問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
むかしむかし、あるところに女の子が住んでいました。
女の子は大きなお屋敷で、両親に大切に育てられていました。
しかしある時、母親を亡くしました。
その後、父親は再婚し、新しい母親と2人の姉と暮らす事になりましたが、程なくして父親も亡くなってしまいました。
絵に書いたような不幸ぶりです。
以来、意地悪な継母と継姉逹に財産を奪われ、いびられながら暮らす事となってしまった可哀想な女の子は、いつしか、灰かぶり、シンデレラと呼ばれるようになりました。
ある日、シンデレラが住む国の王が、城で舞踏会を催しました。。
しかし舞踏会と言うのは建前で、本当は王の妃を見つけるためのイベントだったのです。
王は16歳という若さで国の王となり、最初の頃、その若さ故、民から不安に思われていましたが、善政を行い、他国の侵略を許さず、他国を侵略せずを貫き、すぐに民から慕われる王となりました。
そんな王の妃になれるチャンスを逃すまいと、継母は義姉達を連れてお城の舞踏会へと向かいましたが、シンデレラは家に留守番させていました。
シンデレラは自分一人しかいない家を見渡し、溜息を尽きました。
シンデレラは別に舞踏会に行きたいわけでも、王子の花嫁になりたいとも思ってませんでした。
ですが、王の姿を一目見て見たいと思っていました。
シンデレラは前王を慕っており、その前王の息子である現王がどのような姿をしているのかどうしても見たかったのです。
ですが、舞踏会に行くにもシンデレラが持っている服はメイド服のみ。
流石にメイド服で舞踏会に行く女性はいないだろうっとシンデレラは自虐気味に笑います。
「………だが、見て見たいな。クルーエ王の息子、シュウヤ王のお姿」
「なら、舞踏会に行かせてあげるわ」
「誰だ!?」
行き成り聞こえた声に、シンデレラは驚き、壁に立てかけてある槍に手を伸ばす。
「安心しなさい。私は魔法使いよ」
「魔法使いだと?」
「シンデレラ、貴女は毎日、継母や義姉達のいびりに屈せず、文句も泣き言も言わずに日々を過ごしてるわ。だけど、そのために貴女は自身の人生を無駄にしてるわ。私は、あんな連中の為に貴女の人生が浪費されるのが我慢ならないの。そこで、今夜、一晩だけだけど、貴女を御姫様にしてあげるわ」
そう言うと魔法使いはシンデレラの返事も聞かずに、魔法をシンデレラに掛ける。
メイド服は黒を基調としたドレスになり、髪も丁寧にセットされていた。
「次は、馬車と馬ね」
そして、今度は机の上のカボチャを投げ飛ばし魔法を掛け、馬車に変え、近くに居た鼠を馬へと変えた。
「さぁ、これで準備は整ったわ。さぁ、舞踏会に行きなさい」
「いや、私は行くとは一言も」
「良いから乗りなさい」
魔法使いはシンデレラを脇に抱え、馬車の中に放り込むように投げる。
「十二時には魔法が解けるからそれまでに帰って来なさいよ」
魔法使いの言葉を聞き、シンデレラは御城へと向かった。
「シュウヤ王のご登場です!」
その声と共に、シュウヤ王は姿を現す。
金髪のイケメン。
その姿に、舞踏会に来た女性たちは黄色い歓声を上げる。
そして、我こそはと言う勢いで王に近づき、自身をアピールし始める。
そんな中、シンデレラはその様子を静かに見ていた。
暫くすると、舞踏会を後にし、城の庭へと出る。
星空を眺め、昔、父と母に連れられて星空を見に行ったことを思い出していると、横から声を掛けられた。
「王に会われないのですか?」
横を振り向くと、そこには銀髪に銀目の青年がそこにはいた。
身なりからして、城で働いてる者だとシンデレラは推測した。
「いえ、私は今の王の姿を一目見たかっただけなので」
「変わっておられますね」
「私は、前王をお慕いしていました。その前王の跡継ぎであられる現王がどのようなお姿なのか、気になっただけです」
「どうでしたか?王の姿は?」
「そうですね。正直におっしゃいますと、現王が行ってる善政からはあの容姿は想像できませんでした」
シンデレラは素直にそう言うと、青年はくすくすと笑っていた。
「正直な方ですね」
そう言う青年に、シンデレラはあることに気付いた。
「敬語苦手ですね」
「分かりましたか?」
「はい。私に、敬語なんか使わなくてもよいですよ」
「なら、アンタも敬語はよしてくれ」
「……ああ」
シンデレラと青年は敬語を止め、とりとめのない話を始めた。
シンデレラは城下街での出来事を、青年は城での出来事を。
二人は時間を忘れ、ずっと語り続けた。
その時、城の時計が十二時を告げる鐘を鳴らした。
シンデレラは魔法使いに言われたことを思い出し、慌ててその場を離れようとする。
「おい、何処に行くんだ?」
「すまない!もう帰らないといけないんだ!」
名残惜しかったが、青年にメイド服姿の自分を見せたくはない。
そう思い、シンデレラはその場を離れる。
「待ってくれ!アンタの名前は?」
シンデレラは、一瞬立ち止まり、そして振り返る。
もう長いこと呼ばれていない、自身の本当の名前を。
「レティシアだ!またいつか会おう!」
そう言い残し、シンデレラもといレティシアは今度こそ、城を離れた。
舞踏会から数日が経ったある日。
レティシアは、あの日の夜に出会った銀髪の青年の事が忘れられなかった。
またいつか会おう。
そう約束したが、多分あの約束が果たされることは無いと思っていた。
だが、それでももう一度彼に会いたい。
レティシアはそう思ってた。
その日、レティシアは継母に言われ城下街で買い物をしていた。
籠の中に買ったものを詰めてもらっていると、店員がレティシアに話しかけた。
「そう言えば、知ってますか?王がこの前の舞踏会である女性に一目惚れなさったそうですよ」
「ほう。まぁ、王が決めたお方ならお妃としては大丈夫だろう」
「ですが、その女性が何処にいるのか分からないそうなんですよね」
「せめて、家の場所を聞くべきだったね。王は」
「実は特徴を聞いてるんですが、その特徴に貴女が一致してるんです。貴女、先日の舞踏会に出席しましたか?」
レティシアはそのはずはないと心で思った。
確かに舞踏会に行ったが、王とは会っていない。
会ったのは、一人の青年だけだった。
「いや、残念だが私は行ってないよ」
そう言って、レティシアは籠を受け取り、家へと帰った。
「ちょっと良いか?」
「オーナー、どうかしましたか?」
店の奥からオーナーである女性が現れ、店員に話しかける。
「その王が一目惚れした女とはどのような奴じゃ?」
「えっと、金髪の長髪でリボンを付けて、背が小さく、レティシアという名前だそうです」
「…………それレティシア本人ではないか?」
「そうですよね」
レティシアが買い物から帰ると、扉がノックされた。
レティシアは、扉の前に移動し、扉を開ける。
すると、そこには城の衛兵たちがいた。
「この家にレティシアという名の女性が居ると聞いたのだが、おるか?」
「……私がそうですが」
衛兵の質問にそう返すと、衛兵たちは喜びの声を上げた。
「レティシア殿。お迎えにあがりました」
「はい?」
「貴女様を、シュウヤ王のお妃さまとしてお迎えにあがりました」
衛兵が何を言ってるのがレティシアには理解できなかった。
あの夜、舞踏会には確かに行った。
だが、シュウヤ王とは会話もせず、ただ遠目にレティシアが見ただけだった。
「あの……何かの間違いではないでしょうか?私は舞踏会には出席しておりません」
「そいつは嘘だな」
そう言って衛兵の間を掻き分けてきたのは、先日見たシュウヤ王だった。
「シュ………シュウヤ王」
レティシアは王が目の前に居ることに驚き、唇を震わせながらそう言った。
「悪いが、俺は王じゃねぇ」
その言葉にレティシアは、頭に?を浮かべる。
そして、よく見ると、彼の服装は先日見た王の服装ではなく、周りの衛兵たちと同じ造りの制服に腰には剣を帯びていた。
「そいつはイザヨイ。俺の護衛をやってくれてる親友だ」
そう言ってイザヨイの背後から、あの日の夜に出会った銀髪の青年が現れた。
「よぉ、レティシア。俺がシュウヤだ」
シュウヤが言うには、あの日、シュウヤは王としてではなく一人の男として自身の伴侶となる女性を探していた。
だが、舞踏会自体、大臣たちが無理矢理企画したもので、シュウヤ自身はあまり乗り気ではなかった。
むしろ、こんなことに税金を使うべきではないと考えていた。
会場をふらつき、替え玉にしたイザヨイにアピールしまくる女共に呆れていた。
そこで、外で休憩しようとした時、レティシアと出会った。
自分を飾らず、ありのままの姿で接し、王ではない自分を見てくれた。
そんなレティシアにシュウヤは心を惹かれたのだった。
「レティシア。俺の伴侶として生涯隣に居てくれないか?」
膝を降り、シュウヤは手を差し出す。
「…………はい」
レティシアはその手を取り、シュウヤの申し出を受け入れた。
こうして、レティシアはシュウヤの妃となり、共に国を治めて行きました。
めでたし、めでたし。