問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第10話 舞台袖での戦いだそうですよ?

“アンダーウッド大樹の地下倉庫”

 

「おい、こいつで間違いないんだよな?」

 

「ああ、グリフィスさんの話だと、この女が騎手らしい。こいつさえ、攫っちまえば“ノーネーム”の屑どもはギフトゲームには参加できねぇ」

 

………ん?私………気絶してたの?

 

目覚めると、私は暗い倉庫の中に居た。

 

ギフトゲーム参加前だったので、水着を着ていたので少し肌寒い。

 

「でもよぉ、“ノーネーム”如きにそこまでする必要あるのか?」

 

あれは………“二翼”のメンバー?

 

そういえば、控室のテントに居た時、後ろから…………

 

「あの“ノーネーム”にいる銀髪の吸血鬼、あのクルーエ=ドラクレアの息子なんだってよ。所詮息子だと思ってたがよ、ありゃ、クルーエ=ドラクレアにも劣らねぇ強さだぜ」

 

「マジかよ!?てか、グリフィスさん、その吸血鬼の事、侮辱したんだよな」

 

「ああ、聞いた話だとな。まだ、このことは“アンダーウッド”の住民は知らねぇ。もし知られたりすれば、“二翼”はとんでもない目に会うぜ」

 

「それだけで済むかよ。下手すりゃ“龍角を持つ鷲獅子”連盟での居場所も失うかもしれねぇぞ!」

 

「こりゃ、グリフィスさんに付いているのもまずいかもな」

 

「早いうちに、見限るか」

 

最低な連中ね。

 

自分の所属するコミュニティの長が窮地に立たされていながら、助けようともせず、見限るなんて。

 

ま、あんな奴がリーダーじゃ、“二翼”も早々に潰れてたでしょうけど。

 

「おい!“ノーネーム”の連中が“ヒッポカンプの騎手”に参加してるぞ!」

 

「なんだと!?騎手は捕まえたはず!」

 

「控えのメンバーがいたらしい!それだけじゃない!グリフィスさんも“ノーネーム”の女にやられた!“二翼”の参加者は全滅だ!」

 

「なんだと!?」

 

どうやら、予想とは違う結末になったみたいね。

 

まぁ、十六夜君と修也君がいれば問題は無いでしょうね。

 

「おい、どうする?このままだと、俺達…………」

 

「“ノーネーム”を不参加に出来なかったってことで、グリフィスさんに…………」

 

「くそ!…………こうなりゃ、そうそうに逃げるぞ。元々、俺たちは先代のリーダーの部下なんだ!グリフィスさん、いや、グリフィスの野郎に従ってんのも先代への義理があったからだ」

 

「なぁ、この女どうする?」

 

一人の男が私を指差しながら言ってくる。

 

「そうだな…………よく見りゃ、良い体型してるじゃねぇか」

 

その言葉に身の毛がよだつ気がした。

 

「慰み者にでもして持ってくか」

 

「お前、いい趣味してるな」

 

「なら、早いとこ連れて行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

修也たちが“ヒッポカンプの騎手”の終盤に差し掛かった時、十六夜とネズは、“二翼”のメンバーが飛鳥を連れ去ったと言う場所に着いていた。

 

倉庫の前で警備していた“二翼”のメンバーは既に気を失ってる。

 

「おい、ここにお嬢様が連れ込まれたってのは本当か?」

 

「ああ、間違いないヨ。オイラの部下がしっかりと張り付いて、尾行したんだからナ」

 

十六夜は中の様子を探ろうと、扉に耳を当てる。

 

『おら!こっち来い!』

 

『いや!離して!』

 

『いくら喚こうが、ここには誰も来ねえよ!』

 

「………彼奴等!」

 

「落ち着ケ!」

 

「離せ!今どういう状況か分かってんのかよ!」

 

「分かってるから落ち着ケ!今ここで暴れても得策じゃナイ。今、警備任務をしてる“一本角”と“五爪”のメンバーをオイラのコミュニティの仲間が連れて来ル。いくら、お前らが“アンダーウッド”を救ったって言っても所詮は“ノーネーム”。“二翼”と問題を起こせば、お前らにも処分が下される。下手すれば、コミュニティ間での戦争もあり得る」

 

ネズの言い分は正しかったので、十六夜は耐えた。

 

拳を握り、爪が掌に刺さり、血が滴る。

 

『いっそのこともうここで襲うか』

 

『そいつはいい。おい、この女の手を押さえろ』

 

『嫌!助けて、十六夜君!』

 

その瞬間、十六夜は拳を倉庫の扉に叩き付けた。

 

扉は砕け散り、倉庫内の埃を巻き上げる。

 

中では、飛鳥の水着は抜かされかけていた。

 

それを見て、十六夜は完全にキレた。

 

「テメーら!殺す!」

 

近くの男に飛びかかり、そのまま床に叩き付ける。

 

叩きつけられた床は、クレーターを作り、男の頭から血は血が噴き出す。

 

次に、飛鳥を押さえていた男の鳩尾に向け、蹴りを放つ。

 

丁度踵が入るように打ち込まれ、男は壁に叩き付けられる。

 

音速をこえた蹴りの衝撃は男の内臓にまで伝わり、口から盛大に血を吐いた。

 

おそらく、内臓がいくつか潰れた。

 

他にも、中に居た“二翼”のメンバーを十六夜は狂ったように殴り、蹴り、潰し、投げた。

 

そして、飛鳥に手を出そうとした男の前に立つ。

 

「ひ、ひい!?」

 

「お前だけは、絶対に許さねぇ」

 

「ま、待ってくれ!俺はグリフィスの命令で誘拐したんだ!オレの意志じゃない!」

 

「お前は、お嬢様に手を出そうとした。それだけでも十分だ」

 

「あ………ああ」

 

「安心しろ。一発で終わらせてやるよ」

 

拳を握り、高く上げる。

 

そして、第三宇宙速度で男の頭を殴りつける。

 

だが、その拳は止められた。

 

「お、お嬢様」

 

「ダメよ。十六夜君」

 

飛鳥が手を広げ、十六夜の前に立ちはだかった。

 

「……どけ。そいつはお前を」

 

「それでも、殺してはダメ」

 

そう言うと、飛鳥は十六夜の手を握る。

 

「十六夜君の手は……こんなことに使うものじゃないわ。もっと大きなことに使うもの。私の為に怒ってくれるのは嬉しいわ。でも、そのために人殺しになってほしくない。私は大丈夫よ」

 

飛鳥はそう笑顔で応えた。

 

「…………分かった。今回はお嬢様に従ってやる」

 

「ええ、ありがと」

 

その時、十六夜は気づかなかった。

 

男が、転がっていたナイフを手にしていたことに。

 

「何、呑気に会話してんだよ!“ノーネーム”!」

 

ナイフが、飛鳥に振り下ろされる。

 

十六夜は咄嗟に飛鳥を抱き寄せ庇おうとする。

 

飛鳥を抱きしめ、背中を相手に向ける。

 

目を固く閉じ、襲い掛かってくるであろう痛みを耐えようとする。

 

だが、いつまでたっても痛みは来なかった。

 

「まったく、危なっかしいゾ。イザっち」

 

男の首に、細長い銀色の針が刺さっていた。

 

針を投げたのはネズだった。

 

「オイラの投擲が間に合わなかったら、今頃お陀仏ダゼ」

 

「あ、ああ、助かった」

 

その後、すぐにやって来た“一本角”と“五爪”の旗印が描かれた羽織を着た警備員がやって来て、倒れている“二翼”の連中を連れて行った。

 

幸い、全員大けがを負っているが、命に別状はないそうだ。

 

今回の件はネズが証人となったので、“二翼”はゲーム参加妨害と誘拐の罪に問われることになった。

 

十六夜に関しては、ネズが裏で取引をして不問にした。

 

「十六夜君、助けてくれてありがとう」

 

「………いや、こうなったのは俺が原因だ。俺があの時、テントから離れなけりゃこんなことには………」

 

「でも、助けてくれたじゃない。それだけで、私は十分。ありがとう」

 

「…………お嬢様。ありがとな。そう言ってくれるとこっちも気が楽になる」

 

そう言って十六夜はいつもの笑顔を浮かべる。

 

「あ、そう言えば“ヒッポカンプの騎手”はどうなったの?なんか控えの選手がどうとか」

 

「ああ、俺とお嬢様の代わりにフェルナとコッペリアが出てる」

 

「そう、となると暇になったわね」

 

「折角だ。俺達は客席から修也たちの雄姿を観戦しようぜ」

 

「そうね」

 

「では、お手をどうぞ。お嬢様」

 

「……ふふ、ならエスコートお願い。十六夜君」

 

二人は手を繫ぎ、そして、楽しそうに観客席へと向かった。

 

まるで、恋人のように。

 




後、二話ぐらいで終わる予定です。

では、次回もお楽しみに

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