問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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第9話 巨竜現れるそうですよ?

次の日の朝、俺達は“アンダーウッドの地下都市”新宿舎でフェイス・レスとご対面した。

「彼女こそ“クイーン・ハロウィン”の寵愛を受けた騎士“顔亡き者(フェイス・レス)”!どうか親しみを込めてフェイスと呼んでやって下さい!」

「………そう。彼女が……」

妖気に彼女を紹介するジャックだが、飛鳥は複雑そうな顔をしている。

なんでも、昨日巨人族に囲まれているところを助けられたとか。

「なるほど。“クイーン・ハロウィン”の寵愛者。世界の境界を預かる精霊の力を借り、ヘッドホンを召喚することですね?」

「ヤホホ!彼女は今我々“ウィル・オ・ウィスプ”の客分でしてね。彼女なら、代わりの品を召喚できるはずですヨ!」

後で聞いた話だが十六夜のヘッドホンを盗ったのは三毛猫でそのヘッドホンを耀の鞄に隠していたらしい。

しかし、巨人族の襲撃で壊れてしまい、ジンの出した案でフェイスにヘッドホンの召喚を御願いすることになったらしい。

「だが、異世界からの召喚となるとかなり高額なんじゃないか?」

「高額どころか本来なら拒否しますヨ。しかし、“ノーネーム”とは長くお付き合いさせてもらう予定なのでまぁ、お友達料金ということで手を打たせてもらいました。それに、彼女自身召喚をすることに異論はないそうです」

「そうなのか。でも、どうしてだ?」

「本当であればお断りしたいぐらいですが、私は貴方の御父上、クルーエ殿に命を救っていただいた恩があります。その恩を返すと思えば安いと思っただけです」

「そうか、ありがとな」

フェイスにお礼を言うとフェイスは再び口を開く。

「ですが、一つ問題があります。厳密には“クイーン・ハロウィン”の力で召喚するのではなく、星の廻りを操って因果を変える、要するに彼女が初めからヘッドホンを持ち込んでいたという形での再召喚。なのんで彼女の家にヘッドホンがないと成立しません」

「それなら大丈夫。家に十六夜のと同じメーカーのヘッドホンがある。それに父さんはビンテージ物だって言ってたから、十六夜もあれならきっと喜んでくれる」

まぁ、十六夜ならビンテージ物とかに喜びそうだな。

「でも、いいのか?そのヘッドホン親父さんのだろ?」

「それは大丈夫父さんも母さんも行方不明のままだがら」

「す、すまない。そうとは知らずに」

「ううん。私も話してなかったし……それに私達四人とも自分の事話したがらなかったから。知らないのも当然だと思う」

確かに、箱庭に来て結構時間が経つのに俺達は自分のことを話していない。

別にそれが悪いとは思わない。

でも…………どうせならお互いの事知りたいよな。

「なら、ヘッドホン渡したら四人でお茶会でもするか。異邦人のお茶会なんてな」

「あら、いいわね」

「うん。賛成」

俺達は互いに笑い合う。

笑い合った後螺旋階段を上り、地表に出る。

フェイスは“黄道の十二宮”を描いた陣を用意した。

陣の中央に耀が座り、フェイスが“クイーン・ハロウィン”の旗印が刻まれた剣を取り出す。

すると太陽の光が地面に描かれている十二宮の紋章を輝かす。

「ねぇ、修也君、どうしてハロウィンと太陽と“黄道の十二宮”が関係あるの?」

「ああ、ハロウィンは元々一年間の太陽の周期を二分化して行われる祭事を指すんだよ。そして、周期が変わるその時に異世界の境界が崩れ去るそうだ。ついでに、ケルト民族は独自の太陰暦を持つ程高度な天文学を修めていたそうだ。ただそいつらがどんな宇宙観を持っていたか定かじゃないんだ。ハロウィンはその数少ない文化の名残を残す祭事なんだよ」

「なるほど。それで、“黄道の十二宮”は?」

そこまで来て俺はジンにパスする。

「黄道とは“太陽が通過する軌跡”を指します。十二宮とは太陽の軌道上に存在する星座。箱庭内では十二宮の星座を幾つ支配しているかで、太陽の主権を決める程重要なものです」

「おそらく、今フェイスが行っているのは“クイーン・ハロウィン”の力で世界の境界を崩して“黄道の十二宮”の力でそれを安定させてるんだろ。どうだ?」

「YES!修也さんの言う通りなのです。ですが、“クイーン・ハロウィン”の力を借りてるとはいえ、人間が召喚を可能にするとは………」

黒ウサギは感心してるみたいだが、飛鳥は息を呑んでる。

「あの人……人間なの?」

「YES!様々な武具で身を固めておりますが、人間で間違いはありません。それも、皆さんに匹敵するほど、強大な才能の持ち主でしょう。“ウィル・オ・ウィスプ”が北側の下層で最強のコミュニティというのは、あながち間違いでないでしょう」

「そう」

黒ウサギの言葉に飛鳥は相槌を打つ。

耀は瞳を閉じてヘッドホンへの想いを高めている。

あのまま半日もヘッドホンの事を考えてれば後はフェイスがどうにかしてくれるらしい。

 

修也SIDE END

 

 

 

 

 

耀SIDE

 

秋霖が過ぎ去った季節。

偶然父さんのヘッドホンを持ち出し付けていた私は、部屋に飛び込んできた三毛猫の招待状を受け取り、その開封口へ手をかける。

私は少し興奮していた。空から私宛の手紙なんて、今の時代では考えられないほどファンタジーに溢れた発想だからだ。

しかし、開けようとした瞬間、ふっと疑問がわいた。

 

……ここで手紙を開けなかったら……?

 

このまま破り捨てたら、私は箱庭に行かなかったことになるのだろうか?

もしそうなら、私は幾つもの辛い思いを帳消しにできる。

ワータイガーの爪に裂かれることもない。

初めてできた友人関係で、胸が締め付けられるようなこともない。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きな人の隣に立てないことで苦しむこともなかった。

 

 

 

私の時代に居たらどれも経験できなかっただろうな。

そう思うと少し誇らしい。

箱庭ではたった二ヵ月間で何度も辛い目に会った。

そして楽しいこともあった。

箱庭に来た私の判断は正しかった。

そう胸を張って私は招待状を開いた。

 

耀SIDE END

 

 

 

 

 

 

修也SIDE

 

儀式は終わった。

問題無く終わった。

あれ?これ問題無い?

儀式が終わると耀の頭上にヘッドホンが出現していた。

なんで、ネコ耳ヘッドホン?

「可愛い!そのヘッドホンすごく可愛いわ、春日部さん!」

飛鳥は瞳を輝かせて耀に飛びついた。

「か、可愛い?」

飛鳥の言葉に意味が分からない耀はヘッドホンを頭から外し見る。

見た瞬間サッと顔を青ざめた。

「な、なんで!?ちゃんと炎のトレードマークも付いてるのに形が変わってる!?」

飛鳥にもみくちゃにされながら困惑する耀。

周りはなんとも微妙な表情でネコ耳ヘッドホンを見つめている。

「あのネコ耳を、十六夜さん飯送るんですか?」

「さ、さぁ?耀さんが判断するんじゃないかな?」

「ヤホホ………でも意外と喜ぶのではないでしょうか?」

ジャック、笑うに覇気がないぞ。

いや、流石に十六夜にネコ耳はないだろ。

その後、フェイスが耀のギフトを見たいとか言って耀がペンダントを渡す。

なんでも、フェイス曰く、耀のギフト“生命の目録”は“他種族のギフトを戴く”だけじゃないらしい。

なんでも、“目録”からのサンプリング、“進化”と“合成”をするのが本来の役割だそうだ。

「気を付けて。本来ならばそのギフトは人間の領域を大きく逸脱した代物ですから」

それだけ言うとフェイスは影を飛び降り地下都市に姿を消した。

てか、ヘッドホンの件、解決してないよな?

それから、十六夜が来るまで代わりになりそうな物を探すがどれもパッとせず結局ネコ耳ヘッドホンを送ることになった。

十六夜がネコ耳ヘッドホンを付けて戦う姿……………

シュールだな……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり俺は自室に戻り、ベットの上に横になった。

今日はずっと耀や飛鳥に連れ回され疲れた。

ベットに横になるとすぐにでも睡魔が襲ってきた。

「おっと、寝ちゃダメだ」

襲ってきた睡魔を振り払い、ギフトカードから血の小瓶を数本取りだす。

 

鷲獅子の血が三本

麒麟の血が二本

光翼馬の血が一本

 

ストックとしては十分だな。

できれば、収穫祭の間に俺も多くの幻獣と知り合って血を分けてもらいたい。

ちなみに、鷲獅子の血はグリーと戦って貰い、麒麟と光翼馬の血は白夜叉がくれた。

小瓶の蓋を外し、血の中に白い錠剤を入れる。

入れたものは血液が劣化するのを防ぐ薬だ。

幻獣の血は非常にデリケートもので少し空気に触れるだけですぐに鮮度が落ちる。

密閉した容器に入れても徐々に劣化していく。

その為にも定期的にこの薬を入れないといけない。

折角貰った血なんだ。

台無しにしたらまずい。

全ての血に薬を入れ終え布団に潜り込み目を閉じる。

すると、待っていたかのように睡魔が襲ってきた。

 

ポロン

 

ん?今なんか音が聞こえたか?

…………気のせいか。

そう思い再び寝ようとすると今度は稲妻が落ち宿舎が倒壊した。

爆風で外に放り出されるがすぐに翼を出して空中で体制を直す。

意識がはっきりとし始めさっきの音が“黄金の竪琴”だと気付いた。

地表に上がり外の様子を見ると巨人族も現れたようだ。

耀たちが心配だ。

ひとまず“ノーネーム”のメンバーと合流をしよう。

その時、空から黒い封書が落ちてきた。

まさか!?

封書を手に取りその内容を読む。

 

『ギフトゲーム名:“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

 

・プレイヤー一覧

 ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。

 ※但し獣の帯が消失した場合、無制限でゲームを一時中断とする。

 

・プレイヤー側敗北条件

 ・なし(死亡も敗北と認めず)

 

・プレイヤー側禁止事項

 ・なし

 

・プレイヤー側ペナルティ条項

 ・ゲームマスターと交戦した全プレイヤーは時間制限を設ける。

 ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。

 ・ペナルティは“串刺し刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。

 ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。

 ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課せられる。

 

・ホストマスター側 勝利条件

 ・なし

 

・プレイヤー側 勝利条件

 一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。

 二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレイア”の殺害。

 三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。

 四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て。

 

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “        ”印』

 

やっぱり魔王の契約書類だ。

それより

「レティシアがゲームマスターだって!?」

どういうことだ?

それに、このゲームの内容…………

出鱈目すぎる。

ペストの時とは明らかに違うゲーム。

これが本当の魔王のゲームかよ………

契約書類を穴が開くほど睨みつけてると

「GYEEEEEEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaaaaEEEEEEEEEEEEEYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaaa!」

巨大な咆哮が響き渡った。

咆哮が聞こえた方を向くとそこには

「おい………冗談だろ……」

巨竜がいた。

 


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