問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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番外編 黄金盤の謎を追え 後編

「黄金の“契約書類”………珍しい形式ね」

 

「うん。それに文面も少し特殊かも。修也と十六夜はもう分かってる?」

 

お茶うけに出された煎餅をかじりながら耀が聞いてくる。

 

「ああ、分からなくもない。というか文面に書かれていることはそんなに珍しい話じゃない」

 

「数は足りないが、これは“ルルスの術”に記された最小単位の述語のこと。宛がわれたアルファベットはその言葉を示す記号だ」

 

“ルルスの術”とは“ライムンドゥス=ルルス”と言う錬金術師が提唱した秘術の事。

 

その中にある最小単位の述語が九つある。

 

B:善

 

C:偉大

 

D:持続

 

E:力

 

F:知恵

 

G:意志

 

H:徳

 

I:真理

 

K:栄誉

 

これらの述語を接合することで生まれる言葉を記述したものが“ルルスの円盤”だ。

 

「冒頭の参加資格に“B”ってあるだろ?これは“善”という単語に当てられたアルファベットの事だ。俺達を襲ってきたやつの黄金盤にも似通った意味を持つアルファベットが刻まれていたから間違いない」

 

ちなみに俺達を襲ってきた連中は丁寧に縄で縛って隅に放置している。

 

ゲーム中とはいえ、俺たちの領地を侵して強襲までしたんだ。

 

明らかに不法だ。

 

取りあえず、“階層支配者”に差し出さない代わりに数日間の強制労働で手を打った。

 

その時十六夜がその男共に近づいて行った。

 

「お前たちの黄金盤の参加条件には“参加資格D:継続する者”と書かれていたんだな」

 

「は、はい」

 

「それじゃあ、その参加条件は黄金盤を受け取った時からそうだったのか?それとも、お前たちが何かしたのか?」

 

「い、いえ………あ、、でも、黄金盤の文面は各コミュニティごとに違うと説明にありました!」

 

「へ?」

 

男どもの言葉に黒ウサギが首を傾げる。

 

俺達は一斉に黒ウサギを見る。

 

「…………おい、黒ウサギ。そんな説明あったのか?」

 

「え?あ、いや1あったかもしれませんけども!」

 

「曖昧ね。主催者側のルールを聞き逃すなんて気が抜けてるのではなくて?」

 

「これでクリアできなかったら黒ウサギの責任」

 

「クリアできなけりゃ名前を黒ウサギから駄目ウサギにするからな」

 

俺たちの言葉に黒ウサギはウサ耳をへにょらせる。

 

十六夜は男共からゲームについて聞きだす。

 

「おい、他にはどんな説明がある?」

 

「こ、この黄金盤を七種類集めて持ってくることがクリアへの鍵だと聞きました。奪い合いは、参加資格に則ったリトルゲームで決めるようにと」

 

「へぇ~、じゃ、力ずくで奪いに来たお前たちはルール違反ってことだな」

 

男共は自らの首を絞めてしまい慌てる。

 

俺達はここぞとばかりに捲くしたてた。

 

「コイツは参ったな、お嬢様!領土侵犯なら俺達の裁量で裁いてもいいんだが、“サウザンドアイズ”主催のゲームでルール違反をしていたと思わなかった!」

 

「そうねえ。一瞬間ほどの強制労働で許してあげようと思ったけど………そういうことなら話は別よね、春日部さん」

 

「うん。農地開拓するために、一年は労働をしてもらわないと、ね、悠也」

 

「朝早くから夜遅くまでの一年強制労働に加え、毎日の食事はコッペパン一個、睡眠時間は一日四時間でもしてもらおうか」

 

ひいっと男たちが悲鳴を上げる。

 

言っとくけど本気だぜ?

 

「取り敢えずゲームの概要は分かった。黄金盤が散ったのはリトルゲームを通して黄金盤を手に入れてないことが理由。……………フン、やっぱり大したことの無いゲームなんじゃないか?」

 

十六夜の言う通り“ルルスの術”ではこのアルファベットと述語を使った円盤はさほど重要な位置に存在してない。

 

俺も十六夜と同じくこれが錬金術の秘奥であるアルス・マグナを手にするゲームには思えない。

 

そんなことを考えている俺達を余所に女性陣は盛り上がっていた。

 

「争奪戦と分かった今、善は急げなのです!」

 

「そうね……七種類も集めなければならないなら、早く動かないと」

 

「手分けして他のコミュニティにリトルゲームを挑む?」

 

「YES!“ノーネーム”には一騎当千の実力者が五人いらっしゃいます!レティシア様も呼んでまいります!」

 

言うや否や黒ウサギはすぐさま部屋を飛び出した。

 

「……どうするよ?俺的にはかなり眉唾もののゲームだぞ」

 

「白夜叉のゲームが胡散臭いのはいつものことだろ?」

 

「そうね。どんなに酷い真相が待っているにしても、参加してみないことには分からないわ」

 

「………オチがつくことは前提なんだ」

 

「そうか、つまらないゲームなら、付加価値を付ければいいのか」

 

十六夜がニヤリと笑う。

 

「どんなにくだらないオチでも白夜叉のゲーム。賞品もそれなりのもののはずだ。どうだ、七つの黄金盤を一番多く集めた奴が、賞品を独占するってのは?」

 

「あら、面白そうじゃない」

 

「ああ、中々にいい提案だ」

 

十六夜が挑発するかの如く笑う。

 

それに対して

 

俺達は笑って返す。

 

「でもそれだけじゃ、つまらないから…………負けた人は勝者に一日服従」

 

「それは、少し厳しいぞ。ここは勝者には…………黒ウサギが一日服従でどうだ?」

 

「「「それだっ!」」」

 

「それだっ!ではありませんこのお馬鹿様方ああああああ!」

 

いつの間にか帰って来てた黒ウサギのハリセンで叩かれた。

 

黒ウサギの後ろには掃除の途中だったのか雑巾を持ったレティシアがいた。

 

「ふむ、そのゲーム私も乗った」

 

「レティシア様!?」

 

「メイドが乗った!レティシアが勝ったら黒ウサギは一日メイド業だ!」

 

「“Raimundus Lullus”改め“黒ウサギ服従権争奪戦”ね」

 

「早く街に行こう!」

 

三人はさっさと自由区画に向け走り去る。

 

「あ、あの~、レティシア様。冗談で仰ったんですよね?」

 

「心配するな。ちゃんとみっちりメイド業を仕込んでやる」

 

「やる気満々じゃないですか!」

 

黒ウサギのハリセンが再び炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うう………皆さん、どこに行ったのですかー!!」

 

「そう気張るな。もう少し楽しんだらどうだ?この規模のゲームは東側では珍しい。羽を伸ばすには丁度いいだろう?」

 

俺は今、黒ウサギとレティシアと行動している。

 

何故なら、ゲームへの参加資格でチップでもある黄金盤は十六夜が持っている。

 

これじゃあ、リトルゲームに参加すらできない。

 

「二人とも。あの男の胸元を見ろ」

 

レティシアに言われて男を見る。

 

「蛇と杖の旗印、“ケーリュケイオン”の旗印だ」

 

「ギリシャ神群の金庫番がどうして最下層に!?」

 

「もしかしたら、俺達への報復かもな。俺達は“ペルセウス”を倒し、星空から正座を下ろした。それはアイツらの信仰の一部を削ぎ落したってことだ。そうなりゃ、アイツらのトップも黙ってはいられない」

 

「“サウザンドアイズ”が関わってるから報復は無いと高を括ってたが………警戒をした方がよさそうだ。すぐに十六夜達を探そう」

 

取りあえず三手に分かれた探そうとした時、路地はずれの天幕から聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「飛鳥、恥ずかしがってる場合じゃない。もっとまじめに客引きしないと勝てないよ」

 

「む、無理よ!こんな恥ずかしい恰好で人前に出られるはずがないでしょう!?」

 

「恥ずかしさなんて気にしちゃ駄目。それじゃあ、ゲームに勝てない」

 

「第一、私にこういう恰好は似合わないわよ!?」

 

「大丈夫。超似合ってる。超グッジョブ。超メイド」

 

「超メイド!?」

 

「超メイド!!?」

 

「ほう。超メイドか」

 

レティシアの瞳が光った。

 

そして、天幕に駆け寄り布を勢いよく剥がした。

 

「きゃ………!?」

 

「む?」

 

天幕の中には耀と飛鳥が居た。

 

「やっぱり、耀と飛鳥か」

 

天幕を覗き込み思わずため息が出た。

 

てか、なんでメイド服?

 

二人は白と黒のレースで飾られたミニスカートタイプのメイド服を着ていた。

 

「しゅ、修也………!?」

 

「ん?」

 

何か耀が顔を真っ赤にしてる。

 

あれ………?

 

嫌な予感が……………

 

「バ○ス!」

 

グサッ!

 

「目があぁぁぁぁぁ目があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

行き成り目潰しされた。

 

俺が何をしたって言うんだ!?

 

「春日部さん!?行き成り何を!?てか、何で目潰し!?」

 

「だって……だって……メイド服が……恥ずかしい………」

 

「私に恥ずかしいのを気にしちゃ駄目って言ったのは貴女でしょ!?」

 

そこの二人騒ぐのはいいが。俺の心配もしてくれ………

 

 

 

 

 

 

「それにしても、どうして二人はメイド服を着てるんだ?」

 

未だに痛む目を擦りながら問う。

 

「えっと実は…」

 

飛鳥は肌を隠しながら“契約書類”を渡してくる。

 

レティシアに渡し、文面を読んでもらう。

 

何故なら、まだ見ることが出来ない。

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

リトルゲーム:“知恵”と“意志”と“徳”

 

*ルール概要

一時間以内に“ウィル・オ・ウィスプ”の売り物を多く売りさばいたものが勝者。

但し原則として、“ウィル・オ・ウィスプ”の旗印が入ったメイド服で売ること。

尚、男性参加者もメイド服着用必須。

敗者には一日メイド服で“ウィル・オ・ウィスプ”での無償の売り子を強要します』

 

「ちょっと待て。本当にそれがゲームの内容の全文か?」

 

聞いた内容に思わず眉を寄せる。

 

その内容だと、“ウィル・オ・ウィスプ”は黄金盤を失うだけの内容だ。

 

「その……ジャックたちは、“クイーン・ハロウィン”の付き添いで来ただけで………ゲームに勝ち残ることには興味が無いみたい…………だがら、ゲームの勝者に三つとも譲るって……………」

 

「なんでも優勝しても自分たちにはあまり意味が無いとか」

 

それにしても、耀がさっきから様子が変だな。

 

「“ケーリュケイオン”に“クイーン・ハロウィン”がこんな下層のゲームに参加するとは…………俄かには信じがたい状況だな」

 

「ですが、本当に錬金術の秘奥であるアルス・マグナなが手に入るなら、これらのコミュニティが参加しても不思議ではないと思いますよ?」

 

黒ウサギの言うことはもっともだ。

 

だが、“ウィル・オ・ウィスプ”は工芸品やガラス細工などを制作している。

 

それなのに黄金の錬成ができるアルス・マグナを欲しがらないのはおかしい。

 

それに、仮に賞品が本物だとして、どうして“サウザンドアイズ”がそんな貴重なものを下層のゲームの賞品にするんだ?

 

「もしかしたら、一般参加者には知らされてない裏の事情があるかも知れん」

 

「……そうだね。少し整理しよう」

 

調子が戻った耀が状況をまとめ始める。

 

① ギフトゲーム“Raimundus Lullus”は錬金術の“ルルスの術”の文面を使用

② 七つの黄金盤を集めることがゲームでの勝者

③ “ウィル・オ・ウィスプ”は賞品を知っているようだが、無用と判断

④ “ケーリュケイオン”“クイーン・ハロウィン”といった大型のコミュニティが参戦している

⑤ 上記の③④から大型のコミュニティでなければ勝利する意味が無い賞品である

 

以上の事を踏まえて全員で首を傾げながら“契約書類”の文面を反芻する。

 

すると、耀が気づいたのか顔を上げた。

 

「もしかしたら、このゲームそのものが“商業力”を競うものなんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「というと?」

 

飛鳥とレティシア、黒ウサギが疑問の声を上げる。

 

耀は地面に“契約書類”の文面を書く。

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

参加資格B:善なる者

 

敵対者: 偉大なる者

     継続する者

     力ある者

     知恵ある者

     意志ある者

     徳ある者

 

敗北条件:“契約書類”の紛失は資格の剥奪に相当

勝利条件:全ての“ルルスの円盤”を結合し、真理ならざる栄光を手にせよ

 

ゲーム補足:全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始

      ゲームの終了は全ての参加者の敗北した場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と“サウザンドアイズ”の名の下、ギフトゲームを開催します。

 

                             “サウザンドアイズ”印』

 

「始めはリトルゲームを七回クリアしなきゃいけないと思ったけど、これはそれに限ったものじゃない。私達がジャックたちから受けたリトルゲームは一度に三つも“契約書類”を掛けの対象にすることが出来た。つまりこのゲームは、特定の共通項を持ったリトルゲームなら一度で七つの黄金盤を競い合うことが出来る」

 

「なるほど、それが“商業力”か。

善、知恵、意志、徳は商業の信用基盤で、偉大、継続、力はコミュニティの規模や経済力。

勝利条件の“ルルスの結合”は、リトルゲームを一度に済ませるっていう意味が込められてるんだな」

 

「それって………本当の参加者はこの露天商たちだと言うの!?」

 

飛鳥は驚愕して周囲を見渡し言う。

 

「そう。最終的なゲームの勝者はきっと、七つの黄金盤を集めて、売り上げをもっとも出したコミュニティが選ばれる」

 

「“ケーリュケイオン”みたいな大型商業コミュニティが参加してることを考えると賞品は道具や金品じゃなくて、商売の権益か」

 

耀の推論に一同は納得する。

 

それが本当なら“ノーネーム”には利益が無いな。

 

商売をしようにも俺達には商売をするだけの基盤が無い。

 

「それでは、廃墟の整備をするという目標も叶いそうにありませんね」

 

黒ウサギが落胆の表情をし、ウサ耳を萎れさせる。

 

「あ、でも、参加賞の黄金盤が貰えるわけですから、これはこれで良しとするのです!この黄金も金塊として七に出せば「待った。それどういう意味?」

 

耀が片手を上げて黒ウサギに問う。

 

声がいつも以上に真剣みを帯びてる。

 

「すみません。説明不足でしたね。この黄金盤は参加賞として参加者に配布された物でもあるのです。なのでゲームに勝てずとも負けなければ、この黄金盤は貰えるのですよ」

 

なるほど。

 

このゲーム舞台で参加者達に金を使わせることを目的だったと考えたらそれも全て辻褄が合う。

 

初めから参加者たちはゲームの舞台装置として呼ばれてたのだからな。

 

「なら、その黄金盤を全て頂こう」

 

「え?」

 

「売り上げで黄金盤を掛けてるなら、一番稼いだコミュニティに金塊が全て与えられてるはず。だから、私達も市場に参加して露天商たちの鼻を明かしてやろう」

 

「あら素敵。でも、勝算はあるの?」

 

耀は勢いよく立ち上がり、“ウィル・オ・ウィスプ”の賞品が乗った台車を叩いて悪戯っぽく笑う。

 

「やり方はジャックたちにが教えてくれた。きっとうまく行く。だがら」

 

そう言って台車から何かを引きずり出す。

 

「黒ウサギと修也にも超メイドになってもらう」

 

「「…………え?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、いらっしゃいませー!出店代理店“ノーネーム”のウサギ小屋はこちらなのですよー!」

 

黒ウサギの声が響く。

 

噴水広場の前人は巨大な列が出来上がっており、まるで一つの生命体の様だ。

 

「か………買い物をしたい人は、静かに一列にならんでお待ちなさい!」

 

「「「「「「「「イエス、マム!」」」」」」」」

 

飛鳥もメガホン片手に叫ぶ。

 

耳まで真っ赤だ。

 

そして、俺はというと

 

「列の最後尾はこちらです!お早くお並び下さい!」

 

ロングスカートタイプのメイド服に銀髪のウィックを付け、メイドになっています。

 

「おい、見ろよ!あのメイド!」

 

「洗練された動き!煌めく銀髪!主人を邪魔せず立てそして、さり気なく自身の存在もアピールするオーラ!」

 

「まさに、メイドの中のメイド!」

 

「パーフェクトメイドだ!」

 

めっちゃ人気です。

 

…………………………もう嫌だ…………………

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レティシアSIDE

 

今の現状を見て私は純粋に驚いた。

 

「驚いたな。ここまでうまく行くとは思わなかった。我が主たちは商才もあったのだな」

 

「それもこれも、レティシアと黒ウサギと飛鳥の可愛さ、そして何より修也の美しさのおかげ。これなら他の出店から引き受けた品も全部捌けそう」

 

「そして、各コミュニティから預かった品の売り上げの二割を頂く。取引相手が一つ二つあんら優勝は難しいが………まさか、五十四ものコミュニティが委託を任せてくれるとはな」

 

“ノーネーム”でありながら、これだけのコミュニティが来るのも驚きだ。

 

「当然の結果。“箱庭の騎士”と“箱庭の貴族”がそろってるんだもの。信用度と期待度は当社比にして二十三倍です」

 

何処の当社比なんだっと思い、思わず苦笑する。

 

………………………そろそろ現実逃避を止めよう。

 

「耀、さっきから何をしている?」

 

今、耀はカメラを片手に写真を撮っていた。

 

「修也のメイド姿を写真に収めてる」

 

うん、わかった。

 

それは分かる。

 

「………何故そんなことを?」

 

「え?」

 

いや、そんな、当たり前の事聞くの?みたいな顔をされても………………

 

「だって、そこにメイド服を着て、完璧な立ち振る舞いをしている修也がいるんだよ?これを撮らずして何を撮るの?」

 

「ああ、うん、分かったから、その鼻から垂れてる赤い液体を拭こう」

 

耀にティッシュを渡しながら一つ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋は人を変えると言うが……………………これはヤバイだろ……………

 

 

レティシアSIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修也SIDE

 

一時間程度で委託された品、倉庫二つ分は売り捌かれた。

 

品物が無くなったのにもかかわらず、出店には山のような人だかりが出来てた。

 

軽く挨拶だけをして、サッサッと天幕を片づけ、路地裏に引っ込む。

 

「………最悪の日だわ」

 

「でも、飛鳥可愛かったよ。耳まで真っ赤にして恥ずかしがってるとことか」

 

「ごめんなさい、それ以上言わないで。思い出したくないから」

 

「………俺、もう一生表歩けない」

 

「大丈夫、すっごく良かった。皆満足。私も満足」

 

「……耀、そのカメラ何?」

 

「……………」

 

ちょっと、無言は止めて。

 

「それにしても凄いのです!これは、同じ方法でもう一稼ぎできるかも」

 

「やるわけないでしょ!この駄ウサギ!」

 

「やるなら一人でやれ!」

 

ああ、本当に今日は厄日だ。

 

そう思ってると、遠くで大きな爆発音が響いた。

 

思わずそちらの方に目を向ける。

 

誰かが闘ってるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祭りが終わり、街が夕焼けに染まる頃

 

「十六夜!テメー、よくもやりやがったな!」

 

俺は十六夜にブチ切れていた。

 

「お前のせいで、俺達がメイドになってまで手に入れた利益が全部パァーだぞ!」

 

そう、あの大きな爆発音は十六夜のもので、なんでも参加者とバトルをしてやってしまったらしい。

 

その時に壊したモノの弁償代で、折角稼いだ金は無くなった。

 

「せっかく、皆さんで手に入れた復興資金が………弁償代だけで全部なくなってしまったのですぉ………!」

 

「利益を競うゲームでも大勝だったのに。弁償の為に、黄金盤の山も全て没収されてしまったわ」

 

「本当なら今頃、皆で美味しいものたくさん食べる予定だったのに。これは流石に許されない」

 

「………すまん。言葉もない」

 

流石に十六夜も悪いと思ってるらしく謝る。

 

「まぁ、所詮はあぶく銭か。たやすく得た利益はたやすく消える。そんなものか………」

 

「簡単に稼いだ資金で復興しても、ありがたみが無いだろう」

 

「それは………そうかもしれないけど」

 

俺とレティシアの言葉にスカは口を尖らせる。

 

まぁ、メイド服を復興資金を集めたなんて話が語り継がれるよりはマシだろう。

 

「とはいえ、これは一つ貸しよ。十六夜君から私達全員に、ね」

 

「ああ。いつか埋め合わせはする」

 

「でも、ゲームの優勝賞品って何だったんだろう?」

 

「優勝したのは“ケーリュケイオン”だったらしいな」

 

「なんだ?“商業力”を競うゲームってのまで分かったのにそっちは解けてないのか?」

 

十六夜が意外そうに聞いて来る。

 

「十六夜は分かったのか?」

 

まあな、と言って十六夜は俺達がまとめた考察容姿を広げる。

 

「この中でも大きなヒントになったのは“ケーリュケイオン”の参加。こいつは商業コミュニティとして世界の内外問わず有名な神群の一角だ。日本だと所業系の国立大学で校章に使われてる。此奴らが関わってる以上、それは並の権益じゃない」

 

「そうね。でも、これ以上は考察が難しいんじゃない?」

 

「まあな。だからこそ、ここからは推測………お嬢様、春日部、修也。この中で考察にまだ使われてない重要なワードがある。何か分かるか?」

 

「…………、」

 

「…………」

 

「…………あ、錬金術」

 

「錬金術………錬金………商売………金融?まさか、“サウザンドアイズ”の金融か投資の権利といこと!?」

 

「気付いたな、修也。そして、流石は財閥のお嬢様。察しがいいな」

 

ヤハハと笑い話を進める。

 

「その通り、“サウザンドアイズ”の金融か投資の権利、もしくは新しい貨幣の発行と配布かもな。“クイーン・ハロウィン”は白夜叉と戦う権利が欲しかったらしい。貨幣の浸透は信仰の浸透と同じ意味があると以前聞いた。だから、女王様も、市場での戦いに乗り出すつもりだったのかもしれない」

 

「ははぁ…………だから女王騎士団もこんな下層まで派遣されたわけか」

 

「じゃあ、ある意味、十六夜は魔王の市場浸食を防いだってことになるな」

 

「その通り!」

 

ヤハハと笑い十六夜はギフトカードから一枚の黄金盤を取り出す。

 

「でも、まぁ、………悪かった。これ一つしか残らなかった。じょおうきしから奪い取った黄金盤だ。何かの足しにしてくれ」

 

「………はい、今回の事は水に流しますのですよ」

 

「そうしてくれると助かる。でないと、コイツが無駄になっちまう」

 

そう言う十六夜の手には一枚の封筒があった。

 

「そ、それは、水と大樹の街!“アンダーウッドの大瀑布”からの招待状!?ど、どうしてこんな貴重なものを!?」

 

「白夜叉に渡された。なんでも“龍角を持つ鷲獅子”連盟ってところから、ゲストとして参加して欲しいってことらしい」

 

ゲスト参加って“ノーネーム”にとっては破格の待遇だろ!?

 

「主賓客としての招待状が届くなんて………きっと魔王を倒した皆さんの功績が、南側にまで届いたに違いありません!」

 

黒ウサギはウッキャー!と喜ぶ。

 

それにつられて俺達も笑う。

 

「そうね。今回の騒動も、名を上げるにはよかったかもしれないわ」

 

「女王騎士団とも渡り合える人材が“ジン=ラッセル率いるノーネーム”に居る。中々いい売り文句になりそうだな」

 

「ご馳走は食べれなかったけどね」

 

「何、南の収穫祭に出れば美味いものも食べ放題だ。それは些細なことだよ」

 

笑みを浮かべる俺達の前に、十六夜は招待状を掲げて宣言する。

 

「“ノーネーム”の次の舞台は―――南側、水と大樹の大瀑布だ。気合入れていくぞ!」

 

掲げた手をたたき合い、帰路に着く。

 

南側か、どんな出会いと障害があるか楽しみだな。

 


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