赤き弓兵と科学の空   作:何故鳴く鴉

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投稿遅れてすみません……。

あぁ~、筆が進まない。



激突と和解  ~そして再び決闘へ~

「……なぁ、箒」

「なんだ? 」

 

決戦日当日。

ピットの搬入口前には、一夏と箒が並んで佇んでいる。

 

「どういうことだ?。俺はISの事を教えてもらうはずだったんだが……この一週間、ISに乗るどころか基礎的な話すらしていない」

「……IS以前の問題だと、言ってあったはずだが? 」

「にしても程度があるだろ! 」

「うるさい! 大体、お前のISも無かったのだから仕方ないだろう」

「だからって、知識とか基本的なこととか、もっとやれることがあっただろう。訓練機借りるとか」

「……………」

「そ こ で 目 を そ ら す な ! 」

 

そのまま言い合いを続ける二人。

幸いにもピット内には人は殆どいないので、二人の喧嘩が衆目に晒されることはない。

数少ない観衆である千冬はそんな二人を遠巻きに見ながら大きく溜め息をつき、傍らのエミヤはそれに苦笑を返した。

 

「全くあいつらは」

「緊張で体が動かなくては戦いになどなるまい。平時と同じようにいられる、というのもある種の強みだと思うがね」

「それにしても程度があるだろう」

「違いない」

 

そのままクックッと笑うエミヤを目だけを向けて睨む千冬。

そうこうしていると、真耶が一夏たちの方へ駆け寄るのが見え、二人もそこへ向かった。

 

「織斑君、とうとう織斑君専用ISが届きましたよぉ~」

「え、来たんですか? 」

「織斑、急いで準備をしろ」

「え、あ、千冬ね――――あぃた!! 」

「織斑先生だ。いい加減学習しろ馬鹿者」

 

真耶の方に意識が向いていた為、背後からかけられた千冬の言葉に驚く一夏。

思わず発した言葉に、いつも通りの応酬が繰り広げられる。

涙目の一夏が頭をさすっていると、丁度ピットの搬入口が開いていく。

 

「これが……」

「はい、織斑君専用IS 『白式』です 」

 

開かれた扉の向こうで、純白のそれは待っていた。

一夏の目が僅かに見開かれ、誘われるようにその白へと手をのばし、触れる。

 

「すぐに装着しろ、時間が無い。背中を預けるようにいい―――そうだ。後はシステムが最適化をする。フォーマット及びフィッティングは実戦でやれ」

 

一夏は言われたままに体を動かし、開いてる装甲の中に納まるように身を任せると、途端に装甲が閉じていく。

傍から見ていればそれだけだが、一夏はそれより遥かに多くの情報を得ているのだろう。

 

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか? 」

「……大丈夫だ千冬姉。いける」

 

暫し全身の感覚を確認するかのように目を瞑り、一夏はゆっくりと開けながらそう答えた。

 

「そうか。なら、とっとと行って来い」

「わかった……箒」

「な、なんだ? 」

「行ってくる」

「あ……ああ。勝ってこい」

 

箒の言葉に首肯を返し、一夏はアリーナへと飛び出して行った。

その様子を見届けた千冬と真耶はリアルタイムモニターが設置してある一角へ向かい、その後にエミヤも続いた。

デスクに座る真耶の後ろ、千冬の隣に立つと、並んでいるモニターの一つに目を移す。

そこには既にISを纏ったセシリアの姿が映し出されていた。

 

「なるほど、あれがオルコット君の機体か」

「そうだ。ブルー・ティアーズ、第三世代型だ。詳しい武装やスペックは、戦闘中に見れるだろう………始まるぞ」

「あぁ」

 

 

なにやら言い合いを続けていた二人だが、セシリアのライフル射撃によって戦いの幕は開けた。

一夏は慣れないISの感覚に戸惑いながらも、降り注ぐレーザーを必死に躱していく。

攻撃をギリギリのところで躱しつつ一夏も武器を取り出すが、その手に現れたのは一振りの刀だ。

 

「なるほど、オルコット君の機体は遠距離から射撃戦に特化しているのか」

「あぁ、ブルーティアーズは中距離射撃型の機体。銃の腕も見ての通りだ。それに対して一夏の白式に武装はあれだけ、至近距離での格闘戦しか能がない」

「この攻撃を掻い潜り、いかに相手の懐に入るかが鍵となるか……しかし、アレの能力はそれだけではないのだろう? 」

「まぁな、それは見ていればいずれわかる……それまでに負けなければ、だが」

 

画面では、セシリアのブルー・ティアーズが早くもその能力を見せつけていた。

肩部ユニットより切り離されたビット、それが放つレーザーの雨に、一夏はますます翻弄されている。

 

「あれがオルコットの機体の特殊装備、ブルーティアーズだ。あいつの機体名もあの装備から取られている」

「ふむ、単機でありながら複数個所からの同時狙撃を可能にしているのか」

「その通りです。それにしても流石は代表候補生ですね。織斑君、大丈夫でしょうか」

「戦いの結果など終わってみなければわかるまい。幸い、彼には武道の心得があるようだ。早々に決着がつくこともなかろう」

「そうでしょうか? 」

「どんな形にせよ、“戦闘”を知っているのなら体は勝手に反応する。逆にどれほど搭乗経験があろうと、戦闘の空気を知らなければ普段の力の一欠片も出せないだろう。その点、篠ノ之君との稽古は、生半可な訓練よりも遥かに役に立ったと思うがね」

 

それは彼がまだ少年と言える年齢あった時の記憶。

“彼女”を召喚するまで光の御子に対抗できたのは、単純に日々の鍛練と、養父との手合わせで“戦闘”の空気を知っていたからだ。

 

「さらに言えば、今のオルコット君は大いに慢心している。試合をするまでも無く雌雄は決しているものだと確信し、織斑君を格下だと断定した。ああなった者は危機を感じるまでまず相手に本気を出さない。そこに、彼の付け入る隙がある」

「成る程、良くご存知ですね」

「知り合いに史上類を見ない程の慢心の持ち主がいてね。何かと顔を突き合わせていれば、嫌でもわかるというものだ。事実、アレはそうして何度も足を掬われていたからな」

「……一体、どんな人なんですか? 」

 

怪訝な顔をした真耶に、エミヤは苦々しく笑って見せただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……27分。よく持った方ですわね、褒めて差し上げますわ」

「そりゃどうも……」

 

肩で大きく息をする一夏を、セシリアは涼しげな表情で見つめた。

試合の運びはここまでセシリアが一方的な優位を保っている。

一夏のシールドエネルギー残量は少なく、機体自体も見ていれば満身創痍と言う言葉が自然と浮かんでくるほどにアチコチが損傷している。

 

「このブルーティアーズを相手に、所見でここまで耐えたのは貴方が初めてですわ………ですが、流石にもう飽きてしまいました、そろそろ閉幕といたしましょう」

 

セシリアの声と共に二機のビットが本体から離脱し、それぞれが一夏を狙う。

ビットから放たれるレーザーを白式の機動力に任せてギリギリ避けていく一夏だが、回避機動によってその体勢はは大きく崩れてしまった。

 

「ぐっ……」

「左足、いただきますわ」

 

セシリアが狙うのはこの無防備な瞬間だ。

銃口の向く先は宣言通り左足、そこは先の攻撃によって装甲が損傷している。

今再びそこに攻撃を受ければISの絶対防御が発動し、その瞬間に一夏の負けが確定するだろう。

 

(くそっ、こうなったら―――)

 

このまま避けていても敗北は不可避。

ならばリスクが大きかろうと、一か八かの賭けに出るのが得策だ。

 

「ぜあああああああっ!!!」

「なっ……!?」

 

 

瞬間、出来る限りの加速で突込み、セシリアのライフルに体当たりをすることで辛くも銃口を逸らすことが出来た。

 

「……無茶苦茶しますわね。ですが、所詮それも無駄な足掻き!!! 」

 

距離を取ったセシリアがそう言うと、待機していたビットが再び一夏を狙う。

その瞬間、何かに気付いたような表情を浮かべた一夏は、放たれるレーザーを掻い潜ってビットへと迫り、手に握られた刀を一閃する。

剣の軌跡がビットと交わると、ビットは真っ二つに切断され、その数瞬後に爆散した。

 

「なんですって!? 」

 

想定外の事態に驚愕するセシリアへ、一夏は刀を構え直し斬り込んでいく。

再び距離を取ったセシリアは、今度こそとビットを繰り出す。

 

「わかったぞ……この兵器はお前が指示を送らないと動かない! しかも――」

 

ビットの軌道を先読みした一夏がビットに斬りかかり、再びビットを破壊した。

 

「その時、お前はそれ以外の攻撃をすることが出来ない。制御に意識を集中させているからだ。そうだろ?」

「………」

 

引きつったセシリアの目尻を見て、一夏は小さく笑みを浮かべた。

この数分の間に、試合の流れは大きく変わっている。

セシリアの武装の弱点がわかった、軌道も読める、そして実際にブルーティアーズを2機撃墜した。

残る武装はブルーティアーズ2機とライフル、近接武器があるかはわからないが、機体のコンセプトからして至近距離での戦闘に重点は置かれていないだろう。

何よりセシリアの表情に余裕が一切なくなっている。

 

(いける―――!)

 

ようやく見え始めた勝機に、一夏の胸は僅かに高揚していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ……。すごいですねぇ、織斑君」

 

リアルタイムモニターを見た真耶が、ため息とともにそう呟く。

初めての試合、しかも代表候補生を相手に粘りを見せ、ついに反撃の糸口すら見出してしまった。

しかし真耶の後ろにいる二人は、画面を見つめながら揃って渋い顔をしている。

 

「む、いかんな」

「わかるかエミヤ」

「えっ、なんのことです? 」

「あの馬鹿者、浮かれている」

「えぇ? 私には全然……どうしてわかるんですか? 」

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれは、あいつの昔からの癖だ。あれが出るときは、大抵簡単なミスをする」

「へぇぇぇ………。流石はご姉弟ですねー。そんな細かいところまでわかるなんて」

「いや、まぁ、なんだ。あんな奴でも一応は弟だからな……しかし、お前は何で気づいたんだ?」

「今の彼の目を見ればわかるさ。あの目をした者は、肝心なところで凡ミスをする。私の良く知る人間に常日頃あの目をする者がいてね。アレのここ一番での失敗は、もはや遺伝子に刻まれた呪いの類だった」

「……エミヤ先生の知り合いって、どんな人たちだったんですか? 」

「……察してくれ」

 

 

 

見れば一夏は3機目のビットを斬り、そのまま最後のビットへと駆ける。

しかし、一夏は気づいていなかった。

最後のビットが先程から動かず、攻撃する気配すら見せなかったのだ。

そのまま剣を振り上げようとした一夏だが、一瞬悪寒が走り、セシリアの方を見る。

そこには、満面の笑みでライフルを構えるセシリアの姿があった。

 

「しまった――!!」

「気づいたところで遅いですわ!!」

 

ピットの機動を見切られたセシリアは、今度は逆にピットを動かさずに一夏がピットに迫る瞬間を狙っていたのだ。

慌てて回避起動に移ろうとした一夏だが、その肩部ユニットにセシリアのライフルが命中する。

 

「ぐあああああっ!! 」

 

大きく吹き飛ばされ、落下していく一夏。

 

(くそっ――)

 

己の失態を悔やんでいたその時だ。

 

 

――――フォーマットと及びフィッティングが終了しました。

 

突然現れたそのウィンドウに一夏は戸惑いながらも“確認”のボタンを押す。

途端に一夏のISは光に覆われる。

その光が収まった時には、彼の機体は生まれ変わっていた。

 

「ま、まさか……一次移行!? あなた、今まで初期設定だけの機体で闘っていましたの!? 」

 

セシリアの驚愕をよそに、一夏は生まれ変わった白式の姿を確認する。

その手に握られていた刀も、その姿を変えていた。

 

「これは……雪片? 」

 

表示されている刀の銘は、かつて姉が振るっていたものと同じ。

その暫し見つめ、力強く握りしめた一夏は、ふと小さく笑顔をこぼした。

 

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

決意を新たに、眼前の敵を見る一夏。

 

「俺も、俺の家族を守る」

「は? あなた、何を言って―――あぁ、もう面倒ですわ!」

 

今度こそ最後のレーザービットが一夏に狙いを定めるが、先程よりも機敏な動きで、迷いなくビットを追う。

 

―ギィン!!―――

 

一瞬のすれ違いざまの横一閃。

両断されたビットは、慣性に任されるがまま一夏の横を通り過ぎ、爆ぜた。

その爆風を背中で感じながら、一夏はいよいよセシリアへと迫る。

 

「おおおおおっ! 」

 

手の中の雪片に光が集まり、その刀身が光を帯びる。

そのまま一夏は呆気にとられたセシリアの懐へと入り、構えた雪片を大きく振るった。

――が、その刀身に手ごたえを感じる前に、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

「え……あ、あれ?」

「へ?」

 

アナウンスを聞いた一夏はポカンとした表情を浮かべ、同じ表情をしていたセシリアと顔を見合わせる。

アリーナに詰めかけていたギャラリーたちも、何が起こったのか全く把握出来ていなかった。

 

 

 

 

「………」

「……全く、馬鹿者が」

 

試合結果を聞いた真耶は、生徒達と同じ顔で画面をぼんやりと見つめている。

その後ろに立つ千冬はやれやれといった表情を浮かべ、その隣のエミヤはクツクツと喉で笑っている。

 

「ふむ、この終わりは予想外だったな」

「………エミヤ」

「おや失礼。しかし君は彼にとって、よほど誇らしい存在だったのだな」

「そうですよね。あの時の織斑君、とってもかっこよかったです」

「……………」

「織斑先生? 」

「ん?、あぁ、すまない。そうだな……」

 

そう答えた千冬の顔は、ほんの僅かに自嘲するような表情を浮かべていた。

 

 

「……あいつが帰ってくるな。さて、何と言ってやるか……」

 

ピットに向かってくる一夏の姿を捉えた千冬は、もういつもの表情に戻っており、エミヤ達もそれ以上の事を気にするのは止めた。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりで良い感じですね! 」

「……は? 」

 

朝のSHR、教壇に立つ真耶は嬉々とした様子で話を続け、生徒達もアチコチで話に花を咲かせている。

その中で、一夏だけが、現在の状況を全く理解できず困惑している。

 

「あー……先生、質問です」

「はい、織斑くん」

「俺は昨日の試合に負けたんですが、なんでクラス代表になってるんですか? 」

「それは―――」

「それはわたくしが辞退したからですわ」

 

がたんと椅子が動く音に一夏が目を向けると、そこには腰に手を当てているセシリアの姿。

その様子を見て、一夏はますます困惑する。

なにしろセシリアが一夏に噛みついた理由は、クラス代表に彼女ではなく一夏が選ばれたからだ。

そのセシリアが、今度はクラス代表を辞退したというのだ。

 

「まぁ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然のこと。なにせわたくしセシリア・オルコットが相手だったのですから。それは仕方のないことですわ」

「ぐっ……」

 

いつもと変わらぬ調子で話すセシリアの言葉を、一夏は黙って受け止める。

いや、言い返せればそうしたいところなのだが、事実として負けた彼は反論できない。

 

「それで、まぁ、わたくしも大人げなく怒ったことを反省しまして」

 

と、ここでセシリアの雰囲気が若干変わるが、それに気づかぬ一夏は無言で先を促す。

 

「”一夏さん”にクラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦が何よりの糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの。えーと……そ、それでですわね」

 

何か恥ずかしいのか照れているのか、コホンと咳払いを一つして顎に手を当てる。

 

「わたくしが一夏さんにIS操縦を教えて差し上げますわ。何せわたくしは代表候補生、このわたくしの手にかかれば、一夏さんもみるみるうちに成長を遂げ―――」

 

と、セシリアがここまで言ったところでバンッ! と言う音が教室に響いた。

それまでセシリアに注目していた生徒たちは、ここで音のする方へと顔を向ける。

そこには凄まじい剣幕を見せる箒が、ゆらりと立ち上がったところだった。

どうやら先ほどの音は彼女が机を叩いたものらしい。

 

「あいにくだが、一夏の教官は既に足りている。 私が 、直々に頼まれたからな」

 

……眼で殺す、という言葉がある。

元は女性がその色目でもって男性を悩殺することの例えだが、今の箒の視線は、物理的に相手を殺しかねないほどの鋭さを帯びている。

しかしそんな箒の視線にも臆せずに、涼しい顔で笑って見せた。

 

「あらあら?、あなたはランクCの篠ノ之さんではありませんか。ランクAであるわたくしに何か御用でも? 」

「ら、ランクなど関係ない! 頼まれたのは私だ。そもそも、い、一夏がどうしてもと懇願するからだな……」

「座れ、馬鹿ども」

 

セシリア、箒、ついでに一夏の頭に出席簿が落ちる。

代表候補生、剣道全国一位がまるで反応出来ないその素早さに、元日本代表としての技量の高さが窺える。

 

「お前たちのランクなどゴミだ。私からすれば誰であろうと平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優劣などつけようとするな」

 

その圧倒的な剣幕に、流石のセシリアも言葉を詰まらせる。

 

「オルコット、たとえ代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。下らん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ、自重しろ」

「手厳しいな」

「私は事実を言っているだけだ」

 

それまで後ろで聞いていたエミヤがそう言うと、千冬はそちらに顔も向けずに答える。

 

「エミヤ先生は、昨日の試合をどう思っていまして? 」

「思いのほか接戦だったというところか。代表候補生のオルコット君の技量の高さは当然のことだとして、織斑君の機動もIS初心者とは思えないものだった。連日篠ノ之君と手合わせした成果が出たのだろう」

「フン、ISに乗ったこともない人間がよく言えるな」

「そこを突かれると痛いが……まぁ、初めて手にした武器をどの程度扱えるかというところに通ずる、と思ってくれ。それに戦闘ならばいくらか心得があるのでね」

 

千冬の言に苦笑を返すエミヤ。

しかしそれは聞いていた一夏はポカンとした表情でエミヤの方を見る。

 

「あれ、先生はISに乗ったことないんですか? 」

「あぁ」

「でも、ISを動かしたって――――」

「私はISを”起動させた”だけだ、それも事故のような形でね。その後も色々と慌ただしかったのもあって、君たちの入試のように実際ISを動かすということもなかった」

「はぁ~」

「織斑君には以前言った通り、ISの経験など微塵もない。搭乗さえしてないのだから当然――オルコット君? どうかしたかね? 」

 

エミヤの言葉に生徒たちがセシリアの方を見ると、そこにはプルプルと震えるセシリアの姿がある。

 

「なぁセシリア、どうしたんだ?」

「………すわ…」

「ん? 」

「決闘ですわ!!! 」

 

突如声を荒げたセシリアは、凄まじい顔でエミヤを指差す。

 

「突然ISを動かしてしまったからとはいえ、搭乗さえしたことのない人間がこのわたくしの教師などと……断じて認められません!! 」

「……君たちと共にIS操縦を学んでいく旨は、初日に言ってあったはずだが? 」

「そ、それはそうですが……とにかく! わたくしと戦いなさい! それで教師に足る技量であれば文句はありませんわ。そうでないのなら生徒として入り直してくださいな」

「しかしだね……」

「いいじゃないかエミヤ、遅かれ早かれISには乗るんだ。相手は代表候補生、不足はないだろう? 」

「君は――」

「では明日の放課後、エミヤ先生とオルコットとの試合を行う。いいな? 」

「……異論はない」

「わたくしもそれで構いませんわ。破壊されたブルーティアーズも予備に換装しましたので」

「よし、では授業を始める。とっとと席につけ」

 

 

 

 

 

こうして、予想外の流れではあるが、エミヤにとって初のIS戦が行われることになった。

 

 

 

 

「そうだエミヤ」

「何かな? 」

「心配するな。お前の腕なら用務員としても十分すぎるほどやっていける」

「………そうならないことを祈るよ」

 

 




読んでいただきありがとうございます。


今後も更新が不定期になるかもしれませんが、どうぞよろしくおねがいします。

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