。

文字通りに白い砂浜に青く透き通った海は環境汚染問題著しい現代日本においては驚愕に値するものがある。

 

「野生の動植物も多い、良い島なんだ。近々この島をリゾート化するという話を聞いてな、自然が壊されるのを忍びないと思った儂(わし)が大枚はたいて購入したわけだ」

 

 何ともダイナミックな美談である。

島一つが一体どれ程の価格で購入できるものなのか?筆者には想像もつかない。解るのは一般人ではとても払える額ではないという大金であるということだけである。

 

「あっちに小屋がある。水着にはそこで着替えるといい」

 

「じゃ私達はそこで」

 

「あれ、俺達は?」

 

 言わずもがなの事をわざわざ聞くのかフカヒレよ?

 

「そこら辺の岩場で着替えなさいよ」

 

 当然の事ながら姫にそう言われてしまうフカヒレであった。

 

 

 そして全員着替え終わり、水着姿のお披露目となるわけだが……。

 

「よしレオ、まずは……」

 

「へっ、言わなくても分かってるよ」

 

 水着に着替え終わり声をかけてきた乙女にレオはニヤリと笑って見せる。

 

「ふっ……それでこそだ」

 

「闘士たるもの好敵手(ライバル)と海でやる事といえば一つ!」

 

 互いに挑発的に笑い海へと駆け込む。

 

「まずは早泳ぎで勝負だ!!」

 

「上等!!俺のスピードについて来られると思うなよ!!」

 

 そのまま猛スピードで沖の方へ泳いでいってしまった。

 

「うわ、速っ!?」

 

「もう見えなくなっちゃった……」

 

 エリカと良美が唖然とした表情で呟く。

 

「あの二人本当に人間ですか?」

 

「多分な、少なくともレオは昔からあれだけ凄かったわけじゃない」

 

「うん、昔はスバルよりちょっと強いぐらいだったからね」

 

「あらあら、対馬さんがあれほど凄い方だったなんて、これは是非体育武道祭のトーナメントに出ていただかないと」

 

「ダークホースだから相当儲けが期待できるってか、あの二人よりお前の方が恐ろしいぜ」

 

 誰もが二人の超人的な身体能力に呆然となっていた。

 

「来て良かった!俺はこの光景を目に焼き付けることを誓う!!」

 

 いや訂正しよう、一人だけ変態的な思考の渦に入るものがいた。

 

 

 来て早々主人公とヒロインが海に入って勝負することになったわけだが、他のメンバーは割と普通に今の状況を満喫していた。

 

「バカンスの真髄は骨休めですわ」

 

「右に同じ、たまにはこういうのも必要だわ。今日は意見が合いますね、祈先生」

 

「とか言いながらナチュラルに私の胸を触らないで下さいます?」

 

「ちぇ、よっぴーサンオイル塗って。ついでにおっぱい揉ませて」

 

「何でそうなるの?」

 

 エリカと祈は日光浴。良美はそんな二人の肌にサンオイルを塗る。

 

「そら、行ったぞカニ!」

 

「どりゃあ!!ファイナルアトミックアタァッーーーーク!!!!」

 

「ぬぉわ!?拾いきれねぇ!!」

 

「チッ、やっぱりこんなの(フカヒレ)を味方にしたのは間違いだった」

 

 カニ、スバル、フカヒレ、なごみの4人はビーチバレーに興じる。

一方、平蔵はいつの間にかどこかに消えていた。

 

 

 そして夕方。

 

「お、帰ってきたぞ」

 

 海から出てきた二人の男女の姿をスバルが確認する。レオと乙女だ。

 

「いやぁーなかなか面白かったぜ」

 

「ああ、外洋に出るとカジキだの鮫だの色々いるな」

 

「何やってたんだよ二人とも?」

 

 内容が色々と凄い会話に思わずスバルは二人に尋ねる。

 

「まずは早泳ぎで競争、これは俺が勝った。その次はどっちが深く潜れるか競い合ってこっちは乙女さんの勝ち」

 

「あとは鍛錬がてら海水浴を満喫させてもらった。時折鮫やカジキが襲ってきたが全部追い払ったな」

 

 人間離れした海水浴に皆再び唖然となる。

 

「やっぱり化け物?」

 

「失敬だな、実際の漁師も同じ方法で難を逃れたんだぞ」

 

 なごみの呟きに乙女が反論する。

 

「鮫は鼻が急所なんだ、襲ってきたらこぶしで鼻を撃て」

 

「こうかっ」

 

 乙女の鮫対処法を聞いてカニはフカヒレの鼻を一切の躊躇いもなく殴る。

 

「ザクっ、鮫といっても俺を殴ってどうす……!」

 

「まぁまぁ、このような感じでしょうか?」

 

 今度は祈がフカヒレを殴る。教師としてこれは少々問題なのでは?

 

「グフっ!」

 

「いや、こうだ」

 

 哀れフカヒレ、挙句には乙女にまで殴られる。

 

「ドムぅっ!」

 

「いや、もっとこうスピードつけて……」

 

「ギャン!!!」

 

 しまいにゃレオに止めを刺されたフカヒレ。

凄惨な光景だが何故かコミカルになってしまうのはフカヒレクオリティというものだろうか?

 

「い、いじめだぁっ、スクールバイオレンスだぁ!」

 

「いや、でもいろんな女の子(レオ除く)に殴られてるんだぜ」

 

「あ、そうか。イヒヒッ」

 

「うわ、何か気持ち悪いぞコイツ」

 

 変態の性(さが)というものか、途端に避けられるフカヒレ。現実は非情である。

 

 

 

レオSIDE

 

 フカヒレがMの兆候を見せたその頃、何かを担いだ館長がやってきた。

 

「おーい、バーベキューセットを持ってきたぞ、やはりアウトドアといえばこれだろ」

 

「おおっー、ヘイゾー話がわかるじゃん」

 

「うむ、儂(わし)は生徒想いだからな」

 

 こんなにサービスが良いとは……なんか悪い予感がしてきた。

 

「せっかくのご好意だから、ありがたく頂きましょうか」

 

「んじゃ、ちゃっちゃっと用意するか」

 

 スバルはテキパキと動き始めた。

それに伴い他の連中もバーベキューの準備に入る(祈先生は除く)。

俺も手伝うか……。とりあえず薪でも割ってこよう。

 

「館長、薪ありますか?」

 

「向こうに置いてある、好きに使うといい」

 

「了解」

 

 早速薪置き場に行って適当に数本取り出す。

 

「よっと…………フンッ!!」

 

 薪を空中に放り投げて落ちてきた薪を気合と共に手刀で割っていく。

 

「こんな所だな」

 

 手ごろな大きさになった薪を担いで俺は皆の下へ向かった。

 

 

「それじゃ、これからもよろしくって事で乾杯」

 

 肉がこんがり焼きあがり、姫の音頭で全員乾杯する(ジュースだけど)。

 

「美味ぇ!!やっぱ肉サイコーだぜ!!」

 

「あ、カニテメェ!それ俺がキープしてた肉だぞ」

 

「食べながら喧嘩するな、みっともないぞ。それから野菜もちゃんと食べろ」

 

「味付け良いな、これやったの椰子か?」

 

「はい、そうですけど」

 

 こんな感じに騒がしくも楽しく飯の時間は過ぎていった。

 

 

「あー、食った食った」

 

 満腹感に酔いしれて砂浜に座り込む。

するとそんな時、俺はある事に気付いた。

 

「あれ、館長は?」

 

 館長がいない、不思議に思って辺りを見回すと……。

 

「あ、いた!……って何で一人でクルーザーに乗ってるの?」

 

「よーし、では帰るぞ。…………儂(わし)だけな」

 

 んなぁっ!?

 

「おーい、館長ー!俺達まだ乗ってませんよ!!」

 

 フカヒレが叫ぶが館長はまったく動じない。

 

「それでいいのだ、お前達はここに残れ。これは島流しだ、この島で2日間生き延びよ!日曜の夜に迎えに来るのでな!」

 

 し、島流し…………嘘だろ。

 

「ちょっ、何で!?」

 

「お前達は高い能力を持ちながらも協調性に欠けている。ここで集団生活の重要性を学べ!」

 

 そんな…………。

 

「それって私も該当するの?」

 

「姫……オメーが一番協調性ないだろ」

 

 どの口がそんなことを言う。

「だって一般人に合わせて天下なんて取れないし」

 

 必要最低限すらない人間に天下は取れません。

 

「ココに小型艇があるそれで脱出だ!!」

 

 スバルが小型艇の方へ駆け寄る。しかし……。

 

「フンっ!」

 

 『ズガァアアアン』という豪快な音と共に小型艇は爆散してしまった。

 

「あ、あの距離から気で破壊しやがった」

 

 数百メートルは離れてるのに……俺や乙女さんでもこれは真似出来ん。

 

「で は さ ら ば だ ! !」

 

 行っちゃったよ……。

 

「私、一緒に本土に戻る筈でしたのに、裏切られましたわ」

 

 祈先生……アンタもグルだったんかい。絶対同情してやらん。

 

「それにしても、生徒を無人島に置き去りかよ」

 

「まぁ、いい。泳いで帰れば問題なかろう」

 

「却下で」

 

 乙女さんの意見を姫が一蹴した。

 

「俺と乙女さん以外無理だよ」

 

「いや、気合でどうにかなるだろ」

 

 なるか!

 

「乙女センパイ、もう少し常識的に考えてください、皆がいるんだし」

 

「ひ、姫に常識について語られてしまった……」

 

 乙女さんが凹んだ。

 

「追い討ちかけるようで悪いけど、泳いで戻ってもあの館長の事だから強制的に島に戻される可能性もあるんじゃ……」

 

「そ、そうだった、弟に気付かされるとは……」

 

 余計凹んだ。

 

「ま、こうなった以上せいぜいこの状況を楽しみましょ。幸い水だけは向こうの小屋の中にたくさん用意してあったし」

 

 とりあえず死ぬ危険は無いか。

ま、姫じゃないけどせいぜいこの状況を楽しませてもらうか。

 

 

 翌日(島滞在2日目)

 

「ふわぁ〜〜〜〜、よく寝た」

 

 いい具合に日陰になってる部分を見つけてそこに野宿した俺はぐっすり眠ることができた。

 

「お前俺たちより熟睡じゃねぇか、よく眠れたな」

 

「あんなの大佐の訓練で使った宿舎と大差ねぇよ」

 

 完全な石造りのたこ部屋で雑魚寝。しかも布団は滅茶苦茶薄いからな。その点こっちは地面がやわらかくてまだマシだ。

それにしてもフカヒレまで熟睡だったのは意外だな。思ったより適応力が高いのかもしれない。

 

「あ、対馬君、おはよう」

 

 佐藤さんが声をかけてきてくれた。和むぜ……。

 

 

「さて、これから食料集めについて決める訳だけど」

 

 全員(祈先生除く)起床してさっそく食料集めの相談になる。

 

「まず魚だけど、小屋の中に釣竿があったので私と伊達先輩で釣ります」

 

「椰子、お前釣りできるのか?」

 

「人並みには、もし釣れなかった時は先輩達に素潜りで取ってきてもらいますので」

 

 俺と乙女さんは保険ってか。

 

「じゃあ私とよっぴー、カニっちとフカヒレ君がそこら辺で山菜集めね」

 

「俺と乙女さんは?」

 

「私達は森の奥まで行って食料を探そう」

 

 なるほど、危険地帯担当か。

 

「あと、連絡用にこれ皆に配っとくから、何かあったら連絡してね」

 

 姫がトランシーバーを俺たちに渡してきた。

 

「かなり上等な奴じゃん。ところで、祈先生は?」

 

「爆睡中、あの人朝弱いってもんじゃないわね」

 

 役立たねぇ先公だなぁ。

 

「ま、非常食持ってきてるから許してあげましょ」

 

 哀れ土永さん……。

 

 

 

土永さんSIDE

 

「ふぇっくしょい!」

 

 何だぁ、誰かが我輩の噂でもしてるのかぁ?

ふっ、人気者は困るぜ

 

 

 

レオSIDE

 

 さっそく森の奥へと繰り出した俺達。

予想外にも山菜やきのこは結構多く、食料に不自由はしなくて済みそうだ。

 

「思ったより危険ではないな。これならほかの者が来ても大丈夫だろう」

 

 確かに急斜面はあるけど大した問題じゃなさそうだし、大丈夫だろう。

 

「じゃあ、もう少し探してから皆のところに戻……ん?」

 

 突然鼻先に水滴が落ちてきた。

それを皮切りに2滴3滴と水滴が落ちてくる。

 

「雨か?」

 

「おいおいマジかよ」

 

 どんどん雨足が強くなってくる。

 

「通り雨だろう、天気予報では晴れといってたはずだ」

 

 しかし、コイツは結構降ってるぞ。

 

「こりゃどっかで雨宿りしたほうが良いんじゃ……うおっ!?」

 

 突然でかい音と共に雷が落ちた。

 

「こりゃひでぇ……乙女さん、一旦どっかで雨宿りしようよ」

 

「あ、ああそうだな……よし、さっさと行くぞ」

 

 ?……なんか動揺してねぇか?

 

「どうしたの乙女さん?何か様子変だけど」

 

「へ、変なことなど無い!お前の気の所為だ!!」

 

 そう言ってそそくさと歩いていく乙女さん。

 

「ちょっと、そっち急斜面が近いから気を付けた方が……」

 

「う、うるさい!そんなの私の勝手……」

 

 その時、再びデカイ音を立てて雷が鳴った。

 

「!?……うわっ!!」

 

 突然の雷に乙女さんお体が一瞬緊張し、その弾みで足を滑らせバランスを崩し、斜面の方へ倒れ込んでしまった。

 

「乙女さん!!」

 

 慌てて駆け寄って乙女さんの腕を掴むがココで俺はミスを犯した。雨で地面が滑りやすい事を失念していたのだ。

 

「「うわああああっ!!!?」」

 

 結果、俺と乙女さんは二人共斜面を転げ落ちてしまった。

痛てて、何とか怪我はせずに済んだみたいだけど……ん、何だ唇に何か柔らかい感触が……。

 

「「!!?」」

 

 え、え!?こ、これどうなってんだ!?何で俺の眼前に乙女さんの顔が!?

ってか、この感触って……乙女さんの唇?

 

「う、うわっ!す、済まないレオ!!」

 

 茫然自失としている俺に乙女さんは飛び跳ねるように離れる。

……って言うか……お、俺…乙女さんと…………き、キス……しちまったのか?

 

「い、今のは事故、事故なんだからな!」

 

「う、うん……分かってる」

 

 取り敢えず俺達は近くに洞窟を見つけ、そこで雨宿りすることにした。

 

 

 

NO SIDE

 

「うん……俺と乙女さんはこっちで雨宿りしとくから。姫達は?…………全員無事?分かった、じゃあ後で。雨止んだら戻るから」

 

 トランシーバーでエリカに連絡を取り、レオは乙女の向かい側に座り込む。

 

「乙女さん、大丈夫?」

 

「あ、ああ大丈夫だ!」

 

 気丈な態度とは裏腹にその表情はいつものような覇気が無い。

 

「もしかして乙女さん、雷苦手なの?」

 

「そ、そんな訳あるはず……!?」

 

 強がって見せた途端にまた雷が鳴り響き、乙女の体が強張る。

 

「やっぱり、苦手なんだ……」

 

「そうだ……お前にだけは知られたくなかった」

 

 観念したかのように乙女は自分が雷が苦手だという事実を認めた。

 

「なんでまた雷を」

 

「あれは、私が7、8歳の頃……尊敬していた爺様が雷に打たれて全治2週間の大怪我を……あの無敵だった爺様がだ」

 

「いや、大自然に人間が勝てたらそれはもう人間じゃないから、むしろよく全治2週間で済んだね」

 

 そりゃそうだ、普通だったら即死である。

 

「それでも、私にとって無敵の象徴だった爺様があんなに簡単に倒されてしまった事を考えると……」

 

 トラウマは結構深いようである。

 

「情けない、本当に情けない。お前を鍛え直すと言っておきながらいざ勝負すれば負かされて、挙句の果てにはこの有様だ。姉の威厳などまるで無いではないか」

 

 目に涙を浮かべながら膝を抱えて乙女はうずくまる。

そんな彼女にレオは静かに近付き乙女の隣に座る。

 

「そんな事無いさ、乙女さんは十分に威厳があるよ。俺なんかよりずっとしっかりしてるし、人望もあって人を従えるだけの求心力もある。大体、苦手なものなんて誰しもあるし」

 

「だが……」

 

「それに俺は、威厳の無い人間の命令なんて聞いてやらないから。その俺が威厳あるって言ってるんだから気にする必要なんて無いよ」

 

 乙女の肩に手を置きながらレオは優しく笑いかける。それを見て乙女も少しだけ笑顔になる。

 

「ハハ……弟に慰められるなんてな……」

 

「傷心してる女を慰めるのは当然の事でしょ?」

 

「ありがとう……レオ」

 

 

 

乙女SIDE

 

 まさか弟に慰められるとはな。レオはああ言ってくれたが、姉としての威厳も何も無いではないか。

……でも、たまにはこういうのも悪くは無いかもな。

そういえば、レオの手……ずいぶん大きくなったな。昔は私より小さかったのにこんなに大きくなって……。

………………って、何を考えているんだ私は!?従弟(おとうと)相手に。

や、やはりさっきの事故(キス)で変に意識してしまっているんだろうか?

 

 

 

レオSIDE

 

 一時間ほどして雨は上がり、俺達は洞窟を出た。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「あ、ああ」

 

 な、なんかぎこちない……。やっぱあんな事があってどうにも意識してしまう。

つーか俺いつの間にかテンションに流されてたし……。

 

「あ、あのなレオ」

 

「ん、何?」

 

「その……さっきの事故の事だが、あれはあくまで事故だからあまり気にするな、私もできる限り気にしないようにするから」

 

「う、うん分かった」

 

 たぶん、しばらくは無理だと思うけど。

あと、実は内心それ程嫌な思いはしていないというのが俺の本音だが、これは秘密にしておこう。

 

 

 それから、色々と大変なこともあったけど、何とか今回の合宿は無事終了し、俺達は帰路についたのだった。

 


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