問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
「あー!誰かと思ったら耀じゃん!何、お前たちも収穫祭に」
「アーシャ。そんな言葉遣い教えていませんよ」
賑やかな声に聞き覚えを感じ上を見る。
そこには、ジャックとアーシャが居た。
「おー、ジャック久しぶりだな」
「ええ、そうですね」
「アーシャも来てたんだ」
「まあねー。こっちも色々あって、サッと!」
アーシャは窓から飛びおりて目の前に降り立つ。
「ところで、耀はもう出場するギフトゲームは決まってるの?」
「ううん、今着いたところ」
「なら“ヒッポカンプの騎手”に必ず出場しろよ。私も出るしね」
「ひっぽ……何?」
耀がこっちを向き説明を求める。
口を開こうとしたが話すのを止め、ジンの背中を叩く。
勉強の成果見せてやれ。
「ヒッポカンプとは別名“海馬(シーホース)”と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背びれを持ち、蹄に水搔きを持つ馬です。半馬半漁と言っても間違いではありません。水上や水中を駆ける彼らの背に乗って行われるレースが“ヒッポカンプの騎手”と言うゲームです」
日頃の勉強のお陰で問題無く説明ができた。
「水を駆ける馬までいるんだ」
耀は両手を胸の前で組み強く噛みしめる。
余程、嬉しいんだな。
その後、俺達は貴賓客が止まる宿舎に入った。
中は土壁と木造の宿舎だったが、造りがしっかりしている。
半分が土造りなのに空気も乾燥していない。
水樹の根が常に水気を放出しているせいだろう。
「凄いところだね」
「ええ、北側は建造物が多いのに対して、南側は環境に適して過ごしてるように思えるわ」
「YES!南側は箱庭の都市が建設された時、多くの豊穣神や地母神が訪れたと伝わっています。自然の力が強い地域は、生態系が大きく変化しますから」
「だが、水路の水晶は北側の技術だろ?似たようなものを誕生祭の時見かけたぞ」
俺の質問に黒ウサギはへ?と首とウサ耳を傾ける。
「良く分かりましたねえ。修也殿の言う通りあの水晶は北側の技術ですよ。十年前、魔王襲撃から此処まで復興できたのもその技術を持ち込んだ御方の功績だとか」
「それは初耳でございます。一体何処の御方が?」
黒ウサギの質問にジャックは顎(?)撫でながら答える。
「実は“アンダーウッド”に宿る大精霊ですが、十年前の魔王襲来のときの傷跡が原因でいまだに休眠状態にあるとか。そこで“龍角を持つ鷲獅子”のコミュニティ“アンダーウッド”との共存を条件に守護と復興を手助けしているのです」
「その、“龍角を持つ鷲獅子”で復興を主導しているのが元北側出身者ってことか」
「はい。おかげで十年と言う短い月日で再活動の目途が立てられたと聞き及んでおります」
「そうですか。凄い御仁でございます」
黒ウサギは胸に手を当てジャックの言葉を噛みしめる。
大方、自分たちとの境遇と似ているから思うところがあるのだろう。
「ヤホホホホ、我々はこれより“主催者”に挨拶に行きます。よろしければ、“ノーネーム”の皆さんもご一緒にどうです?」
「そうですね。荷物を置いてきますから少しだけ待っていてください」
承諾したジャックはアーシャと共に外に出て待っててくれるそうだ。
荷物を宿舎に置きジャックたちと合流して収穫祭本陣へと向かう。
螺旋状に掘り進められた都市をぐるぐると周りながら登る。
収穫祭と言うだけあって出店がでてる。
「黒ウサギ。あの出店の“白牛の焼きたてチーズ”って、」
「ダメですよ。食べ歩きは“主催者”への挨拶がすんでから、」
「おいしいね」
「いつの間に買ってきたんですか!?」
黒ウサギのツッコミをスルーし、耀は口の中にチーズを放り込み食べる。
うまそうだな…………
そんなことを考えてると耀が俺のコートの袖を引っ張る。
「食べる?」
差し出されたのは焼き立てのチーズだった。
「いいのか?」
「うん」
「じゃあ、もらう」
手を伸ばし取ろうとするとヒョイッとチーズの入った包み紙を遠ざけられる。
「耀?」
「はい、あ~ん」
ナニシテルンダ?
おっといきなりの出来事に言葉が片言になっちまった。
「耀、流石にこれは恥ずかしいのだが」
「いいから、口開けて」
ずいずいとチーズを持った指を近づけてくるので渋々口を開ける。
そこにチーズが転がり込み咀嚼する。
「どう?」
「あ、ああ、うまい」
「よかった」
耀はそう言って微笑み再びチーズを食べ始める。
正直言うとチーズの味なんて分からない。
あんなことされたら意識がそっちに行くし、分かるわけない。
だって……………耀って……………結構可愛いし…………
なんかスッゲー恥ずかしいこと言ってる気がする。
なんて俺が一人悩んでいる横で耀の食べてるチーズを飛鳥とアーシャは物欲しそうにしていた。
「……………匂う?」
「匂う!?」
「匂う!?今、匂うって言った!?普通そこは食べる?って聞くはずじゃない!?」
「だってもう食べちゃったし」
「しかも空っぽ!?」
「残り香かよ!?どんなシュールプレイ!?」
「……………そう、春日部さんは女同士の友情より自分の恋を選ぶのね」
「!…なるほど、耀はアイツに惚れてるのか」
「な!ち、違……わないけど、違う!」
「あら、何がどう違くて何が違わないのかしら?」
「教えてくんない?」
「二人とも、分かっててやってるよね?」
「「なんのこと~?」」
「う~~~~~~~」
何の話してたんだ?
「ヤホホホホホ!賑やかな同士をお持ちで羨ましい限りですよ、ジン=ラッセル殿」
「でも、賑やかさでは“ウィル・オ・ウィスプ”の方が上だと思います」
「ヤホホホホホホ!いや、まったく恐れ入ります!」
全員で賑やかに階段を上り地表に出ると目の前には巨大な水樹が現れる。
これ、上るんだよな…………
「ジャック、この樹って全長何ⅿ?」
「500ⅿと聞いてますよ。御神木の中では一番大きい部類に入るかと」
「ジン、俺達が向かう場所ってどのあたり?」
「えっと、中ほどの位置かと」
てことは、250ⅿか…………
「修也さん、そんなあからさまに嫌そうな顔しないで下さい」
「俺、飛んで行っていい?」
「私もいい?」
どうやら耀も面倒くさいらしい。
「二人ともいくらなんでも自由度が高すぎるわ」
「ヤホホ!ご心配なく。エレベーターがありますよ」
ジャックの案内で連れられて来られたのは幹の麓だ。
そこには木製のボックスがあった。
「全員乗ったら扉を閉めて傍にあるベルを二回ならして下さい」
「わかった」
全員乗り、縄を二回引っ張ると木製のエレベーターは上がり始めた。
「わっ!」
「上がり始めたわ!」
「反対の空箱に注水して引き上げてるのか」
「ヤホホ!原始的ですが、足で上るよりよほど速いですよ」
収穫祭本陣に付きエレベーターを降りる。
幹の通路を進むと、“龍角を持つ鷲獅子”の旗印が見えた。
「七枚の旗?七つのコミュニティが主催してるの?」
「残念ながらNOです。“龍角を持つ鷲獅子”は六つのコミュニティが一つの連盟を組んでると聞いています。中心の大きな旗は連盟旗です」
「連盟?何のために組むの?」
「用途は色々ありますが、一番は魔王への対抗するためですね」
「要するに連盟加入コミュニティが魔王に襲われたら助太刀しに行くそんなところか」
「YES!更に連盟加入コミュニティなら魔王のギフトゲームへ介入することも可能です」
“一本角”
“二翼”
“三本の尾”
“四本足”
“五爪”
“六本傷”
そして中心が連盟旗“龍角を持つ鷲獅子”か…………
一つあることを考えているとジンは本陣入口の受付で入場届を出していた。
「“ウィル・オ・ウィスプ”のジャックとアーシャです」
「“ノーネーム”のジン=ラッセルです」
「はい、“ウィル・オ・ウィスプ”と“ノーネーム”の…あ、もしかして、“ノーネーム”の久遠飛鳥様でしょうか?」
樹霊の少女が飛鳥を見て声を上げる。
飛鳥はその通りだと頷く。
「私、火龍誕生祭に参加していた“アンダーウッド”の樹霊の一人です。飛鳥様には弟を救っていただいたとお聞きしたのですか」
あおれを聞いて飛鳥はああ、と思い出したように声を上げる。
「やはりそうでしたか。その節は弟の命を救っていただきありがとうございました。おかげで、コミュニティ一同、一人も欠けることなく帰って来られました」
「そう、それは良かったわ。なら、招待状を送ってくれたのは貴女たちなのかしら?」
「はい。大精霊(かあさん)は今眠っていますので。他には“一本角”の新頭首にして“龍角を持つ鷲獅子”の議長でもあらせられる、サラ=ドルトレイクからの招待状と明記しております」
“龍角を持つ鷲獅子”の議長の名前に俺達は驚く。
「ジン、ドルトレイクって………」
「は、はい、サンドラの姉であるサラ様です。まさか南側に来ていたなんて………もしかしたら、北側の技術を流出させたのも」
「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」
聞き覚えのない言葉に驚き一斉に振り向く。
健康そうな褐色の肌、踊り子のような服装、サンドラと同じ赤髪で長髪、サンドラより長く立派に生えた龍角、そして、二枚の炎翼。
「久しいな、ジン。会える日を待っていた。後ろの“箱庭の貴族”殿とは、初対面かな?」
「サ、サラ様!」
サラ=ドルトレイクがそこにいた。