問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第2話 初めての感情だそうですよ?

狩猟祭の結果、優勝は“ウィル・オ・ウィスプ”で、俺達“ノーネーム”と“六本傷”は上位入賞に収まった。

 

耀と飛鳥は、制限が無ければ優勝できたと文句を言ってたが、手の内をさらす理由は無いからと宥めた。

 

そして、とうとう収穫祭が始まり、開会式も終わった。

 

まさか、白夜叉が美幼女から美女になっているとは思わなかったのでかなりびっくりした。

 

立食会が始まり、俺はネズさんの所に向かった。

 

「よ、ネズさん」

 

「よぉ、シュウ坊!お前さんも飲むカイ?」

 

手に持ったラム酒が入ったコップを片手に聞いて来る。

 

「いや、今はいい。それより、話がある」

 

「ン?何ダ?」

 

「俺達“ノーネーム”と同盟を組んでほしい」

 

「ほぉう」

 

声色が変わり、雰囲気も変わる。

 

「俺達“ノーネーム”が六桁に昇格するには旗が必要だ。だが、俺たちには旗印も名もない。そこで、連盟旗を作るつもりだ。そのためにネズさんのコミュニティと同盟を組みたい」

 

「………なるほどネ。………悪いケド、簡単に首を縦に振るわけにはいかないナ。これでも、オイラはコミュニティの長ダ。長だからこそ、そう簡単に同盟の話には乗れない」

 

確かに、同盟になるってことは、魔王が襲撃した際には助けに行くってことにもなる。

 

ましてや、俺達は魔王に喧嘩を売ってる。

 

そう簡単には乗ってくれないだろう。

 

「それは分かってる。もし、ネズさんのコミュニティが魔王の襲撃を受けたら必ず助けに行く。これは、俺達“ノーネーム”全員の意志だ」

 

「そうは言ってもネ。それが確実だって保証はないだロ。悪いが、やっぱり乗れないネ」

 

話は平行線になりそうだ。

 

俺は、懐から一つの短剣を取り出す。

 

そして、それを勢いよく自分の左腕に突き刺した。

 

短剣は左腕を貫き、刃に血が伝う。

 

「な、何ヲ!?」

 

「我、月三波・クルーエ・修也は、この傷と名と、誇りに掛けてコミュニティ“インフォーマント”が魔王に襲われた際、必ず救援に行くことを誓う。………………これが、俺の覚悟だ」

 

ネズさんは口を開けたまま固まる。

 

そして、溜息を吐く。

 

「はぁ~、シュウ坊は少し、自分の身体を大切にすることを覚えるべきダ。いいだろう、その同盟受けるヨ」

 

「ありがとな」

 

「とりあえず、腕出しナ。治療スル」

 

短剣を突き刺した左腕を差し出すと、ネズさんは手慣れた手付きで治療していく。

 

「たく、親父さんと似てシュウ坊もアホとはナ」

 

「悪い。でも、こうしないと言信じて貰えないと思ってさ」

 

「まぁ、同盟の件はいいとして、オイラたちのコミュニティは情報屋みたいなものだ。魔王のゲームに参加するにはお荷物だゾ?」

 

「ネズさんのコミュニティにはゲームに参加してもらうつもりはないさ。情報を定期的に流してくれればいい」

 

「まぁ、それぐらいならいいゾ」

 

治療終わりっと言ってネズさんは包帯を巻かれた俺の腕を叩く。

 

「イッツ!?……叩かないでくれよ」

 

「アホにはいい薬サ!」

 

そう言うと、ネズさんはこれから仕事だからっと言って去って行った。

 

「同盟の件はなんとかなりそうだな。後は“ペルセウス”だけか」

 

最後の同盟相手候補“ペルセウス”について考えてると、十六夜とリリの姿が見えた。

 

「おーい、十六夜、リリ。何してんだ?」

 

「あ、修也様!」

 

「よぉ、これからグリーの所に肉を届けようと思ってな」

 

そう言って十六夜は担いだ麻袋を指す。

 

「なるほどな。リリはどうするんだ?」

 

「私は年長組を一度集めます。“六本傷”の料理がもうすぐできあがるそうなんで」

 

「ああ、あの“斬る”“焼く”“齧る”の三工程で食べる料理か」

 

「はい!レティシア様曰く『焼けた肉を食べるための肉料理』だそうです。一度食べて見たくて」

 

「なら、俺もリリに付いて行く。一人じゃ心配だし、それに俺もその料理に興味がある」

 

「それ、私も行く」

 

俺の背後に耀が現れた。

 

何故か気絶した女性店員と飛鳥を背負って。

 

「それ何処にあるの?」

 

「えっと、いつ上の断崖だと思いま」

 

「なら、早く行こう。飛鳥達が目を覚ます前に、さぁ、レッツ、立食」

 

そう言って俺の首根っこを摑まえ、リリを担いで飛び出した。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜SIDE

 

素早い手際で春日部の奴、修也とリリを連れ去ったな。

 

取りあえず、目を覚ましたお嬢様に手を差し出す。

 

「よぉ、何やってんだよ、お嬢様」

 

「……十六夜君には関係ないわ」

 

あれまぁ、拗ねちまった。

 

まぁ、可愛いからよしとしよう。

 

「ちょっとそこの貴方つかぬ事を聞きますが」

 

店員が立ち上がり何かを言ってきた。

 

少しからかうか

 

「着物捲れて下着見えてんぞ」

 

「こぶしぐらいの精霊を―――って嘘!?」

 

「嘘だ」

 

その瞬間、薙刀が振り下ろされた。

 

それを真剣白羽取りで受け止める。

 

へぇ~、早いな。

 

「あんた、ただの店番じゃなかったんだな」

 

「店番が武術を心得ていて当然です。貴方のような不埒者を切り捨てるために」

 

「実は………本当に丸見えよ」

 

お嬢様も乗ってきやがった。

 

「嘘!?」

 

「嘘よ」

 

すると、手刀がお嬢様に落とされる。

 

「貴方たちのコミュニティにはバカばっかりですか!?」

 

「「否定はしない」」

 

「そこは嘘でも否定しなさい!」

 

顔を真っ赤にして女性店員は去って行った。

 

「………で、お嬢様はどうするんだ?」

 

「……そうね、折角だし、収穫祭でも見て回るわ」

 

「そうかい、ま、楽しみな」

 

グリーの所に向かおうと足を進ませるが、何かが俺の袖を掴み俺の動きを止めた。

 

俺を止めたのはお嬢様だった。

 

「…どうした、お嬢様?」

 

「え?いや、あの、その………」

 

何故かお嬢様は顔を真っ赤にして、狼狽える。

 

「い、十六夜君さえ良ければ、一緒に回らない?」

 

………こいつは驚いた。

 

まさか、お嬢様からお誘いが掛かるとはな。

 

さて、少しからかって

 

「その、駄目………かしら?」

 

その瞬間、俺の思考は一瞬停止した。

 

お嬢様が頬を赤らめて、上目づかいをしてきた。

 

それも、今にも消えそうな弱々しい声で。

 

顔に血が回って、熱くなるのが分かった。

 

な、何なんだよ、こいつは!?

 

「あ、ああ、いいぜ。俺がエスコートしてやるよ」

 

いつの間にか口が勝手にしゃべりだしていた。

 

「ほ、本当!?良かった」

 

お嬢様は嬉しそうに笑顔になる。

 

その笑顔を見た瞬間、俺の心臓は激しく鼓動した。

 

本当に何なんだよ!?

 

「じゃ、じゃあ、手、お願いね」

 

「お、おう」

 

お嬢様の手を取り、収穫祭を見て回り始めた。

 

手を握ると、さっき以上に激しく鼓動した。

 

だが、それがとても心地よかった。

 

それにしても、この鼓動と感情は何だ?

 




取りあえず、十六夜にフラグは立った。

後は、もうひと押しで飛鳥は完全に落ちます。

では、次回もお楽しみに。

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