つよきす 愛羅武勇伝   作:神無鴇人

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レオの勧誘奮闘記 その1

レオSIDE

 

「祈は寝坊して遅刻している。我輩だけ先に飛んできたぁ」

 

 またかよ…………。

にしても土永さん、久しぶりの登場だな……。

 

「遅刻多いぞ祈センセー!」

 

「まぁまぁ落ち着けヒヨコども。我輩は、ピーピー鳥みたいに騒ぐ奴が嫌いなんだ」

 

 鳥のお前が言うな。

 

「ありがたい話でも聞かせてやろう。……いいか、俺が若い頃、桃は高価なデザートでなぁ……」

 

 土永さんって昭和初期生まれ?

 

 

 それから数時間後、鉢巻先生による体育の時間……

 

「皆、元気かい?笑顔は大切だよ」

 

 目の前に居るジャージ姿のキモメン、鉢巻先生。

女子生徒の人気は(一部の物好きを除いて)壊滅的だが男子生徒からはその柔軟な授業姿勢から慕われている。

 

「僕は柔軟な授業制度がモットーでね、どうだろう?今日はやけに暑いし、もう女子の見学ってことで、日々の潤いになると思うんだ」

 

「異議ナーシ!」

 

 みんなの意見はフカヒレがキッチリ代弁してくれる。こういう時フカヒレは便利だ。

 

「それでは早速応援に行こうじゃないか。いいかい?笑顔で応援するんだ」

 

 そんなわけで体育館へ移動。

ブルマ姿の女子達がバレーボールに興じている。良い目の保養だぜ。

 

「いい眺めだ。職権って素晴らしい響きさ」

 

 全くだ、女子からの非難はフカヒレと鉢巻先生が一身に受けてくれるし、言う事無しだ。

 

 

 そしてその日の放課後。

 

「対馬クン達は引き続き人材の捜索、登用」

 

「サー・イエッサー!」

 

 その場で1年の名簿を開く。

 

「さて、どいつから勧誘してやろうかな」

 

 フカヒレが名簿を隅々まで見つめる。

 

「おっ、良い名前発見!1−Bのこいつはどうよ?」

 

「ん、どれどれ?」

 

 『椰子なごみ』か…………。

 

「きこなごみ?」

 

 カニ……お前コレぐらい読めろよ……。

 

「オマエ、ほんとよくココ受かったな。オレでも読めるぞコレ」

 

「『ヤシ』だろ、椰子(やし)なごみって読むんだよ」

 

 俺がカニに説明している内にフカヒレはいつの間にかにやけ始める。

 

「『なごみ』だなんて、きっと癒し系だぜ?その名前だけで俺の心も和んだもん」

 

「部活は?」

 

「帰宅部、無所属だな」

 

 これなら部活が忙しいって理由が無い分引き受けてくれる確率も高くなるな。コレで言ってみるか。

 

「椰子って何か南国のイメージだよね、きっとぽかぽかとあったかい心を持った子なんだぜ、そしてその名の通り体は果実のように甘い」

 

 その発言はどうかと思うぞ。

 

「んで、このゴミのような世の中で、疲れている俺の心をクリーニングしてくれるの」

 

「ゴミのような世の中っていうか、フカヒレがゴミそのものなんだけどね」

 

「うっさいよ、お前」

 

 おいおい酷い言い様だな……否定はしないけど。

 

「さっさと行こうぜ、早く行かないと帰宅しちまうかもしれん」

 

 俺達は生徒会室から出陣した。

 

 

 

エリカSIDE

 

「さーて、どんな仕事ぶりかちょっと見てくるかな」

 

「気になるの、エリー」

 

 そりゃあね……昨日校門で眼鏡をかけた猿顔の二年生が一年女子を獣の目で見てた、なんて届け出が来れば仕事ぶりも不安になるわよ。

 

 

 

レオSIDE

 

 1−Bの教室前に来た俺達だが、ココで非常事態発生。なんと椰子なごみの正体は昨日の辛口キングだった。何つー偶然だよ。

 

「しかし、屋上の時もだったけど本当に誰も寄せ付けてないな」

 

 スバルが目を細める。確かに入学2ヶ月でココまで孤立している奴も珍しい。

いじめられっ子ってわけでも無さそうだし、やっぱり自分から誰とも関わろうとしないタイプだ。

 

「あの女はやめよーぜ?何かあぶねぇよ」

 

「まーそうだな」

 

 元々アクの強いメンバー多いし。

 

「でもやめるとなると惜しいよなぁ…………」

 

 フカヒレはまだ未練たらたらのようだ。

 

「おいおい、お前昨日ビビってたじゃないか」

 

「確かにねーちゃんに少し雰囲気似てて怖いけどさぁ、それを差し引いても余りある美人だし、俺のトラウマ克服のチャンスでもあるんだよ!しかも上手くいけば仲良くなれるかもしれないだろ!」

 

 そういうトラウマってゆっくり治したほうが効果的なような気がするんだけど…………。

 

「でもよ、アイツはやめといた方が良いって……」

 

「だって俺……女の子に触りたいんです」

 

 何て無垢な奴なんだ。世の中の男が心の奥底に隠し持っている欲望をこんなにストレートに言うことが出来るとは……。

なんて恥知らず、何て図太さ。コイツの精神力は元々穴だらけで最早何処にも攻撃する余地が無い。

まさに失うものは何も無し!!

 

「……でもお前ロリコンだろ?」

 

 昔そんな事言ってたし

 

「ちょっと違うな、正しくは『ロリコンでもある』だ、ノーマルだって勿論いけるよ、祈先生みたいな巨乳大歓迎だし」

 

「要するに何でもいけるってか……」

 

「ある程度顔が良けりゃな」

 

「…………」

 

 もう何処にどう突っ込めば良いのやら……。

そんな時不意にスバルが口を開く。

 

「おっ……あの女席を立ったぞ」

 

 また屋上に行くみたいだ。

 

「完璧決まりだね、アイツ友達いないね、間違いないよ」

 

 何故か中国人っぽいイントネーションで喋るカニ。

それにしても……。

 

「あのさ、姫……さっきから何で俺等を尾行してるの?」

 

「あら、やっぱりばれた?さすが対馬君」

 

 そりゃばれるよ、そんなに欲望むき出しの気配じゃ。

 

「気付いたか?」

 

「いや…全然」

 

「あんなのレオや乙女さんぐらいにしか分からねぇよ」

 

 他の3人は驚いているようだが、それはまぁ今のところ関係ないので無視。

 

「今の娘……すごくいい人材よ、あの媚びない感じ、フテブテしい態度が最高ね、美人だし、一年生にあんなレアものがいるとは思いもよらなかった……是非とも登用成功させてね、成功したら霧夜スタンプ一気に三つあげちゃうから」

 

 そういうと姫は足取り軽く去っていった。

 

「……おい、どうすんだ?お姫様えらく気に入ったらしいぜ」

 

「スタンプ3個となりゃ、行くしかあるまい」

 

「生徒会に入れてこき使いまくるのも悪くないね」

 

 物欲主義者は本当に素直だ。

 

「でも俺とカニは昨日の事が在るから悪評あると思うんだよね」

 

 フカヒレにしては珍しくまともな意見。となると俺かスバルが行くしかないか……。

 

それから話し合いの結果、俺が一対一(サシ)で行く事になった。

 

 

 

 そして遂に来ました、攻撃フェイズ。

 

「やぁ、ちょっと良い?」

 

 意を決して話しかける。

 

「…………」

 

 返事無し…………まぁいいや、言いたい事だけ言っちまおう。

 

「あー、椰子さんだよね?」

 

「…………」

 

 面倒臭そうに振りかえってっくる。一応聞いてはいるようだ。

 

「俺は2年の対馬、一応生徒会で副会長やってる、君の事は名簿でちょっと調べさせてもらったんだけど」

 

 俺がそれだけ言うと椰子はジロリと俺を見つめた。

あー、こりゃフカヒレがダメになるわけだ。

 

「まー、単刀直入に言うと、生徒会に入ってくれない?」

 

「拒否します」

 

 即答だよ……。ま、予想はしてたけどね。

舌戦で勝てるとは思えないが……まぁやれるだけの事はしておくか……。

 

「生徒会入ってくれ」

 

「嫌です」

 

「会長に気に入られてるんだ君は」

 

「それが何か?」

 

「だから言わせて貰う、生徒会入って」

 

「これ以上あたしに話しかけないでください、気持ち悪いです」

「昨日の駄眼鏡よりマシだろ?」

 

「そんな人覚えていません」

 

 取り付く島がねぇ…………。

圧倒的な拒絶感。一応敬語を使ってる辺り最低限の礼儀はあるようだが逆にこの敬語が更なる壁を作っている。

 

「あんまりしつこいのでこっちから失礼させてもらいます、センパイ」

 

 あーあ、行っちゃった。今回は無駄骨か……。

あ、そろそろ俺帰らないと、今日エキシビジョンマッチだし。

 

 

 

 取り敢えず帰宅。そして今日はいつもより少し早めの晩飯。

戦前に食ってキッチリ精をつけなければ。

 

「夕飯だ、たんと食って精をつけろ」

 

 やはりメニューは握り飯。今日は焼きホタテが入っている。

 

「こっちは何?サーモンで米を包んであるの?」

 

「ああ、美味いぞそれも」

 

 バリエーションが多いので意外と飽きずに済む。

 

「すまんな、明日こそは上手く作って見せる」

 

「上達はゆっくりでいいよ、千里の道も一歩からって言うし」

 

「期待して無いような言い方だな……」

 

 いや、実際してないから。口には出さない分俺って優しいよな。

 

「コレ食って30分ぐらいしたら行くから」

 

「ああ、分かった……私にやられるより先に負けたら承知せんぞ」

 

 なんとも格闘家らしい激励だった。

 

 

 

実況 SIDE

 

 さて、こちら狂犬(マッドドッグ)に、設けられた特設リングでは、本日のメインイベント、無差別級エキシビジョンマッチが行われようとしています。

 

「赤コーナー、ミドル級チャンピオン、『若き獅子』、対馬 レオ!!」

 

 対馬選手が入場してきました。

対馬レオ、現ミドル級チャンプ、格闘スタイルは空手主体のマーシャルアーツ。

打撃、投げ、関節技等全体的に高い精度を誇る技を持つが、最大の武器は身軽さから来るスピードとジャンプ力。得意技はナックルパートとアイアンクロー。

 

「青コーナー、ヘビー級ファイター、『地下闘技場の横綱』、士慢(しまん) 力(りき)!!」

 

 士慢選手、化粧マワシを着けて堂々と入場してきました。

士慢力、ヘビー級ファイター、格闘スタイルは相撲。タイトルは未取得だがヘビー級チャンピオンを相手に善戦した実績を持つ。

身長2mを超える大巨漢で自他共に認めるパワーファイター。得意技は張り手の猛打と合掌捻り。

 

対馬選手、自分より一回り大きい巨漢であるある士慢選手にどう戦うか?

士慢選手、対馬選手の猛烈なスピードとジャンプ力をどう捌くか?

なお、本日のエキシビジョンマッチは士慢選手の提案により、リング全体が砂場となっている『サンドデスマッチ』で行われます。

さぁ、いよいよゴングまであと僅かです!

 

 

 

レオSIDE

 

「どりゃああぁぁぁ!!」

 

 ゴングと同時に士慢が突撃してきた。すぐさま俺は回避行動に移るが……。

 

「ッ、足場が……」

 

 床が砂だから足場が悪い、一発喰らってしまった。

痛ぇ……腕の筋力だけなら乙女さん並みか?

 

「ガハハハハ、引っ掛かったな!硬いマットの上なら兎も角、砂が足場じゃテメェの身軽さも発揮できまい!!それを考えてのデスマッチだぜ!!」

 

 勝ち誇ったように笑いながら士慢は再び張り手を繰り出してくる。

 

「フン!」

 

 二度も同じ攻撃は喰らわない。上半身を反らして避ける。

 

「そらそらそらぁーー!!」

 

 連続して張り手を繰り出す士慢、だがこんな攻撃乙女さんのパンチに比べれ全然遅い。

 

「見え見えだぜ、関取野郎!」

 

 隙を突いてローキックを喰らわせる。

 

「ぬぐぁっ!!」

 

 思わぬ反撃に士慢は怯む、その隙を突いて一気に攻め立てる。

 

「オラッ!オラッ!!オラッ!!!オラァッ!!!!」

 

 ボディブロー、膝蹴り、前蹴りと連続して腹部に集中的に叩き込み、そしてラストに巴投げを決める!!

 

「うぐぇぇっ……!」

 

 床(砂の上)に叩きつけられ呻き声を上げる士慢。

あとはそのままフルボッコで相手を連続して踏みつけまくる。

 

「身軽ってのはなぁ……単に走ったり飛んだりするだけじゃないんだよ、これでも攻撃スピードと手数の多さには自信があるんでなぁ!!」

 

 踏みつけながら言い放ち、一気にニードロップで止めを刺す。

ところが……。

 

「テメェ、嘗めてんじゃねぇぞ!!!」

 

「うわっ!?」

 

 士慢は俺のニードロップを受け止めて、そのまま俺を抱え上げ、ボディースラムで砂上に叩きつける。

なんてタフな野郎だ。

 

「身軽だろうが何だろうが捕まえちまえばこっちのもんじゃい!!ぬおおおおおおぉぉぉぉっ!!!!」

 

 雄叫びを上げながら再び俺をつかんで何度も連続してボディースラムを繰り出す。

 

(チッ……こうなったら)

 

 繰り出されるボディースラムに俺は上手く受身を取ってダメージを抑える。幸い床は柔らかい砂だ、このまま防御に集中しておけば……。

 

「どりゃあああ!!!!」

 

「ぐあぁっ!!」

 

 過剰に痛がる振りをする。

まだだ……もう少し……。

そのまま二度三度とボディースラムを受け続ける、そうしていく内に床はどんどん平らになっていく。

 

「読み通りだ!!」

 

「ブッ!?」

 

 勝機を見出した俺はボディースラムから脱出し、今までのお返しとばかりに士慢の顔面にドロップキックを喰らわせる。

 

「大男総身に知恵が何とやらってな……床を見てみな」

 

「何だと……し、しまった!!」

 

「何度も叩きつけてくれてありがとよ、お前の馬鹿力のお陰で足場が固まったぜ」

 

 そう、まさにそれこそ俺の狙い。たとえ柔らかい砂でも何度も叩けば凝縮されて硬くなる。コレで足場は充分確保できた。

 

「何度も叩きつけてくれた礼だ、速攻で決めてやるよ!!」

 

 硬くなった足場を活用してスピードが乗った攻撃で一気に畳み掛ける!!

 

「オラオラオラオラァァァァッ!!!!」

 

「ガッ、ぐえぇっ!!?」

 

 いくらタフな体が自慢の士慢でも本領発揮した俺の連続攻撃にはかなりのダメージを受ける。

 

「これでラストぉっ!!」

 

 コーナーポストに追い詰めて、相手の背後に回り、そのまま後頭部に膝をあてがい床に叩きつける!!

 

「ゲハァッ!!」

 

 その直後に士慢はピクピクと痙攣し、やがて気を失い、試合終了のゴングが鳴り響いた。

 

「パワーとタフさだけじゃチャンプにはなれない、覚えておくんだな」

 

 

○対馬レオ―士慢力●

11分28秒、KO勝ち 決まり手、カーフ・ブランディング

 

 

 

 俺の試合が終了して30分ほど経ち、ほかのエキシビジョンマッチもすべて終了した。

さ〜てと、良い汗もかいたしそろそろ帰るか。

 

「……ん?」

 

 ふと見知った顔を見つけて立ち止まる。

 

「椰子?」

 

 夜の街の片隅で一人たたずんでいる。何やってんだ?

それからしばらく遠くから見守ってみたがアイツはただ突っ立ているだけ。たまに来るナンパ男を睨みつけて追っ払う以外は何もしてない。

 

「何やってんだか……」

 

 気にはなるがアイツ個人の問題だし、そろそろ帰らないと乙女さんに怒られそうなので俺は何も言わずに帰宅した。


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