問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界に来るそうですよ? 作:ほにゃー
“六本傷”カフェテラスに陣取っていた俺達は黒ウサギの言葉に耳を疑った。
「ギフトゲームが…………全面禁止?」
「YES!これはちょっとした緊急事態なのですよ!」
黒ウサギは耳をピンと撥ねさせて答える。
「ギフトゲームが行われないってことは流通が止まるのと変わらないだろ?金銭でのやり取りがあってもあくまでメインはギフトゲームのはずだ」
「もしかして………魔王が現れたの?」
飛鳥の質問に黒ウサギは首を振る。
「町はそんな剣呑な雰囲気じゃない。怖がってるっていうより困ってる感じ?」
「YES!魔王ほどの脅威ではありませんが、困った事態になっているのは間違いありません。実は箱庭の南側からこちらに向かって干ばつがやって来るそうなのですよ」
その言葉に俺達は一斉には?と声を上げた。
「どういうことなの?まさか干ばつに手足が生えてやってくるの?」
「YES!正確には腕一本に足一本です」
「なにそれ奇抜」
飛鳥と耀は更に眉を顰めた。
「腕一本に足一本の干ばつ………旱魃?まさか“魃”でも現れたのか?」
「“魃”?魃ってあれか?中国神話に出てくる干ばつを呼ぶ神獣」
「YES!流石は十六夜さんと修也さん。正確には黄帝の系譜の末に当たる怪鳥です」
魃は中国神話に現れる神獣。
黄帝の血筋である“魃”は生まれつき陽の光を呼び込み、雨風を消し去る力を持っていた。
魔王“蚩尤”との戦いでその力を行使した“魃”は穢れを浴び天に帰れなくなった。
しかし、ただ生きてるだけで干ばつを起こす“魃”を放置できず黄帝は“箱庭の世界”で保護することにした。
そして長い年月が経ち、世代を繰り返しても天に帰ることを望んだ“魃”は怪鳥へと姿を変えた。
「ギリシャ神話の“ペルセウス”、仏話の“月の兎”次は中国神話の“魃”ときたか。流石は神様の箱庭。もうなんでもありだね」
「それはNOですよ。“月の兎”も“ペルセウス”も外界でも功績が認めらたからこそ箱庭に招かれているのです。“恩恵”は読んで字の如く、神仏から与えられたもの!“伝承がある”とは“功績がある”と言うことです!」
そう言って両腕に力を込める黒ウサギ。
「まぁ、中には“魃”のような理由で箱庭に招かれた者もいます。アレは日照りを呼び込む力によって、コミュニティに属せない哀れな幻獣。神格を失い、神気も驚え、知性らしいものも残っておりません。あるのは何世代前から受け継ぐ故郷への想いだげでございます」
黒ウサギは遠い目をする。
「やや脱線してしまいましたが!つまり二一○五三八○外門に住むコミュニティは干ばつに備えて大忙し!これは我々“ノーネーム”の備蓄を増やすチャンスなのですよ!」
「なるほど。俺達には“水樹”がある。この様子を見る限り他のコミュニティには多くの水の蓄えがあるとは思えない」
「コレを機に他のコミュニティと契約をして定期収入を手に入れるのも悪くないわね」
「うん。あの立派な宝物庫も、いつまでもガラガラだと寂しいもんね」
「かなりイヤラシイ考えだが、まぁ、仕方がないか」
「黒ウサギもこんなイヤラシイ方法はしたくありませんが、我々“ノーネーム”は“名”も“旗印”もない身分。広報しようにもできない状態です。ですが、干ばつ期に水珠があることをアピールすれば、必ずや希望者が現れるはず!そこで皆さんには旱魃が現在どのような状況にあるか確認してきてほしいのです」
要するに情報集か。
「ま、暇つぶしには丁度いいか」
「偵察なら春日部さんと修也君の出番ね」
「うん。確認するけど腕一本に足一本なんだよね?」
「他に特徴は無いのか・」
「大きさには個体差がありますけど“左右の足の大きさが違う怪鳥”を探してください。あと、常に高温を発しているので不自然い陽炎が発生しているところを探してもいいですね。………でも、くれぐれも気を付けてください。危険を感じたら帰って来ても構いません」
心配そうにする黒ウサギに見送られ俺達は箱庭の外を目指す。
「十六夜、あの辺に陽炎が出てるぞ」
「それに左右の足の大きさが違う怪鳥の姿も見える。多分あれが“魃”」
「へ~、確かにありゃ、神獣と呼ぶには少しふさわしくねぇな」
俺も十六夜と同じ意見だ。
“魃”は常に干ばつを起こし、辺りを日照りでガンガンに照らしている。
神格も無く、知性もない。
あるのは故郷への想いのみ。
哀れな奴とは思うが、居られると困る奴だな。
「取り敢えず情報は得れたのだがら黒ウサギの所に戻りましょう」
「そうだな」
飛鳥の意見に同意し、帰ろうとすると耀が声を上げた。
「待って!ユニコーンが“魃”に襲われてる!」
「何!?」
そちらの方を見ると確かにユニコーンが“魃”に襲われていた。
考える前に体が動いていた。
俺はすぐさま翼を出し“魃”に向かって急接近した。
「…………まったくあいつは、お嬢様、春日部、俺らも行くぞ」
「はいはい、ここでも十分蒸し暑いのに……あの“魃”の周りはどれだけ蒸し暑いやら」
「大丈夫。帰ったらすぐにお風呂に入ればいい」
“魃”が巨大な鉤爪をユニコーンに振り下ろそうとした瞬間だった。
俺は空中で体を捻り、遠心力と落下のスピード、吸血鬼の持つ最高威力の回し蹴りを“魃”の頭に落とす。
“魃”はよろけて倒れるが再び起き上がり鉤爪を下ろそうとした。
迎え撃とうと構えるが後ろから飛鳥の声が聞こえた。
「『止まりなさい!』」
飛鳥のギフトにより“魃”は動きを止める。
そしてすかさず耀が十六夜を旋風を起こし上空へと運ぶ。
「十六夜、任せた」
「任された!!」
ヤハハハ!と笑いながら十六夜は胴回し回転蹴りを“魃”に叩き込み落とした。
「ったく、策も無しに突っ込んでんじゃねぇよ」
「お陰で“魃”を倒してしまったわ。これでコミュニティの備蓄の確保はお流れよ」
「……猪突猛進」
「あ~、すまん。気づいたら体が動いてた」
頭を掻きながら三人に謝る。
「ま、お前が動かなかったら俺が動いてたがな」
「私も」
「まぁ、私も動いてたでしょうね」
「結局、動いてたんじゃねぇかよ」
そうやって笑っていると助けたユニコーンが声を掛けてきた。
『助けてくれてありがとう。礼を言わせてほしい』
「いいよ。気にしなくて、俺たちが好きで助けただけだし」
「お礼を言われるほどでもないし」
『だが、君たちが“魃”を倒してくれなかったら私は死んでいた。だから何か礼をしたい』
ユニコーンは中々食い下がらずしつこく礼をしようとして来る。
「じゃあ、俺たちのコミュニティを広めてほしい」
『え?』
「俺達は今“打倒魔王”を目標に掲げてる。だが、俺たちのコミュニティは、“名”と“旗印”がない“ノーネーム”だ。名前が広まらなきゃその目標は達成できない。そこで、アンタ達に広めてほしいんだよ。“魔王関係でお困りごとがあればジン=ラッセルのノーネームまでどうぞ”ってな」
『それは構わないが………良いのですか?魔王を相手に戦いをするなど』
「構わないよ。“ノーネーム”の“名”と“旗印”を奪った魔王を見つけるにはこの方法が早いそれに」
耀がこっちを見てきた。
それに俺は笑って、同時に口を開いた。
「「俺達(私達)なら負ける気がしない」」
そう伝えるとユニコーンは一歩下がり頭を下げた。
『分かりました。“ジン=ラッセルのノーネーム”必ずや広めましょう』
そう言ってユニコーンは森の中へ帰って行った。
「何話してたか分かんねぇけど、取りあえず俺達に有益な取引が出来た。そう考えていいんだな?」
「ああ、問題無い」
「………ところで、この“魃”はどうするの?」
「取り敢えず持って行って換金でもしよう」
「“サウザンドアイズ”持っていけばそれなりの額で換金してくれるかな?」
そんな会話をして“魃”を縄で巻き、引きずりながら戻った。
「お馬鹿様!お馬鹿様この…………お馬鹿様!」
二一○五三八○外門の外壁外門前で俺達は黒ウサギに説教されてる。
「いいですか!?黒ウサギは干ばつに備えて“魃”の情報収集をお願いしたのですよ!?それなのに!なんで!どうして!………………誰が“魃”を倒してこいなんて言いました!?」
「「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」」
「黙らっしゃい!」
もはやお決まりの動作で黒ウサギはハリセンで俺達を叩く。
「ううう………憂鬱です。これでようやくコミュニティ再建の大きな足かがりが出来ると思いましたのに…………なんで倒してしまったのですか?」
「諸行無常」「弱肉強食」「世道人心」「傍若無人」
「言い訳するなら一つに絞ってください!」
ウサ耳を逆立てて怒るが、無視する。
ユニコーンのことは言わないでおこう。
だってなんか恥ずかしいし。
他の三人も何も言わないってことは同じなんだろう。
取りあえず捕まえた“魃”は“サウザンドアイズ”に持っていき換金することにした。
“ノーネーム”の本拠に戻るとリリが出迎えてくれた。
黒ウサギはジンに報告してくると言って出ていった。
「お帰りなさいませ。あれ、飛鳥様は?」
「風呂だとさ」
「汗流しに行った」
「“魃”が近くに居たせいで蒸し暑かったから。だけど、“サウザンドアイズ”で換金してもらってよかった」
「あ、そうでしたか!本当にご苦労様です」
狐耳をひょこんと元気に立つ。
恥ずかしかったのか、顔をまっかにして狐耳をすぐに伏せた。
その様子を見て俺達は苦笑した
「安心しろよ。ちょっと大物を狩ってきたからな。食いっぱぐれることは暫くねえさ」
「“サウザンドアイズ”に大量の食材を注文しといた。明日の朝には届くから受け取りと保存を頼む」
「はい!承りました!それで、御三人様はどうされますか?食事の準備でしたら今すぐにでもできますけど」
「お嬢様が風呂をあがったらでいいや。修也と春日部は?」
「俺も同じだ。食事は皆で食べるべきだ」
「私は……ん?」
耀が歯切れ悪く言葉を切る。
見つめるその先は厨房だった。
「懐かしい匂い。もしかして筍の灰汁抜きでもしてた?」
「は、はい。耀様が『和食が恋しい』とつぶやいていたので…………その、サプライズのつもりで色々と用意をしていました」
「え」
まずいな。
耀は五感が優れているせいで厨房で何を作っているのか分かってしまった。
リリも隠すことが出来ないので話してしまった。
気まずいな。
「で、肝心のラインナップは?」
十六夜が空気を読んでフォローしてくれた。
「は、はい。いい若鶏と筍、山野菜が手に入ったので合わせて天麩羅ににする予定です。筍は収穫仕立てなので灰汁抜きにも時間がかからずいい具合に筍の甘味がでてます。他にも裏手の小さな菜園で育てた菜の花をお吸い物にして―――」
「ごめん、十六夜。私先に食べる」
「悪い。俺も先に食う」
「安心しろ。俺も先に食う。……ところで、その筍余ってるか?余ってるなら筍飯もリクエストしたいところだが」
「それいい提案」
「お願いできるか?」
「は、はい!すぐに用意いたします!」
俺たちの分かりやすい反応にリリは頬を緩ませ喜んで厨房に向かった。
飯を食ってたら、風呂から上がった飛鳥が「私がお風呂がら上がるまで待ってなさいよ」っと怒っていたが飯を食べたらすぐに笑顔になった。
飛鳥も和食が恋しかったんだろう。
翌朝、昨日とは打って変わり黒ウサギは笑顔だった。
てっきりまだ怒ってるか憂鬱そうな顔をしてると思ったんだがな。
「皆様!ギフトゲームも解禁されたことですし、今日も元気に参加いたしましょう!」
「それは別にいいが、面白いゲームなんだよな?」
「YES!行商に来て居りましたコミュニティ“八百万の大御神”の分隊が、行商を止めてゲームを開催するそうです!」
「仏話にギリシャ神話、中国神話、次は神道ときたか。てか、八百万の神なのに大御神ってどういいことだ?」
「それは後ほどお分かりいただけます!兎にも角にも“八百万の大御神”は“サウザンドアイズ”に匹敵する超巨大コミュニティ!期待度は当社比にして特大でございます!」
「当社比なのに特大なのね」
「何処と比べた当社比なのかよく分からないけど、何だが凄そう」
耀と飛鳥の容赦ない言葉に肩を落とすがすぐにウサ耳を伸ばす黒ウサギ。
「それでは参りましょう!ギフトゲームは神魔の遊戯!必ずや皆さんを満足できる恩恵と奇跡が用意されているはずでございます!」
そう言って明るく笑う黒ウサギの後を俺達は軽く微笑み合いながら後を追った。
ちなみにその後、助けたユニコーンがあの後本拠を訪れて全てを黒ウサギ達に話していたらしい。