問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ?   作:ほにゃー

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かなり長くなりました。


第4話 問題児が喧嘩を売るそうですよ?

ピチピチのタキシードを着た男は

俺たちの座っているテーブルの空いてる席に腰を下ろした。

「貴方の同席を許可してはいません。それと僕らのコミュニティは“ノーネームです”。

 “フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー。」

「黙れ、名無しが。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいな。

 コミュニティの誇りである名も旗印も無いのに未練がましくコミュニティを

 存続させるなどできたものだな――――そう思わないかい、御三人。」

俺達に愛想笑いを浮かべるガルド。

対して冷ややかな目を向ける俺達。

「席に座るなら、名前ぐらい名乗ったらどうだ?」

「そうね。それと、一言添えるのが礼儀ではないかしら?」

「おっと、これは失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ

“六百六十六の獣”の傘下の「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、

 ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧!!」

ジンが横槍をいれ、ガルドの話を面白くしてくれた。

今のは、面白かった。

「口を慎めや・・・紳士で通ってる俺にも聞き逃せない言葉もあるんだぜぇ。」

「森の守護者だったころの貴方なら少しは相応の礼儀で返していたでしょうが、

 今の貴方はこの二一○五三八○外門付近を荒らす獣です。」

ガルドの脅しに怯まずに真っ向から勝負するジン。

意外にも度胸はあるみたいだな。

「そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらん。

 自分のコミュニティがどういう状況か理解できてるのか?」

「そこまでだ。」

険悪ムードの二人に割って入り喧嘩を止める。

それに、気になることを聞きたいしな。

「取り敢えず、お前たちが仲が悪いのは分かった。

 それを踏まえたうえで聞く。・・・・

ジン、お前たちのコミュニティの現状を教えてくれ。」

「そ、それは・・・・」

ジンの顔に明らかに動揺の色が見える。

やはり、何か隠しているな。

「ジン、お前は、コミュニティのリーダーなんだろ。

 なら、同士として呼んだ俺達にコミュニティがなんなのか説明する義務がある。

 違うか?」

ジンは黙ったまんまだ。

拳を握り、震えている。

「これは、あくまで予想だが、ジンがコミュニティの現状を言わないのは

 何か言えない事情があるんだろ?

 それは、ジンのコミュニティは衰弱したコミュニティなんじゃないか。」

その言葉にジンの肩がビクッとなった。

「理由はさっきガルドが言った過去の栄華に縋るって部分だ。

 察するにジンのコミュニティは元々、名が知られたコミュニティだった。

 それがなんらかの理由で衰弱した。

 そのため、異世界の俺達を呼び出しコミュニティの再建をしようとしている。

 そのことを言わないのは、

 言ったら俺たちがコミュニティに入らないかもしれないから。

 更に、黒ウサギもグルだな。

 十六夜がコミュニティに入るのを断った時、怒ってたしな。

 それと、俺達にはまだ、他のコミュニティを選ぶことができる。

 どうだ?違うところはあるか?」

「いやはや、頭が良い方だ。

 その通り、貴方の推理通りですよ。

 ジン君のコミュニティは数年前までこの東区最大手のコミュニティでした。

 最もリーダーは違います。

 ジン君とは比べようもないぐらい優秀な男だったそうですよ。

 ギフトゲームの戦績も人類最高の記録を持っており、

 南北の主軸コミュニティとも親交が深かった。

 南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、

 箱庭の上層に食い込むコミュニティは嫉妬を通り越して尊敬する程に凄いのです。

 まあ、先代は、ですが」

ガルドはジンを見ながらそう言う。

店員が持ってきたコーヒーを啜り、質問をする。

「名と旗印ってのは?」

「コミュニティは箱庭で活動する際に、

“名”と“旗印”を申請しなくてはいけません。

 特に旗印は、コミュニティの縄張りを示す重要なものです。

 この店にもあるでしょう。」

ガルドが示す先には六本の傷が描かれた旗が飾られていた。

「話は変わりますが、もし、ここを自分のコミュニティ下に置きたければ

 あの旗印のコミュニティに両者合意でギフトゲームをすればいいのです。

 実際に私のコミュニティはそうやって大きくしました。」

「つまり、さっきからあんたの胸元にあるマークと同じ旗が掛かってる店は

 あんたのコミュニティの支配下ってわけか。」

この店を除く、あちらこちらにガルドの胸元にある虎の紋様をあしらったマークが

あるのはそういう訳か。

「はい、残ってるのはここの店みたいに本拠が他区にあるコミュニティや

 奪うに値しない名もなきコミュニティぐらいですよ。」

嫌味を浮かべた笑顔でガルドはジンを見る。

ジンは、悔しさに唇を噛みしめている。

「話を戻そう。

 つまり、ジンのコミュニティには旗印と名が無い。

 故に“ノーネーム”ってわけか。

 なら、どうして、名と旗印がないんだ。」

「奪われたのですよ。この箱庭の天災“魔王”にね。

 名も旗印も主力も奪われ今や、

 失墜した名もなきコミュニティでしかありません。

 名乗ることの出来ないコミュニティに何ができると思います?

 商売?主催者?名もない組織など相手にされません。

 ギフトゲームに参加しようにも優秀な人材が

 失墜したコミュニティに加入すると思いますか?」

「誰も加入したいと思わないだろうな。」

「そうでしょう。それに、彼はコミュニティの再建を掲げていますが、

 実際のところ黒ウサギにコミュニティを支えてもらっています。

 ウサギはコミュニティにとって所持してるだけで大きな“泊”が付きます。

 どこのコミュニティでも破格の待遇で愛でられます。

 なのに彼女は毎日毎日糞ガキどもの為に身を粉にして走り回り、

 僅かな路銀でやりくりしている。

 本当に不憫ですよ。」

ワザとらしく額に手を当てヤレヤレといった感じに首を振る。

「なるほど。あんたのおかけで色々分かった。

 ところで、あんたは何しにここへ来た?

 世間話をしにきたわけじゃないだろ?」

その質問にガルドはニヤリと笑う。

「単刀直入に言います。

 黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」

「な、何を言い出すんですか!?」

ガルドの提案に驚きジンが声を荒げる。

「黙れ。そもそも、お前が名と旗印を改めていれば

 最低限の人材は残っていたはずだろが。

 それを、お前の我儘でコミュニティを追い込んでおきながら、

 異世界から人材を呼び寄せた。

 何も知らない相手なら騙せれると思ったのか?

 その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら

 こっちも箱庭の住人として通さなきゃならん仁義があるぜ。」

ガルドの獣のような鋭利な輝きを持った目にジンが僅かに怯む。

だが、何も言い返さない。

おそらく、俺達への後ろめたさがあるんだろう。

「どうですか?返事は直ぐにとは言いません。

 あなた達は箱庭で三十日間の自由が約束されます。

 彼のコミュニティと私のコミュニティを視察して検討してからでも―――」

「その必要は無い。

 俺はジンのコミュニティに入るからな。」

「「はっ?」」

ジンとガルドの声が重なる。

「耀と飛鳥はどうだ?」

紅茶を飲んでいる耀と飛鳥に聞く。

「私もジン君のコミュニティで間に合ってるわ。春日部さんは?」

「私はどっちでもいい。私は友達を作るためにここに来たから。

 でも、修也がジン君の所に行くなら私もそっちにしようかな。」

「あら、随分、修也君と仲が良いのね。

 なら、私とも仲良くしてもらえるかしら?

 もちろん、友達としてね。」

恥ずかしかったのか髪を触りながら言う。

耀は少し考えた後、小さく笑った。

「・・・うん。飛鳥は私の知る女の子と少し違うから大丈夫かも」

『ニャニャー・・・・ニャニャニャニャニャ―、ニャニャ

(よかったなお嬢に友達できてワシも涙が出るぐらい嬉しいわ)』

耀と飛鳥が友達になり、三毛猫が泣きながら喜んでいる。

うん、良きかな、良きかな。

「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」

ガルドが額に怒りマークを浮かばせながら聞いて来る。

顔が引きつっているため動揺がまる分かりだ。

「私、久遠飛鳥は、裕福だった家庭も、約束された将来も

おおよそ人が望みうる全てを支払って箱庭に来たのよ。

『小さな一区画を支配してる組織の末端に迎え入れてやる』

と言われても魅力を感じないわ。」

「お、お言葉ですが『黙りなさい。』

急にガルドが口を閉じ喋れなくなる。

「貴方にはいくつか聞きたいことがあるわ。『大人しくそこに座ってなさい。』」

ガルドは椅子にひびが入るぐらいの勢いで座る。

店の奥から猫耳店員が慌ててやってくる。

「お客さん!当店での揉め事は控えてくださ―――」

「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも一緒に聞いて。多分面白いことが聞けるわ。」

飛鳥は悪そうな顔をして言う。

十六夜といい、飛鳥といい、耀といい、黒ウサギといい

面白い奴が多いねぇ~。

「さっきこの地域のコミュニティに両者合意で勝負をしたと言ってたけど

 コミュニティそのものを賭けるゲームはそうそうあるのかしら?

 そのへんはどう、ジン君。」

「は、はい。やむを得ない状況なら稀に。

 ですが、コミュニティの存続をかけたゲームですからそうそうありません。」

「でしょうね。なら、どうして貴方はコミュニティを賭ける大勝負ができたのかしら。

『教えて下さる』」

飛鳥の命令に歯向かうように抵抗するが徐々に口が開く。

「相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫し、

ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった。」

「小物らしい手ね。

でも、そんな方法で吸収したコミュニティが貴方に従ってくれるのかしら?」

「各コミュニティから子供を人質にとってある。」

こうもベラベラ喋るとはな。

飛鳥のギフトは相手を支配するギフトなのか。

「そう。それで、子供たちは今どこに幽閉されてるの?」

「もう殺した。」

空気が凍り付く。

俺も、耀も、ジンも、店員も、そして、飛鳥も一瞬耳を疑った。

「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。

それ以降は自重しようと思っていたが、

父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。

それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。

けど身内のコミュニティの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。

始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食『黙れ!!』

飛鳥の言葉でガルドが黙る。

さっきよりも力を強めたためか、勢いよく閉じた。

「素晴らしいわ。まさしく絵に描いたような外道ね。

 さすがは人外魔境の箱庭ね。」

「か、彼のような悪党は箱庭でもそうそういません。」

飛鳥の言葉を慌ててジンが否定する。

「なあ、ジン。今の証言でコイツは箱庭の法で裁けるか?」

「可能です。ですか、裁かれるまでに箱庭の外に出られたらそれまでです。」

「そう、なら仕方がないわね。」

飛鳥が指を鳴らすとソレを合図にガルドの体を縛り付けていた力が解かれた。

「こ・・・小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ガルドの体が激変し、タキシードは弾け、体毛が黄色と黒の縞模様になった。

ワータイガーって奴か。

「テメェ、どういうつもりか知らねえが・・・・

俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?

箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!

俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!

その意味が「『黙りなさい。』私の話はまだ終わってないわ。」

先ほどと同様にガルドの口が閉じられる。

だが、ガルドの腕が飛鳥を襲う。

耀と共に飛鳥とガルドの間に割って入った。

「喧嘩はダメ。」

「女に手を上げるのは紳士失格だな。」

ガルドの手を捻り回転させ、そのまま地面に押し倒す。

「ガルドさん。私は貴方の上に誰が居ようと気にしません。

きっとジン君も同じでしょう。

だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」

飛鳥の言葉に驚きつつも、しっかりと決意をした目でジンは答える。

「・・・・・・はい。

僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。

 いまさらそんな脅しには屈しません」

「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」

「く・・・・・・くそ・・・・・・!」

俺と耀のせいで身動きが取れないガルド。

コイツは、もうこうして悪態をつくぐらいしかできない。

「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度の事では満足できないの。

 貴方のような外道はずたぼろになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ」

飛鳥の言葉にジンと猫耳店員が首をかしげる。

「そこで皆に提案なのだけれど」

飛鳥は悪戯を思いつた少女のような笑みを浮かべている。

「私たちと『ギフトゲーム』をしましょう。

 貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇り と魂を賭けて、ね」

 


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