問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
その後、十六夜、飛鳥、耀の三人で収穫祭の参加権(最初から最後まで)を賭けてのゲームが始まった。
意外なことに十六夜の戦果は低迷していた。
蛇神を倒し、海魔とグライアイも倒し、神格保持者のヴェーザーと互角に渡り合う力、“ノーネーム”の名が広まることは十六夜の戦歴も広まるという事。
そのため、いろんなとこから十六夜のゲーム参加を拒否する言葉が上がってるそうだ。
今、十六夜は、白夜叉が用意してくれたギフトゲームを受けにトリトニスの滝近隣に行ってる。
俺はと言うと特にすることがなく“ペルセウス”の本拠に来ている。
「それで、“ハープーンガン”の改良は終わったのか?」
「それは勿論です。フォルムを変え、リボルバータイプにしたので連射速度は上がりました。それに、総弾数を四発から八発までにしました。威力はそのまま。更にリロード時間を短縮させる恩恵を付与させたので前よりは使いやすくなったはずです」
フェルナを直した時、ルイオスに“ハープーンガン”の改良を依頼して今日それを引き取りに来た。
前は水中銃のような形だったが、今はリボルバータイプになり総弾数も増えた。
リロード時間も三分から一分になり使い勝手もよくなったはずだ。
「流石だな。サンキュー、ルイオス」
「いえいえ、そんな褒められたことじゃないですよ、兄貴」
“ハープーンガン”をギフトカードに仕舞い、ルイオスに金を払って本拠に帰った。
ルイオスがしつこく金は要らないとか言ってきて金を渡すのに苦労したが………
昼食を食べ終え俺達は大広間に集まった。
三人の戦果を審査するためだ。
「まずは、飛鳥からだな。牧畜を飼育するための土地の整備と山羊十頭。派手じゃないが、コミュニティとしては大きな進展だな」
「ああ、子供たちも『山羊が来る』『乳がいっぱい来た』『チーズが造れる』と大はしゃぎだ」
「山羊は山羊小屋と土地の準備が整い次第連れてくる予定です」
飛鳥は後ろ髪を掻き上げてどんな物よ!っと言いたげな顔をしてる。
「次は耀。これはすごいな。“ウィル・オ・ウィスプ”から耀に再戦の為に招待状を送ったそうだ」
「“ウィル・オ・ウィスプ”主催のゲームに勝った耀さんは、ジャック・オー・ランタンが制作する炎を蓄積する巨大キャンドルホルダーを無償発注したそうです」
なんでもそのキャンドルを儀式場に設置すれば本館と別館にある“ウィル・オ・ウィスプ”製の備品に炎を同調させることができるそうだ。
これを機に竈や燭台、ランプといったものを全て“ウィル・オ・ウィスプ”に発注することにした。
少し値が張るが恒久的に炎と熱を使用できるからそれを考えると上々の結果だ。
「いや意外だったぜ。中々大きい戦果を挙げたみたいじゃねえか」
「上から目線ね・・………それで、十六夜君はどんな戦果を挙げたのかしら?」
飛鳥の言葉に十六夜はにやりと笑う。
なんか凄い予感がする。
「なら、今から受け取りに行くか」
「何処に?」
「“サウザンドアイズ”にだ。黒ウサギも向かってるらしいし、ちょうどいい。主要メンバーには聞いておいて欲しい話だからな」
含みのある言葉に俺以外首を傾げる。
大広間を出て、全員で“サウザンドアイズ”に向かった。
「「黙れこの駄神ッ!」」
店に入り白夜叉の私室に向かう時、黒ウサギの声と聞き覚えのない声が聞こえ、水流と轟雷で吹っ飛ぶ白夜叉を見た。
何事かと思い全員で覗くとそこには着物とは言えない着物を着た黒ウサギと女性がいた。
「あんた、だ―――」
れっと言う前に俺は背後から何者かの奇襲をうけ気絶した。
気がつくといつもの衣装に戻った黒ウサギとまともな着物に着替えた女性がいた。
話を聞くと女性は十六夜が随分前に倒した蛇神が人間に変幻したすがたとの事だ。
てか、十六夜は女性を蹴り飛ばしたってことになるよな。
ゲームに敗れた女性もとい白雪姫“ノーネーム”に隷属することになった。
ちなみに、誰が俺を襲ったのか?と聞いたところ誰一人答えなかった。
十六夜はヤハハと笑い、飛鳥は何故か目を逸らすし、耀はふんっと言った感じでそっぽ向く始末だ。
それはおいといて、十六夜が受け取りに行くと言ったものはゲームでの報酬でその報酬は二一〇五三八〇外門の権利書だった。
内容は二一〇五三八〇外門をコミュニティの広報に使用できる、“境界門”の使用料の八〇%を納められると、“境界門”を無償で使用できることだ。
更に俺達“ノーネーム”が地域支配者で在ることを認められた。
結果は一目瞭然、勝者は十六夜だ。
ジンは信じられないと言った顔で驚き、黒ウサギは大はしゃぎをしている。
その一方で負けてしまった耀と飛鳥は落胆していた。
耀SIDE
その日の夜、私は晩御飯が終わると自室に戻った。
晩御飯は小さな宴のような感じで普段は出ないような料理が出ていた。
黒ウサギの作った魚料理はとても美味しかった。
けれど、十六夜の『これは酢漬けにしたほうがうまい』と修也の『普通に焼いた方がいい』の発言で色々台無しだった。
そんなことを思い出しながら私は三毛猫と共に窓際に腰掛ける。
風が頬を撫でると同時に溜息が出た。
「私は収穫祭が始まってからの参加になったよ、三毛猫。残念だけど前夜祭はお預けだね」
『………残念やったなお嬢』
「仕方がないよ。十六夜は本当に凄い。水不足だった解決したし、レティシアの時だって、十六夜が挑戦権を持ってきたから助けれた。謎解きの時だって本当に凄いと思った。
でも、十六夜だけじゃない、飛鳥も凄い。たった一ヶ月であんなに酷かった土地の土壌を整えたんだ。本当に凄い」
修也に関しては何も言えない。
ルイオスと元魔王アルゴールを倒し、ヴェーザーさえも倒した。
コミュニティの財政も救った。
それに比べて私は…………
「何落ち込んでんだ?」
「うわっ!」
いきなり目の前に修也の顔が現れ私は驚いた。
驚くと同時に後ろに倒れた。
「悪い。よっと」
そのまま部屋に上がり込み、私を起こす。
「ありがと」
「気にすんなよ」
修也が窓際近くの壁にもたれるを見て、もう一度窓際に腰を掛ける。
「何があった?」
「え?」
「何もなけりゃそんな物寂しい笑顔してるワケないだろ?もしよかったらは話してくれるか?」
修也の顔を見て、次に窓から農園を見る。
「あの農園。十六夜が水を用意して、飛鳥が土地を育んだ。だから、私は苗を用意したかった。「私達で農園を造った」胸張ってそう言いたかった。だから、一日でも長く収穫祭に参加したかった。それに、南側には多くの幻獣がいるって聞いてたからそこで沢山の幻獣と友達になって力を付けたかった。……………本当はあの戦果だって一人で挙げたんじゃない。飛鳥に協力してもらって挙げた戦果。ズルしてまで挙げた戦果だった。でも、結局ダメだった」
「そうか………」
それだけ言うと修也は黙った。
何も言わない。
「十六夜も飛鳥も修也も凄い。でも、私は…………あんまり凄くない。やっぱり、投げやりな気持ちでコミュニティに所属したのが駄目だったんだ。偶然素敵な友達が出来ただけで…………私には関係を維持するだけの力がない」
「…………はぁ~~」
修也が溜息を吐く。
そして
「うりゃ!」
私の頬を左右に引っ張る。
痛く無い。
「何してるの?」
「馬鹿な耀にお仕置き」
「馬鹿じゃない」
「いや、馬鹿だ。そんな事気にしなくても俺達は耀から離れたりはしない。だって、友達だろう?それとも何か?俺達ってそんなに信用ない?」
「違う。信用してる」
「そっか」
そう言うと修也は笑って頬を離す。
つねられたところを手で触る。
痛くないけど、なんとなく触る。
「実を言うと、飛鳥から話は聞いてたんだ。今回の戦果のこと」
「そう………」
「飛鳥は自分から協力を持ち掛けたから春日部さんのことを責めないでくれって言ってたぞ。飛鳥は本気でお前を友達と思ってる。だったら、その友達のこと信じてやれ。な?」
そう言うと修也は立ち上がる。
窓の縁に足を掛ける。
帰るんだろう。
その瞬間、私は修也のコートの裾を引っ張った。
「修也、修也は私のこと友達だと思ってる?」
「…………当たり前だろ。でなきゃ、こうして励ましに来ないよ」
私の頭に手を置き、優しく撫でるとそのまま、後ろ向きに落ち、空を飛ぶ。
「おやすみな、耀」
「うん、おやすみ」
挨拶を交わし窓を閉める。
「友達……か」
友達、その一言がつらい。
友達でいればそのままの関係が続く。
それでもいい。
でも、やっぱり…………
さっきまで農園のことで悩んでたのに今は違うことで悩んでる。
「はぁ~、寝よ」
そう呟き私は布団の中に潜る。