問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
“境界門”をくぐると多分に水分を含んだ風が驚いた。
そして、目の前の巨躯の水樹を見て更に驚いた。
「…………す、凄い!なんて巨大な水樹…………!?」
飛鳥も巨躯な水樹を見て圧倒されてる。
「修也、下!水樹から流れた滝の先に、水晶の水路がある!」
耀が今までにないぐらいの歓声を上げ俺の袖を引く。
耀につられ、下を覗くと確かにそこには水晶の水路があった。
ん?あの水晶、確か北側で見た気が………
「修也、上!」
今度は何だ?
上を見上げると何十羽という数の角の生えた鳥が飛んでいた。
「角が生えた鳥………しかも、あれは鹿の角。聞いたことも見たこともない。黒ウサギは知ってる?」
「え、ええまぁ……」
「ちょっと、見てきていい?」
珍しく興奮しきってる耀。
そんな耀を俺は制する。
「耀、やめとけ。あれはペリュドンだ」
「ペリュドン?」
「ああ、アトランティス大陸に棲んでいたとされる怪鳥の一種で地中海でも目撃例がある。鳥の胴体と翼、牡鹿の頭と脚を持った姿をしていて、自身の影を持っていないが、光を浴びると人間の形の影ができる。
一説では故郷から離れた場所で息絶えた旅人の霊だと言われてる。
ペリュトンは、先天的に影に呪いを持っていて人間一人を殺すと、自身の本来の影を取り戻す事ができるために人間を狙っているという。影を得れば、また影が無くなるまで人は襲わない。だが、影が無くなれば何度でも人間を殺す。言うなれば殺人種だ」
俺の説明に耀は少し震える。
「もし、私がその幻獣からギフトを貰ったらどうなってた?」
「想像しない方がいい。それに、下手すれば呪いを受ける羽目になる。ペリュドンには関わらないことが一番だ」
「うん、気を付ける」
少し肩を落とし落胆する。
そんな耀の頭に手を置きゆっくり撫でる。
「そう気を落とすな。幻獣は他にも沢山いる。一緒に友達になれそうな幻獣を探そうぜ」
「…うん、ありがとう」
頬を少し赤く染め耀が頷く。
「いや~、暑いわね。黒ウサギ」
「YES。暑くて堪りません」
「あ、あははは……」
何やら後ろで三人が話してるが聞こえない。
『流石は我が好敵手《とも》!よくぞ、知っていたな』
俺を好敵手《とも》なんて呼ぶ奴一人しかいない。
「やっぱりお前か。グリー」
『久しいな、修也』
「もしかして、白夜叉の所にいたグリフォン?」
『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』
現れたのは“箱庭”に来て最初に出会った耀の友達グリフォンのグリーだ。
「ここか故郷だったのか」
『ああ、収穫祭で行われるバザーには“サウザンドアイズ”も参加する。そこで、私も戦車(チャリオット)を引いてきた』
グリーの背中には鋼の鞍と手綱が装備されている。
『“箱庭の貴族”と友の友よ。お前たちも久しいな』
「YES!お久しぶりなのです!」
「お、お久しぶり……でいいのかしら?」
「き、きっと合っていますよ」
言葉が分からない飛鳥とジンはその場の空気を読みお辞儀する。
『そう言えば、修也にはしたが、友には自己紹介をしていなかったな。改めて、私は“グリー”、騎手からそう呼ばれている。友もそう呼んでくれ』
「うん。私は耀でいいよ。こっちは飛鳥とジン」
『分かった、友の名は耀で、友の友は飛鳥とジンだな』
グリーは翼を羽ばたかせて名前を覚えたことをアピールする。
「ところで、修也はいつグリーと知り合ったの?」
「あ~、そ、それはな………」
『修也とは拳で語り合った仲だ。友ではなく好敵手《とも》だ』
いや~、あの時は大変だったな。
血がいっぱい出たし、一瞬走馬灯見たし、白夜叉と女性店員も大慌てだったな。
まぁ~、今となってはいい思い出だ。笑い話にもなるな」
『好敵手《とも》よ。途中から喋ってるぞ』
「…………どのへんから?」
『血がいっぱい出たしのあたりからだ』
あれ?デジャヴ?
…………………あれ?なんで、皆俺をそんな目で見るの?
まるで、何勝手に危ないことしてるんだよ!みたいな目は?
「修也」
いつになく抑揚のない耀の声に震える。
「な、何か?」
「何か?フフフ、何かじゃ………………ないよ!」
「ひっ!?」
「取り敢えず、正座」
「え?でも、ここ砂利があって痛いし」
「正座」
「太陽で熱された地面が熱いんだけど」
「三回目………言わせる気?」
「………はい」
俺は太陽に熱された地面に正座し、砂利の痛さを感じながら、耀の説教を受けた。
説教は三十分で済んだ。
でも、足に結構なダメージが残った。
「続きは夜」
なんか物騒な言葉が聞こえた気が…………
『それより、ここから町まではまだ距離がある。もしよければ私の背で送ってこう』
グリーの提案に皆が賛同した。
グリーの背に飛鳥、ジン、黒ウサギ、三毛猫が乗り、俺と耀は自らの力で飛べるからスリーと並んで飛ぶことなった。
『それにしてもペリュドンの奴らめ、収穫祭中は外門に近づくなと警告をしたというのに。よほど、人間を殺したいと見える。普段なら哀れな種と思い見逃すが、今は収穫祭がある。再三の警告に従わないなら…………皆には今晩、ペリュドンの串焼きを馳走することになるな』
ニヤリ、と大きな嘴でグリーが笑う。
そして、そのまま地面を蹴り空に飛ぶ。
グリーのスピードは生半可のものじゃなかったがそれに付いて行ける耀も凄い。
『やるな。全力の半分しか出してないが、二ヶ月足らずで私について来るとは』
「うん。黒ウサギが飛行を手助けするギフトをくれたから、後、修也とも特訓したし」
ちなみに、耀が持ってる飛行補助のギフトは風天のサンスクリットというギフトらしい。
「グリー、それよりスピード落とせ。後ろがやばいぞ」
グリーの背中に居る黒ウサギは余裕そうだが、ジンは既に放り投げだされ今は命綱によって宙吊りなっている。
飛鳥はジンの二の舞にならないように必死にしがみついてる。
三毛猫は割と本気で命がヤバそうだ。
『む?おお、すまなかった』
グリーはスピードを落とし、取りあえず少し余裕ができるぐらいにはなった。
「わあ・・・。掘られた崖を樹の根が包み込むように伸びているわ」
「アンダーウッドの大樹は樹齢八千年と聞きます。今は木霊が棲み木として有名です。今は二〇〇〇体の精霊が棲むとか」
『ああ、しかし十年前に魔王の襲撃を受けて大半の根がやられてしまった。多くのコミュニティの助けのおかげでようやく景観を取り戻したのだ。今回の収穫祭は復興記念も兼ねているから、絶対に失敗できない』
グリーの言葉から強い意志が分かる。
『そう言えば、魔王襲来の際それを救った者の一人はお前の父親だぞ。修也』
「……マジ?」
『ああ、アンダーウッドではクルーエ殿は英雄だ』
また、親父かよ。
あの親父は一体“箱庭”で何をしてたんだ?
網目模様の根っこをすり抜け地下の宿舎に着くとグリーは飛鳥達を下ろす。
『私は騎手と戦車(チャリオット)を引いてペリュドン共を追っ払ってくる。皆はアンダーウッドを楽しんでくれ』
「おう、気を付けろよ」
「気を付けてね」
言うや否やグリーは旋風を巻き上げ去って行った。