問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第9話 父さんを信じるだそうですよ?

飛びそうになった意識を引き留めるために舌を噛む。

 

痛みで何とか意識は飛ばずに済んだ。

 

いきなり、現れ俺を突き飛ばした黒いグリフォンを見る。

 

見間違いなんかじゃない。

 

アレは“生命の目録”だ。

 

「グ、グライア!?お前、生きてたのか!?」

 

グライア、それがコイツの名前なのか…………

 

どうやらガロロさんは知っている奴らしい。

 

『久しいな、ガロロ殿、継承式の日以来か…………だが、今は貴様に構っている暇など無い!』

 

旋風を起こし、ガロロさんを吹き飛ばす。

 

翼を出し、壁にぶつかる前に助ける。

 

「す、すまねぇ」

 

「気にしないでくれ」

 

ガロロさんは申し訳なさそうに謝ってくるが、俺は気にせずグライアを睨みつける。

 

『フンッ!大人しくやられていれば楽に死ねたものを。まぁいい、今は主の命令を優先させてもらうぞ』

 

俺達を横目にグライアは耀の方を向く。

 

『嬉しいぞ、コウメイの娘。よもや解答に辿り着くのが本当に貴様であったとは……!この星の廻りに感謝せねばなるまい!』

 

「な、何を……」

 

『我が名はグライア=グライフ! 兄・ドラコ=グライフを打ち破った血筋よ! 今一度、血族の誇りに決着を着けようぞ――――!!!』

 

グライアは雄叫びを上げて耀に襲い掛かる。

 

それを辛うじて避けた耀は他のメンバーに言い放つ。

 

「この人の狙いは私だ! 皆は十三番目の星座を探して!」

 

「だが、耀お嬢ちゃん!」

 

「早く!」

 

そう叫ぶと耀は旋風を巻き上げて空に逃げた。

 

グライアも耀を追うようにして飛び上がる。

 

グライアは龍角に炎を纏わせ旋風を使い、炎の嵐を呼び、耀に突進した。

 

それにより、耀は上空高く吹きとばされた。

 

俺はすぐに翼を出し、耀を受け止めた。

 

「耀、無事か!?」

 

「う、うん。でも、アイツ………」

 

「ああ、桁違いに強い」

 

折れて短くなった白牙槍を構え、グライアを見る。

 

「耀、俺が率先してアイツと戦う。耀は、距離を保ちながら防御に徹しろ」

 

「……………わかった(また………また修也だけ戦わせる破目になった………)」

 

折れて短くなってしまった槍を構え、一気に急降下して攻撃を仕掛ける。

 

槍の先端とグライアの龍角がぶつかり合い大気を震わせる。

 

『ほほお、そこそこやるようだな。小僧、気にいった。名を名乗れ』

 

「名乗る理由が無い」

 

『墓石に刻む名が必要だろう』

 

グライアは口角を上げ笑う。

 

「……………月三波・クルーエ・修也。クルーエの名には聞覚えはあるだろ?」

 

俺の何グライアは驚愕の色を隠せないのかそれが顔に現れていた。

 

『コウメイの娘に加えてあの男の息子までもが………………まったく今日は何と良き日だ!』

 

グライアは高笑いをし、突っ込んでくる。

 

それも俺が反応できないスピードで。

 

何とか槍でいなしたが、尋常じゃない力に手が震えた。

 

これが、龍角を持ったグリフォンの力か……………

 

「修也!」

 

耀が近くに来て声を掛けてくる。

 

「このままじゃ、修也もやられる。向うは本物のグリフォンだし、龍角も持ってる。地上に降りた方がいい」

 

確かに空中戦では奴に分がある。

 

耀の言う通り、地上に降りて戦う方がいい。

 

城下街なら身を潜める場所もある。

 

ゲリラ戦になれば五感が鋭い俺と耀で、索敵能力の分だけ有利になる。

 

「よし、城下街に逃げるぞ」

 

急降下をして、近くの廃墟に身を潜める。

 

グライアもすぐさま急降下して城下街に降り立つ。

 

「これでよし。後は廃墟の中を隠れるように進んで、時間を稼ごう」

 

少なくともガロロさんたちが最後の欠片を見つけるまでは時間を稼がないと。

 

『時間稼ぎか。しかし、この程度の事で姿を隠しきれると思うのか!?』

 

高く吠えるグライア。

 

その瞬間、グライアの体に変化が現れた。

 

骨肉が捩れ軋み、その姿を変えていく。

 

翼と嘴が無くなり、首筋からは三つの頭と顎が生え、巨躯の猛犬へと変えた。

 

隣で耀は息を呑んで放心していた。

 

 

 

 

 

 

使用者を例外なく合成獣にし、接触したあらゆる生命体の情報を取得、分析し、所持者を進化させ続ける単一系統樹

 

対魔王・全局面的戦闘兵装

 

 

 

 

 

 

 

 

ガロロさんの言ってたことが頭に蘇って来た。

 

はは、確かにこれは対魔王・全局面戦闘兵器になるな。

 

これが、“生命の目録”の真の力……………

 

『そこか!』

 

グライアが俺達の居場所を見つけ龍角から焔の嵐を起こし襲ってくる。

 

廃墟から飛び出し、上空に逃げる。

 

『愚か者め!我ら鷲獅子の一族は翼が無くとも飛べることを忘れたか!』

 

強靭な四肢で大気を踏みしめ一瞬にして間を詰める。

 

耀を守ろうと耀を突き飛ばす。

 

そして、三つの獰猛な猛犬となったグライアの牙が俺の脇腹を貫いた。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

 

耀SIDE END

 

いきなり修也に突き飛ばされ叩き付けられるように地面に降りる。

 

「痛っ………!」

 

痛がってる場合じゃない。

 

すぐに立ち上がり上を見上げる。

 

そして、空から修也が落ちてきた。

 

脇腹に穴を開けて。

 

「修也!」

 

掛けよてみると修也は意識を失っていた。

 

怪我の方も出血は酷くないけど、放っておくと危険だ。

 

修也を抱えて逃げようとするが、目の前にグリフォンの姿に戻ったグライアが現れた。

 

すぐに臨戦態勢に入るが、グライアは訝しげな表情をする。

 

『解せんな。何故、“生命の目録”を使って変幻しない?そのギフトを使えば、勝てぬまでも防戦に徹する事は不可能ではないはず』

 

「変、幻………?」

 

『……よもや、そのギフトが何か知らぬわけではあるまいな』

 

このギフト………“生命の目録”は他の種族と会話が出来て、心を通わせて、友達になった証にギフトの力を貰う。

 

それがこのギフトの力のはず……………

 

『“生命の目録”は生態兵器を製造するギフト。使用者h例外なく合成獣となり、他種族との接触でサンプリングを開始する。………よもや知らぬままは使っていたのではあるまい』

 

「接触して……サンプリング………」

 

「そうだ。先ほどの強力も巨人族の物だ。数日前“アンダーウッド”て戦ったはずだ」

 

確かに巨人族とは戦った。

 

でも、接触したのは叩き落された時だ。

 

たったあれだけの接触で…………

 

でも、それじゃあ、今まで心を通わせて得てきたと思ってた力も、ただ触れたから手に入れれただけ……………

 

『哀れだな。よもや己の知らぬ間に父の手により怪物と化していたとは夢にも思うまい』

 

「黙れ!」

 

グライアの言葉で頭に血が上りグライアの下顎を蹴りあげる。

 

衝撃で街路は大きく窪み、めり込んだ。

 

グライアは蹴られた方向に飛びあがり見下してくる。

 

『このまま生きていても己が怪物性に目覚めて苦しむだけだろう。せめて最後は貴様の父が生み出した業の片鱗を垣間見て逝くがいい!』

 

グライアがそう叫ぶと再びその姿を変幻させた。

 

そして、現れたのは

 

「………鷲獅子が、龍に………!?」

 

現れたのは巨大な四肢と龍角を持った黒龍だった。

 

『これが、貴様の父が造り出した業の片鱗。そして、“生命の目録”が持つ、真の力だ!』

 

龍になったグライアは口内に炎を蓄積し、熱線として城下街を焼き払った。

 

着弾した場所から立巻くように炎の嵐が起こり、城下街を焦土と化す。

 

せめてもの抵抗で旋風を起こし、その旋風で身を守る。

 

だが、意味がなく炎の竜巻に飲み込まれ地面に叩き付けられる。

 

『抵抗しなければたやすく死ねたものを。下手な足掻きは己の格下げるぞ』

 

「そんな事言われても、困る」

 

もう、言葉に言葉で返す事しかできない。

 

『そのような口が叩けるのも、今だけだ!』

 

再び熱線が放たれる。

 

死を覚悟して目を固く瞑る。

 

熱線が放たれ、辺り一面を焼き払う。

 

だけど、不思議なことに私が居た周りだけは無事だった。

 

目を開き前を向くと、右手を前に突き出し立っている修也がいた。

 

「しゅう、や………?」

 

「は、はは、少し、無理し過ぎた」

 

そしてその場に倒れる。

 

「……しゅうや…」

 

火傷で動けない足を引きずり修也に近づく。

 

「耀、あいつの言葉に耳を貸すな」

 

「え?」

 

「お前の親父さん、孝明さんは、お前を怪物にしようとしたんじゃない。お前に、自分の足で立って歩き、そして今日までで出会って来た人や動物、幻獣たちとの出会いを大切にしてほしくてその恩恵を与えたんだ」

 

火傷を負ってない左手を私の頭に置く。

 

「孝明さんのこと信じてやれ。お前が信じなくて誰が信じるんだよ?」

 

誰が…………信じる…………

 

「お前の力は生態兵器を生み出すギフトなんかじゃない。俺はそう信じてる」

 

「修也………」

 

無意識に手がペンダントを握り締めた。

 

『フンッ!いくら喚こうと“生命の目録”が生態兵器を生み出すギフトであることは変わらん。先程の熱線より遥かに威力が高い物をくらわしてやろう。二度とそんな戯けたことが抜かせぬように!』

 

グライアは先程よりも強く、炎を口内に蓄積させ凝縮させる。

 

「耀、次の一撃が終わったら全力で逃げろ」

 

「で、でも、あの威力を防ぐことなんて」

 

「大丈夫だ。後一撃ぐらいなら体一つで防ぎきれる」

 

「…………え?」

 

「お前を守ることぐらいはできるさ」

 

「だめ…………だめだよ……」

 

『これで、終わりだ!』

 

「我が血よ!我が名のもとに従え!この身に流れる血、全てを持ってあの一撃を「駄目!」

 

最後の言葉を言い終わる前に大声を上げて修也の前に出る。

 

そして、グライアの口から先程よりも強力な熱線が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走馬灯が駆け巡った。

 

今日まで重ねてきた出会いの全てが思い返される。

 

山で、海で、川で、林で、森で、街で、湖で、大陸で、世界で、異世界で、箱庭で出会い、培ってきた全てを。

 

 

 

 

 

 

 

 

負けたくなかった。

 

可能性があるならまだ諦めたくない。

 

幻獣と呼ばれる種は、異種配合された姿で存在している。

 

本来の系統樹からは在りえない進化の系譜持つが故に幻の獣とされる。

 

そして、その系譜を操り、生命の基盤を変える者がいるのなら、それは合成獣という名の禍々しい怪物でしかない。

 

でも、父さんが私に渡してくれたのはそんなものじゃない。

 

私は、父さんを信じる。

 

私が歩けるように、歩いて多くの出会いと出会えるようにと渡してくれたものがそんな禍々しい物であるはずがない。

 

だから、信じる。

 

父さんとの日々を、その贈り物を、享受してきた数々の恩恵を。

 

黒ウサギが言ってた。

 

霊格とは、人生の功績だと。

 

ならこの足で歩んできた日々の奇跡こそ、出会いこそ、私の霊格(そんざい)を形成する財産だ。

 

ペンダントを強く握りしめる。

 

そして、ペンダントに出会いという恩恵を集結させる。

 

歩んで切り開いてきた世界の全てを、両の掌に収めた軌跡を、開闢から時の果て駆け巡る百万の生命の系譜を、その幾億の出会いから選び抜き進化する星の業を、一次生命を、高位生命を、第三幻想種を、その最先から最奥までも凌駕し尽した為に、三万二千七百六十八毎に刻まれる一秒の定義すら追い抜て加速して、私の集大成を――――――――!

 

『何!?』

 

グライアが放った熱線は私が握りしめたペンダントによって阻まれていた。

 

『違う!これは私の知っている“生命の目録”ではない!!!』

 

グライアが叫ぶ中、ペンダントは形を一本の杖へと変えた。

 

先端に大蛇が付いており、翠色の翼を装飾した杖。

 

杖の先端の大蛇で熱線を受け止め、その直後、先端から溢れ出した閃熱が大波の様にグライアの片翼をもぎ取った。

 

『オオオオオオオオオッォォォォォォォォ!』

 

片翼を失ったグライアはその勢いで飛ばされ、地上へと落下していく。

 

私は勝利を確認したその場に崩れ落ちた。




もうすぐ終わります。

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