問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
「ギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMELIN”の審議決議、及び交渉を始めます」
厳かな声で黒ウサギが伝える。
今この場に居るのはホスト側の斑ロリ、軍服男、露出女とプレイヤー側の俺と春日部、御チビにサンドラとマンドラそして黒ウサギ、以上の九人だ。
本当は春日部は来ないはずだったがどうしても来たいというから連れてきた。
修也とお嬢様のことが心配なんだろう。
それより、ホスト側の連中だが軍服男は“ヴェーザー河”で露出女が“ラッテン”、サンドラが倒した巨人は“嵐(シュトルム)”なら、最後の一人は恐らく…………
「まず“ホスト側”に問います此度のゲームですが」
「不備はないわ」
斑ロリは黒ウサギの声を遮り言う。
「今回のゲームに不備・不正は一切ないわ。白夜叉の封印もゲームクリア条件の全て調えた上でのゲーム。審議を問われる謂れはないわ」
「受理してもよろしいので?黒ウサギのウサ耳は箱庭の中枢と繋がっております。嘘をついてもすぐわかってしまいますよ?」
「ええ。そして、それを踏まえた上で言うけど私たちは今、無実の疑いでゲームを中断させられてるわ。貴女達は神聖なゲームに横槍を入れている。言ってることは分かるわよね?」
「不正が無かったら主催者側に有利な条件でゲームを再開しろと?」
「そうよ。新たにルールを加えるかどうかの交渉は後にしましょう」
「……わかりました。黒ウサギ」
「はい」
黒ウサギが耳を動かし暫く沈黙が続く。
そして、気まずそうに話す。
「箱庭からの回答が届きました。此度のゲームに不備・不正はありません。白夜叉様の封印も、正当な手段で造られたものです」
「当然ね。じゃ、ルールは現状維持。問題は再開の日取りよ」
「日取り?日を跨ぐ?」
サンドラが意外な声を上げる。
それもそのはずだ。
明らかに不利なプレイヤー側に時間を与えるんだからな。
「再開の日取りは最長で何時頃になるの?」
「さ、最長ですか?ええと、今回の場合ですと一か月ぐらいでしょうか」
「じゃ、それで手を」
「待ちな!」
「待ってください!」
「何、時間を与えてもらうのが不満?」
言葉を遮られ不満そうな斑ロリ。
だが、そんなことどうでもいい。
「いや、ありがたいぜ。だけど場合による。俺は後でいい。御チビ、先に言え」
「はい。主催者側に問います。貴女の両脇に居る男女は“ラッテン”と“ヴェーザー”だと聞きました。そして、もう一体が“嵐(シュトルム)”だと。なら貴女は“黒死病(ペスト)”ではないですか?」
流石は伊達に本を読み漁ってるだけじゃないな。
しっかりと内容の記憶までできていやがる。
「そうか、だがらギフトネームが“黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)”!」
「ああ、間違いない。そうだろ魔王様?」
「……ええ。そうよ。御見事、よろしければ貴方の名前とコミュニティの名前を聞いても?」
「“ノーネーム”のジン=ラッセルです」
斑ロリは俺達が“ノーネーム”だとは思わなかったらしく意外そうな顔をした。
「覚えとくわ。だけと確認が遅かったわね。私達はゲーム再開の日取りを左右できると言質を取ってるわ。勿論、参加者の一部に病原菌を潜伏させている。ロックイーターのような無機生物や悪魔でもない限り発症する、呪いそのものを」
相手が“黒死病”だと分かってからそのことは予測できていた。
だが、黒死病が発症してから一か月もあれば力のない奴は死滅する。
死ななくても病人の体じゃ戦うことすらもままならない。
やってくれるぜ。
「ジャ、ジャッジマスター!彼らは意図的にゲームの説明を伏せていた疑いがあります!もう一度審議を、」
「駄目ですサンドラ様!ゲーム中断時に病原菌を潜伏させていたとしても、その説明責任を主催者側が負うことはありません。また彼らに有利な条件を押しつけられるだけです!」
悔しそうにサンドラは黒ウサギの言葉を受け入れる。
「此処にいる人たちが参加者側の主戦力と考えていいのかしら?」
「ああ、正しいと思うぜ」
斑ロリもといペストの言葉にヴェーザーは答える。
「なら提案しやすいわ。皆さん、ここにいるメンバーと白夜叉。それらが“グリムグリモワール・ハーメルン”の傘下に降るなら、他のコミュニティは見逃してあげるわよ?」
「なっ、」
「私は貴方達のことが気に入ったわ。サンドラは可愛いし。ジンは頭良いし」
「私が捕まえた赤いドレスの子と銀髪の男の子も言い感じですよマスター♪」
「!?」
ラッテンの言葉に春日部が僅かに反応した。
僅かに黒い物を感じるが………
「なら、その子たちも加えてゲームは手打ち。参加者全員の命と引き換えなら安い物でしょ」
笑っちゃいるが従わなきゃ俺ら全員殺すつもりかよ。
はっ、ロリの分際でやってくれるじゃねーか
「ところで貴方達“グリムグリモワール・ハーメルン”は新興のコミュニティではないかと聞きましたが、どうなのですか?」
「答える義務はないわ」
御チビの質問に対しペストは答えない。
「新興のコミュニティだから優秀な人材が欲しい。どうだ?違うか?」
「…………」
「おいおい、このタイミングでの沈黙は是となるぜ?」
「だから何?私達が譲る理由は無いわ」
「いいえ、あります。何故なら貴女達は僕たちを無傷で手に入れたいはずですから。もしも、一か月も放置されたら、きっと僕たちは死んでしまいます。死んでしまえば手に入らない。だから、貴女はこのタイミングで交渉を持ち掛けた。実際に三十日が過ぎて優秀な人材を失うのを惜しんだんだ」
やっとリーダーらしくなってきやがったな。
だが、まだ俺にリーダーとして認させるのは先だがな。
「なら、二十日後にすればいいだけよ。それなら、病死前の人材を得ることはできるわ」
「なら、発症したものを殺す。例外は無い。サンドラだろうと“箱庭の貴族”であろうと私であろうと殺す。“サラマンドラ”の同士に、魔王へ投降する脆弱なものはおらん」
おいおい、随分過激なことを言うじゃねーかよ。
だが、ちょうどいい。
本気にしろ、ブラフにしろこれでこちらの交渉材料が増えた。
「黒ウサギ。ルールの改変はまだ可能か?」
「へ?………あ、YES!」
俺が何を考えているのか理解したらしく黒ウサ後はウサ耳を伸ばして答える。
「なら、こうしようぜ、魔王様。俺達はルールに“自決・同士討ちを禁ずる”を付け加える。だから、ゲーム再開は三日後にしろ」
「……二週間後よ」
二週間は長いな。
他に交渉材料は………あった!
「黒ウサギ。今の時点でお前の扱いはどうなってんだ?」
「黒ウサギは大祭の参加者でありましたが審判の最中だったので十五日間ゲームには参加できません。…………主催者側の許可があれば別ですが」
「よし。魔王様、黒ウサギは参加者じゃないからゲームで手に入れられないが、参加者にすれば手に入る。どうだ?」
新興のコミュニティなら“箱庭の貴族”という箔はかなり魅力的なはずだ。
どうだ?
「………十日。これ以上は無理」
「ちょ、ちょっとマスター!“箱庭の貴族”に参戦許可を与えては………!」
「だって欲しいもの。ウサギさん」
ラッテンの言葉にそっけなく返すペスト。
こちらの戦力は増えた。
だが、まだだ。
謎解きとこちらの戦力の状況から考えると期間は一週間以内がいい。
何とかして一週間以内にしないと。
だが、こちらには交渉材料がもうない。
どうすりゃ…………
「ゲームに期限を付けます!」
俺が悩んでいると御チビが急に声を上げる。
「期限?」
「はい!再開は一週間後。ゲーム終了はその二十四時間後。そして、ゲーム終了と共に主催者側の勝利とします!」
こいつはたまげたぜ。
俺ですら危なくて言い出せない考えをコイツは恐れも無く言いやがった。
「本気?主催者側の総取りを覚悟するというの?」
「はい。一週間は死者が出ないギリギリのライン。今後現れる症状、パニックを想定した場合、精神的にも肉体的にもギリギリ耐えられる瀬戸際。そして、それ以上は僕たちも耐えられない。だがら、全コミュニティは、無条件降伏を呑みます」
御チビの提案にペストは口に手を当てて考える。
ペストは不満そうに顔をしかめる。
自分の思い通りにいかずこちらに流れが傾いているのが気に食わないんだろう。
だが、こちらも最大限の譲歩している。
条件的には主催者側が有利。
どうだ?
「ねぇ、ジン。もしも一週間生き残れたら貴方は私に勝てるの?」
「勝てます」
ペストの質問に御チビは即座に答える。
「そう、よく分かったわ………宣言するわ。貴女は必ず―――――私の玩具にすると」
「ねぇ、マスター。コイツらに聞きたいことが一つあるんですけど」
「………何?早めに済ませなさい」
「ありがとうございます」
そう言って露出女もといラッテンがこちらを見る。
「私が捕まえた銀髪の男の子なんだけど…………彼、クルーエ=ドラクレアの息子?」
「…………そうだが」
「おい、ラッテン!それは本当か!?」
「ええ。本当よ」
「ラッテン?ヴェーザー?」
二人の様子にペストは訳が分からないといった顔をしている。
「まさか、こんなところで前マスターの仇の息子に会えるとはな」
おいおい、修也の親父はどこでも人気爆発じゃねーか。
「クルーエ本人が死んだから仇は討てないと諦めてたがコイツはいい。親の起こした罪は子に償ってもらうか」
「そうね。それが私たちにできる前のマスターへの手向けね」
ラッテンとヴェーザーは殺意むき出しにしてやがる。
修也を殺すつもりか?
は、やってみやがれ!
そん時は…………………俺がお前らを潰すぜ。
そう考えていると春日部が立ち上がりラッテンとヴェーザーを睨みつけていた。
「修也に何かあってみて。その時は
私がお前たちを殺す」
春日部は無表情でただそれだけを述べた。
余計なこと一つ考えずただそれだけ考えていた。
瞳からは輝きは失せ、声にいつも以上に抑揚が無くなっている。
「ハッ、どうせこっちが勝てばお前らの仲間なんて好きにできるんだよ。そん時までお楽しみは取っとく」
「もちろんよ。前のマスターが受けた苦しみを時間を掛けてゆっくりと味あわせてやるわ」
「それは無理。勝つのは私達」
なんというかアレだな。
普段怒らない奴が怒ると滅茶苦茶恐いんだな。
なんか少し無茶苦茶になった気がします。
自分でもわかってます。
設定的に修也のお父さんは箱庭においていい意味でも悪い意味でも有名なので味方も多いし敵も多いです。