問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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番外編 神造永久機関コッペリアだそうですよ?

月が“アンダーウッド”の頂に上る頃、俺は飛鳥とジャックと共に、“アンダーウッド”の地下工房に向かった。

 

第三永久機関を造るためだ。

 

十六夜、耀、白雪姫、リリは例の館に向かってもらい退廃の風を食い止めてもらうことにした。

 

本当はリリには行かせたくなかったが、リリが自分の何か手伝いたいと必死に懇願してきたので、無理をしないということを条件同行させることにした。

 

まぁ、十六夜もいるし大丈夫だろう。

 

「修也さん、第三永久機関を造ってほしいという依頼は無理がありますよ。私はただの鍛冶師ですから」

 

「だが、ジャック以外に頼めそうな奴はいないし、作れそうなやつもいない永久機関の理論は知ってるだろ?」

 

「ええ、ですが、あれはエントロピーの増大則の確立によって実現は不可能とされたはずですが?」

 

「それなら問題ない。ディーンを使えばな」

 

ジャックと飛鳥は首を傾げる。

 

「どういうことなの?」

 

「飛鳥は、蒸気機関車がどうやって動くかは知ってるか?」

 

「え、ええ、確か周囲の熱と気圧を使って車輪を動かしてるのでしょう?」

 

「ああ、石炭を燃やして温度差を作り、そのピストン運動で動かしてる。だが、温度差がないとピストンは動かなく、エネルギーは抽出されない。これが熱力学第二法則。エントロピーの増大則だ」

 

「な、なるほど」

 

飛鳥は納得したように手を叩く。

 

「だが、その問題を解決する方法はディーンにある。ディーンは神珍鉄でできてる。神珍鉄は伸縮する金属。ピストン運動を神珍鉄の伸縮で補えば簡単な構造で永久機関が完成する」

 

ジャックは納得したように頷き、手を叩く。

 

「ようやく納得しました!後は構造の簡略化と、飛鳥嬢の許可ですね」

 

「ああ………飛鳥、話は聞いての通りだ。永久機関を造るにはディーンの神珍鉄が必要だ。小さな破片でいいんだが、小さな破片一つでもディーンの霊格が僅かに縮小しちまう。それを承知の上で頼む、神珍鉄を譲ってくれないか?」

 

頭を下げ、飛鳥に頼む。

 

飛鳥は少し黙り込むと、溜息を尽いた。

 

「………今の流れて引き受けないわけにはいかないでしょ」

 

「ありがとな。その代り、ディーンの修理費は俺が払う」

 

「………え?」

 

飛鳥は、言葉の意味が一瞬理解できず真顔になり、数秒後、やっと言葉の意味が理解できた。

 

「ディ、ディーンを修理できるの!?」

 

「ああ、ジャックの話によるとな」

 

俺はジャックの方を向き、尋ねるように聞く。

 

「ヤホホホ!造作もありませんよ!神珍鉄の加工には手間がかかるでしょうけど、一ヶ月もあれば修理は可能です!それに、修也殿からは既にお代を頂いておりますし」

 

飛鳥は、ジト目で俺の方を見て、そして、呆れたように笑う。

 

「始めからこのつもりだったでしょ、修也君?」

 

「ああ、俺はしっかり切り札は隠しておく主義なんでな」

 

そして、ギフトカードから一つの機械を取り出し、ジャックに渡す。

 

「これは親父が作った第三永久機関の未完成のモノだ。構造はコレを元に頼む」

 

「ヤホホホホ!分かりました」

 

ジャックはそれを持ち作業を開始し始める。

 

俺は台座に寝転がり、施術の時を待ってるコッペリアに近づく。

 

「よお、気分はどうだ?」

 

「そう……ですね。期待と恐怖が半々と言ったところでしょうか」

 

自分が完成されるかどうかの問題だからな。

 

そうなっても仕方がないか。

 

俺はコッペリアに手を伸ばし、頭を優しく撫でた。

 

「リラックスしろ。嫌なことは考えず、楽しいことだけを考えろ」

 

「楽しいこと?」

 

「例えば……完成したお前が俺たちと仲良く食事するとかだ」

 

そう言って笑うと、コッペリアは呆けた表情になり、そして、くすっと笑った。

 

「そうですね。そう考えましょう」

 

 

「ああ」

 

俺たちの会話が終わると同時に、ジャックが近寄って来た。

 

「これより施術を行いますが。よろしいですか。コッペリア嬢?」

 

「ええ、お願いします、スミス・パンプキン」

 

そう言ってコッペリアは目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの日だったか覚えていない。

 

あの日、一人の男性が館を訪れた。

 

男性は“契約書類”を読むと、館を早々に出て行った。

 

数日後、男性は手に見慣れぬ機械を持ってやって来た。

 

男性は申し訳なさそうに、その機械を私の近くの机に置いた。

 

「すまないな。今の俺にはこれが精一杯だ。だが、いつの日か必ず君をここから救ってくれる人が来る。それまで、耐えてくれ」

 

大きな武骨な手で私の頭を撫でると、男性は優しく微笑んだ。

 

「またいつの日か会おう。踊る人形さん」

 

そう言って男性は館を去っろうとした。

 

「あ、あの!」

 

私は初めて自分から話しかけた。

 

男性は歩みを止めこちらを振り返る。

 

「……貴方様の、お名前は?」

 

そう聞くと男性は笑い、答えた。

 

「クルーエ=ドラクレア。ただのおっさんさ」

 

その笑顔は、先程のあの方ととてもそっくりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施術自体はそんなに時間はかからなかった。

 

数十分後にはコッペリアの中に第三永久機関が埋め込まれ、コッペリアは完成した。

 

「気分はどうだ?」

 

「とても、いいです」

 

「よし、なら行こう。お前の為に頑張ってくれてる皆の所に」

 


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