問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
第1話 やっぱり問題児だそうですよ?
~ある日の“ノーネーム”農園~
「黒ウサギのお姉ちゃーん!」
「はーい!何でございましょうかー?」
「そろそろお腹が空くころだと思っておにぎり持ってきたよ!疲れただろうしちょっと休憩したらどうかな」
「わぁ、ありがとうございますリリ!でも、心配には及びませんよ!コミュニティの皆さんに力を付けてもらう為ならこれしきの畑仕事など苦ではありませんから!それに今日はあの四人も手伝ってくれるとの約束ですしね!」
「えっそうなの!?」
「はい、指切りもしましたからもうそろそろ来るはずかと」
「大変でーす!!」
「ジン坊ちゃん!どうされたのですか!?」
「そ…それが…今朝からあの四人が見当たらないから探していたら広間にこんな書置きが」
「なになに?」
『そうだ、街行こう。 四人より』
「あ、あ、あの問題児たちはまったくもー!!!」
「行けども行けども知らない街並み。相変わらず無駄に広いな」
「本当ね。私達が呼び出されてもう二、三ヶ月は経つのかしら?」
「うん…でも、まだ見たことのない物だらけでなかなか慣れないね」
「まぁ、すぐ慣れて飽きるような場所じゃない方がいいだろ」
「その通りだ。すぐに飽きちまう様な所じゃ来た意味がねぇ!」
現在、俺達四人は東側の街に遊びに来てる。
黒ウサギとの約束があったがボイコットした。
「なんだが、十六夜君は随分楽しんでるわね」
「さっき買ったこの食い物もわりと美味い。サーカスが来てるらしく屋台で賑わってたぞ」
「いつの間に買ったの?私も食べたかったなぁ」
いや、さっき俺に焼き鳥強請ったよな?
しかも、三十本。
全部食うのに二分って早すぎだろ。
買うのはいいがせめて味わって食ってほしい物だ。
そんなことを思っていると耀と飛鳥の背後から頭が悪そうな男が来た。
「ねーねーそこ行くかわいいお二人ィ!良ければウチのコミュニティに入らない?」
「え…あの…」
男のチャラい行動に耀はどうすればいいのか分からないようだ。
飛鳥はもの凄く不機嫌になってる。
「見た所旗印の刺繍がないよね。どうせ未所属かたいしたことないコミュニティに入ってるのどちらかでしょ?なら、うちのコミュニティに来なよ!君たちみたいな女の子なら大歓迎だからさ。損はさせないよ?ね?どう?」
「『黙り「はい、そこまでにしようぜ」
飛鳥がギフトを使おうとした瞬間、俺は二人と男の間に割って入った。
「なんだよ?テメー」
明らかに不機嫌そうにぽとこは顔をしかめる。
「この二人は既にうちのコミュニティの仲間なんだよ。悪いがナンパなら余所を当たれ」
「んだと!?テメーどこのコミュニティだ!?」
「二一〇五三八〇外門の“ノーネーム”だ」
「はっ!なんだよ、“ノーネーム”か!」
“ノーネーム”だと知り男は明らかに馬鹿にしたような顔をする。
「“ノーネーム”如きがうちのコミュニティの勧誘の邪魔すんなよ」
「だがら、この二人はうちのコミュニティの仲間だって言ってるだろ」
「名乗る名も旗もないくせに粋がるなよ。名も旗も無いコミュニティなんて存在しないのと同じだ。だからさ、うちのコミュニティにおいてよ!」
最後の所だけ耀と飛鳥のほうに顔を向けて言う。
「おい、あんまりうちのコミュニティを馬鹿にすんじゃねーよ。な?」
殺気を込めた視線と最後のっな、の所だけ低く言ったので相手は体を震わせてビビる。
「だ、黙りやがれ!」
キレて襲い掛かってくる男を見ながら俺は呟く。
「正当防衛だぞ」
男の拳が届く前に俺の拳を腹に叩き込む。
「あふ!?」
腹を押さえ蹲る男。
その男に近寄り俺は耳元で話す。
「“ノーネーム”馬鹿にすんなよ。次は血吸うぞ?」
「な……に?」
「おっと、自己紹介がまだだったな。月三波・クルーエ・修也だ。よろしく」
「く、クルーエってあの……」
「分かったら、すぐに失せろ」
「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
男は全速力で来た道を引き返した。
やっぱ親父の名前すごいな。
「ありがとう、修也君」
「ありがと」
「気にすんなよ」
揉め事も片付いたので先に進んだ十六夜の後を追う。
「それにしても、黒ウサギとの約束破っちゃって良かったのかな?」
「まぁ、カンカンでしょうね」
「ごめんね。十六夜と飛鳥まで付き合わせちゃって。街の方が騒がしくて気になったんだ」
「いいわよ。春日部さんと修也君の五感は並外れてるし、この街でなにかあったのは間違いないわ」
これだけ聞くと俺と耀の用事に十六夜と飛鳥が付いてきたみたいに聞こえるが実はそうじゃない。
始めに、耀が部屋に来て街が騒がしいから一緒に来てっと言ってきて、そのまま首根っこを掴れ引きずられた。
そこを飛鳥と十六夜に見つけられ今に至る。
なんでこうなった……………………
「それに、謝るのはこっちの方よ」
「え?」
「修也君と二人っきりが良かったでしょ?」
「な!?べ、別にそんなことは!?」
「フフフ、顔、真っ赤よ」
「う、う~~~」
(……………可愛い)
ん?耀と飛鳥は何話してるんだ?
気になり声を掛けようとしたらいきなり何かが俺の前を通った。
「どいてどいてー!」
十一、二歳ぐらいの女の子が耀と飛鳥の間をかき分けて行った。
「な、何なの!?」
「待てや!クソガキーッ!」
今度はエプロンを付けた男が走って来てその子を捕まえた。
「この俺様にギフトゲームをけしかけといて逃げるたぁいい度胸だなコラァ!」
「やめて放してよ!あんなルール絶対おかしいよ!どう見ても公平なゲームじゃなかったでしょ!?」
「何だ?言い掛かり付ける気かぁ!?こいつめ!」
おとこが肉叩きハンマーを振り下ろそうとした瞬間、男の腹に何かがぶつかった。
それも、凄く早いスピードと凄い威力のある力で。
男はそのまま意識を失い倒れる。
腹に当たったものは紙クズだった。
こんなことするのは一人しかいないな。
「ああ、すまん。ゴミ箱と間違えた」
「ちょっと十六夜君ゴミにゴミぶつけてどうするのよ。ちゃんとゴミはゴミ箱に入れなさい」
「そうだよ。マナーを守らなきゃゴミがかわいそう」
「いや、ゴミはゴミ同士仲良くやって行けるさ」
「いや、十六夜、紙クズは再利用可能だが、粗大ごみは再利用もできない邪魔な存在だ。仲良くやって行くのは無理だ」
「いやいや、紙クズも粗大ごみも根元はゴミだ。その辺の垣根も越えて仲良くできるはずさ」
さりげなく酷いこと言ってるが気にしない。
だって俺達だし。
「それに、早く逃げないと…………背後に何かいるんだよなあ」
「見ーつーけーまーしーたー」
あ、黒ウサギだ。
「まったくどうして皆様はじっとしていられないんですか!?毎度、肝を冷やす黒ウサギの身にもなってくださいよ!」
「実は俺『じっとしてると髪が逆立ってしまう病』なんだ」
「じゃあ、私は『じっとしてるとリボンが本体になってしまう病』」
「じゃあ、私は『じっとしてるとスライムになってしまう病』」
「じゃあ、俺は『じっとしてると体がゲル状になってしまう病』」
「反省の色無しと言うことは把握しました!」
そして、黒ウサギは俺達に説教をし始めるが十六夜と飛鳥は黒ウサギの言葉を右から左に受け流し、耀は近くを飛んでる蝶に目を向け、俺は空を見上げる。
「ですから、避けて通れるような揉め事はなるべく」
「あのさぁ、黒ウサギ、実はもう揉めちゃったりして」
御説教が終わったらしく見てみると先ほどの男が怒りMAXの表情を浮かべていた。
「さっきはよくもやってくれたな小僧…こりゃ仕返ししないと腹の虫が治まらねぇぜ…」
「十六夜さん!!誰ですか、この厳ついハンバーガー屋さんみたいな人は!?」
「先日リストラに逢ってムシャクシャしてる元ハンバーガー屋だ。後、ロリコン」
「勝手に設定を作るな!」
こんな時でも十六夜は平常運転だな。
「そいつは肉屋のカラッチ・トーロって言うの。最近この街で好き放題やってる悪党だよ!」
あれ?この子まだいたんだ。
「相手に不利なルールのギフトゲームを設定して力で脅して参加を強要させてくるんだ!」
「ゲームのルールは「主催者」が自由に決められるシステムだろ?嫌なら断ればいい。その後は知らねーけどな!」
なんというか矛盾しまくりだな。
断ればいいって脅して参加を強要するんだろ。
おそらく相手は女や子供、後、自分より弱い奴ばっかだろうな。
「聞き捨てなりません。ギフトゲームは両者の合意で成り立つ神聖なもの!貴方がやっていることはただの恐喝です!箱庭でも許されることではありません!」
「ああ、なんだ?随分うるさい奴だと思ったらお前は“箱庭の貴族”月の兎の末裔か!」
男は黒ウサギを見て驚く。
まぁ、月の兎なんて滅多に御目にかかれんだろうしな。
「はっ、これは面白ぇ。おい、そこの四人。俺とギフトゲームで勝負しろ!もちろん「主催者」は俺だ!ルールもこっちで決める!あとそこの月の兎にも審判についてもらうぞ!」
「な…突然何を言い出すかと思えば」
「そんなの駄目に決まってるよ!」
「そうですよ!さっきの話忘れてませんよ!こちら側に不利なルールを設定されるとわかっていて合意するワケがないでしょう!」
いや、別に大丈夫だと思うが…………
「いいじゃねーか。どうせ“ノーネーム”なんて他に相手してくれる奴なんていないんだろ?お前らみたいな弱小コミュニティなんて大概話にならねーからな」
弱小ねー。
少しイラッときたね。
どうやら他の三人も同じようだ。
「挑発に乗っちゃダメですよ!ここはグッと堪えてください!」
まったく、何を言ってるんだ黒ウサギわ。
そんなこと分かってるさ。
「もちろんだ!言われなくても分かってるぜ」
全員が頷く。
そして
「そのゲーム受けて立とうじゃねーか!!」
「………アレ!?」
頷いていた黒ウサギが気づいた。
「待ってください!今の流れおかしくないですか!?私の話聞いてました!?」
「「「「挑発に乗るなとは言われたがケンカを買うなとは言われてないので」」」」
「なんて強引な屁理屈!!」
口を揃えて一字一句同じのセリフに黒ウサギが泣く。
「ふん!やっぱりな!てめーらみてぇに群れてるガキ共が一番身の程って奴を知らねぇ!」
「うるせぇハンバーガー。さっさと、開始の合図を始めろ」
「まぁ、待て。ゲームステージの用意が先だ」
すると辺りが煙に覆われ煙が晴れるとそこは巨大な迷路だった。
『ギフトゲーム名:ラビュリントス
プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
月三波・クルーエ・修也
クリア条件:ステージの謎を解き迷宮を突破又はステージ内に潜むホストを打倒
敗北条件:降参もしくはプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下“ノーネーム”はギフトゲームに参加します
“カラッチ・トーロ”印』
「わぁ、凄い。巨大迷路だ」
「中々楽しそうなステージじゃない。これだけの異空間を作れるってことはあいつもそれなりのギフト保持者ってことかしら」
耀と飛鳥はそれなりに凄いと思ったらしい
「それで、このルールに何か問題はありそう?」
隣でポカーンとしている黒ウサギに飛鳥が聞く。
「あ、いえ、今の所思ったより公平です。しかし、この迷路と謎解きがどれ程の難易度なのか…とにかく進んで見ない事には判断できませんね。あと気になるのはチップです。コミュニティ同士のギフトゲームには必ず敗者が勝者に寄贈するチップが必要…向う側が何か莫大な金品を要求してくるかもしれません!」
なるほど。
そう言えばさっき十六夜が契約書類に何か書いてたな。
「それについて契約書類に記載があると思うのですが何とありますか十六夜さん?」
「あー、空欄だったから俺が書いといたぞ」
お、手が早い。
一体何を賭けるんだ?
「『ウサギ肉贈与』って」
黒ウサギはえ?自分?といった感じで自分を指差す。
十六夜は頷く。
「鬼悪魔ド外道―ッ!!」
「きっと美味しいハンバーガーになるぜー」
泣いて叫ぶ黒ウサギを余所に十六夜はヤハハと笑う。
「大丈夫よ、黒ウサギ」
泣いてる黒ウサギに飛鳥は声を掛ける。
「勝てば問題無いのだがら。任せておきなさい」
とても頼もしく思える言葉だ。
「私、頑張るよ。黒ウサギがハンバーガーにされないためにも」
「俺も、同士がハンバーガーになって大勢に食われるとこなんざ見たくないからな。絶対に勝ってやるよ」
俺達の言葉に黒ウサギは目に涙を浮かべたまま固まってる。
「俺達は楽しむためにこの箱庭に来たんだ。簡単にクリアできるゲームじゃつまらねぇ!ほら、行くぜ黒ウサギ!」
「い…十六夜さん!」
黒ウサギは涙を零しながら指し伸ばされた十六夜の手を掴もうとする。
「なんと頼もしい…黒ウサギは貴方達四人が来てくれて本当に…本当に良かったです!」
そして、黒ウサギの手と十六夜の手は繋がった。
そして、そのまま十六夜は黒ウサギを引きずった。
「それで?啖呵切ったはいいけどこれからどうする作戦なんだ?」
「えっ別に作戦なんて考えてないけど」
「私も取りあえず便乗してみただし…」
「俺は何も考えずに行動しただけだぞ」
「なんだ勝算ゼロかよ!テキトーに行くかー」
取りあえず方針としてはテキトーに進むことになった。
「ぜ…前言撤回…やっぱりとんでもない問題児ですっ!!」