問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
“アンダーウッド”主賓室
俺は自分に割り当てられた部屋にこもり、先程の“契約書類”について考えた。
『───わたしはせかいいちのはたらきもの───
ひとりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!
だれのてをかりなくてもうごいてうごいてうごきつづけたよ!
あまりにうごきつづけたから、はじめのとうさんもおおよろこび!
だけどあるひ、それがうそだとばれちゃった。
ひとりめのとうさんとわたしは、うそがばれてこわれちゃった。
ふたりめのわたしはせかいいちのはたらきもの!
ともだちがてをかしてくれたから、うごいてうごいてうごきつづけたよ!
あまりのもうごきつづけたから、つぎのとうさんもおおよろこび!
だけどあるひ、それがにせものだとばれちゃった。
でもふたりめのわたしととうさんは、ともだちのおかげではたらきつづけたの。
さんにんめのわたしはほんとうにはたらきもの!
まだうまれてないけど、えいえんにはたらきつづけるの!
はやくうまれろ!はやくうまれろ!みんながそういいつづけたよ!
だけどあるひ、わたしがうまれないとばれちゃった。
だからさんにんめのとうさんは、さんにんめのわたしをあきらめたの。
だけどそんなのゆるさない!たくさんのとうさんがわたしをまっている!
とみも!めいせいも!じんるいのゆめも!わたしがうまれたらてにはいる!
だからお願い……私を諦めないで……!例え、真実が答えでも……!』
この文面から考えるとわたしって言うのは内容からして人物ではない。
おそらく創作物、かりに創作物Xとしよう。
そして、とうさんと言うのはその創作物Xを作ろうとした製作者A、B、Cとすれば、“わたし”が共通に対し“とうさん”が複数人で表してる矛盾が解ける。
制作者Aは失敗談、製作者Bは副次的な成功談、製作者Cは創作物Xの未来。
即ち、主催者は三度に渡って研鑽された特定の人造物・あるいは研究の成果が擬人化した者か…………
「三世代にわたって研究・研鑽された何か……………となるとアレか」
文面から考えるとクリア方法は…………
「おいおい、残酷だな」
十六夜が残酷だと言ってた理由が分かった。
「……………よし、もう一度あの店に行くか」
俺は椅子から立ち上がり、もう一度あの店に向かうことにした。
店に続いてる隙間には立ち入り禁止の看板があった。
「ま、いっか」
看板をスルーし、俺は隙間の中を進む。
隙間の中を進み、店に着くとちょうどリリが中に入ろうとしていた。
「こら、リリ」
「ひゃう!?しゅ、修也様………」
「ここは危ないから近づいたら駄目だって言っただろ」
「す、すみません………」
リリはしょんぼりして下を向く。
俺はリリの頭に手を置き優しく撫でる。
「一人は危ないから俺と行こうな」
「あ、はい!」
リリはしょんぼりとした顔をすぐに笑顔に変え、笑う。
リリと一緒に店の中に入ると、店の中には先ほど変わらず椅子の上に人形があり、その手には“契約書類”があった。
リリはその隣の机に置いてある木彫りのブローチが欲しいらしい。
「ありました!………でも、やっぱり買えないのかな」
リリが考え込むと誰かが声を掛けた。
「金銀ではなく木製のブローチが欲しいのですか?」
あわてて後ろを振り向くとそこには先程の人形がまるで生きてるかのように喋っていた。
「………お前はこのゲームの主催者か?」
俺は驚きながらも人形に尋ねる。
「いいえ。私はこのゲームの進行役であり、この館の主、名をコッペリアと言います」
「お人形さん?」
「はい」
「わぁ……こんなきれいなお人形さん、初めて見ました!」
「ありがとうございます、フォックス。貴女の狐耳もキュートで可愛いですよ」
「そ、そうかな?」
どうやらコッペリアとリリは相性がいいらしく仲良くなってる。
「なぁ、コッペリア聞きたいことがるんだが」
「はい、何でしょう?」
俺はあることをコッペリアに尋ねた。
「お前はこの店の主、要するに店主ってことでいいんだよな?」
「はい、私はこの店の売買を預かる身分です。代金を頂ければ品物と交換いたしますが」
「なら、リリがこのブローチを欲しがってるんだ。こいつを売ってほしい」
俺はリリが欲しがっていた木製のブローチをコッペリアに向ける。
コッペリアはそれを手に取ると、少し困ったように言う。
「これは売り物ではありません。私が手慰みに彫ったもの。値段はありません。欲しければどうぞ、フォックス」
フォックスってリリのことか?
まぁ、狐だしフォックスでいいのか………
「てか、このブローチお前が作ったのか?」
「はい、拙い技術ですが……」
「いや、結構なモンだと思うぜ。な、リリ」
「はい!すごく可愛いブローチです!」
俺たちの言葉が恥ずかしかったのかコッペリアは困ったように頬を染めた。
「どうして、この店に一人でいるの?」
リリは思い出したかのようにコッペリアに尋ねた。
コッペリアは自分の身体を抱きしめながら呟いた。
「棄てられた……からです。私を作ろうとした父に」
「え?…………父親に、棄てられた……?」
「はい、父の愛が私の存在理由でした。しかし、その愛を失ったのです。………いいえ、初めからそんなものなかったのでしょう。父が本当に欲してたのはそこにある付加価値。なのに私は、人類に求められてると錯覚を抱き、私を完成させてくれる人を待ち続けています。そんな運命の人など…………来るはずもないのに」
コッペリアは大粒の涙を流し、泣く。
「そんなことないよ」
リリがコッペリアに近づき、コッペリアの頭を撫でる。
「母様が言ってました。どんなに離れていても、親は子供を想ってくれますって」
「それこそ、幻想です、フォックス。この館は棄てられたものが集う場所。さらに奥に進めば、他にも棄てられたものたちで溢れかえってます」
「そ……そう、なんだ」
どうやらあのマッチョ人形を思い出したようだ。
あれもかつては人に求められてたのか…………なんか嫌な風景だな………
「じゃあ、お前が持ってた“契約書類”は、」
「あれは、私を完成させる方を探すためのもの。ですがあのゲームは」
そこでコッペリアは口を不自然に閉ざす。
するとリリはコッペリアの手を取り、で口を指差す。
「此処を出よう。こんな所に居ても新しい父様は見つからないよ」
「……出来ません。もし逃げようとしたら………アレが襲ってくる………」
「だ、大丈夫!筋肉の人形なら修也様がやっつけてくれるから!」
え?アレを俺が倒すの?
「違う………!!この館は、もっと恐ろしい物に見張られているのです………!!」
コッペリアが体をカタカタと揺らすと、俺たちの間を鈍色の風が通り抜けた。
何だ、今のは?
「に、逃げてください、お二人とも!」
コッペリアは急に声を上げて叫ぶ。
「奴が………“退廃の風”が来る!」
その瞬間、館の中を鈍色の風の嵐が吹き荒れる。
そして、中の豪華絢爛な内装を軒並み風化させ、その輝きを食らうように暴れる。
これはまずい!!
「リリ、コッペリアを抱きしめてろ!」
「はい!」
「え?」
戸惑うコッペリアをリリがしっかり抱きしめるのを確認すると俺は二人を抱え、逃げようとする。
その時、コッペリアが座ってた、椅子の近くの机に見慣れない機械が目に入った。
それが気になり俺はそれを素早く取り、ギフトカードに収納させる。
「しっかり掴まってろ!」
鈍色の風が俺たちを襲う瞬間、翼を出し全速力で出口を飛び出す。
「修也、それにリリも!」
館の外には耀がいた。
耀だけでなく飛鳥と白雪姫もいた。
「修也君、それにリリも!どうしてここに?ここは立ち入り禁止のはず……」
「話は後!あの館に近づくのは危険だ!とにかく、今は引き返すぞ!」
俺の言葉に耀たちは頷き、来た道を引き返す。
隙間を抜け、外に出ると俺はさっき自分が回収した物を見る。
ギフトカードに収納したから名前があるはず………………
“クルーエ・ドラクレア作:第三永久機関(未完成)”
また、親父かよ………………