PERSONA3:Reincarnation―輪廻転生―   作:かぜのこ

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■Judgement:XVII「とある少年の生と死」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――僕は、こんなことがしたかったわけじゃない。

 

 

 

 

 “死”が、滅びが迫る。

 地球(ほし)に命を与え、そしてを“死”という概念を教えた母なる夜の女王が、すべての命を刈り取らんと目を醒ました。

 直に、女王の慈悲が世界を覆い尽くし、地上の生命は遍く死に絶え、滅びるだろう。

 

 

 

 

 ――人並みの夢だってあった。叶えたい未来だってあった。一緒に人生を歩みたい女性(ひと)だっていたんだ。

 

 

 

 

 独り、藍色の髪の少年は、絶対不可避なる“死”に立ち向かう。

 まさしく孤立無援。

 地上から送られていた仲間たちの声援も、今はもう聞こえない。

 その双肩に地球(ほし)の生命を、絆を繋いだ人々の想いを背負い、少年は“死”と対峙している。胸の(うち)には、絆を結んだいくつもの人の笑顔が浮かんでは消えた。

 

 

 

 

 ――たくさんの人と出会って、あれから初めて、前を向いて生きていこうって思えた。なのに…………。

 

 

 

 

 彼は、(コミュニティー)が紡ぐ“宇宙”をその身に抱いた人類史上最も新しい救世主(メサイア)

 今まさに彼は、その一命でもって世界の人々を救おうとしている。――ゴルゴダの丘にて、磔にされた()のイエスがそうであったように。

 

 

 

 

 ――望んでこんな力を得たわけじゃない。願ってこんな場所に立っているんじゃない。

 

 

 

 

 今日(こんにち)まで歩んだ短くも濃厚な日々の上、何人かのヒトが死んだ。中には救えた命だってあったろう。

 しかし、そうならなかった。

 あるいは少年が、もっと他人に目を向けていれば、周囲の動向に気を配っていれば、流れに身を任せるだけでなければ――彼らは死ななかったかもしれない。

 世界に降り注ぐ“死”を、食い止めることが出来たかもしれない。

 

 

 

 

 ――だけど、これが僕にしかできないことだというのなら……!!

 

 

 

 

 ならば、この結果は必然。この結末が自身の無関心という“選択”によるものなら、甘んじて受け入れる他ない。

 どれだけ後悔を重ねても、所詮ifはifでしかないのだから。

 

 

「■■■、ごめん――、君との約束は守れそうにないよ」

 

 

 例えそれが偽善的な感傷であっても、彼にとっては紛れもない真実だった。

 ――契約は、すでに果たされた。

 

 

「――さよなら」

 

 

 光が広がる。

 それはさながら虹色に輝くオーロラのようで。

 たった一人の心の海から生まれた新たなる“宇宙”の輝きが、爆発する。

 

 こうして“死”は、再び眠りについた。

 少年の生命の輝き、それそのものによって。

 

 

 ――――西暦二〇一〇年、一月三一日の事である。

 

 

 

 


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