問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

64 / 106
番外編 黄金盤の謎を追え 前編

「ふぁ~………眠」

 

今、俺はあくびをしながら“ノーネーム”の敷地内を歩いていた。

 

昨日は一晩中起きて本を読んでいたため、かなり眠い。

 

幸い今日は休み。

 

何処か誰も邪魔しない場所で惰眠をむさぼるか………

 

そこで目に入ったのは貯水池前の小屋だ。

 

ちょうどいい、あそこで寝よう。

 

小屋に向かうと飛鳥が気持ちよさそうに寝ていた。

 

「先客か………」

 

飛鳥が居るならやめとくか………

 

いや、もう眠気が限界に近い。

 

これはもう寝るしかない。

 

と、いうワケで

 

「おやすみ」

 

飛鳥の近くで横になり目を閉じた。

 

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

耀SIDE

 

 

私は今、両手に林檎を抱え貯水池の方角に進んでいた。

 

子供たちの話を聞くと修也は貯水池の近くの小屋に向かったらしい。

 

…………別に修也がそこにいるから向かってるわけじゃない。

 

ただ、そこの小屋で林檎を食べようと思ったら偶然、修也がそこに居るだけの話だ。

 

うん、偶然。

 

だがら、問題はない。

 

一緒におやつを食べようとか考えてない。

 

………………………………修也が欲しいって言ったら上げるかもだけど。

 

心臓がドキドキ言う音が聞こえる。

 

そして、緊張しながら小屋の縁側を覗くと

 

「うん?よぉ、春日部」

 

十六夜がいた。

 

「………なんだ、十六夜か」

 

「なんだってなんだ?」

 

「……別に」

 

だって、修也が居ると思って除いたら十六夜がいるんだもん。

 

例えるなら、鶏のから揚げだと思ってかじったら実は鶏の竜田揚げだったぐらいショックだよ。

 

私は鶏のから揚げが好き。

 

そう思ってると十六夜の膝の上で寝ている飛鳥に気がついた。

 

「………何してるの?」

 

「膝枕」

 

ドヤッ!とした顔で宣言する。

 

「飛鳥がお願いしたの?」

 

「いや、農園の様子を見に行こうとしたらお嬢様が隙だらけで寝ていたからちょっとからかいたくなった」

 

「からかう?」

 

「考えても見ろよ。こんな状況で目を覚ましたら、きっと頬を紅潮させてあたふたするに違いない。俺はソレを見てにやにやしたい」

 

なるほど、と納得する。

 

それと同時に、十六夜の隣で修也が寝ていることに気付く。

 

気付くと同時に胸がドキッとした。

 

「修也も寝てる」

 

「ああ、こいつは俺が来たときにはすでに寝てたぞ」

 

「…………それって、十六夜が来るまで飛鳥と二人で寝てたってこと?」

 

「え?あ、ああ、そうなるな」

 

「ふ~ん…………………………………………………………そっか」

 

(うお!?なんだ、この殺気!?春日部が発してるのか!?)

 

今、自分の中でも驚くぐらいドロドロしたものが込み上げてきた。

 

コレハ、チョット、オハナシスルヒツヨウガアルカナ。

 

「か、春日部。一ついい話がある」

 

「ン?ナニカナ?」

 

「ここでお嬢様だけでなく修也があたふたする顔も見たくないか?」

 

「え?」

 

「ここで、春日部が修也に膝枕、いや、修也を抱き枕にして寝てたら、修也の奴、起きた時顔を真っ赤にしてあたふたすると思うが、どうだ?」

 

…………………抱き枕

 

「そ、そうだね。しゅ、修也があたふたする姿見てみたい、かな」

 

(よし、取りあえず危機は去ったか)

 

そ、それじゃあ、失礼して……………

 

別に修也に抱き付きたいとか、一緒に寝たいとかそんな理由じゃない。

 

これは、修也をからかいたいからするだけで別にそんなやましい気持ちとか下心とか一切ない!

 

修也の隣に横になって抱き付く。

 

う、うわ~、しゅ、修也の匂いが!体温が!

 

あ、あ、あ、あ、ヤバイ!心臓が爆発しそう!

 

「う~~~ん」

 

修也がこっちに振り返った!?

 

現在の状況は私と修也が抱き合って寝てるような図だ!?

 

か、顔が、近い!?

 

だ、ダメ…………意識が……………

 

 

耀 (意識が)LOGOUT

 

 

 

 

 

 

 

十六夜SIDE

 

「春日部の奴、顔を真っ赤にして気絶しやがった」

 

だが、スンゲェー幸せそうな顔してやがる。

 

「恋は人を変えるとか言うが、これは変わり過ぎだろ」

 

軽く苦笑して再び本に目を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

「三人とも、一向に起きねえな」

 

本も読み終えちまったし、暇だな。

 

それにしても、お嬢様と修也はよく寝るな。

 

春日部に至っては気絶が長い。

 

さっきから耳を立ててはいるが寝息が聞こえなかった。

 

「快晴、春風、水流の音。確かに昼寝日和にはもってこいだ」

 

俺も寝るか?

 

いや、それだと慌てふためくお嬢様が見れない。

 

それは悔しい。

 

いっそのこと叩き起こすか?

 

そう思った時、賑やかな声が聞こえた。

 

「大変なのです!大変なのですよー!」

 

ウサ耳を撥ねさせて本拠から黒ウサギが猛ダッシュでやって来た。

 

そして、俺たちの前で急停止をする。

 

「大変なのです!大変なのです!大変なので「五月蠅い」

 

あまりにも五月蠅いので林檎を投げつけた。

 

林檎は見事に黒ウサギの額に直撃。

 

黒ウサギは額を真っ赤にしながらもまくしたてる。

 

「と、とにかくこれを見てください!街中でこんなものが「五月蠅い」

 

もう一度林檎を投げつける。

 

二度目があるとは思ってなかったらしくまた直撃する。

 

黒ウサギは横転して空を仰ぐ。

 

その拍子に俺の手元に黄金の板が落ちてきた。

 

「なんだコレ」

 

持ってみると重さを感じる。

 

まさか、本物の金塊か?

 

「どうしたんだ、この金塊。本物みたいだが」

 

「ほ、本物なのですよ…………あと、額が痛いのですよ………」

 

黒ウサギが涙目で訴えてくる。

 

そこでようやくお嬢様と春日部、修也に気付く。

 

「こ、これは…………どういう展開でございますか?」

 

「ウサギが難しいことを考えるな。で、コレはなんだ?」

 

黄金盤を叩いて黒ウサギに問う。

 

「よくぞお聞きになりました。この黄金盤は、錬金術の秘奥を与える為に開催するギフトゲーム“Raimundus Lullus”の“契約書類”でございます!」

 

「“Raimundus Lullus”ってあれか?哲学者のライムンドゥス=ルルスのことか?」

 

「そうでございます!鉛を金に変える錬金術を使い、世界の理を解くと言うルルスの術―――――アルス=マグナを提唱した御仁でございます!その真理に辿り着くためのギフトゲームが開催されるとのことですよ!」

 

ウサ耳を左右に振りはしゃぐ黒ウサギを横目に考える。

 

金を作る恩恵。

 

そんなものを簡単にギフトゲームの賞品にするか?

 

そう考え“契約書類”に目を落とす。

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

参加資格B:善なる者

 

敵対者: 偉大なる者

     継続する者

     力ある者

     知恵ある者

     意志ある者

     徳ある者

 

敗北条件:“契約書類”の紛失は資格の剥奪に相当

勝利条件:全ての“ルルスの円盤”を結合し、真理ならざる栄光を手にせよ

 

ゲーム補足:全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始

      ゲームの終了は全ての参加者の敗北した場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と“サウザンドアイズ”の名の下、ギフトゲームを開催します。

                            

                                 “サウザンドアイズ”印』

 

 

「おい、黒ウサギ」

 

「はいはい、なんでしょう?」

 

「このゲームの主催者“サウザンドアイズ”だぞ。本当に大丈夫か?」

 

正直、あの白夜叉がやるゲームがまともとは思えんのだが。

 

「それはむしろ信憑性を高めるというもの!あの“サウザンドアイズ”が満を持して開催するゲームなのでございます。コレはきっと凄いゲームなの違いありません!………それに」

 

急に声のトーンを落として黒ウサギは廃墟街を見る。

 

「そろそろ………あの廃墟街も整理せねばなりません。その為にも纏まったお金が必要なのです」

 

「…………はぁ、仕方がねえなっと!」

 

乗り気しないが、仕方がねえな。

 

軽くため息を吐き立ち上がる。

 

その拍子にお嬢様が頭を地面にぶつける。

 

「痛ッ!」

 

「おら、お前らも起きろ!」

 

修也と春日部の頭を叩いて起こす。

 

「イッテェ~、何しやがるってなんで耀が俺にくっついてる?」

 

「こ、これは、その、あの!」

 

あたふたしてる春日部がおもしろいが今はそれどころじゃない。

 

「いつまで寝てる。休暇は返上だ。大型のギフトゲームが開催されたぞ」

 

「い、十六夜さん!まだゲーム会場も知らされていませんし、ゲーム開始のコールもまだでございます。そんなに慌てる程ではありませんよ?」

 

そう言う黒ウサギに溜息を吐き、黄金盤を投げる。

 

「来るぞ。右に避けろ!」

 

その瞬間、雑木林から大量の鏃が飛んできた。

 

いつの間にか槍を取り出した修也が全て叩き落とした。

 

「え?え!?」

 

「敵………!?」

 

寝起きで状況が把握し切れてないお嬢様は目を瞬かせる。

 

春日部はすぐに状況を理解して臨戦態勢に入る。

 

「ど、どういうことでございますか!?」

 

“擬似神格・金剛杵”を構えたまま黒ウサギは声を上げる。

 

「文面読んでねえのかこの駄ウサギ!このゲームは“契約書類”―――黄金盤の争奪戦だ!ゲームはとっくに始まってるんだよ!」

 

叫ぶや否や俺はすぐさま駆け出し、鏃の雨を交わして一人の獣人の手首を掴む。

 

「速い!?」

 

「お前が遅いんだよ!」

 

手首を捻って足を払う。

 

そして、獣人はその場で三回転しながら、頭から地面に落ちる。

 

「貴様!」

 

「よくも我らの同士を………!」

 

「囲め!囲んで一斉に撃て!」

 

獣人どもがあわただしく動く。

 

それ目掛けて拾った小石を

 

「休暇潰した挙げ句に人の縄張りに忍び込むとは恐れ入る。 ……………………………………………テ メ ェ ら 全 員 、其 処 に 直 れ ―――――――――――――! ! ! ! 」

 

大地に叩き付けた。

 

雑木林の木々と一緒に獣人共も吹き飛ばす。

 

お仕置きにはちょうどいいだろ。

 

吹き飛んだ獣人の手から黄金盤が滑り落ちる。

 

「まずは一枚。…………ったく、ぬるいゲームだぜ。これで本当にアルス・マグナが手に入るのかよ」

 

“アルス・マグナ”―――科学的観点からではなく神秘的観点から考察される錬金術。

 

“ルルスの秘術”“王者の秘跡”“最後の錬金術”などと色んな名称で求められている。

 

ま、最大級の恩恵の一つとも言えなくはないか。

 

とくにこのゲームのタイトルの“Raimundus Lullus”―――――日本名・ライムンドゥス・ルルスは、アルス・マグナにまつわる逸話を多く持つ哲学者の一人だ。

 

取り分け有名なのは、イギリス国王・エドワード三世に黄金を送ったとされる逸話。

 

数十トンの卑金属を黄金に変えたって話だが………

 

そこまで考えて黄金盤の文面に目を落とす。

 

 

『ギフトゲーム名:“Raimundus Lullus”

 

参加資格D:継続する者

 

敵対者: 善なる者

     偉大なる者

     力ある者

     知恵ある者

     意志ある者

     徳ある者

 

敗北条件:“契約書類”の紛失は資格の剥奪に相当

勝利条件:全ての“ルルスの円盤”を結合し、真理ならざる栄光を手にせよ

 

ゲーム補足:全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始

      ゲームの終了は全ての参加者の敗北した場合

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗と“サウザンドアイズ”の名の下、ギフトゲームを開催します。

                                

                                “サウザンドアイズ”印』

 

 

ん?この文面………

 

俺が文面を訝しんだ瞬間。

 

黄金盤は錆び崩れた鉄塊に姿を変え、その場で崩れ落ちた。

 

「な………?」

 

慌てて掴もうとするが、鉄粉にまで分解され黄金盤は俺の指をすり抜け、春風に乗ってそのまま消え去った。




次は後編。

次回もお楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。