問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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エピローグ

“ヒッポカンプの騎手”が終わってから、数日。

 

今日は収穫祭の最終日で、サラの南の“階層支配者”就任式が行われた。

 

その様子を眺めながら俺達は収穫祭を振り返った。

 

「これで“龍角を持つ鷲獅子”連盟も落ち着くかな」

 

「そうですね。グリフィスも出奔し、反発する声はほとんど無くなったでしょうから」

 

グリフィスはサラが“階層支配者”を継ぐことが決定するとすぐにコミュニティを去ったそうだ。

 

まぁ、長の座を賭けて戦ったんだ。

 

敗者が去っていくのは、別におかしいことじゃない。

 

“二翼”のメンバーもすぐに現状を受け入れていた。

 

ちなみに、飛鳥をさらった連中はコミュニティを追放になり、“箱庭”の法の下、裁かれるらしい。

 

「サラの折れた龍角も“鷲龍”の角があれば大丈夫なのよね?」

 

「元々がドラコ=クライフの龍角だから一本だけだしね」

 

「他にもギフトを授かるそうだし、サラの腕なら大丈夫だろ」

 

飛鳥はそうと相槌を打つ。

 

そう言えば、心なしか十六夜と飛鳥の距離が近い気がする。

 

何かあったか?

 

そう思ってると、大樹の天辺で炎の嵐が吹き荒れた。

 

それと同時に、乾杯の音と音頭があちらこちらで鳴り響いた。

 

「………お疲れ様です、サラ様。黒ウサギ達も負けずに頑張るのです」

 

“アンダーウッド”を見上げ、羨望と祝福を込めて黒ウサギが呟く。

 

その時、年長組の中からリリが走り寄って来た。

 

「あの、黒ウサギのお姉ちゃん」

 

「……リリ?どうしました?」

 

神妙な顔をしてるリリに、黒ウサギは小首を傾げる。

 

リリは顔だけでなく、狐耳まで真っ赤にしながら抱きしめていた小袋を手渡しする。

 

「これは?」

 

「プレゼント。十六夜様や、修也様や、飛鳥様や、耀様や、ジン君たちや、私達みんなで選びました」

 

黒ウサギはその言葉にウサ耳を逆立てて驚く。

 

こちら視線を向けてくると、十六夜達は別方向にそっぽを向く。

 

「ま、こんな面白い場所に招待してくれたからな」

 

「連盟も組んで、一つの節目が出来たわけだし」

 

「だから、全員で感謝を形にしようってことになったんだよ」

 

「いつもありがとう、黒ウサギ」

 

十六夜、飛鳥、俺、耀の順番で話、最後は用が笑顔で締めた。

 

「あ、ありがとう………ございます…………!大切にさせてもらいます…………!」

 

黒ウサギは涙を流して喜んだ。

 

「ほら、泣かないの。折角のお祝いなんだから」

 

「そうだぜ。今夜は最終日、飲んで食わないでどうするってんだよ!」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!プレゼントの確認を」

 

「そんなのは後回しだ」

 

「行きましょう、黒ウサギ!」

 

慌てる黒ウサギを十六夜と飛鳥が黒ウサギの手を掴み、引っ張る形で広場に向かう。

 

その様子を俺と耀は笑って見送る。

 

「まったく落ち着きのない奴等だ」

 

「そうだね」

 

俺に賛同しながら耀も笑う。

 

「修也、私たちも行こう」

 

「…………耀。少し、話がある」

 

そう言って俺は耀の手を取って耀を連れ出す。

 

俺はある決心をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宴が賑わう中、俺は耀を連れ出し、ある場所に向かった。

 

そこは、数日前、耀に告白された場所だ。

 

「……修也、ここって」

 

「ああ、そうだ」

 

耀が後ろから声を掛けて来る。

 

おそらく耀は何を言われるのか分かっているだろう。

 

俺は後ろを振り向き耀と真っ直ぐに向き合う。

 

「耀、あの後俺なりに考えた。俺にとって耀がどんな存在なのか」

 

耀は黙って俺の話を聞く。

 

「最初はさ、耀の事最初は、不思議な子だと思った。でも、その後結構ノリがよくて、そして、ちょっとしたことですぐ不機嫌になって、なんか子供っぽい所がある女の子。でも、いざというときは体を張ってまで敵に立ち向かう。とても強い意志を持った子だと思った。そんな耀だからかな」

 

そこで一拍置き耀の眼をしっかりと見る。

 

「俺は好きになった」

 

耀は目を見開き驚きの表情をしていた。

 

「本当は、あのときにはもう答えが出てたのかもしれない。でも、不安もあったし、何かの間違いと思って返事を先延ばしにした。でも、それ以上に俺は怖かったんだよ。耀の告白に答えて、恋人になったら十六夜たちとの中に亀裂入るかもとか、距離ができちまうんじゃないかって。そんな勝手な理由で俺はお前の気持も思いも踏みにじっていたんだよ。ごめんな」

 

頭を下げ、耀に謝る。

 

耀は慌てた様子で俺に何かを言おうとする。

 

耀の事だからフォローでもいれるんだろう。

 

でも、俺はそのフォローを遮るように声を上げる。

 

「俺は、もう逃げない!自分の気持に正直になってお前の想いに応える。耀、こんな頼りの無く、ヘタレな俺だけど、お前さえ良ければ、俺と付き合ってくれ」

 

「………ずるいよ。私の気持ち、知ってながら聞いて来る」

 

「ごめん」

 

耀は涙目になりながら、そして、嬉しそうに笑う。

 

「……私こそ、よろしくお願いします」

 

「ありがとな。それと、お待たせ」

 

「うん、待ったよ」

 

俺は耀を抱きしめる。

 

耀も俺の背中に手を回し、しっかりと抱きしめる。

 

そして、見つめ合い唇を交わす。

 

「大好きだよ、修也」

 

「ああ、俺も大好きだ、耀」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“アンダーウッド”最高貴賓室

 

白夜叉は、貴賓室でグリーに“ノーネーム”が要求した『“サウザンドアイズ”の同士、鷲獅子のグリーが翼を失った原因は“ノーネーム”にあり。故に、傷がいえるまで彼を預かりたい』という恩賞の内容を伝え、それを見送ると、その後、蛟劉に東の“階層支配者”代行の任を引き受けてもらい、一息ついていた。

 

そして、キセルで煙を吹かしながら、呟く。

 

「いつまでそこにおる。さっさと出てこんか」

 

「ありゃ、バレてた?」

 

屋根の一部が開き、そこから一人の青年が現れる。

 

「おんしの気配を感じるなんぞ容易いわ。なんせ、私の自慢のバカ息子じゃからの」

 

「自慢とバカ息子って矛盾してね?」

 

「ふん、五年前、自身の所属するコミュニティを離れ、それから音信不通。そんな奴、バカ息子で十分じゃ」

 

「まぁ、それは悪かったと思ってる。ところで、“アルカディア”の皆は元気か?」

 

「………おんし、本当に知らんのだな」

 

「え?」

 

「“アルカディア”は魔王に名と旗印が奪われ“ノーネーム”となった」

 

「な!?本当か!黒ウサギや他の皆は!?」

 

青年は先程とは打って変わって取り乱した。

 

「落ち着け。“ノーネーム”は人材がいなくなり、メンバーはジンと黒ウサギ以外戦闘に参加できない子供だけじゃった。しかし、今は新たな同士が四人おる。その四人のお陰でレティシアを奪還し、今や“ノーネーム”を知らん奴等はおらんほどじゃ。なんせ、打倒魔王を掲げるコミュニティなんじゃからの」

 

「………打倒摩王って。それ本気だとしたら余程の実力者かアホだぜ」

 

「なら、見に行くか?」

 

「え?」

 

「わけあって私は、表立った行動が制限されることになった。そのため、私が不在の間、蛟劉に代行を頼んだ。じゃが、いくら彼奴でも最初は苦労するじゃろ。そこで、おんしに蛟劉の補佐をして欲しい。仕事の時以外は好きにして構わん。“ノーネーム”に出入りしてもじゃ」

 

「…………分かった。いいだろ。引き受けてやるよ」

 

「そう言うと思った。それと、これはとっておきの情報じゃ」

 

「んだよ?」

 

白夜叉の勿体ぶりに青年は少しイラつき始める。

 

「新たな四人の同士の一人は、クルーエ=ドラクレアの息子じゃ」

 

クルーエの名を出した途端、青年の目つきは鋭くなった。

 

「あってみたいじゃろ?」

 

「………ああ、お陰でな」

 

そう言うと立ち上がり、窓の縁に足を掛ける。

 

「会ってくるか。黒ウサギと、新たな同士。そして、まだ見ぬ俺の弟にな」

 

「喧嘩せぬようにな」

 

「善処する」

 

青年は、漆黒の翼を広げ、部屋を飛び出した。

 

その様子を見送り、白夜叉は懐から色あせた一枚の写真を取り出す。

 

「………同じ血を引き継ぐ者同士が会うか。一体どうなるかの。クルーエ?」

 




オリキャラの登場と、修也と耀が恋人になりました。

今回、最後で少し出ましたが、次章はオリジナルになる予定です。

その前に、問題児乙の三巻の内容と、ある話を書こうと思います。

では、次回もお楽しみに

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