問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第7話 一昔前の出来事だそうですよ?

「殿下!レティ殿下!こんなところで寝ないでくださいまし!」

 

「ん?ああ、カール侍女頭か。何か用か?」

 

カール侍女頭が惰眠をむさぼろうとした私を叩き起こす。

 

「何か用かじゃありません!こんな所で寝てないで早く起きてください」

 

しかし、この暖かな日差し、気持ちいい風、こんな条件で眠れない者など居るだろうか?

 

居ないだろう。

 

だから、私は眠ってもいいはずだ。

 

というワケで、おやすみ。

 

カール侍女頭の言葉を無視し再び眠りに落ちる。

 

「二度寝禁止!」

 

埃落としで頭を殴られる。

 

その一撃で私の子供スイッチがONになる。

 

「やだ、寝る、絶対に起きない」

 

「やだ、寝る。ではありません!貴女は“箱庭の騎士”の象徴!“龍の騎士”と為ったものが兵舎で涎を垂らして寝ないでください!てか、まじ起きろゴラァ!」

 

カール侍女頭はとうとう切れて私の事を殴って起こす。

 

バフバフバフバフドスガスガスバキンゴキンガンガンゴンギングサッウィーンガッシャーン!

 

最後の音は何だ?

 

まぁ、それよりも眠い。

 

「おやすみ」

 

そう言って、本当に眠りだす。

 

「まったく、折角クルーエ様が来て居られるというのに」

 

「クルーエ叔父上だと!?何処だ!何処に居る!」

 

「応接室にで御寛ぎになっております」

 

「礼を言うぞ!カール侍女頭!」

 

そう言って私は走り出す。

 

そして、応接室に繋がる扉を勢いよく開ける。

 

其処には黒いコートを纏い、腰に剣を吊り、綺麗な銀髪に、口髭を生やした男性が居た。

 

間違いない。

 

クルーエ叔父上だ!

 

「叔父上!お久しぶりです!」

 

「おお、レティシアか。大きくなったな」

 

大きな武骨な手で私の頭を撫でてくる。

 

少し痛いが、とても心地いい。

 

「叔父上、今回は何時までのご滞在ですか?」

 

「ああ、今回は少し長いな。少なくとも一か月ぐらいはいる」

 

「そうですか」

 

叔父上はいつも城に来ても、最短で三日、最長でも一週間しか滞在しない。

 

だが、今回は一か月も滞在する。

 

とても嬉しい。

 

太陽の主権も贈られる。

 

“階層支配者”制度ももうすぐ確立される。

 

いい事尽くめだ。

 

私達、吸血鬼一族の未来は明るい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

落日の夕焼けは、血を焦がす灼熱の様だった。

 

ある魔王コミュニティの戦いで私達は見事勝利を収めた。

 

叔父上も参戦してくれたのもあり、早く決着が着いた。

 

だが、魔王を倒して帰還した私達を出迎えたのは民衆からの賛歌の声でもなければ、凱旋の音頭でもない。

 

同士たちの悲鳴と絶叫だった。

 

共に帰還した同士たちは既に息絶え、私も叔父上も満身創痍だ。

 

「なぜ………こんなことに………」

 

赤黒く焦げた左足を引きずり叔父上の肩を借りて走る。

 

昨日まで賑わっていた商業区も工業区も、悲鳴を上げてのた打ち回る同士で溢れかえっている。

 

「カーラは……騎士長は………父は、母は、妹は何処に………」

 

「ああ、そいつらならもう死んだんじゃね?」

 

背後を振り向くと見たことも無い男がいた。

 

「あ、誤解が無いように言っとくが、別に俺は主犯じゃないし、共犯でもないぜ」

 

飄々とそう告げる男。

 

見たことも無い服装だが、敵意は感じられないので話を聞こうと耳を傾ける。

 

隣では叔父上も剣を下ろし、冷静になっていた。

 

「流石は“龍の騎士”と最強の吸血鬼だ。怒りの中でも我を忘れないのはアンタらの美徳だ」

 

「御託は良い。要件を言え。そのために現れたんだろ?」

 

「もちろん。“遊興屋(ストーリーテラー)”はそれが仕事だからな。アンタたちの同士の死にざまを最初から最後まで綿密に語れるぜ?」

 

殺気を込めながら放たれた叔父上の言葉も男は軽く受け止めていた。

 

「先ほどの言葉は、真実か?」

 

私の質問に、男は笑みを消し、肩をすくめる。

 

「そもそも、何があったか理解してる?」

 

「聞くまでもない。俺達、吸血鬼を、一瞬で瀕死にまで追い込む方法なんて、一つしかない!」

 

そう言って叔父上は、沈む太陽を睨みつけた。

 

そう、私達吸血鬼を追い込むことが出来る方法。

 

それは、日光だ。

 

だが、箱庭では太陽の光を遮る大天幕があり、それのお陰で太陽の光を得られない種族は太陽の光を受けることが出来る。

 

「大天幕の解放には、“黄道の十二宮”か“赤道の十二辰”の主権が必要なはず!太陽の主権者たちは一体何を考えている!」

 

「やったのは、吸血鬼だぜ」

 

その言葉に私も叔父上も呆然とした。

 

「つまり、これは内乱。つーか聞いてないのか?お前たち、吸血鬼の為に十三番目の黄道宮を設けるって話」

 

私は頭を横に振って答えた。

 

「一部の吸血鬼にとっては悲願だったんだろうな。自分たちを苦しめる魔星の主権を得れる機会なんて、一生にあるかないかだしな。同族殺しに走ったのも頷ける」

 

言葉が出ない。

 

吸血鬼が、吸血鬼を殺すために、太陽の光を使うなんて…………そんなことをしたら、自分たちも危ない。

 

ましてや数分の開放で、王族や純血を根絶やしに出来るはずもないのに………

 

「あ、それと、アンタら順序間違えてるぜ」

 

「………?」

 

「あれ、なんだと思う?」

 

“遊興屋”が指さす方向を見る。

 

ソレは、城の城壁だった。

 

そして、城壁には、見慣れた服が貼り付けられていた。

 

そして、肉体があるはずの場所は黒く焦げたような痕跡があった。

 

まさか……………

 

「アレ、アンタらの家族だよ。純血の吸血鬼は簡単には死なないからな。磔刑の上、心臓串刺し、最後は太陽で火葬。念入りだよな城下街の連中はとばっちりだぜ。まさか、純血の、それも王族を殺すためだけに天幕を開放したんだからな」

 

その言葉を聞いて、私はその場に崩れ落ちた。

 

私達が魔王と死闘を繰り広げてる間に、もう、革命は済まされていたんだ。

 

「そういや、反逆者どもは、陽が沈んだらアンタら二人の取ってやるって息巻いてだぜ。アンタらの首を取らないと正式に十三番目の黄道宮が手に入らないらしい。夕暮れまで時間もないし、そろそろ身の振り方でも考えたらどうだ?」

 

ゆらりと立ち上がり、私は城に向かって歩きだす。

 

叔父上も私の後に続く。

 

「オイ、そんな体で何をする気だよ?」

 

「どうせ、この体はもう永くはない」

 

「そんなことはないぜ。適切な処置を受ければまだ助かる。だから、ここで一つ取引だ。アンタら二人が俺のコミュニティ、“グリムグリモワール”に」

 

「断る」

 

そう言った瞬間、私は持っていた槍を男の喉元に突きつけていた。

 

叔父上は男の背後に回り剣を首に当てていた。

 

「だが、その傷じゃ大した数は巻き込めないぜ。仲間も死んじまったんだろ?それとも無駄死にをよしとするのか?」

 

「………反逆者が何者かは知らん。だが、私はコミュニティの長として、あの旗の下で敵を迎え撃ち、残った者達を救う義務がある」

 

そう言って、また一歩、一歩、足を進める。

 

「はぁ、おい、反逆者を殺すだけの方法ならある」

 

足を止めて振り向く。

 

叔父上も驚きの表情をしていた。

 

「この“契約書類”に“主催者権限”を最大に利用したゲームを組んだ。これなら、余計なコミュニティを巻き込まずに…………アンタら、二人の内どちらかが魔王になれる」

 

「ふざけるな!俺達“箱庭の騎士”が魔王になるだと!?そんなもの、言語道断だ!魔王になるぐらいなら、この身が滅びても、最後まで一族の誇りを貫き通す!」

 

叔父上の言葉に私も同意するように首を縦に振る。

 

“遊興屋”は、はぁ~っと溜息を吐いた。

 

「ない物ねだりしてんじゃねぇよ!クルーエ=ドラクレア!守れないものを守ると叫んで、救えない者を救うと叫ぶ!大した道化だね!」

 

「何を………!?」

 

「一族の誇りを守るとか言ったな!なら、考えてみろ!お前らが、反逆者に負けたらどうなる!?反逆者どもの狙いは“太陽の主権”と“全権階層支配者”の地位だけだぜ!?

お前らが残したかった、秩序や泰平なんぞ、なんにも残らねぇ!

なのに、自己満足の復讐を果たす為に死ぬと来たもんだ!それも“誰かの為”と大嘘まで吐いてな!」

 

“遊興屋”の罵声に叔父上は反論できなかった。

 

私自身も反論が出来なかった。

 

「一族を立て直したいなら逃げろ。殺したいなら魔王になれ。死んで咲く華はあり得るが、敗北に咲く華があるなんて甘えるな。ここで殺されるってのはそういうことだ。だが、魔王になって反逆者を皆殺しにすれば、まだ打つ手はある。少なくとも“階層支配者”の制度を残すことは出来る。その代り。自分の名に泥をかぶってもらうがな」

 

渡された“契約書類”に目を通す。

 

その内容に私達は驚愕した。

 

「お前らの家族が受けた、全ての仕打ちを反逆者に。一度や二度で無く、半永久的に繰り返されるペナルティだ。これだけの内容なら鬱憤も晴れるだろう?

そして、鬱憤が晴れるか、ゲームを終わらせたくなったら、誰かにお願いしてクリアしてもらえばいい。もしクリアを任せられる奴を見付けたらこう言え“十三番目の太陽を撃て”ってな」

 

“遊興屋”の言葉をほとんど聞き流すかのように聞いていたが、頭の中にはしっかりと記憶されていた。

 

「魔王となったものはいつか必ず滅ぼされる。滅ぼす者が英雄か、神仏かは問わない。それが、魔王になったものの宿命だ。だがら、全てを捨てる覚悟があるなら………………同族殺しの魔王になれ」

 

そう言って男は消えた。

 

「……………レティシア、後は頼む」

 

「叔父上!?まさか、魔王になるおつもりですか!?」

 

「あの男の言う通りだ。今ここで死んでは俺達が目指したものは無くなってしまう。だから、俺は魔王になる。後は頼む」

 

そう言って叔父上は空白になっているゲームマスター名のところに自分の名を書こうとした。

 

その瞬間、私は持っていた槍で叔父上の腹部を突き刺した。

 

「ぐっ!………レティシア、何、を…………」

 

「叔父上、貴方の言う通り、私達の内どちらかが魔王にならなければなりません。…………初代“龍の騎士”にして最強の吸血鬼で在られる叔父上が…………魔王になるなど私には耐えられません。私が魔王になります」

 

「やめろ!」

 

「………………叔父上。貴方は、私にとって憧れであると同時に私にとってのもう一つの太陽です。私はその太陽を汚したくありません。………………ごめんなさい」

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は魔王になった。

 

レティシアSIDE END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み、夜が訪れた。

 

城下街には火が放たれ喘ぎ苦しむ同士ごとを焼き払った。

 

レティシアの周りには剣を持った吸血鬼たちが集まり、その剣を向けていた。

 

少し前まで

 

レティシアは持っていた槍を手放し、そして、城壁に焦げ付いた退治な人たちの墓標を見つめた。

 

多くの同士、親しい人たち、愛しい家族、全員埋葬されること無く壁のシミにされてしまった。

 

滂沱のような血と涙を流し、レティシアは万斛の怨嗟を込めて叫ぶ。

 

 

 

 

 

「 貴 様 ら は ………… 荼 毘 に 付 す こ と も 許 さ な い!!」

 

 

 

一族郎党、その全てを魂魄の一欠けらまで滅すると、同士だった者達に叫んだ怨嗟。

 

必ず殺し尽すと誓いを立て…………レティシアは、魔王の烙印を受けた。

 

 

 

 

 

 

クルーエ=ドラクレアは少し離れた所からその様子を見ていた。

 

自分の姪が同士だった者達をギフトゲームで殺し尽すところを。

 

腹部の刺し傷は既に塞がっている。

 

だが、クルーエにはまだその痛みが響くような感覚に襲われていた。

 

「あの程度の一撃すら、察せれないとはな。俺も耄碌したか…………」

 

その時、背後から多数の足音が聞こえた。

 

四人、五人程度ではない。

 

百人は居ると思うような人数だった。

 

反逆者の一部だろう。

 

クルーエは反逆者たちを一瞥し、そして、告げた。

 

「お前ら、明日の朝日が拝めると思うなよ」

 

クルーエの持つ剣が、爪が、牙が、反逆者を襲う。

 

そして、後には、無惨に切り殺されたり、引き裂かれたりした吸血鬼の夥しい死体とその死体の血で己の銀髪を真っ赤に染めたクルーエ=ドラクレアがいた。

 

これがクルーエが犯した罪で在り、クルーエを吸血神と呼ばれる由縁であった。

 


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