【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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キンジ「血が、血が足りねぇ……」
アリア「足が凄く痛いです……」
理子「うぅ、いっぱい内出血しちゃってるよぉ……」

 どうも、ふぁもにかです。長々と続いちゃってるブラド戦ですが、そろそろ佳境に入ります。死にかけのキンジくん(ヒステリア・アゴニザンテ発動中)と全身ズタボロのアリアさん(右足骨折中)と打撲傷だらけのりこりんの三人に果たして勝機はあるのか!? ……って、文字で纏めてみると素晴らしく絶望的ですね、これ。何て無理ゲーなんだ!

 あと、今回はちょっと新しい手法を取り入れて執筆しています。なので、もしも賛否等ありましたらドシドシ意見くださいませ。



83.熱血キンジと空前の逆転劇

 

 理子がスイッチ一つで横浜ランドマークタワーの床を次々と破壊したことにより、まるで奈落の底に落ちていくかのようにブラドは落下していった。

 

 そのため。今横浜ランドマークタワーの屋上にいるのは、屋上にぽっかりと空いた穴の淵から落ちゆくブラドの様子を見つめるキンジと、ブラドがボッシュートされるというまさかの展開に思考停止するアリア、ペタンと床に座り込んだままの理子の三人だけである。

 

(――って、そうだ!)

「理子? どうしてここに?」

 

 キンジの見下ろすブラドの姿がやがて点になり、見えなくなった後。ようやくハッと我に返り再起動を果たしたキンジは理子の方に歩み寄り、優しい口調で問いかける。キンジの問いで同じく我に返った理子はしばしの逡巡の後、「よ、よく、わからないんだ」と困惑に満ちた声を放った。

 

「よくわからないけど、逃げてちゃダメだって思ったんだ。このまま他人任せにしてちゃダメだって思ったんだ」

「……峰さん」

「そ、そそそれに、こんなボクでも何か二人の役に立てると思って。それで戻ってきたんだけど……や、やっぱり足手纏いだった、かな?」

「そんなことないさ。理子がいなかったら俺もアリアも危なかった。理子は俺たちの命の恩人だ。ありがとう」

「と、遠山くん……」

 

 キンジはニッと慈愛に満ちた微笑みを理子に向けると、ポンポンと頭を軽く叩く。優しく頭を撫でるキンジにされるがままの理子。と、そこで。何を思ってか、理子はキリッと真剣な面差しを浮かべてキンジを見上げると「頼みがあるんだけど、いいかな?」と話を切り出した。

 

 と、ここで。ケンケンでようやくキンジと理子の所まで到着したアリアが「……手短にお願いします」と言葉を返す。理子のおかげで時間は十分に稼げているものの、それでもいつブラドが這い上がってくるかわかったものではない。そのことを踏まえた上でのアリアの発言である。

 

「ブラドを倒して、下剋上がしたいんだ」

「「……」」

「ブラドは強い。強すぎる。だから勝てるわけがないって、ずっとそう思ってた。でも、遠山くんとオリュメスさんの力があればブラドを倒せる。三人で力を合わせて戦えばブラドを倒せる。そんな気がするんだ」

「「……」」

「ほんの気の迷いかもしれない。小夜鳴先生に頭いっぱい蹴られちゃったから、頭がおかしくなってるのかもしれない。でも、やっとブラドを倒せるかもしれないって思えたんだ。――だから。この希望は、失いたくない」

「「……」」

「……ごめん。こんなこと、ボロボロの二人に言うことじゃないのはわかってる。でも、今を逃したらもうダメな気がして、二度とブラドに立ち向かえなくなる気がして……お願い。遠山くん、オリュメスさん。ブラドを倒すの、協力してくれないかな?」

 

 キンジとアリアが無言を貫く中。理子は真剣な瞳でキンジとアリアを見上げて頼み込む。カタカタと体を小刻みに震わせながら、それでもブラドに立ち向かう意思を見せる。湧き上がる恐怖を押し殺して言葉を紡ぐ理子の姿はさながら歴戦の戦士のようだった。

 

「……そんなの、頼まれるまでもありませんね」

「あぁ。一緒にブラドを倒すぞ、理子」

 

 キンジとアリアは互いにアイコンタクトを取ると理子に笑いかける。自身の頼みを了承してくれた二人を前に理子はパァァとその表情を綻ばせ、「うん!」と大きくうなずいた。

 

「さて、アリア。あとどれくらい戦える?」

「そうですね。もって1分といった所でしょうか。あと、足を折られてるので機動力への期待はしないでください」

「理子は?」

「ボ、ボクは大丈夫だよ! 体中痛いけど、戦えないことはない……と思う」

「……となると、俺も少し血を流し過ぎてるし、もう持久戦はできないな。ブラドに勝つには短期決戦に持ち込むしかない」

「ブラドの精神を折るのは諦める、ということですか?」

「あぁ。そもそも俺たちがブラドの攻撃を喰らった時点でもうブラドの心を折るのは厳しいからな。だったらここはブラドの四つの魔臓を撃ち抜く方針に切り替えるべきだ。あとはそれでブラドを倒せると信じるしかない」

「まぁ、そうなりますね」

 

 キンジはアリアと理子の体調、そして自身の体調を鑑みた上で現状において最適と思われる判断を下す。アリアも理子もキンジの方針に神妙にうなずく辺り、異論はないようだ。

 

「で、だ。この方針でいくならブラドの四つ目の魔臓の位置をどうにかして知る必要があるんだけど……どこにあるんだろうなぁ」

 

 未だブラドの四つ目の魔臓の位置を特定できていないという現実を前にキンジが虚空を見上げて陰鬱なため息を吐いていると、突然アリアが「ふッふッふッ」と得意げに肩を揺らした。

 

「アリア?」

「大丈夫ですよ、キンジ。ブラドの四つ目の魔臓は舌にあります。この目でちゃんと確認しましたから間違いありません」

「ッ!?」

「えッ!? ホントなの、オリュメスさん!?」

「この状況でウソを吐くほど私は空気の読めない人間ではありませんよ。先ほど至近距離でブラドのあのバカでかい咆哮……ワラキアの魔笛でしたっけ? とにかくそれを喰らう直前に見つけました。無駄に大口開けていましたのでバッチリ見えましたよ」

 

 アリアは得意げな雰囲気のまま腕を組むとニッコリ笑顔でブラドの最後の魔臓の位置を伝えてくる。どうやらアリアはブラドのすぐ近くでワラキアの魔笛を喰らってしまった時にブラドの舌に描かれた目玉模様を確認していたらしい。

 

(よし、これならいけるぞ――)

 

 アリアの思わぬファインプレーのおかげでブラドの四つ目の魔臓を探すという困難極まりない行為をする必要がなくなったことにキンジはニィと笑みを浮かべる。

 

「よくやった、アリア。――それじゃあ、作戦を決めるぞ」

 

 そして。キンジはヒステリアモードの恩恵により30倍にまで向上した思考能力からブラドを確実に倒すための案をいくつか用意した後、キリッとした瞳をアリアと理子に向ける。かくして。ブラドとの最終ラウンドのための作戦会議が開催されたのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 それから。しばらくして。

 

 横浜ランドマークタワー屋上にドス、ドスと地響きが鳴り響く。どうやらブラドはようやく屋上までたどり着いたらしい。少しばかり時間がかかったことを踏まえると、おそらくブラドは階段を使ってここまでやって来たのだろう。

 

(ま、エレベーターに入りきる大きさじゃないしな、あれ。下手したら重さ制限でも引っかかりそうなぐらいだし……)

 

 存分に屋上を上下に揺らす地響きとともに歩みを進めるブラドの姿を遠目に確認したキンジは階段をひたすら駆け上がるブラドの姿を想像して、何とも言えない気持ちに襲われたためについ眉を寄せた。ちなみに、キンジの生命線たるヒステリア・アゴニザンテは今も継続中である。

 

「よぉ。随分と遅かったじゃないか、ブラド」

『リュパン四世を出しなさい、遠山キンジ』

 

 すっかりボロキレと化したメイド服を纏ったブラドにキンジが好戦的な笑みとともに言葉を投げかけるも、ブラドはキンジの発言が終わるよりも先に理子を出せと要求してくる。自身の支配下に置き、散々見下していた理子にボッシュートされたことがよっぽど我慢ならないのだろう。

 

「悪いがそれは無理な相談だ。アリアと理子には無理言って逃げてもらったからな」

『ふッッッッざけんじゃないわよ! 私はリュパン四世を出せっつってんのよ! 聞こえなかったのかしら、遠山キンジィィィィイイイイイイイイイイイ!』

「だから吠えたっていないもんはいないんだからしょうがないだろ。そんなことも理解できないほどお前の頭は残念仕様なのか、ブラド?」

『~~~ッ!』

 

 ブラドの怒り狂った声に全く動じずに挑発するキンジにブラドはレーザービームのごとき鋭い眼光でキンジを凝視する。と、ここで何を思ったのか、人一人余裕で殺せそうなほどに凶悪な視線を送っていたブラドが不意に怒りを沈めてニタリと愉悦に満ちた笑みを見せた。

 

『ふふふ、ヒステリアモードも難儀なものね。何よりも女性を優先しちゃうからどうしても自分が後回しになってしまう。だから今も私に勝てないとわかっていながら、こうして私に立ち向かうことを強制される』

「勝手に俺を自殺志願者扱いするなよな。お前なんて、俺一人で十分だ」

『減らず口を。私にそれだけボロボロにされておいてよく言うわね』

「ま、それについては否定しないでおくよ」

『……まぁいいわ。リュパン四世は後で捕まえればいい。今は貴方でこのやり場のない気持ちを存分に発散させてもらうわよ、遠山キンジ』

「やってみろよ、吸血鬼。ただしその頃にはあんたは八つ裂きになっているだろうけどな」

 

 キンジとブラドはその場に立ち止まったまま互いにバチバチと視線をぶつけ合う。そして。硬直状態に耐え切れなくなったブラドが力強い踏み込みとともにキンジに殴りかかったことでブラド戦の最終ラウンドが幕を上げた。

 

 キンジは再び流水制空圏でブラドの拳を紙一重でかわしてブラドの懐に入り込むと、どこからか取り出した大型スタンガンもといテーザー銃から電極を射出する。そして。電極がブラドの腹部に突き刺さったタイミングでブラドに惜しみない電撃をプレゼントした。

 

『ぎゃあああああああああああああ!?』

(へぇ。凄いな、このスタンガン。吸血鬼にも利くんだな)

 

 突如全身を襲う強力な電撃にブラドが悲鳴を上げる一方、キンジは意外そうに目を細める。どうやらキンジはブラドに大型スタンガンは効果がないことを前提に行動していたようだ。

 

 

 ――ん?

 ――? どうかしたの、遠山くん?

 ――いや、あそこに何か落ちてるなって思ってさ。って、これってまさか……!?

 ――小夜鳴先生が峰さん相手に使っていたテーザー銃のようですね。

 ――そういやポイ捨てしてたもんな、あいつ。

 ――今までの戦いによく巻き込まれませんでしたね、それ。

 ――折角だし、ありがたく使わせてもらおうぜ。手数は一つでも多い方がいいからな。

 

 

(今がチャンス!)

「いっけええええええええええええええ!!」

 

 今のブラドは悲鳴を上げている。つまり、口を開けている。早速舞い降りてきた千載一遇の好機を逃すまいとキンジは懐から銃を取り出すと計四回、立て続けに発砲する。発砲の際の反動を巧みに利用した四連続の発砲により、四発の銃弾は右肩、左肩、右脇腹、舌と魔臓のある位置にそれぞれ放たれていく。

 

 しかし。右肩、左肩、右脇腹を撃ち抜いたまではよかったが、四つ目の魔臓の存在する舌に銃弾が命中する直前にスタンガンの痺れから回復したブラドが即座に開けていた口を閉じ、銃弾を歯で噛んで止めたために、舌にある魔臓の破壊はあえなく失敗に終わった。

 

「なッ!?」

 

 四つ目の魔臓の破壊に失敗したキンジは驚愕の声を上げるも、すぐに我に返ってひとまずブラドと距離を取る。その時、体中に鈍痛がほとばしると同時にキンジはゴフッと血の塊を吐いた。これまで命をとことんすり減らして戦ってきたツケが今になって回ってきてしまったのだ。

 

 先のチャンスをモノにできなかったという事実。そして、ヒステリアモードの力をもってしても立っているのがやっとという自身のコンディション。キンジはあまりに絶望的な状況に蒼白の表情を浮かべる。

 

 一方。ブラドは『きゃっははははははははははッ!』と恍惚の高笑いをあげる。キンジの表情からキンジが万策尽きてしまったのだと判断したのだろう。それ故に、ブラドは気づかなかった。キンジがほんのわずかにだが口角を吊り上げてほくそ笑んでいることに。

 

『残念だったわねぇ、遠山キンジ。やっぱり貴方たちは最初から私の魔臓狙いだったみたいね』

「……四か所の魔臓を壊せばブラドを倒せる。正直言って信憑性に欠ける情報だったからあくまで最後の手段にと思ってたんだが、その様子だと本当だったみたいだな」

『ええ、そうよ。私の無限回復能力、これを支えているのが魔臓なの。だから四つの魔臓を全部同時に破壊されれば再生能力は使えなくなるし、吸血鬼としての弱点も全て復活しちゃう。……今まで貴方たちは全然魔臓を狙ってこなかったから、もしかしてこのことを知らないのかとも思ってたけど、やっぱり警戒しておいて正解だったわねぇ、ふふッ♪』

「……」

『さーぁ、遠山キンジ。貴方はタダじゃ殺してあげないわ。一人で私を倒せるなんてほざいたこと、存分に後悔するといいわ』

 

 ブラドは拳をボキボキと鳴らしながらキンジの元へと悠々と近づいていく。自身の勝利を一ミリたりとも疑っていないブラドの姿。それが酷く滑稽に思えたキンジは思わず噴き出した。

 

「――ふッ、クククッ。ホントお前ってバカだよなぁ、ブラド」

 

 お腹を抱えて実に愉快そうに笑うキンジにブラドは『あ?』とその足を止める。ケタケタ笑うキンジにカチンときたらしく、ブラドはギロリとキンジを睥睨する。

 

「だってそうだろ? 敵の言葉を真に受けるなんて、Eランク武偵でもしないぞ? しっかも自分の弱点に関する情報をベラベラ喋っちゃってさ。もう2位クオリティですらないだろ、お前の頭」

『……これから死にゆく相手に冥土の土産のあげることの、何がいけないのよ?』

「ダメに決まってるだろう? イ・ウーナンバー2のくせに、戦いにおいて勝利を確信して油断した時が一番危ないってことすら知らないのかよ。お前本当にナンバー2か? ちゃんとイ・ウーの中で番付したのかよ?」

 

 キンジは先ほどまでの絶望しきった表情はどこへやら、呆れに満ちたジト目とともにブラドをディスりにかかる。どうやらブラドの魔臓破壊に失敗することは想定の範囲内だったようだ。

 

 

 ――まず、俺一人でブラドの魔臓を狙う。

 ――え!? ちょっ、遠山くん一人で狙うの!?

 ――私たち三人で分担して狙った方が確実にブラドを仕留められると思いますけど?

 ――いや、俺一人でブラドの魔臓を狙う。そして、わざと失敗させるんだ。

 ――失敗、ですか?

 ――あぁ。敢えて失敗して、あとは俺がショックを受けたフリでもしてればブラドは勝ったと思い込む。高笑いとかするかもな。そしてその時、ブラドは絶対に油断する。その油断を狙うんだ。

 ――言いたいことはわかりますが、わざわざ失敗させなくてもいいのでは……

 ――あー、言い方が悪かったな。失敗させるとはいったけど、俺はあくまで真剣にブラドの魔臓を狙う。要するに、失敗云々はブラドが俺の銃弾を防いだ前提の話ってこと。俺一人でブラドを倒せればそれに越したことはない。

 ――えと、つまり保険をかけるってこと、でいいのかな?

 ――そーゆーこと。さすがに一度きりのチャンスってのは怖いからな。だから、もしも俺が失敗した時は……理子。

 ――ふぇ?

 ――君が爆弾か何かでブラドを屋上からぶっ飛ばしてくれ。頼めるかい?

 ――う、うん。わかった。じゃあ、これ使えばいいかな?

 ――それ、炸裂弾(グレネード)じゃないですか!?

 ――よくそんな貴重なもの持ってたな、理子。

 ――え、えっとね。これ、ジャンヌちゃんが護身用にってくれたものなんだ。

 ――なるほどな。じゃあ、それを使ってブラドをぶっ飛ばしてくれ。もちろん、ブラドにバレないよう慎重にな。

 

 

「そんなんだから足をすくわれるんだよ、お前は。……チェックメイトだ、吸血鬼」

『言いたいことはそれだけかしら? 遠山キン――ガバッ!?』

 

 キンジはブラドの背後から炸裂弾(グレネード)を撃とうと拳銃を構える理子の姿を確認しつつ、自信ありげに笑みを深める。対するブラドは早くもキンジの言動をただの強がりと判断したらしく、再びキンジの元へと歩を進めようとする。その瞬間、突然響いた銃声にワンテンポ遅れるようにしてブラドの背後に爆発が発生した。理子の炸裂弾(グレネード)がブラドの背中を貫くか貫かないかといった所で紅蓮の炎をまき散らす形で爆発したのだ。

 

 自身の背中を強く押し出してくる強力な爆風によってブラドの体はあっさりと宙に浮く。体の制御が利かず、ただ爆風に煽られて飛ばされるのみのブラドの瞳が捉えたのは、体を屈めて吹っ飛ばされないように踏ん張るキンジの姿と、さっきまでブラドのいた位置周辺で銃を構えたまま同じくその場に踏みとどまっている理子の姿だった。

 

『よぉぉぉおおおおおおおおおおんんんんんんせぇぇぇぇええええええええぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!!』

「四世じゃない! ボクは――理子だ!」

 

 ブラドは怒りのままに牙を剥いて理子の名前を叫ぶ。対する理子は「ひぁ!?」という悲鳴をギリギリの所で押し殺して、毅然とブラドに言い放った。が、その言葉がブラドの耳に届くよりも早くブラドの体はさらに吹っ飛ばされていく。そして。ブラドの体は為す術もなく屋上から投げ出された。この時、ブラドは仰向け状態で高度297メートル上空からの紐なしバンジーをさせられることとなった。

 

 だがしかし。このままではブラドは死なないだろう。例え屋上から突き落としたとしても、四つの魔臓さえ無事ならばブラドは何度でも即刻再生できるのだから。ゆえに、ここで攻撃の手を緩めるキンジたちではなかった。

 

(神崎・H・アリア……?)

 

 重力による落下を始めてから数秒後。いくら死なないとはいえ高所から地面に激突する痛みを味わいたくない一心でどうにか地上へのボッシュートを免れようと空中でもがいていたブラドの視界に映ったのは屋上の端から自身を見下ろすアリアの姿だった。

 

「ナイスです、峰さん」

 

 アリアは屋上の端に左足の土踏まずを乗せてククッと膝を曲げると、重力のままに体を下へと傾ける。そして。足が屋上の端から離れようとしたまさにその時。端に乗せている足に思いっきり力を込めることでアリアは躊躇なく頭から飛び降りた。重力を味方につけてさらにブーストを掛けたアリアの体は瞬く間に自然落下中のブラドまで近づいていく。

 

『なぁッ!?』

 

 アリアのまるで自身の命を顧みない行為にブラドは目を見開き驚愕の声を上げる。その際に大きく開かれたブラドの口。舌にある四つ目の魔臓が晒された瞬間を見逃すアリアではなかった。

 

 

 ――それで、ブラドを屋上から放り出した後はどうするんですか?

 ――アリアが空中でとどめを刺してくれ。空中なら自由に身動きできないから俺の時より確実に魔臓を撃ち抜けるはずだ。口を開けていないようなら事前に目でも撃って悲鳴を上げさせればそれで済む話だしな。

 ――わかりました。空中なら足のことを気にしないでいいですしね。……って、それ大丈夫なんですか? そんなことしたら私までここから地上に落下してしまいますよ?

 ――その点については心配ない。な、理子?

 ――え、何が……ッ! あ、そっか! うん、心配ないよオリュメスさん! オリュメスさんのことはボクに任せてッ!

 ――? よくわかりませんが、峰さんが何とかしてくれるんですね。了解です。

 

 

(これで終わりです、ブラド!)

「はぁぁぁあああああああああああ――ッ!!」

 

 グングンブラドとの距離を詰めていく中。アリアは即座に白黒ガバメントを取り出すとズダダダッと四発の銃弾を放つ。自由に身動きの取れない空中にいること。アリアの飛び降りという想定の埒外極まりない行為。それらの事象が合わさったことでブラドの反応はわずかに遅れてしまう。

 

 結果。アリアの放った銃弾は見事にブラドの右肩、左肩、右脇腹、舌に命中し、四つの魔臓を完膚なきまでに破壊したのだった。

 




キンジ→瀕死状態(?)の熱血キャラ。使える武器は何でも使うタイプ。前々から言いたかった「ただしその頃にはあんたは八つ裂きになっているだろうけどな」という他作品キャラの決め台詞を言えて満足している模様。
アリア→見事ブラドにとどめを刺したメインヒロイン。原作同様、高所恐怖症ではない。活躍できてよかったね!
理子→ズタボロのキンジとアリアを働かせようとする辺り、割と鬼畜なビビりさん。ジャンヌから定期的に護身用にと武偵弾をプレゼントされている。
ブラド→せっかく頑張って階段上って屋上まで戻ってきたのに結局屋上から落とされる羽目になったメイドさん。もう泣いていいと思う。

Q.アリアが活躍してる、だと……!? BA☆KA☆NA! こんなのありえナイン!
A.いやぁー、ここで活躍させないともうアリアさんの活躍場所がないかもだったので今回アリアさんには頑張ってもらいました。
アリア「……え?」

 というわけで、83話終了です。とりあえず……ブラド討伐成功! やったね、アリアさん! アリアさんはやればできる子なのですよ!

 まぁそれはともかく。とりあえず当初の想定以上に長引いてしまったブラド戦も今回までで終了です。あとは何話か使って事後処理を行った後に第四章へと突入しようかと思います。ま、その前に何話か外伝挟むかもですけどね。
アリア「ちょっ、今のどういう意味――」


 ~おまけ(ネタ:もしもブラドが屋上に戻る際にエレベーターを使っていたら)~

 キンジ&アリア&理子、待機中。

キンジ「ブラドの奴、来るの遅いな……」
アリア「もう20分は経ちましたよ。どこで油を売ってるんでしょうか?」
理子「? ねぇ、遠山くん、オリュメスさん。何か聞こえない?」
アリア「確かにビービーなってますね。何の音でしょうか?」
キンジ「……確認しに行ってみるか」

 鳴り響く音の根源まで歩を進めた結果、三人はエレベーター前までたどり着いた。

ヴィー! ヴィー! ヴィー! ヴィー!(←エレベーターの警告音)
ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!(←エレベーターが何度も扉を閉めようとするもブラドの体に当たるせいで閉められない音)
ブラド『で、出られない……』
三人「「「……」」」

 ブラドがエレベーターに突っかかってて出られそうにない件について。

ブラド『う、くッ……!』
キンジ(しかもエレベーターがやたらと扉を閉じようとして一々ブラドの体を挟んでるのが何ともシュール極まりないな)
アリア(そもそもよくこんなキツキツの状態でエレベーターに乗ろうとしましたね)
理子(階段を使うのが嫌だった……ってことでいいのかなぁ? その気持ちはよくわかるけど)
キンジ(ま、それはさておき――)
キンジ「よし、今のうちに魔臓撃つか」
アリア&理子「「ラジャ」」
ブラド『え、ちょっ、待っ――ぎゃああああああああああああ!!』

 ブラド戦、終了。イ・ウーナンバー2の実に情けない最期であった。

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