【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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ふぁもにか「アリアさん、アリアさん。ちょっとアリアさんに話があるんだけど、いいかな?」
アリア「はい、何でしょうか?」
ふぁもにか「これからしばらく、お゛め゛ぇ゛の゛出゛番゛ね゛ぇ゛がら゛あ゛!」
アリア「ふぁッ!?」

 どうも、ふぁもにかです。ついにカナさん登場の時です。カナさんを待ちわびた方々、本当にお待たせしました。個人的にこのキンジくんとカナさんとの再会シーンは第四章の最大の見せ場だと思っているので全力で執筆したいと意気込んでいる今日この頃です。

カナ「あら、そうなの? ならパトラ戦はどうなるのかしら?」
ふぁもにか「……(←無言のままサッと目を逸らすふぁもにか)」
カナ「あっ…(察し)」



92.熱血キンジと再会の時

 

「ん?」

 

 荒ぶるジャンヌに殺されかけた一件から数時間が経過した、放課後のこと。一人帰路に就いていたキンジはふと自身の視界の端に見知った姿が映ったために立ち止まる。

 

「~~♪ ~~~♪」

 

 キンジが視線を向けた先。とある公園のベンチにて。理子が目を閉じて胸に当てた状態で歌を歌っていた。この公園、普段はカップル御用達スポットとしてラブラブカップルたちの巣窟と化している場所なのだが、今は偶然にも誰一人いない。人の気配がない中、一人歌う理子の姿は夕日の光を吸収&反射する金髪も相まってか、歌姫って言葉が似合うぐらいに神々しかった。

 

(これ、凄いな。理子って、こんなに歌が上手かったのか……)

 

 歌姫モードの理子の歌声に聞き惚れたキンジはその場に佇んだまま、決して理子に気配を悟られないように細心の注意を払いつつ、理子の歌を静聴する。そして、数分後。歌が一段落ついたらしい理子がスッと瞳を開けてハフゥと息を吐く。その時には既に先までの神々しさは欠片も感じられず、弱々しい雰囲気を身に纏ういつもの理子そのものとなっていた。

 

「理子」

「ッ!? ひゃわ!?」

 

 話しかけるなら今だろう。キンジはスタスタと理子の座るベンチへと近づくと理子に声をかける。対する理子はこのタイミングで誰かに話しかけられるとは露にも思ってなかったのか、目に見えてビクリと肩を震わせた。

 

「き、きききキンジくん!? え、あ、ちょっ、う、え、ええええっと! も、もしかして今の……き、聞いてた?」

「あぁ。理子って歌上手かったんだな。ビックリしたよ」

「ッ!? あ、あぁぁああああうううううううう――」

 

 キンジに自身の歌を聞かれていたことを知り、ボフンと頭から湯気を生み出すとともにあっという間に赤面し取り乱す理子。しばらくして。ひとしきり取り乱すだけ取り乱してようやく落ち着きを取り戻した理子は「この時間帯に人は通らないはずなのにぃ……」と涙目で呟いた。

 

「で、なんでこんな所で歌ってたんだ?」

「うぅ……」

「理子?」

「みゃう!? あ、うん。えーとね。ボ、ボク、たまにここで声出しの練習してるんだ」

「声出し?」

「そ、そう。変声術を極めるには日頃の努力の積み重ねが不可欠だからね」

 

 キンジに歌を歌っていた理由を伝えた理子は一旦言葉を区切ると、目を瞑ってすぅと深呼吸をする。そして。理子のいきなりの行動の意図がわからず首を傾げるキンジを前に、理子は己の練習の成果を実際に披露してみることにした。

 

『まぁ、頑張ればこれぐらいの実力はつけられるってこと』

「ッ!?」

 

 理子はキンジの声でエッヘンと胸を張る。一方、キンジは他人の口から普段から聞きなれている自分の声が飛び出してきたことに目を丸くした。

 

「おまッ、ここまで再現できるのかよ!? 凄いな、理子。ってか、もうこれ変声術じゃなくて声帯模写のレベルじゃないのか?」

『ふぇ? そう、かな? ボクなんてまだまだだと思うんだけど』

「いや、これ凄いって。凄いけど頼むから俺の声で『ボク』っていうのは止めてくれ。何か違和感が凄まじいからさ」

『う、うん。わかった』

 

 『ボク』という一人称を使う自分の声にゾゾッと悪寒のしたキンジはすかさず理子に『ボク』の使用を禁止した。本当なら自分の声で『ふぇ?』と反応したり『うん』と返事したりするのも止めてほしかったのだが、一度に色々と指図するのは友達のあり方としてどうかと思ったキンジは自身の要望を胸の内に留めることにした。

 

『けど、ちょうどよかったよ。キ、キンジくんだけに話したいことがあったからね』

「話したいこと?」

『キンジくんのお兄さん、金一さんの情報の件だよ』

「あー、あれか。それについてはあんまり期待してなかったんだがな」

 

 理子はどこか神妙な顔でキンジを見つめると、キンジの声のままでキンジの兄:遠山金一の話題を持ち出してくる。対するキンジはまるで自分自身と話してるみたいだなと現状を他人事のように感じつつ、言葉を返す。

 

 キンジとしてはブラドの一件以降、理子が一向に兄に関する話を切り出してこなかったので、てっきり十字架(ロザリオ)奪還作戦に協力した自分への報酬の件はうやむやにされたものとばかり思っていた。そのため。このタイミングで兄の話が飛び出してきたことに内心で驚いていたりする。

 

『キ、キンジくんはさ。今、金一さんの安否についてどう思ってる?』

「……正直、わからない」

 

 キンジは理子の問いにしばしの沈黙の後に返答する。理子がウソを吐いているとは到底思えないが、かといってあの義に生きる兄さんがイ・ウーにいるとも思えない。矛盾する二つの感情がせめぎ合っていてわけがわからないといった感じだろうか。

 

『明日、7月7日の午後6時。キンジくんがANA600便を不時着させた、空き地島。そこに行けば、金一さんに会えるよ』

「ッ!?」

『き、金一さんの方もキンジくんと接触したかったみたい。ボクが連絡したら二つ返事でOKしてくれたよ。よ、良かったね、キンジくん』

 

 理子の口から放たれた言葉にキンジは思わず目を見開き硬直する。純粋にキンジを思いやってか、柔らかい口調で言葉をかけて(※あくまでキンジの声のままでだが)笑みを浮かべる理子の姿がやけに印象的だった。

 

 

 その後。理子の右目に割と大きい虫がピタリと貼りついたせいで理子が「みぎゃああああ!?」とテンパり、その結果、理子を落ち着かせるのにキンジが非常に苦労したのはまた別の話。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 拝啓 敬愛なる兄さんへ

 

 お元気ですか、兄さん。突然ですが、俺は兄さんに謝らないといけないことがあります。どうやら兄さんは本当に生きているみたいですね。理子を介して兄さんとの再会の場がセッティングされた今でも未だに信じられません。兄さんが死んで、天国でのどかに過ごしているものと今まで散々思い込んでしまっていて本当にすみませんでした。

 

 どうしてアンベリール号沈没事故を利用して行方を眩ませたのか。

 どうして今まで一度も俺に接触してくれなかったのか。

 理子の言っていたことはどこまで本当なのか。

 本当にイ・ウーの一員になってしまっているのか。

 

 聞きたいことはたくさんあります。積もる話もたくさんあります。

 ですが、今は何よりも兄さんを直接この目で見たい気持ちでいっぱいです。

 兄さん、待っていてください。すぐに行きますから。

 

 

 ――イマ、アイニユキマス。

 

 

 ◇◇◇

 

 

(ここに、いるんだよな?)

 

 翌日。7月7日。約束の時間の約15分前。夕日が周囲をオレンジ一色に染めていく中、キンジは空き地島へと足を運んでいた。清潔感を保とうと事前に入浴を済ませ、普段は使わないワックスを使って髪を整え終えている今のキンジは第三者の視点からはいつも以上にイケメンに見えていることだろう。ちなみに。燕尾服を着るかいつもの防弾制服を着るかでギリギリまで迷っていたのはキンジだけの秘密である。

 

「……」

 

 理子はここに兄さんがいると言った。だけど、やっぱりいないかもしれない。期待と不安がグチャグチャに混ざり合う中、キンジは兄の姿を求めて周囲に視線をさまよわせる。その視線が、前にANA600便を思いっきりぶつけてしまったせいで今やすっかり動かなくなった風力発電機のプロペラ部分で止まった。

 

 キンジの視線。その先に三つ編みにされた綺麗な茶髪にエメラルドグリーンの瞳をした傾国の美女がプロペラ部分に腰を下ろして、足をブラブラとさせていた。比喩じゃない。過大評価でもない。本当に、やろうと思えばその美貌で国一つ平然と傾けられるだけの容姿を持った人物が、カナ姉がプロペラ部分に座っていた。

 

「……ぁ」

 

 アリアにユッキー、理子も確かに可愛いが、カナ姉とはやはり次元が違う。カナ姉の前では全ての自然現象はカナ姉を美しさを際立たせるための脇役でしかなくなる。時折カナ姉の髪を優しく撫でる風も、カナ姉の後ろから差し込む夕日の温かな光も、あくまでカナ姉の引き立て役にしかなれない。そんな、まるで巨匠が渾身をもって描いた絵画から飛び出して来たかのような、とても人間とは思えないほどに整った造形を持ったカナ姉が今、俺の目線の先にいる。

 

 兄さんはヒステリアモードを意図的に発現させるために絶世の美女:カナに化けるという方法を採用している。つまり。俺の目が捉えているカナ姉は自分が男であるという認識こそなくなっているものの、兄さんこと遠山金一に違いないということだ。

 

(間違いない。兄さんだ。本物の兄さんだ。兄さんは生きてたんだ!)

「カナ姉!」

 

 キンジは喜色に満ち満ちた声を上げるとともに不時着させたANA600便の傾いた翼をあたかも坂道を上るかのように駆け上がり、一切のためらいもなしに翼端から風力発電機のプロペラに飛び移る。そして。改めて近くからカナの横顔を見た瞬間、ふとキンジの脳裏に疑念が差し込んだ。

 

 

 これは、はたして現実なのか? 今俺の目の前にカナ姉がいるという現実は、本物なのか? 俺が兄さんに会いたいと思ったせいで生まれた、都合のいい夢じゃないのか?

 

 頬をパシッと両手で挟み込むようにして叩いてみると、確かに痛い。でも、夢だからといって痛覚がないとは限らない。痛覚を感じる夢だって普通にある。

 

 兄さんが生きていることを素直に受け止めていいのか?

 これが夢じゃない保障がどこにある?

 

 兄さんが生きていることが現実だと思いたくて。だけど今兄さんと会っているという現状が夢じゃないことを証明する手段がわからなくて。頭がグルグル回っているような気がして。まるで高熱を出してしまった時のように全く考えが纏まらなくて。前後左右の感覚も、今の自分の体勢すらわからなくなってきて。

 

 

「――大丈夫」

 

 混乱の海に沈みかけた俺の頬に、ふとひんやりとした感触が沁みた。

 

「え?」

「信じられない気持ちはわかるけど、大丈夫」

 

 顔を上げると、カナ姉が俺の頬に手を当てていた。

 

「私は、ここにいるわ」

 

 全てを包みこむような瞳を向けていた。

 

「安心して、キンジ」

 

 うっすらと微笑みを浮かべて俺を見つめていた。

 

 

 カナ姉の一言一言が俺の鼓膜を震わせていく。

 カナ姉の所作が、瞳が、表情が、透き通った声が、俺の心に巣食う疑念を取り除いていく。

 

 

「カ、ナ……姉ッ!」

 

 いつの間に距離を詰められたのかはわからない。でも、そんなことどうだっていい。俺は今兄さんと会っている。そして、その都合のいい今は、間違いなく本物だ。夢なんかじゃない!

 

 兄と再会している現状を紛れもない現実だと心から認識できた瞬間、キンジの目から堰を切ったように歓喜の涙がボロボロとあふれ出した。

 

 

 まさか、またこうして、現世で会えるとは思わなかった。

 兄さんは元気で。ちゃんと五体満足で。何一つ欠けていない、ありのままの姿で。今、俺の目の前にいる。

 良かった。生きてて良かった。また会えて良かった。

 

 

「カナ、姉ッ! カナ姉!!」

 

 感極まったキンジは眼前のカナをギュッと抱きしめてボロボロと涙を零す。高2にもなって恥ずかしいとかいった感情は全く思い浮かばず、キンジはただただ幼子のように泣きじゃくる。一方のカナは「ごめんね、キンジ」との謝罪の言葉をかけつつキンジの背に両手を回すのだった。

 

 

 

 この時。キンジは気づかなかった。

 自分が現在進行形で抱きしめているカナの瞳がわずかながら陰りを見せていることに。

 カナの放った「ごめんね」という言葉に二重の意味が込められていることに。

 

 

 




キンジ→もう会えないと思っていた兄さんと会えたことで号泣しちゃった熱血キャラ。ブラコンフィルターが掛かっているため、カナの容姿への評価がとんでもないことになっている。身だしなみの整え具合からも兄さんとの再会を前に気合いが入りまくっていたことが読みとれる。ついでに原作と違い、カナ姉と呼んでいる。
理子→歌姫なビビり少女。誰もいない公園にて、たまに歌姫りこりんが降臨する模様。機械音声をも機材なしで真似できちゃう以上、キンジの声を真似るのは理子的には楽勝だったりする。なお、歌姫りこりんのイメージはゼルダの伝説のネールです。知っている人は知っている。
カナ→ただいま真面目モードなブラコンさん。アホの子モードは次回にお預け。原作と違い、キンジのことを弟と認識している。

 というわけで、92話終了です。キンちゃんマジ泣き回でした。男の号泣シーンなんて誰得だと思う人もいるかもですが、まぁ折角の兄弟の再会ってことで大目に見てやってください。……うん、そうなんですよね。これ兄弟の再会なんですよね。姉弟の再会シーンとして見ないとホモォ┌(┌ ^o^)┐としか思えない私は、きっと心がもうどうしようもないほどに穢れてしまってるのでしょうね。……嗚呼、純粋だったあの頃に戻りたいですぜぃ。


 ~おまけ(ネタ:一方その頃)~

アリア「もっもまーん♪ もっもま~ん♪」
??「陣形(フォーメーション)、玄武」
アリア「ッ!?」

 松本屋のももまんギフトセット20個入りを3セット購入し、上機嫌で寮へと帰ろうとしたアリア。しかし。アリアが歩道橋を渡る最中、一人の人物の合図を契機に突如アリアの前後に現れた大量のキザっぽい外見の人たちがザッと横一列に並びアリアに背を向けつつ隣同士で肩を組んだ。

アリア(これは、私の退路を塞いだつもりでしょうか。何て斬新な方法……)

 と、その時。あたかもモーセが手を上げて海を割ったかのように人の波が二つに割れ、断たれていた退路に道ができる。その道を悠々と歩いて登場してきたのは、黒髪の男。

??「初めまして、お嬢さん。私は滝本発展屋の経営理事が一人、桔梗と申します」
アリア「滝本発展屋? ……あぁ、最近新しく事業を始めた、あの――」
桔梗「はい。その滝本発展屋です」
アリア「で、その滝本発展屋の経営理事さんが私に何の用ですか?」
桔梗「そうですね。簡潔に申し上げますと……貴女が邪魔なんですよ」
アリア「……」
桔梗「困るんですよねぇ。貴女みたいな、松本屋に莫大なお金を惜しみなく投入するような人がいると。貴女のような存在がいる限り、松本屋を潰すのは至難の業。貴女は我々滝本発展屋にとって目の上のたんこぶなのですよ」
アリア「……」
桔梗「ですので、どうです? 折角ですし、これからは松本屋依存はやめて、我々の商品に乗り換えませんか? 貴女の気に入りそうなもも製品もたくさんあります。今なら特別に3割引にいたしますよ?」
アリア「お断りします」
桔梗「……お嬢さん、この状況わかってますか? 貴女は今、逃げ道を塞がれている。我々はいつでも実力行使に踏み切ることができるんですよ?」
アリア「二度は言いませんよ、滝本発展屋の回し者さん。正々堂々松本屋と競争しようとせず、姑息な手段を用いて松本屋を没落させようとする貴方の店の商品を買う気など欠片もありません。もっと商売に対する気持ちを入れ替えてから出直してきてください」
桔梗「……そうですか、残念です。貴女みたいな美幼女を傷物にしないといけなくなるとは。現実とはかくも残酷なものなのですね」
アリア「そうして余裕ぶっていられるのも今の内です。貴方は数の暴力を過信しているようですけど……武偵高の生徒を舐めているとどんな目に遭うか、その体に教え込んであげましょう」

 何か別の物語が始まろうとしていた。

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