レオSIDE
現在俺達はカニのバイト先であるオアシスにアルバイトをしに来ている。
と言ってもその内容はウエイターや料理などではない。今日は新作カレーの試食会なのだ。
「食うだけで金が貰えるとか最高だぜ」
うわべだけの言葉につられた馬鹿がここに一人。試食係ってのはそれなりに責任があるしどんなまずいものでも絶対食わなきゃならないんだぞ。
まぁ、カニの殺人料理に匹敵するものはそうそう無いし、そこまで心配することじゃないが。
「というか何故私まで協力しなければならん?」
「女性の意見も貴重っスよ」
愚痴気味に乙女さんがぼやき、スバルが見事なフォローで宥める。
「なにより、いっぱい食べれる人が必要なんだ。そこら辺は乙女さんってレオよりすごいんだろ?」
「まぁな、少なくとも俺よりは食う」
パワーがデカイ分燃料も多い必要があるのか……とにかく飯はすごくよく食べる。俺も常人よりは結構多く食う方だが……。
「ついでに言えば寝る時間も多い」
俺以上に健康優良児だからな、乙女さんは。
「何をボソボソとしゃべっている?ところで今閃いたんだがな、おにぎりの中にカレーを入れるというのはどうだ?」
「……普通にカレーを食ったほうがいい」
「む、やはりそうか」
時々天然な乙女さんだった。
するとそのときカニが出てきた。
「うぉーい、オメェラ夏の新メニュー試食会・第1弾はこのカレーだ」
なんとも珍妙奇怪なカレーが運ばれてきた。
「何コレ?」
「メロンカレー、独創的だろ」
オリジナリティがあれば良いって物じゃないだろ……。
「まぁ、試食のバイトというのならとりあえずは食べてみないとな」
まじめな乙女さんは先陣を切って食べ始めた。
「ン……意外と悪くないんじゃないか?」
「そうだな、甘口ならまだ食えるかもしれねぇ」
「ふむふむ……よしよし、第2陣、うにカレーだ!」
……さすがにそれは。
「ン……これも意外と悪くないんじゃないか?」
乙女さんは再び嬉々としてカレーを食べる。
この人食えりゃなんでも良いのでは?
「第3弾、チャーハンカレー」
だんだん怪しくなってきた
「第4弾、チャーハンとカレー!」
最早意味無し。
「第5弾、チャーハン!!」
カレーですらねぇ!!
その後結局俺たちは色物カレーを10杯食わされた。
「何気にうまかったのがチャーハンってどうよ?」
ちなみにスバルとフカヒレは(主に胃と舌が)ナーバスになってるが、俺は多少参ってるぐらいで乙女さんは全然平気だったりする。
「乙女さんって『アレ』イケるんじゃね?」
唐突にフカヒレがそんな事を言い出した。
「ん?何だ『アレ』とは?」
アレってまさか………。
「もしかして超辛カレーか?やめとけって」
「あんなの食えるの椰子ぐらいなもんだろ、俺でさえ7口が限界だったんだぞ」
しかし、肝心の乙女さんは……。
「ほぅ……レオですら7口で敗走するほどのカレーか、面白そうだ」
既に食う気満々!?
「フフフ、コイツは面白れぇ…………テンチョー!!超辛カレー1杯オーダー!!ココナッツ(=椰子なごみ)のときの雪辱を果たすべき時が来たぁ!!」
「OK!!最近舐められっぱなしの超辛カレーの恐ろしさ見せてやりマース!!」
向こうも火がついたらしい……。
「もうどうなっても知らんぞコノヤロウ」
俺はそういって静かに十字を切った。
NO SIDE
今まさにココ、カレー専門店『オアシス』にて鉄の風紀委員こと鉄乙女が超辛カレーへの挑戦を開始していようとしている。
「超辛カレー、お待たせしましたー!」
赤い気泡をぶくぶくと立てた真っ赤なカレー、超辛カレーが運ばれてきた。
(な、なるほど……確かに一筋縄ではいきそうも無い)
あまりにも凄い見た目と匂いには乙女でさえ戦慄を隠せない。
「フッ、上等だ……鉄乙女、推して参る!!」
気合と共に1口目を口の中に放り込む。
「ッッッッッ!!?!?!!!?!?!!?!!!!!???!?!?」
カレーが舌先に触れた瞬間乙女の口の中を凄まじい電流が走った。
(か、かかかかかかかか辛いィィィィッッ!!!?!?!!?)
途轍もない辛さに乙女の体中の毛穴という毛穴から汗が噴き出す。
「うわ……」
「やっぱりやめた方が良かったんじゃ……」
周囲から心配する声が上がる。しかし……
「ま、まだまだ……これしきの辛さで……」
乙女の戦意、未だ衰えず。再びスプーンを口に運ぶ。
「□□□□□□□□□□□□ッッ!!!!?!?!」
再び激辛にもだえ苦しむ乙女。最早その叫びは声にもならない。
(辛い!辛過ぎる!!だがまだだ、まだ負けるわけには……)
この世のものとは思えぬ辛さに悶え苦しみながらもそれでも3口4口と食べ続ける乙女。それは彼女の生来の負けず嫌い故か、それともレオに勝ちたいという意思の現れか?多分両方である!!そして遂に…………
「7口!遂にレオの記録に並んだぞ!!」
「す、すげぇ気迫だ…」
(あ、あと一口、あと一口で私はレオの記録を超える!!)
そのままスプーンを口に運ぼうとする乙女、しかし…………
(て、手が動かん!?)
乙女の手は口に入る手前で止まりブルブルと震えてしまった。
(か、体が拒否反応を起こして……)
既に乙女の体、というか舌は限界に来ていた……
(も、もうダメだ……並んだだけでも良しとすべきなのでは?)
思わず『諦め』の二文字が乙女の頭の中に浮かぶ。
(嗚呼、何か死に掛けって訳でもないのに走馬灯が……)
乙女SIDE
ダメージは遂に走馬灯を見せるにまで至っていた。
脳内に浮かぶはだれよりも強かった祖父への憧れ、拳法部全国大会優勝という栄冠、レオとの戦い、無念の敗北、そして幼き日の修行の日々……その際に祖父が言った言葉。
『乙女よ、武士にとって真の敗北とは何かわかるか?』
『真の敗北?』
『それは……自らの弱さに屈した時也!!』
己の弱さ、真の敗北……ここで終わるという事はそういう事なのではないのか?
ココで己の弱さに屈してしまえば私はもう武士ではなくなる…………………。
嫌だ!!!!
終わりはしない!!武士が武士でなくなるのは死よりも恐れるべき事!!
己の弱さは弱音もろとも心のこぶしで打ち砕く!!それが私ではなかったのか!?
「私は……負けん……!!」
意を決してスプーンを口の中に突っ込む。
(ッッッっっっッッッッッゥゥゥッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッっっっィィィィッッッ!!!!!?!!?!?!?!?!?!?)
口の中に広がる激痛を無理やり抑える。
そのまま…………飲み下す!!!!
「は、8口……食べたぞ……」
直後に激しい脱力感に襲われ、私は椅子から転げ落ちるがレオと伊達がそれを受け止めてくれた。
「凄いよ乙女さんは、俺の完敗だ」
そういってレオは手を叩く。
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「オメデトウゴザイマース」
レオに続いて蟹沢が、鮫氷が、伊達が、店長が、皆が私に拍手を送ってくれる……。
「ありガッ…………………………………………………………!!?!??!?!!??!?!??!!?!??!!?!!?!??」
か、かかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかか辛いィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
後から来る、コレ後から来る!!!!!!!!
「み、水〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
結局この激辛はこの後数時間続き、その上舌の痛みは次の日まで続き、私は丸一日舌の痛みに悩まされたのであった。
一時間後に登場人物紹介を(第一話部分に)投稿します。
そっちも是非見に来てください!!