問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第3話 “箱庭の騎士”の歴史だそうですよ?

現在俺達は夜風を凌ぐため城下街の廃屋にいる。

 

そこで、軽く食事を取っている。

 

ジャックとガロロさん(なんでも“六本傷”の頭首だそうだ)がギフトカードに水樹の幹と乾燥食材を常備しておりそれを有難く頂くことにした。

 

「いいか。対魔王を謳うなら、持久戦の備えを常備していないといけねえ。そうでなくてもこの箱庭じゃあ、何時どんなアクシデントで孤立するか分からねえから、水樹や水珠のような水を確保できるギフトは必須だ」

 

「それにギフトカードは己の領地で収穫した実りや、家畜の精肉などを保存することもできます。備えあればなんとやらって奴ですね」

 

「…………そんなに便利なギフトなんだ」

 

耀は感心しながらギフトカードを眺める。

 

「そりゃそうダ。なんせ“サウザンドアイズ”の大幹部“ラプラスの悪魔”が対魔王に造り上げた一品ダ。“ラプラスの紙片(ギフトカード)”を所持してるかしてないかでじゃ、生存率が大幅に変わる。重要なギフトさ」

 

ネズさんは羊の干し肉を頬張りながら説明をする。

 

ちなみにネズさんに招待状を送ったのはガロロさんらしい。

 

なんでも、ネズさんとガロロさんは古い付き合いで情報交換以外での交流があるそうだ。

 

もしかしたら白夜叉は俺達が魔王との戦いに備えるためにギフトカードを渡したのかもしれない。

 

それなのに、なんで俺はギフトカードを落とすかなぁ~。

 

耀たちに伝えたら『うわ……コイツ、マジ無いわぁ~』っと言った感じで見られた。

 

俺だって好きで落としたわけじゃない。

 

持っているものは白牙槍とフェルナ、後は幻獣の血か………

 

正直、ハープーンガンとヒューメルーンが無いのはきついな。

 

幻獣の血は限りがある。

 

フェルナの戦闘能力はそこらへんのチンピラ程度なら倒せるがあの生物相手にはきつい。

 

それに、白牙槍もさっきから調子がおかしい。

 

なんか、ガタがきてる。

 

やばい、かなり不安だ。

 

「さて、今後の活動だが………まず意見を募りたい。誰か案はあるか?」

 

「うん」

 

ガロロさんの言葉に耀は同時に即答した。

 

「私は、全員此処に残ってゲームの謎解きに挑むべきだと思う」

 

「……ほう?」

 

耀の提案にガロロさんは低く唸る。

 

「そりゃまた何でだ?」

 

「私達はペナルティを受けることが確定してる。このまま逃げても十日後にはペナルティで死ぬことになる。だけど、審議決議が行われている今なら子供たちでも安全に廃墟や城の中を探索できる」

 

耀の提案にガロロさんの顔が更に強張った。

 

「ちょっとまて!ガキ共も戦わせるつもりか!?」

 

俺は手を上げガロロさんを制する。

 

「落ち着いてくれ。審議決議が行われている今なら主催者と参加者の戦闘は禁止されてる。今だけが安全かつ自由に散策できる」

 

「確かに、今は子供でも必要ダ。それにシュウ坊とお嬢ちゃんの提案はいい。オイラは賛成ダ」

 

ネズさんからの同意は得た。

 

ジャックもカボチャ頭を撫でながら半ば同意してきた。

 

「確かに春日部嬢の提案はゲームクリアに大きく貢献できます。しかし、本人たちのいしはどうです?」

 

ジャックの言う通りこの作戦は子供たちの意志で決まる。

 

子供たちが嫌がるなら無理強いはできない。

 

俺達はキリノの方を向き、意志を尋ねる。

 

キリノは怯えるように身を縮めるがそれでもはっきりと言った。

 

「わ、我々も“アンダーウッド”に住む同士の一人!ましてや眠ってる大精霊(母さん)の窮地を放ってはおけません!」

 

気合を入れるキリノ。

 

その姿が“ノーネーム”の子供たちに似ていて少し微笑ましかった。

 

「分かった。若い連中がそこまで言うなら俺も腹を括ろう。だが、具体的にどうする?もし無策だってなら許可はだせないぜ」

 

「うん。それについては私から提案……というか、勝利条件について暫定的な回答があるというか………」

 

声のトーンを落として話す耀。

 

そして、辺りが静寂に包まれた。

 

その静寂を俺が破った。

 

「何だ?解けたのか?」

 

「えっと、解けたっていうほどじゃないけど……辻妻が合うかなって」

 

そして、再び静寂になる。

 

「マジかよスゲーじゃん!」

 

「ああ、大したもんだ!初日から謎が解けたってんなら、勝ち目も十分に見えてくる!」

 

「耀さん凄いです!」

 

周りからの賞賛に耀は少したじろぐ。

 

「説明する前に、私の用意した解答が正しいがどうか検証するためにも幾つか聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「いくらでも聞いてくれ!」

 

「協力は惜しみませんよ!」

 

「情報なら小さいことからヤバいことまでなんでもあるゾ!」

 

身を前にして乗り出す。

 

凄い迫力だな。

 

「前提として確認する。箱庭の吸血鬼は、外界から来た外来種なんだよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「なら、この空飛ぶ城もその時のもの?」

 

「確証は無いが、文献ではそうなってるナ。なんでも故郷の世界にいられない理由が出来たとかで、一族ごと箱庭に逃げ延びたって話ダ」

 

「てことは、故郷の世界から吸血鬼は脱出してきたってことか?」

 

「そう珍しくはありませんよ何らかの事情で故郷を追われて、箱庭にやってくるのはよくあることです」

 

「以前南側を騒がした“魃”や故郷を追われ敗残した巨人族なんかもそうだ。吸血鬼の一族も同じように、故郷を追われる事件があったんじゃねぇか?」

 

ガロロさんはネズさんに目くばせをする。

 

「有名な話だと、吸血鬼は箱庭に来て太陽の光を初めて浴びて以来“箱庭の騎士”として秩序を守っていたってのがある。もしかしたらそれに関係した事件かもナ」

 

「ちょっと待て。箱庭を守るのは“階層支配者”だろ?なのに“箱庭の騎士”って言う二つ名があるんだ?」

 

「吸血鬼の一族が一時、“階層支配者”だったんじゃない?」

 

「いい着眼点だ、小僧。そんで、嬢ちゃんは察しがいい」

 

「三分の二程正解だナ」

 

微妙だな。

 

「正解は?」

 

「そもそも“階層支配者”ってのは箱庭開闢の時には存在していなかったらしい」

 

「当時は“外門の支配者(ゲート・ルーラー)”ってのが各外門に決められていて、そいつらが独自の裁量で地域を修めてたんダ」

 

「独自ってことは地域によって独裁とかもあったんじゃないか?」

 

「おおよ。特に箱庭の黎明期といえば、修羅神仏が入り乱れの大魔境!下層のコミュニティが魔王に外門権利書を奪われた日にゃ、悲惨なもんだったらしいぜ?」

 

「“境界門”の使用料一人につき金貨百枚とかにされたらたまったもんじゃないナ」

 

「え?“境界門”の権利があったら使用料決められるの?」

 

え?そこに食いつくの?

 

「ああ、“階層支配者”が定めた範囲なら自由に決められるゾ」

 

「ちなみに北から南に移動する場合、通常より五百パーセント増と言うぼったくり価格になっております」

 

それって一人につき金貨五枚だよな。

 

………………もし“ノーネーム”も同じようにしたらその八十パーセントがこちらに支払われるから………いや、邪な考えはよそう。

 

「え、えっと話を戻そう」

 

「あいよ」

 

どうやら耀も同じことを考えていたみたいだ。

 

「ま、そんな末世だった時価層に秩序を取り戻そうとしたのがクルーエ=ドラクレアを筆頭にした“箱庭の騎士”、つまり吸血鬼の一族だ」

 

また、親父だ…………

 

てか、親父って歳幾つなんだ?

 

見た目は四十代だが……………五百はいってるか?

 

「彼らはその持ち前の知恵と力、そして勇気を持って次々と凶悪な魔王を打ち破って行った。ちょうどその頃、中層と上層で行われていた星々の主導権争いにも一段落が付き、中下層の魔王が駆逐された。手に負えない魔王や外界に逃げた魔王もいたそうだが、何にせよ、箱庭は安定期を迎えることに成功した」

 

「その後、下層は“箱庭の騎士”を中心に全外門で共通の規定を取り決め、法整備をし、“階層支配者”と“地域支配者”制度を設け、東西南北の下層を見守る“全権階層支配者(アンダーエリアマスター)”として広く認められたって訳サ」

 

「それで、めでたしめでたし?」

 

「どころがどっこいっサ」

 

やっぱりこのまま終わらないか。

 

「こうして下層を守る“階層支配者”制度の導入に成功した吸血鬼の一族だったが………その後まもなく、吸血鬼たちは吸血鬼の王と神によって虐殺されたのサ」

 

「「え?」」

 

「それを行ったのが“串刺し王”、僅か十二歳で“竜の騎士”にまで上り詰めた最強の吸血姫、レティシア=ドラクレアと初代“龍の騎士”にして吸血神と呼ばれるクルーエ=ドラクレアさ」

 


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