どうも、ふぁもにかです。前回まででキンジ×カナ……じゃなくてキンジ VS カナという第四章における最大の見せ場が終わってしまいましたので、どうしたものかと模索中。とりあえずパトラさんを強化&凶化&狂歌して更なる見せ場創設でもやってみましょうかねぇ。
深い深い眠りについた傾国の美女ことカナ(※だが男である)を背負った状態でキンジは帰路へとつく。割と長時間カナを担いで歩いているキンジだったが、女装を通して絶世の美女になれる程度には細身である兄なためにあまり重みを感じないらしく、キンジは全然疲れていなかった。
周囲にチラホラ存在する人々が現在絶賛睡眠中のカナを背負って歩くキンジを盗み見しつつ「……え……お持ち帰り……」とか「……事案……警察……」とかヒソヒソ囁いている中、キンジは頭を悩ませる。その内容は今後のアリアとの関係をどのように構築するかである。
(俺はアリアのことが好き。それはわかったけど……こういう場合って何をどうすればいいんだ? ちゃっちゃと告白すればいいのか? いや、でも告白して、振られたら? アリアが俺のことをそういう目で見てなかったらどうすんだ? そうなったら気まずくなるだけだぞ? あぁ。ったく、こんなことで頭を悩まされる日が来るなんて思いもしなかったぞ。…………けど、やっぱり今は俺の気持ちは後回しだ。とりあえず、告白云々は兄さんやかなえさんの件が終わるまではなしにしよう。これからもイ・ウーの連中を相手取ることになる以上、余計なことをしてアリアとの連携が悪くなるのは何としても避けたい所だしな)
キンジは己の中で一定の存在感を醸しつつあるアリアへの恋心の対処方法を決める。そうして男子寮に、自分の部屋の前までたどり着いた時、キンジはビシリと硬直した。急に、実に唐突に、アリアとの接し方がわからなくなってしまったのだ。
(あれ? 待て、えぇーと、ちょっと待て)
どうやってアリアと話せばいいのか。いつもどんな風にアリアと話していたか。どんな顔をしてアリアと話せばいいのか。それらがまるで思い出せないキンジはドアの前でゴクリと唾を呑む。さっさとドアを開けて中に入ればいいだけなのに、キンジの体は全く動かない。
(おいおい、何だこれ。ここ俺の部屋だよな? なんでこんなに緊張してんだよ?)
キンジは自分でも全然わからない謎の感情に翻弄されてその場に立ち尽くす。とはいえ、いつまでもドアの前で立ち止まっていても何も始まらない。キンジは覚悟を決めると、プルプルと小刻みに震える手でドアノブを握る。そして。あたかも戦地に赴く戦士のごとく足を踏み出した。
「た、ただいま」
「あ、おかえりなさい。キンジ」
キンジが若干上ずった声を上げるとリビングからトテトテとアリアが歩み寄ってくる。アリアの声しかしなかったことを鑑みるに、理子とユッキーは今どこかに出かけているようだ。理子はともかくユッキーまでもが出かけているとは、何かの天変地異の前触れでないことを祈るしかなさそうだ。ちなみに。今のアリアはツインテールからサイドテールへとクラスチェンジしている。
(ちょっ!? な、なんで上ずった声なんて出してんだ、俺!? すっごく恥ずかしいんだけど!? いつもの自然体な俺はどこいった!? マジでどこいった!? というか、サイドテール似合ってるな、さすがはアリア)
内心で酷く混乱しているキンジの様子にアリアは頭にクエスチョンマークを浮かべつつ、キンジに視線を向ける。その視線が、キンジの背後でピタリと止まった。
「――キンジ?」
突如として、ゴゴゴゴゴゴゴッといった重低音を背後に纏って底冷えのする声で名前を呼んでくるアリア。死んだ目といっても過言ではないほどのハイライトの消えた瞳で自身の名前を呼ばれたキンジはただでさえアリアを前に少々挙動不審になっているのも相重なって「は、はいぃぃ!?」と素っ頓狂な声を出してしまう。
「その、後ろの人は――誰ですか?」
「あ、あぁ。カナ姉か? カナ姉はだな――」
「へぇ、カナさんと言うんですか。いい名前ですね。そして名前呼びに加えて姉のように慕っていると、ふふふ。……で、見た所……キンジはその人をここへお持ち帰りしたようですが……何が目的ですか、キンジ? ふふッ」
「あ、あああ、アリア。お、お願いだから所々で笑い声を漏らすのやめてくれないか? こ、ここ、怖さが凄まじいからさ、な?」
キンジは全身にほとばしる震えを止められないまま、裏返った声でアリアに不気味な笑い声をやめるように頼むも、肝心のアリアは「最近はすっかり鳴りを潜めてるみたいでしたから安心していたんですけどねぇ。ふふふ、やはりヘンタイは即刻駆除……いえ、矯正すべきでしたか」と一人呟くだけで、キンジの要望を聞き入れる気配は欠片も感じられない。
「さて、知り合いの女性を自分の
「え、えと……第四の選択肢はないのか?」
「なるほど、三つ全て楽しみたいと。ふふ、キンジは欲張りさんですね」
「いやいやいや、違うから! 銃殺も斬殺も時計部屋もノーセンキューだから! てか、時計部屋ってなに――ぎゃあああああああああああああああ!?」
ブンブンブンとかぶりを振ってアリアの言葉をしっかりと否定するキンジ。だが、アリアがキンジの言葉を遮るようにして小太刀二本で斬りかかってきたためにキンジは己の言葉を即座に中断してアリアの攻撃を避けることとなった。情けない悲鳴を上げつつアリアの猛攻から逃げる今のキンジはとても
普段であれば修羅モードのアリアに恐れをなしつつも、それでも反撃やアリアの無力化を積極的に試みたことだろう。しかし。アリアへの恋心を自覚して初めてアリアを前にしたことで生まれた緊張が、動揺がキンジの思考回路をこれでもかと狂わせていたせいで、キンジの頭にはアリアの攻撃をかわすことしか入っていなかった。
結局、キンジはアリアが落ち着きを取り戻すまでアリアから繰り出される容赦のない鋭い攻撃を、背中のカナに決して被害が及ばないように細心の注意を払いつつ避け続けることとなった。とはいえ、キンジの部屋は相変わらず家具に始まりスリッパに至るまであらゆるモノが防弾&防刃仕様となっているので、修羅モードのアリアの暴れっぷりを受けても部屋の被害は軽微たるものだったのだが。備えあれば患いなしとはこのことか。
ちなみに。修羅を纏ったアリアの降臨&襲撃。これによりアリアに対する緊張や動揺といった恋心を抱いた人間に特有の初々しい感情が全てもれなく吹き飛び、結果としてアリアと普通に話せるようになったために、あのタイミングでアリアが暴れてくれたことに少しだけ感謝するキンジの姿がしばらく時間が経った後に見られることになるのだが、それはまた別の話。
◇◇◇
十数分後。
「で、結局その人は誰なんですか、キンジ?」
アリアがどうにか平静を取り戻し、キンジが背中のカナを自身の寝ている二段ベッドにそっと寝かした後。アリアはカナの顔を見つめつつキンジに問いかける。その口調がきつめなのは決して気のせいではないだろう。当然だ。今のアリアは暴走こそやめたものの、俺が見知らぬ絶世の美女を連れ込んできたようにしか思えないのだろうから。
「カナ姉だ。ってか、ここは俺の兄さんだって言った方がいいな。死んたはずだったんだけど……どうやら理子の言った通り、ホントに生きてたみたいだ」
「……へ?」
キンジはビシリと硬直した隣のアリアをよそにカナにしっかりと布団を掛ける。『睡眠期』に突入し何日も寝続けることとなったカナを自分のベッドに寝かせた以上、これからしばらく俺はソファーで寝るかなどと考えつつ。
「え、えと、キンジ? これはどういうことですか? 『兄さん』って確か、私の記憶違いでなければ金一さんのことですよね? ……やはり、貴方のお兄さんは性転換をしている、ということですか」
「いや。違うんだ、アリア。そういうわけじゃなくてだな……」
眼前のカナを凝視した状態で何やら間違った方向へと思考を進めようとするアリアにキンジは即座に否定する。しかし、キンジは未だアリアにヒステリアモードについて伝えることを後回しにしておきたいと考えている影響で上手く兄のことをアリアに説明できないでいた。
さて。どうやってヒステリアモードの存在を巧みに伏せたまま、この美女にしか見えない兄さんのことをアリアに説明したものか。兄さんが性転換をしているとか、女装趣味を持っているといった誤解をアリアに抱かせないようにするにはどうしたものか。キンジが必死に頭を回転させてアリアを納得させうるであろう言葉を探していた、まさにその時。
「――んぅ。あ。キンちゃん、おかえりぃ」
不意に白雪の声が上から降ってきた。キンジが上を見上げると、梯子を使って緩慢な動きで二段ベットから降りてくる白雪の姿。どうやらユッキーはどこかに出かけていたのではなく、ただ今の今まで夢の彼方へと旅立っていただけのようだ。
(ついさっきまであんなにアリアが暴れてたのに……よく呑気に眠ってられたな、ユッキー)
今目覚めたばかりで寝ぼけ気味の白雪にキンジが内心で呆れとある種の尊敬の念を抱いていると、当の白雪はすやすやと眠っているカナの姿を捉えて「あ、キンちゃんのお兄さんだ」と当然のように口にした。
「ッ!? ユッキーさんはこの金一さんを知っているんですか!?」
「うん。小さい頃に何度か会ったから。それがどうしたの、アーちゃん?」
「いえ、どうしても私にはこの金一さんが男には見えなくて……」
「あ、なるほどね。その気持ちは凄くわかるよ、アーちゃん。でもね、キンちゃんのお兄さんは誰がどう見ても女の人にしか見えない顔をしてるけど、それでもれっきとした男の人なんだよ」
「そう、なんですか……」
「生まれてくる性別を間違えちゃったんだろうね、きっと」と冗談めいた口調で笑みを浮かべる白雪の証言を受けて、アリアはキンジの言葉だけではイマイチ拭いきれなかった『遠山金一性転換疑惑』の払拭に本格的に努めることにした。
「ま、何だ。どうしても兄さんが男だって思えないんなら、いっそのこと兄さんを脱がして、自分の目で確認してみたらどうだ?」
それでも中々目の前の美女と男という性別が結びつかずに思わず眉を潜めるアリアにキンジはふと思いついた案をアリアにそのまま伝えてみる。すると、アリアはキンジのまさかの物言いに「ふぁッ!?」と驚愕の声を上げた。
「な、ななななななな何をいきなり何を言い出すのですか、キンジ!? そんな、無抵抗の人の服を脱がすなんて真似、できるわけ――」
「大丈夫だって。兄さんはその程度で怒るような器の狭い男じゃないから。それに、今ここには俺とアリアといつの間にかどこからか取り出した、いかにも高級そうな一眼レフを構えてやけにやる気をみなぎらせているユッキーの三人しかいないんだしさ」
「そうだよ、アーちゃん。だからここは自然体に、一枚一枚脱がしていこっか。大丈夫、アーちゃんが恐れてるようなことは絶対に起こらないから、ね? あ、そうそう。私はここで構えてるから、キンちゃんのお兄さんの体と自分の体が被らないように気をつけてね、アーちゃん」
キンジの放った爆弾発言に顔を文字通り真っ赤にして慌てふためくアリア。その実に年相応で可愛らしい姿を前についアリアをいじりたい衝動に駆られたキンジと白雪は内心でニヤニヤしつつアリアに「大丈夫」だと言葉をかける。しかし、当のアリアは一眼レフの動作確認をしている白雪をビシッと指差して「どこが大丈夫ですか!? 完全にユッキーさんに決定的瞬間の写真撮られますよね、それ!?」と声を荒らげる。
「なぁユッキー。一つ聞くけど、アリアが兄さんの服を脱がす写真なんか撮ってどうするつもりだったんだ?」
「うん。ちょっとクラスの皆に見せたら面白いことになるかなって思って」
「アウトです! 完膚なきまでにアウトです! そんなことされたら私にいらぬ噂が立つじゃないですか!?」
「あぁ、そうだな。アリアに百合のケがあるんじゃないかと思われるな、確実に」
「……やっぱり金一さんは性転換してるんじゃ――」
「――だが男だ」
「わかりました。わかりましたよ。それでいいですよ、もう……」
アリアは半ば強引に『遠山金一性転換疑惑』を消し去り『遠山金一男性説』を受け入れると、深々とため息を吐く。傍目から見たその姿は、アリアがロリ体型を保持しているにもかかわらず、随分と老けこんで見えた。どうやらアリアは一眼レフを装備したユッキーが虎視眈々とベストショットを狙う中で兄さんの服を脱がすという選択肢を拒否して兄さんを男と思い込むことにしたようだ。
(何だ、脱がさないのか。せっかく、ユッキーが撮った写真を後で俺にも譲ってもらおうと思ってたのになぁ……)
精神的に疲れきっているらしいアリアを前に、キンジは今後一切手に入れる機会のないであろうアリア×カナの写真を得られないことに内心で酷く絶望する。家宝の一つとして生涯保存しようと心に誓っていただけにその絶望の程は大きい。だが。アリアいじりに一段落ついた今のうちに兄さんに関する真面目な話を二人にしておくべきだろうと心を切り替えることで実にあっさりと絶望から立ち直ると、キンジは凛とした目をアリアと白雪に向けた。
「……アリア。ユッキー。今のうちに言っておく。兄さんは、イ・ウーの構成員だ」
「「えッ!?」」
「半年前のアンベリール号沈没事故に紛れて行方を眩ませることで自身を死んだことにして、イ・ウーに潜入してたんだ。イ・ウーを潰すためにな。……だけど。その兄さんが今さっき、どういうわけかアリアを殺すための協力を俺に持ち掛けてきた」
「「……え?」」
「で、俺としてはそれを認めるわけにはいかないってことでとりあえず兄さんと戦って、倒して、そして、兄さんがどこを拠点に活動してるかわからないってことで、ひとまずここに連れてきたってわけだ」
キンジが話を一旦区切ると、部屋に重みのある沈黙が訪れる。内容が内容なだけにアリアも白雪もキンジの言葉を咀嚼し終えるのに時間がかかっているのだろう。
「ね、ねぇ。キンちゃん。その、こんなこと聞くのはちょっと気が引けるんだけど……キンちゃんのお兄さんが起きたらすぐにアーちゃんを殺そうとする、なんてことはないんだよね?」
「それは大丈夫だ。ちゃんと話はつけたから。もうアリアを殺そうとはしないさ。……例え100万歩譲って兄さんが今もアリアを殺す気だとしても、今の兄さんは最低でも10日間は眠ったままだから、心配しなくていい」
「そっか」
「わかり、ました。キンジがそこまで言うのなら、そうなのでしょうしね」
キンジの発言を理解した白雪がおずおずと提示した、遠山金一がアリアを殺そうとする可能性をキンジはしっかりと否定する。そのキンジの力強い断言に白雪とアリアは安堵の息を漏らした。
「ま、そんなわけだから……これから俺はなんで兄さんがアリアを殺そうとしたかの事情をそれとなく探ってみようと思う。二人も危なくない程度でいいからイ・ウーの裏事情とか、探ってみてくれないか?」
「うん、わかった」
「わかりました。自分の命が狙われておいて理由がわからないと言うのも何だか気持ち悪いですしね」
それから。キンジからのお願いにアリアと白雪は二つ返事で快く了承する。かくして。キンジとカナがそれぞれの信条を胸に戦うこととなった7月7日の夜が過ぎゆくのだった。
キンジ→修羅アリアのおかげで、自身のドギマギとした感情を明後日方向に吹っ飛ばすことのできた熱血キャラ。アリア×カナの写真を得られなかった悲しみは山よりも高く海よりも深い模様。
アリア→『遠山金一男性説』を中々受け入れられずに苦労したメインヒロイン。面識がないために一定の警戒心を保ってはいるものの、遠山金一の存在を受け入れることにした。ちなみに、アリアが『時計部屋』について知っているのは同じSランク武偵として親交を深めておきたいとアリアが中空知と接触したため。
白雪→アリアが暴れまくる中で平然と眠っていられる怠惰少女。男子寮への引っ越しは既に完了している。ちなみに高級そうな一眼レフは理子からの借り物だったりする。また、機会こそ少なかったものの幼少期に金一とも一緒に遊んでいたりする。
理子「あれ? ボ、ボクの出番は?」
ふぁもにか「ちょっと話の展開上りこりんがいると都合が悪かったのでなかったことにしました」
理子「え、えええぇぇぇぇ……」
というわけで、96話終了です。これでひとまずカナさん関連の話は一区切りついた形となります。なので、次話からは原作に沿いつつパトラさん登場に向けてのフラグを積み上げていく流れとなります。しばらくは戦闘シーンがないからつまらないかもだけど……ま、ご了承くださいませ。
~おまけ(ちょっとしたネタ)~
アリア「なるほど、三つ全て楽しみたいと。ふふ、キンジは欲張りさんですね」
キンジ「いやいやいや、違うから! 銃殺も斬殺も時計部屋もノーセンキューだから! てか、時計部屋ってなに――ぎゃあああああああああああああああ!?」
⇨この辺にユッキー
白雪「(。-ω-)Zzz」
⇩この辺にりこりん
理子「(o_ _)ozzz」
結局誰も出かけてなかったりする。
二人仲良くおねんねですね、わかります。