問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第4話 “覆海大聖”蛟魔王だそうですよ?

「………ん、い、いつつ」

 

ふっと水分を多量に含んだ空気と、頭の鈍痛で目が覚める。

 

体を起こすと、そこは俺に割り当てられた部屋の中だった。

 

「ご主人様!大丈夫ですか!?」

 

「マスター!御身体は大丈夫ですか!?」

 

「フェルナ、コッペリア」

 

ベットの近くで、俺のことを不安げに見ているフェルナとコッペリアに気付きく。

 

「一体何があたんだ?」

 

「えっと、“二翼”の長と、ご主人様が今にも決闘しそうなとき、一人の男性の方が乱入し、ご主人様を凄い力で殴りつけたんです」

 

「殴りつけた?」

 

「はい、それも地面に叩き付けるように」

 

………吸血鬼の力を解放した俺を殴りつけれる奴か…………

 

そんなことできるとしたら、そいつはかなりの手の者だな。

 

「皆は今どこに?」

 

「はい、“アンダーウッド”収穫祭本陣営に居ます。“ノーネーム”側から、耀さん、十六夜さん、飛鳥さん、黒ウサギさん、ジン君に、、“龍角を持つ鷲獅子”連盟からサラさん、それと、“二翼”の代表で頭首のグリフィスが居ます」

 

「そうか、じゃあそこに向かおう」

 

「え?で、でも」

 

「俺は大丈夫だ。ほら、案内してくれ」

 

「は、はい!」

 

「では、こちらに」

 

フェルナとコッペリアの案内で俺は収穫祭本陣営に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

収穫祭本陣営に着くと中では、一触即発の状態だった。

 

なかで馬肉野郎がギャーギャーと喚き散らしてやがる。

 

頭を掻き、溜息を吐いて扉を開ける。

 

「よ、白熱してるな」

 

「修也!」

 

中に入ると真っ先に耀が寄って来た。

 

「大丈夫?」

 

「ああ、特に問題は無い」

 

様の頭に手を置いて軽く撫でる。

 

「やぁ、先程ぶりやな」

 

眼帯に細身で細目、胡散臭い笑みを浮かべた関西弁の男が近づいてきた。

 

「アンタは?」

 

「僕は蛟劉。好きに呼んでいいで」

 

「そうか、所で俺を殴ったのはアンタだな」

 

「うん、そうや」

 

隠しもせずに肯定する。

 

「随分と、はっきり言うんだな」

 

「隠してもしゃあないやろ?それに、君ならあの力で殴っても大丈夫屋と確信したからやったんや」

 

胡散臭い笑みで笑い言う。

 

「所で、君の名前は?」

 

「ああ、悪かったな。月三波・クルーエ・修也だ。よろしく、蛟劉」

 

「クルーエ? そうか…………そっくりや」

 

今度は胡散臭い笑みではなく、安らかな笑みだった。

 

「蛟劉も親父と知り合いか?」

 

「そうやね、知り合いと言うより、酒飲み仲間に近いかな?」

 

へらへらと屈託のない笑みで笑う。

 

ひとしきり笑うと、席に座ってるグリフィスに向き直る。

 

「話を戻そっか。で、グリフィス君。オマエ何処の誰に喧嘩売ったと思ってるんや?」

 

「何を今更。私はそこの名無しの屑に」

 

「阿保、この子らは問題ない。そしてサラちゃんも問題ない。大きな問題は白夜王の同志を侮辱したこととこの子を愚かな吸血鬼って言ったことや。あの鷲獅子は“サウザンドアイズ”の同志やぞ。同士が負った名誉の傷を侮辱されたと、身内贔屓の白夜王が知ったら―――“二翼”は今日明日中に皆殺し屋やで?」

 

グリフィスは言葉を飲み、蒼白になる。

 

しかし、思い出したように言葉を上げる。

 

「わ、我が弟のことは理解した!だが、そこの吸血鬼を侮辱したことが何故問題なんだ!?」

 

「決まっとる。この子がクルーエ君の子やからや」

 

「く、クルーエ?………ま、まさか!こ、この小僧が、あのクルーエ=ドラクレアの息子だと言うのか!?」

 

「そのまさかや。クルーエ君は十年前“アンダーウッド”を救った。“アンダーウッド”の住民たちにとっては英雄や。それだけやない。クルーエ君は、“龍角を持つ鷲獅子”連盟に所属しとるコミュニティの長と君の親父さんとも親交があったし、“箱庭”では、神の様に崇めとるコミュニティもあれば、ファンクラブのようなコミュニティもある。更に“サウザンドアイズ”“ケーリュケイオン”“クイーン・ハロウィン”と言った大型のコミュニティまでも、クルーエ君には一目置いとったし、敬愛もしとった。特に白夜王とクイーン・ハロウィンのお気に入りや。白夜王との仲は言わずもがな、クイーン・ハロウィンが最初に寵愛したのはクルーエ君やしね。

そして、その息子を愚かな吸血鬼って言ったことは、間接的にクルーエ君の血筋を馬鹿にしたことにもなる」

 

グリフィスは先程以上に顔面蒼白になり、体を震わせ始めた。

 

「分かったかいな?要するに君は、最強の“階層支配者”にして白夜の精霊、加えて太陽の主権を十四もそろえとる。早い話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマエ、十四の巨龍と“龍角を持つ鷲獅子”連盟、“箱庭”に存在する半数以上のコミュニティと戦えるか?」

 

誰もが戦慄した。

 

あの巨龍が十四体に、“龍角を持つ鷲獅子”連盟、“箱庭”に存在する半数以上のコミュニティが一斉に襲い掛かってきたらどうなるか容易に想像できる。

 

「そして…………僕も黙っておらんし、僕の義兄弟、特にあの人も黙っておらんよ」

 

グリフィスは顔から表情を無くし、震えている。

 

「ま、今回は素性を知らんかったことやし、この子の侮辱の件は不本意ながら目をつぶったる。そんで、君を止めたのもこういう理由や。落日なんて、若いうちから経験するものやないよ」

 

グリフィスは不満そうにするが蛟劉の言い分はもっともだし、何よりあれだけの数を相手にするほど度胸、戦力もない。

 

舌打ちをして、扉に手をかけようとするがそれを十六夜が止めた。

 

「待てよ馬肉。何勝手に話をまとめてやがる。逃げてんじゃねぇよ。白夜叉の一件なんてそっちの都合だろ。何で俺たちが譲歩しなきゃいけない」

 

「ちょっと落ち着けよ少年。気持ちは分かるが、先に手を出したのはそっちやで?本来なら、君たちが裁かれるべき立場でもおかしくないんやから」

 

「なら、公衆の面前で、口舌で切りつけるのは無罪か?口舌は刃も無く、相手の体に傷も付けなけりゃ、痣も残らない。代わりに魂を傷つけ、涙を流させる。俺に言わせりゃその方が悪辣で卑劣。畜生以下のクソッタレだ。ましてや斬られたのは十歳のガキとあっては尚更だ。それに……………俺は自分の親友を侮辱されて黙ってられる様な人間じゃねえ。白夜叉が牙を剝くとしたらそれは同じ口上のはずだ。……………違うか?」

 

十六夜に睨まれ蛟劉も一考する。

 

「なるほど。一理ある」

 

「な!?」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

そこで俺は声を上げる。

 

「十六夜はこの結果に納得がいかない。そんで、そこの馬に……グリフィスもまた納得してないが、状況が悪いから大人しく引く。このままじゃ、互いに遺恨を残す。なら、ギフトゲームで決着を付ければいい」

 

「なるほど。それは良い案や。確か、二日後の“ヒッポカンプの騎手”が収穫祭で一番大きなゲームやったな」

 

「なら、それで決着を付ける。どうだ?」

 

「いいぜ。敗者は勝者に壇上で土下座だ。異論はあるか?」

 

「…ふん。今から恥を掻く準備をしておくのだな」

 

「俺のセリフだ、馬肉。お前の抜いた刃は収める鞘の無い諸刃の刃。お前が虚仮にしたグリーの傷は、俺の手足の代償。その代償は必ず支払わせるからな」

 

十六夜の怒気に気圧されながらも、グリフィスは舌打ちをしながら本陣営を後にした。

 

蛟劉は溜息を吐いて頭を下げた。

 

「すまんな、少年。ッ君の言い分は一々尤もや。よう我慢してくれた」

 

「別に、アンタの為じゃない」

 

十六夜は鼻をフンと鳴らし椅子に座る。

 

そして、思い出したかのようにニヤリと笑う。

 

「………けど驚いたぜ。強いと思ってたが、まさか、西遊記の蛟魔王とはな。アンタの記述は無いに等しい。一度聞いてみたかった」

 

「あら、なそれを言うなら私も聞きたいわ」

 

「そういいうことなら黒ウサギも聞いてみたいのです!」

 

「へぇ~、蛟魔王か。そいつは驚きだな、俺も是非聞かせてほしい」

 

「修也が聞くなら私も聞きたい」

 

「及ばせながら私も拝聴させていただきたいです」

 

「あの、私も聞きたいです」

 

“ノーネーム”一同、目を輝かせて蛟劉に詰め寄る。

 

「あーいやいや、年寄りの昔話なんてそんな」

 

「美味い肴はあるぞ」

 

「美味しい前菜もあるわ」

 

「おいしいお酒も…ありますけど果汁ジュースで手を打ってくださいな!!」

 

「逃げることはできないぜ」

 

「大人しくしたほうがいい」

 

「は、ははは、これはこれは」

 

蛟劉は観念したように笑い、席に付いた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃の収穫祭、舞台壇上では

 

「 と い う わ け で ! 収 穫 祭 の メ イ ン ゲ ー ム ・ “ ヒッ ポ カ ン プ の 騎 手 ” の 水 馬 の 貸 し 出 し は ! 全 員 、 水 着 の 着 用 を 義 務 と す る ! 」

 

「 う お お お お お お お お お お お お お お お お お !」

 

「 白 夜 叉 様 万 歳 ! ! 白 夜 叉 様 万 歳 ! !」

 

「 “ サ ウ ザ ン ド ア イ ズ ” 万 歳 ! ! 」

 

「 尚 ! 専 属 審 判 の 黒 ウ サ ギ は ! ! 審 判 中 は 常時 ・ ビ キ ニ 水 着 だ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ! !」

 

「 シ ャ オ ラ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! 」

 

「 大 正 義 白 夜 叉 様 万 歳 ! ! 」

 

「 黒 ウ サ ギ の 水 着 姿 万 歳 ! ! 」

 

「 フ ハ ハ ハ ハ ハ ハ ! ! ! 諸 人 よ 、 我 を 讃 えよ ! ! ! 神 仏 よ 、 我 を 恐 れ よ ! 我 こ そ は 不 落 の 太 陽 の 具 現 ! ! ! 遥 か な 地 平 の 支 配 者 ! ! ! “ 白 き 夜 の 魔 王 ” 白 夜 王 也 ! ! ! 」

 

白夜叉が暴走していた。

 

そして、観衆も暴走していた。

 

そして、夜空の三日月は生ぬるく彼らを見つめていた。

 




近々、タイトルを変更しようかと考えています。

取りあえず、蒼海の覇者編が終わってから変えようと思います。

後、タグに十六夜×飛鳥を追加しました。

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