問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
“アンダーウッド大樹の地下倉庫”
「おい、こいつで間違いないんだよな?」
「ああ、グリフィスさんの話だと、この女が騎手らしい。こいつさえ、攫っちまえば“ノーネーム”の屑どもはギフトゲームには参加できねぇ」
………ん?私………気絶してたの?
目覚めると、私は暗い倉庫の中に居た。
ギフトゲーム参加前だったので、水着を着ていたので少し肌寒い。
「でもよぉ、“ノーネーム”如きにそこまでする必要あるのか?」
あれは………“二翼”のメンバー?
そういえば、控室のテントに居た時、後ろから…………
「あの“ノーネーム”にいる銀髪の吸血鬼、あのクルーエ=ドラクレアの息子なんだってよ。所詮息子だと思ってたがよ、ありゃ、クルーエ=ドラクレアにも劣らねぇ強さだぜ」
「マジかよ!?てか、グリフィスさん、その吸血鬼の事、侮辱したんだよな」
「ああ、聞いた話だとな。まだ、このことは“アンダーウッド”の住民は知らねぇ。もし知られたりすれば、“二翼”はとんでもない目に会うぜ」
「それだけで済むかよ。下手すりゃ“龍角を持つ鷲獅子”連盟での居場所も失うかもしれねぇぞ!」
「こりゃ、グリフィスさんに付いているのもまずいかもな」
「早いうちに、見限るか」
最低な連中ね。
自分の所属するコミュニティの長が窮地に立たされていながら、助けようともせず、見限るなんて。
ま、あんな奴がリーダーじゃ、“二翼”も早々に潰れてたでしょうけど。
「おい!“ノーネーム”の連中が“ヒッポカンプの騎手”に参加してるぞ!」
「なんだと!?騎手は捕まえたはず!」
「控えのメンバーがいたらしい!それだけじゃない!グリフィスさんも“ノーネーム”の女にやられた!“二翼”の参加者は全滅だ!」
「なんだと!?」
どうやら、予想とは違う結末になったみたいね。
まぁ、十六夜君と修也君がいれば問題は無いでしょうね。
「おい、どうする?このままだと、俺達…………」
「“ノーネーム”を不参加に出来なかったってことで、グリフィスさんに…………」
「くそ!…………こうなりゃ、そうそうに逃げるぞ。元々、俺たちは先代のリーダーの部下なんだ!グリフィスさん、いや、グリフィスの野郎に従ってんのも先代への義理があったからだ」
「なぁ、この女どうする?」
一人の男が私を指差しながら言ってくる。
「そうだな…………よく見りゃ、良い体型してるじゃねぇか」
その言葉に身の毛がよだつ気がした。
「慰み者にでもして持ってくか」
「お前、いい趣味してるな」
「なら、早いとこ連れて行こうぜ」
修也たちが“ヒッポカンプの騎手”の終盤に差し掛かった時、十六夜とネズは、“二翼”のメンバーが飛鳥を連れ去ったと言う場所に着いていた。
倉庫の前で警備していた“二翼”のメンバーは既に気を失ってる。
「おい、ここにお嬢様が連れ込まれたってのは本当か?」
「ああ、間違いないヨ。オイラの部下がしっかりと張り付いて、尾行したんだからナ」
十六夜は中の様子を探ろうと、扉に耳を当てる。
『おら!こっち来い!』
『いや!離して!』
『いくら喚こうが、ここには誰も来ねえよ!』
「………彼奴等!」
「落ち着ケ!」
「離せ!今どういう状況か分かってんのかよ!」
「分かってるから落ち着ケ!今ここで暴れても得策じゃナイ。今、警備任務をしてる“一本角”と“五爪”のメンバーをオイラのコミュニティの仲間が連れて来ル。いくら、お前らが“アンダーウッド”を救ったって言っても所詮は“ノーネーム”。“二翼”と問題を起こせば、お前らにも処分が下される。下手すれば、コミュニティ間での戦争もあり得る」
ネズの言い分は正しかったので、十六夜は耐えた。
拳を握り、爪が掌に刺さり、血が滴る。
『いっそのこともうここで襲うか』
『そいつはいい。おい、この女の手を押さえろ』
『嫌!助けて、十六夜君!』
その瞬間、十六夜は拳を倉庫の扉に叩き付けた。
扉は砕け散り、倉庫内の埃を巻き上げる。
中では、飛鳥の水着は抜かされかけていた。
それを見て、十六夜は完全にキレた。
「テメーら!殺す!」
近くの男に飛びかかり、そのまま床に叩き付ける。
叩きつけられた床は、クレーターを作り、男の頭から血は血が噴き出す。
次に、飛鳥を押さえていた男の鳩尾に向け、蹴りを放つ。
丁度踵が入るように打ち込まれ、男は壁に叩き付けられる。
音速をこえた蹴りの衝撃は男の内臓にまで伝わり、口から盛大に血を吐いた。
おそらく、内臓がいくつか潰れた。
他にも、中に居た“二翼”のメンバーを十六夜は狂ったように殴り、蹴り、潰し、投げた。
そして、飛鳥に手を出そうとした男の前に立つ。
「ひ、ひい!?」
「お前だけは、絶対に許さねぇ」
「ま、待ってくれ!俺はグリフィスの命令で誘拐したんだ!オレの意志じゃない!」
「お前は、お嬢様に手を出そうとした。それだけでも十分だ」
「あ………ああ」
「安心しろ。一発で終わらせてやるよ」
拳を握り、高く上げる。
そして、第三宇宙速度で男の頭を殴りつける。
だが、その拳は止められた。
「お、お嬢様」
「ダメよ。十六夜君」
飛鳥が手を広げ、十六夜の前に立ちはだかった。
「……どけ。そいつはお前を」
「それでも、殺してはダメ」
そう言うと、飛鳥は十六夜の手を握る。
「十六夜君の手は……こんなことに使うものじゃないわ。もっと大きなことに使うもの。私の為に怒ってくれるのは嬉しいわ。でも、そのために人殺しになってほしくない。私は大丈夫よ」
飛鳥はそう笑顔で応えた。
「…………分かった。今回はお嬢様に従ってやる」
「ええ、ありがと」
その時、十六夜は気づかなかった。
男が、転がっていたナイフを手にしていたことに。
「何、呑気に会話してんだよ!“ノーネーム”!」
ナイフが、飛鳥に振り下ろされる。
十六夜は咄嗟に飛鳥を抱き寄せ庇おうとする。
飛鳥を抱きしめ、背中を相手に向ける。
目を固く閉じ、襲い掛かってくるであろう痛みを耐えようとする。
だが、いつまでたっても痛みは来なかった。
「まったく、危なっかしいゾ。イザっち」
男の首に、細長い銀色の針が刺さっていた。
針を投げたのはネズだった。
「オイラの投擲が間に合わなかったら、今頃お陀仏ダゼ」
「あ、ああ、助かった」
その後、すぐにやって来た“一本角”と“五爪”の旗印が描かれた羽織を着た警備員がやって来て、倒れている“二翼”の連中を連れて行った。
幸い、全員大けがを負っているが、命に別状はないそうだ。
今回の件はネズが証人となったので、“二翼”はゲーム参加妨害と誘拐の罪に問われることになった。
十六夜に関しては、ネズが裏で取引をして不問にした。
「十六夜君、助けてくれてありがとう」
「………いや、こうなったのは俺が原因だ。俺があの時、テントから離れなけりゃこんなことには………」
「でも、助けてくれたじゃない。それだけで、私は十分。ありがとう」
「…………お嬢様。ありがとな。そう言ってくれるとこっちも気が楽になる」
そう言って十六夜はいつもの笑顔を浮かべる。
「あ、そう言えば“ヒッポカンプの騎手”はどうなったの?なんか控えの選手がどうとか」
「ああ、俺とお嬢様の代わりにフェルナとコッペリアが出てる」
「そう、となると暇になったわね」
「折角だ。俺達は客席から修也たちの雄姿を観戦しようぜ」
「そうね」
「では、お手をどうぞ。お嬢様」
「……ふふ、ならエスコートお願い。十六夜君」
二人は手を繫ぎ、そして、楽しそうに観客席へと向かった。
まるで、恋人のように。
後、二話ぐらいで終わる予定です。
では、次回もお楽しみに