赤き弓兵と科学の空   作:何故鳴く鴉

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出会いとこれから

 

 

 

「さて……」

 

アーチャーはガレキの上に立ちながら部屋の中を見回す。

 

衝撃で、落下地点にあった建物を突き破っていたのだ。

しかしそこは仮にも英霊、その体にダメージは残っていない。

 

 

「また随分と乱暴な召喚だ、いつぞやを思い出すが……」

 

その光景に懐かしさを感じながら、アーチャーは同時に違和感を覚える。

 

「受肉している……それに外界からのパスが全くない」

 

 

この場所が何処かはわからない、とりあえず何処かの倉庫か格納庫のようだ。

しかしアーチャーは“サーヴァント”としてではなく、ただ個人としてこの場に放り込まれたのだ。

ステータスは変わらず、魔術回路も健全なままだ。

 

「とりあえず、ここは日本であっているようだな」

 

とりあえず周辺にある物や書かれた文字から、ここは自分の知る世界とそう違いは無いことがわかった。

それと同時に自分の良く知る世界ではないというのも、経験から感じていた。

 

そうしてふと、壁際に並んでいるソレに目がいく。

腕と脚、人型に近いカタチのそれは、今まで見たことが無いものだった。

 

「フム……自律式ではないか」

 

奥に何体も並ぶその機械は、人が身につけて動かすものだというのはわかる。

気付けば初めて目にするその物体に、彼は自然と手を伸ばしていた。

 

「――同調(トレース)、開始(オン)」

 

普段なら口にする必要もない詠唱だが、今回は未知の機械故に慎重になっていた。

そうしていつものように骨子を解明しようとして、それは唐突に起動を開始した。

 

「む―――」

 

しまった、と眉間に皺を寄せるアーチャー。

どうやら気が付かぬうちに起動のスイッチを押してしまったらしく、目の前の機会は明らかに眠りから目覚めていた。

とりあえずスイッチを探すためにも構造把握で設計図を読み込もうとしたアーチャーだが、眉を僅かに動かすと機械からそっと手を放した。

 

「この施設の関係者かね? 」

 

そう、背後に声をかけながら振り返る。

そこにはスーツ姿で黒髪の女性が、殺意一歩手前の目でこちらを睨んでいた。

 

「……結果としては不法侵入になってしまったな。あぁ、安心したまえ、天井ならば私がどうにかしよう」

「………それは助かるが、聞きたいことは他にある」

「織斑先生!! 」

 

黒髪の女性の後ろから、並んであった機械を纏った女性が現れた。

緑髪のその女の両手には、それぞれ銃火器が握られている。どうやらアーチャーの予想通り、あれは人が身に着ける武装のようだ。

 

「織斑先生、ここは私が――」

「いや、いい。おい、貴様はここで何をして――――そのIS、起動しているのか!? 」

「ん?、あぁ。どうやら先ほどスイッチに触れてしまったようでな」

 

織斑と呼ばれたその女性の驚く声に、アーチャーはこともなげにそう答える。

 

 

「貴様、何者だ」

「その辺の話は長くなるんだがね。少なくとも今現在、君たちの敵ではないと言っておこう。それにこの、アイエスと言ったかね?。意図していなかったとはいえ、起動させてしまったことは謝罪する。止め方を教えてくれれば、今すぐでも停止させよう」

「……お前、ISが何かわかっていないのか? 」

「…やはりか。すまない、君たちと私では持っている情報に違いがあるようだ。それを正すためにも、ここは話し合いの場を持ちたいのだが」

「……いいだろう。場所を変える、ついて来い」

「織斑先生!! 」

 

 

 

驚くほどあっさりと了承した千冬に、真耶が噛みつくように声を荒げる。

 

「いいんですか!?、あんな訳のわからない人を」

「あぁ。あの男は言ったことを反故にはしないだろう」

「でも、どこにそんな根拠が――」

「纏う空気、だろうか。それに目を見ればわかる」

 

そう言う千冬は、口元を微かに緩めた。

 

 

 

 

 

 

「さて、ではまず聞きたいのだが、お前は一体何者だ? 」

「答えるのは構わないが、先にそちらのこと聞いておきたい。こちらも上手く説明するには材料が不足しているのでね」

 

席に座るなり口を開いた千冬に、アーチャーはそう返した。

 

「いいだろう。で、何が聞きたい? 」

「主には、そうだな……君たちがアイエスと言っていた、あの機械に関してだ」

 

こうして一先ず千冬たちがISについて、それに関連する内容も含めて説明することになった。

アーチャーはその内容を黙って聞くとしばし思案し、ゆっくりと口を開いた。

 

「説明感謝する。では私の方だが……正直に言うと、私はこの世界の者ではない」

「……」

「はいっ!? 」

「突拍子のない話なのは重々承知だがね。元々私の知る世界でISなどというもの聞いたことはないし、少なくとも一般には知られていない。当然、女尊男卑の社会にもなっていない」

「そんな……」

「更に言えば、私は人ですらない」

 

そう言うと、眼前の二人は呆気にとられたように沈黙した。

 

「信じてもらえないのも当然だろう、では順を追って説明しよう」

 

こうしてアーチャーは魔術や魔法といった神秘、サーヴァントについての説明をかいつまんで行った。

知らない者からすればおとぎ話のような内容だが、彼が手に投影した剣を見ると、2人も信じざるを得なかったようだ。

 

 

「つまりだ。私の知る世界と君たちのいる世界は違ったもので、私はこちらに放り出されたという訳だ」

「……随分と落ち着いているな。普通なら慌てるところじゃないのか? 」

「幸か不幸か、こういった経験はそれなりに多くてね」

「お前はこのような経験は何度もしていると? 」

「あぁ。簡単に言えば、海を渡って違う島に行くようなものだな」

「ほう」

「どちらも方法は大きく3つ。一つは自ら泳いで向かう、二つ目は渡し守の船に乗る、そして3つめが―――」

「漂流か」

 

千冬の返答に真顔で頷く。

 

「訳も分からずいきなり海に放り出され、見知らぬ地に流れ着く。神隠し、という言葉はこちらでもあるかね?、あれもそういった類のものだ。私は自分で渡る力など無くてね。人に連れられて数度、あとは巻き込まれて流された経験がそれなりにある」

 

諸悪の根源は生涯の主であり天敵、その二つ名をあかいあくま。

まだ現界していた際、呼び出しに応じ実験を手伝っていると気がつけば一人見知らぬ地。ここ一番で狙いを外した彼女の攻撃が彼に当たり、気がつけば一人見知らぬ地、なんて状況は一度や二度ではなかった。

 

 

「その時は二週間ほどで帰ることが出来たがね。今回はその時とは状況がまるで違う」

「それでは、どうするつもりだ? 」

「どうもせんよ。パスが無いとはいえ私は以前として英霊のままだ、死ねばこの身は座に還るだろう。かと言って、自ら自害してまで戻ろうとは思わないのでね。この身が自然に朽ちるまでは、この世界に留まるつもりだよ」

「そうか……」

「それでは、貴方は今後どうするつもりですか? 」

「おや、あんな話を信じるのかね? 」

 

心配そうにアーチャーに問う真耶にアーチャーは皮肉気に笑ってみせたが、真耶の真剣な目を見ると「そうだな」と呟きながら顎に手をやる。

 

「受肉した今は普通に生活しなければいけないしな。とりあえず何処か働けるところ……と言いたいが、私はこの世界にいない人間だ。まずは戸籍をどうにかしないと」

「……なら、うちの学園で働かないか? 」

「織斑先生!?」

 

突然の千冬の提案に、真耶はただただ驚いた。

 

 

「先ほど話した通り、それは本来男性では扱えないもの。今度の新入生に一人男子がいるが、お前はそれに続く2例目だ、得られるデータにも興味がある」

「フム……」

「それにISはその出自からして、裏で色々と動く者たちがあってな。生徒の危険から遠ざける為にも、協力してはくれないだろうか」

「おかしなことを言うな、君たちは。私が生徒たちへの脅威となる、とは考えないのか? 」

「これでも多少は人を見る眼はあるつもりだ。目を見ればわかるさ、お前の力量も、お前という人の中身もな。真耶も、それをわかっているんだろう」

「……買いかぶり過ぎだよ」

「そうは思わないがな」

「………」

「給料も出る、住居は教員寮の一室を使えばいい、学内には食堂もある。この学園にいる限りは衣・食・住には事足りるぞ? 」

「……………」

「……………」

「……わかった。私で出来る範囲であれば協力しよう」

 

暫しの問答の末、アーチャーは肩をすくめると、「降参だ」と言わんばかりに両手を挙げた。

その様子を見て、千冬は僅かに微笑む。

 

「協力感謝する。戸籍等は任せてくれ、学園側でなんとかしよう」

「あぁ、わかった」

「では、今日のところはホテルに泊まってもらう。明日以降の詳しい予定は案内しながら話すが、この場で何か質問があるか? 」

「いや―――ふむ、そうだな。では一つ」

「なんだ?」

「君たちの名を――――私はエミヤ。呼ばれ慣れた名はアーチャーだが、君たちは好きに呼ぶと良い。それで、君たちの名は?、君たちのことは何と呼べばいい?」

 

予想のつかなかったアーチャーの問いに、二人は一瞬呆けてしまう。

 

「む……。確かに道中でも話せた内容だと思うが、こういうのはなるべく早い方がいいだろう? 私たちはもう協力関係なのだから、いつまでも君呼ばわりは失礼かと思ってね」

「え、えっと……」

「君たちがお互いを呼んでいた名なら聞いている。だが、私に教えてくれたわけではあるまい?。自ら名を明かしていないのに、そう呼ばれるのは不愉快かと思ったのだが……」

 

むむむ、とアーチャーは眉間に皺を寄せる。

その様子をみた千冬は、思わずクスクスと笑いだしてしまった。

 

「むっ、何かね? 」

「いやなに、今ので確信しただけさ。エミヤ、お前は本当にいいやつだな」

 

千冬から言われた一言に、エミヤはキョトンとした表情を作ると、拗ねたように目を逸らす。

それが先程と違い随分と子供っぽい仕草だったために千冬は勿論、真耶までも笑い出してしまった。

 

「………それで、君たちは名乗る気はあるのかね? 」

「ククッ、すまないな。私は織斑千冬、好きに呼ぶといい。よろしく、エミヤ」

「私は山田麻耶です、エミヤさん、どうぞよろしくお願いします。そういえばエミヤさん、下の名前は何ていうんですか? 」

「それだが、伏せさせてくれるとありがたい。そうだな、アーチャーが名だと思ってくれればいい。すまないな」

「わかりました。気になさらないで下さい」

「誰しも事情はある、お前ならば尚更だろう」

「深い理由はないんだ、ただ個人的なものでね。それでは千冬、真耶、これからよろしく頼む」

 

 

 

こうして、エミヤは違う世界での道を歩むことになった。

 


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