【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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??「もう、ゴールしてもいいよね……?」

 どうも、ふぁもにかです。今回は83話戦闘シーンの文字数が膨れ上がったせいで加えることのできなかったシーンを投稿していますので、舞台は未だに横浜ランドマークタワーです。まだ第三章エピローグには早いということですね、わかります。あと、今回は主人公不在回じゃないですけどほとんど空気、ということでサブタイトルから『熱血キンジ』の文字を消しておりますので、あしからず。……アリアさんじゃなくてキンジくんが空気って何か珍しいですね。

 ところで、前回の某虚刀流のセリフ然り、今回も別作品からパロッた台詞が本編に紛れ込んでおりますが、読者の皆さん的にこういうのってどうなんでしょうか? ……って、今更ですかね。タグにもパロディってちゃんと書いてありますし。



84.冷静アリアと意趣返し

 

 横浜ランドマークタワー上空にて。

 

『がぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!』

 

 魔臓を四か所全て撃ち抜かれた痛みに耐えきれず、絶叫しながら降下していくブラド。一方のアリアは素早く白黒ガバメントをしまって宙でクルリと前転するとブラドの体に足から着地する。そして。左足一本でブラドの体を力強く踏みつけるとともにすぐさま上へと跳んだアリアは両手を天へと伸ばす。

 

 とはいえ、現状においてアリアのいる位置と横浜ランドマークタワー屋上との間には10数メートルもの高さの壁が立ちはだかっているため、アリアの手はどう足掻いても屋上まで届くことはない。しかし。それでもアリアは上へと両腕を伸ばす。理由は簡単、アリアが手を伸ばした先に現在絶体絶命中のアリアを救ってくれる救世主の姿があるからだ。

 

「峰さん!」

『オリュメスさん!』

 

 ブラドを仕留めるために飛び降りたアリアに数秒遅れて屋上から勢いよく飛び出した理子はアリアに飛びついてその小さい体をギュッと力強く抱きしめる。

 

「峰さん、やりましたよ」

「……うん」

「ブラドを倒しましたよ、これで貴女は自由です」

「……りが……」

「? 何ですか、峰さん?」

「……ありがと、オリュメスさん。こんなボクを助けてくれて」

「あ、あくまで峰さんを助けたのはブラドを倒すついでです。勘違いしないでもらえますか?」

「それでも、ありがとう」

「……どういたしまして」

 

 アリアと理子は互いが互いを抱きしめたまま、唇が触れてしまいそうなほどに至近距離で微笑ましい会話を展開する。直球で感謝の言葉を述べる理子に顔を赤らめて理子から目を逸らすアリア。二人が遥か上空からの落下中でなければ仲良しこよしな小学生女子同士の会話として第三者目線からも感じられたことだろう。

 

「ところで、峰さん。そろそろパラシュートを開いてくれませんか?」

「……」

「峰さん?」

「きゅううぅぅぅ――」

「峰さん!?」

 

 と、ここで。未だに改造制服を解き放ってパラシュートを開かない理子の意図がわからずクエスチョンマークを浮かべたアリアは改めて理子の顔を正面から見据える。すると。そこには体をブルブルと震わせて目を回す理子がいた。

 

「ちょっ、峰さん!? しっかりしてください! なに気絶しようとしてるんですか!?」

「だ、だだだだだだだだだって! ボボボボボク、いいいいいい今! そそそそそそ空から落ちてぇぇぇええええええええええええ!!」

「怖がってないでさっさとパラシュート開いてください! というか、さっきまでの落ち着きっぷりはどうしたんですか!?」

「そ、そそそそそんなの、ボボボボボボクだってししししし知らないよ! さささささささっきまでは無我夢中だったし! 急にこここここ怖くなっちゃったんだから、しししししし仕方ないじゃん! それにボク、ここここここ高所恐怖症だし――」

「ハァ!?」

 

 アリアは理子が明かしたまさかの事実に目を丸くする。当然だろう。理子の発言はすなわち、世紀の大怪盗たるアルセーヌ・リュパンの代名詞とも言える『高所からの飛び降り逃走』を自分はすることができないと明言したようなものなのだから。

 

「ちょっ、リュパンの血を継いでる人間がなに言ってるんですか!? 冗談言ってる場合じゃないってわかってますか!? このままじゃあ私たち二人とも落ちて死んじゃいますよ!」

「冗談じゃ、なななななないもんッ!」

「じゃあ聞きますけど――あの時、飛行機から飛び降りて逃げたのはどう説明つけるつもりですか!? あの高さが大丈夫なくせに今回はダメだなんて言わせませんよ!」

「あああああああの時、ボク飛行機から飛び降りてないもん!」

「えッ?」

「とととととと飛び降りようとしたけど怖くなったから結局飛行機の中にいたもん!」

「ええええええええええええ!?」

 

 アリアは理子が明かしたまさかの事実その2――理子がANA600便の中で自分たちと運命を共にしていたこと――に驚愕の声を上げる。と、そうこうしている内にも地面との距離はグングン縮まっていく。理子がパラシュートを開かない限り、二人の死はまず回避不可能だ。

 

「ううぅぅぅああああああああぃいぃいいいいいいいいいい!!」

「峰さん、早くパラシュート開いてください! 私こんな所で死ぬなんてゴメンですよぉぉおおおおおお!!」

「あッ……」

「峰さん!? どうしましたか!?」

「もう、ゴールしてもいいよね……?」

「峰さぁん!? なに悟ったような顔しちゃってるんですか!? ホントお願いですからパラシュート開いてくださいぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 ハイライトの消えた瞳で「あははぁ~」と力なく笑う理子はアリアの絶叫に近い音量での頼みを平然と右から左へと受け流す。結果、アリアの悲痛に満ちた声は夜の闇に消えていく。ちなみに。何だかんだで理子がパラシュートを開き、二人がどうにか事なきを得たのは数秒後のことだった。

 

 また。この出来事を契機にアリアはこれまで大丈夫だったはずのジェットコースターやらフリーフォールやらにやたらと恐怖を抱くことになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 一方その頃。

 

「……ふぅ。あの様子だと大丈夫そうだな」

 

 一人屋上に残されたキンジは上からアリアと理子の様子を眺めていた。キンジの目には甲高い悲鳴を上げつつもどうにかパラシュートを開いたらしい二人の姿がわずかに映っている。

 

 アリアと理子。守るべき二人の女の子の安全を確認したキンジは「ハァ」と盛大に安堵のため息を吐く。その時。ブラドに勝ったという事実を受けてほんの少し気を緩めたせいか、キンジの視界がグラリと大幅に揺れた。

 

「今回ばかりはさすがに疲れた、な……」

 

 キンジはうっかり屋上から落ちてしまわないようにふらつく足取りで移動する。と、そこまでで限界だったのか、キンジは足がもつれる形で顔から転ぶ。そして。キンジの意識はそこでプツリと途切れたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 数分後。

 

「死ぬかと思いました。今回ばかりは本気で死ぬかと思いました……」

「あう、え、えーと、その、あの……ご、ごごごめんね? オリュメスさん」

「あー、もういいですよ、峰さん。悪気がないのはわかってますし」

(むしろ悪気がないからこそ余計に性質が悪いんですけどね)

 

 無事に地面に着地した後。深々とため息を吐いてその場に座り込むアリアに涙目の理子がオドオドと挙動不審極まりない動きとともに謝ってくる。今回の恐怖体験の元凶たる理子に思う所が大いにあるアリアであったが、罪悪感を感じまくっているであろう今の理子の心を不用意に傷つけるべきではないと自身の本音をグッと飲み込むと、ピョンと片足で器用に立ち上がってけんけん状態である方向へと進んでいく。

 

 10秒ほどピョンピョンと移動した所でアリアはけんけんを止めて下を見下ろす。その視線の先に、大の字で地に倒れるブラドの姿があった。弱点の魔臓を撃ち抜かれ、無限再生能力を失った状態で高度約300メートル地点から突き落とされたというのに、即死どころかまだ気絶せずに意識を保っている辺り、さすがは人外の吸血鬼といった所か。尤も、今のブラドには指一本動かす力さえ残っていないようだが。

 

「ざまぁないですね、ブラド」

『神崎・H・アリア……』

「今回の私たちの勝利程度で貴方の凝り固まった考え方が変わることなんてないでしょうが、それでも勝った方が正義です。なので、とりあえず撤回してください。今まで散々峰さんを侮辱したこと、峰さんに謝ってください」

「え、オリュメスさん……?」

 

 アリアは息も絶え絶えといった風なブラドを侮蔑の眼差しで見下ろすとともに理子への侮辱発言の撤回を求める。ブラドはアリアの思い通りの展開にならないよう『だ、れが……』と拒否するも「まぁ、別に撤回しなくてもいいんですけどね。ただその場合、貴方が無能の峰理子リュパン四世より下等の、救いようのない何者かになるだけですし」という、続けて放たれたアリアの言葉につい『うッ』と苦悶の声を漏らした。

 

「んー、そうですね。もしも峰さんに対する侮辱の数々を撤回するというのなら、今回は特別に貴方を逮捕せずに逃がしてあげてもいいですよ?」

「オリュメスさん!?」

『何の、つもり……?』

「そんなの貴方には関係ないでしょう? さぁ、素直に峰さんのことを認めて自由を手に入れますか? それとも峰さん以下のカスと認めたままで牢獄ルートを選びますか? 私的にはどちらも面白そうなのでアリですよ?」

 

 理子が信じられないものを見るような目つきでアリアを凝視する中、アリアはブラドに二つの選択肢を突きつける。しかし。下等な人間によって自由を奪われたくないブラドにとって選択肢は一つしかないも同然だった。

 

『……わかったわ』

「それじゃあ早速言ってみましょうか」

『四世。ごめ…………。貴女は…………でも……作でも……………でもな…わ。リュ…ン………継ぐ…………しい…間よ』

「あ、すみません。全然聞こえなかったのでもう一回お願いします。今度はもっと大きな声で。あともっと誠心誠意、心を込めてお願いします」

『神崎・H・アリアァ……!』

 

 ブラドは下等な人間の言うことに従うなと叫んで止まない己のプライドを無理やり押さえつけて小さい声で理子への侮辱発言を撤回するも、アリアはブラドの言葉を軽く一蹴して復唱を求めてくる。アリアの反応にブチ切れたブラドだったが、「口答えですか? そんなに檻の中の生活に心寄せてるんですね。ちょっと意外です」と言外に脅しをかけられたことにより、ブラドは再び先と同じことを口にすることとなった。

 

『峰理子リュパン四世! ごめんなさい! 貴女は! 無能でも失敗作でも繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)でもないわ! リュパンの血を継ぐに相応しい人間よ! ハァ、ハァ……これで満足でしょ?』

「はい。これですっきりしました。録音もできましたしね」

『なッ!?』

 

 アリアはニッコリ笑顔で懐から携帯端末を取り出してブラドに見せつける。そして。まさか録音されているとは露にも思っていなかったブラドに向けて、アリアは「ま、どっちにしろ貴方は捕まえるんですけどね」とサラッと一言呟いた。

 

『ま、待ちなさい! 話しが違うッ……』

「話? 何のことですか? あんなの、ただの口約束でしょう? 契約書も誓約書もないただの口約束にこの私がなんで従わないといけないのですか?」

 

 アリアはニタァと意地の悪い笑顔でブラドを鼻で笑う。その言葉は前にブラドが理子に絶望を突きつけるために言い放った言葉そのままだった。

 

『貴女、いつか覚えてなさい……!』

「そう言われましても、ホームズの卓逸した推理力を受け継いでいない私に記憶力なんて期待しない方がいいと思いますよ? それとも、今日の貴方の屈辱的な姿を未来永劫私の記憶の中に留めてほしいというのならやぶさかでもありませんが」

『くぅッ……』

「さて。神奈川県警の方々も今までの騒ぎを聞きつけてやって来たみたいですし、これにて一件落着……ですね」

 

 アリアは遠目に神奈川県警のヘリやパトカーが向かってくるのを確認するとホッと安堵の息を零してその場にペタンと座り込む。

 

「……オ、オリュメスさん!? 大丈夫!?」

「……峰さん、後のことは頼んでいいですか?」

「へ?」

「今回はブラドに手酷くやられてしまいましたからね。もう意識を保ってるのもやっとなんです。なので、後のことは、お願い、します……」

 

 アリアは自身のことを心配してくれる理子に後のことを全て託す旨を伝えると、そのまま糸の切れた操り人形のようにその場に倒れる。そして。「オリュメスさん!?」と自身の体を揺さぶってくる理子に構わずにアリアはわずかに保っていた意識をあっさりと手放した。

 

 かくして。イ・ウーナンバー2たるブラドとの戦いは峰理子リュパン四世という一人の怪我人と、遠山キンジ&神崎・H・アリアという二人の重傷者を生む形で終結したのだった。

 




キンジ→今回、出番がほとんどなかった熱血キャラ。主人公補正がなかったらあのまま死んじゃってると思うの。
アリア→巧みな話術でブラドを弄ぶメインヒロイン。今回の一件で軽度の高所恐怖症を発症した。
理子→意図せずアリアにトラウマを植え付けた、高所恐怖症のビビり少女。ANA600便から飛び降りてない云々の話は20話に詳しく載ってるよ!
ブラド→アリアの手の平で弄ばれるメイドさん。彼の着ていたメイド服は局部を覆う部分を残してほとんど消失している。

 というわけで、84話終了です。今回はアリアさん無双でしたね。話術オンリーでしたけど。アリアさんのキャラが何か変わってる気がするかと思われますが、そこは今回の戦闘でブラドに顔を床に叩きつけられたり右足を折られたりしたことへの仕返しがしたかったってことで納得してくださいませ。

 さて。それではアリアさんのアリアさんによるアリアさんのための意趣返しタイムも終了したことですし、次回からは第三章エピローグですね。……しばらくシリアス続きだったから上手くネタを入れられるかどうかすっごく不安だなぁ(←棒読み)


 ~おまけ(ネタ:もしも横浜ランドマークタワー周辺で作業中の人がいたら)~

??「あうッ!?」
親方「どうした、リサ!?」
リサ「親方様! 空から十字架(ロザリオ)が落ちてきました!」
親方「なにぃ!? 後で換金するからちゃんと拾っとけ!」
リサ「はい! わかりました!」

 ――しばらくして。

リサ「お、おおおお親方様ぁ!」
親方「今度は何だ、リサ!?」
リサ「そ、空から血まみれのメイド服を着た化け物が降ってきました!」
親方「なにぃ!? 後で研究所に引き渡して報酬もらうから拘束しとけ!」
リサ「はい! わかりました!」

 ――しばらくして。

リサ「お、おおおおおおおおおお親方様ぁ!」
親方「一体今度は何なんだ、リサ!?」
リサ「そ、空から女の子が二人抱き合った状態で降ってきました!」
親方「なにぃ!? 後で警察に引き渡して身柄の安全を確保してもらうから110番通報しとけ!」
リサ「はい! わかりました!」

 リサちゃん、ゲスト出演の巻。

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