【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。もうね、サブタイトルからシリアスとは真逆のヤバげな雰囲気がひしひしと伝わってきますね。とりあえず、前回のブラドの発言で得体の知れない嫌な予感を感じている方々――その予感は的中です。おめでとうございます。……さて。心の準備はできましたか?




77.熱血キンジとヘンタイ爆誕

 

『久しぶり、四世。イ・ウー以来かしら?』

「ひッ! ブラ、ド……!」

 

 風吹きすさぶ横浜ランドマークタワー屋上にて。何人もの人間が同時に言葉を発したかのような奇妙な声で理子に問いかける小夜鳴、もといブラド。むき出しになった赤褐色の肌に雄牛のように盛り上がった筋肉、全身を覆う体毛などが特徴的な、巨躯の化け物。そんな軽く現実離れした化け物を目の当たりにしたキンジとアリアだったが、二人は割と冷静だった。

 

(ジャンヌの絵の方が怖いな……)

魔剣(デュランダル)の絵の方が100倍怖いですね……)

 

 ジャンヌのやたら怖いブラドの絵を見ていたおかげでブラドという存在にそれなりに耐性がついていたキンジ&アリアは平常心のままブラドを見上げる。だが、二人がブラドに圧倒されなかった理由は何もジャンヌの絵を事前に見ていたからだけではない。答えは簡単、ブラドの化け物染みた容姿じゃない別の所にキンジとアリアの視線が釘づけだったからである。

 

「……あいつ、なんでメイド服来てんだよ。あんな巨体のくせして、なんでちょっとだけ頭の毛ピンクのリボンで結んでるんだよ。気持ち悪さが異次元レベルなんだけど。魔女っ娘小夜鳴がマシに思えるレベルに気持ち悪いんだけど。別の意味で破壊力が凄まじいんだけど。なに? 何なのこれ? ブラドって実はメスだったのか? あのなりで?」

「わ、私に聞かないでくださいよ、キンジ。私にわかるわけないじゃないですか」

「デスヨネー」

 

 キンジがメイド服姿のブラドを前にあたかも生気を抜き取られたかのように呆然としている中、「あ」とアリアが何かを思い出したかのように声を漏らしたかと思うと「キンジ。キンジ」とキンジの袖をクイクイと引っ張ってくる。それで我に返ったキンジが「どうした?」とアリアの方を見やると、アリアがクッと背伸びをしてキンジに耳打ちをする。

 

「その、キンジには言ってなかったんですけど……私、紅鳴館で見たんですよ。メイド服に着替える時に」

「ん? 見たって、何を?」

「クローゼットの中にギッシリ詰まったビックサイズのメイド服です。それも、とても人間が着られるとは思えないぐらい大きいのを」

「……」

「今、ブラドが着ているのはその時に見たメイド服だと思われます」

「……」

 

 アリアからもたらされた衝撃の事実にキンジは思わず言葉を失う。確かに、あの時のアリアは様子がおかしかった。それが用途不明のビッグサイズのメイド服を目撃したのが理由であること、そしてそのメイド服をブラドが着用していること、それらの状況証拠が導き出す結論はただ一つ。

 

「……てことは、何だ? 小夜鳴同様、ブラドも女装趣味を持つオカマだったってことかよ」

「みたいですね」

「「……」」

 

 キンジとアリアの間に沈黙が走る。ブラドも小夜鳴も趣味の方向性は違えど、女装が大好きなオカマだと知ったキンジとアリアは一度ため息を吐くと、ある決意を心に宿す。

 

「アリア」

「わかっています。あれをさっさと駆除しましょう。あれがうっかり世に放たれてしまう前に。犠牲者が現れてしまう前に」

「異議なし」

 

 キンジとアリアはそれぞれ銃を強く握ってギンとブラドを睨みつける。二人がブラド退治により一層気合いを入れた瞬間である。

 

 無理もない。小夜鳴の魔女っ娘衣装は小夜鳴が端整な顔つきをしたイケメンであったためそれなりに似合っていたが、今二人の眼前に立っているメイド服のブラドは壊滅的に似合っていない。そのため。あんな恰好で動き回られると、はっきり言って目に毒なのだ。

 

 

『さて。檻に、貴女のお家に帰る時間よ、四世』

「は、話、が……ちがッ……」

『話? 何のことかしら? ……あぁ、もしかしてあれ? 貴女がホームズ四世とそのパートナーに勝って自分が有能だって証明できたらもう私から貴女に関与しないっていう、あれかしら? あんなの、ただの口約束じゃない。契約書も誓約書もないただの口約束にこの私がなんで従わないといけないの?』

 

 一方。ブラド退治に気合いをたぎらせるキンジ&アリアをよそに、ブラドは理子の主張を鼻で笑う。その際、メイド服のフリルが風にゆらゆらと揺れる。

 

『それに、貴女はあの二人にもう負けたじゃない。遠山キンジの本気(HSS)さえ引き出せなかった。貴女は所詮、無能で失敗作。どれだけ足掻こうと、結局は優秀な五世を作るための繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)に過ぎないのよ。……だから、無能な貴女は私の手の中で踊り続けるしかないの。私に生殺与奪を握られたまま生きるしかないの。わかったかしら?』

「う、ぅ……」

『ふふふ。ホント、泣き顔も無様ね、貴女は。泣けば救われるとでも思っているのかしら? いつだって理不尽にあふれているのが現実だっていうのにね。……全く、無能の考えることは理解できないわ』

 

 ブラドに約束を反故にされ、さらには容赦ないブラドの言葉の雨を受けて理子は悔しさに涙を流す。対するブラドは、どうしようもない現実に絶望の涙を零す理子をわけがわからないとでも言いたげに見下ろす。

 

『見苦しいものを見せちゃったわね、遠山キンジ、神崎・H・アリア。私は今からこの四世を連れ帰るつもりだけど……下僕として、貴方たちも歓迎してあげる。貴方たち二人はそこの四世と違って素敵な才能があるもの。死ぬまで私の手足としてこき使ってあげるわ。どう? 光栄でしょ?』

「断固お断りします。私には絶対に果さないといけない目的がありますので」

「右に同じ。誰がお前なんかの手足になるかよ、ブラド。俺は俺の生きたいように生きる」

『……まぁいいわ。最初は誰だって反抗的だもの。今ここでご主人様に対する下僕の正しい態度について、教えてあ・げ・る♪』

 

 下等生物を見る目で理子を見下ろしていたブラドはキンジとアリアの方に振り向くと、余裕綽々な笑みを浮かべてパチッと二人にウインクをする。巨躯の大男からのまさかのウインク。二人は「うげッ」と言いたげに顔を歪め、即座にブラドから目を逸らす。

 

「……なぁ、ブラド。戦う前に一つ聞きたいんだが、なんで理子にこだわる? お前が言うには、理子はリュパン五世を生むだけの機械なんだろ? その機械になんで執着するんだ? 人類を超越した吸血鬼が、なんで一人の人間に固執するんだ?」

『……何が言いたいの?』

「いや、無能だの失敗作だの言ってる割にはやけに理子を重宝してると思ってな。まるで恋人を我が物にしたいがために恋人を捕まえて監禁するヤンデレのようだぞ、今のお前」

 

 と、ここで。キンジはブラドのウインクという名の精神汚染攻撃に最大限の警戒を払いつつ、自身の疑問をぶつけてみる。

 

『残念。外れよ、遠山キンジ。四世はお金になる。だから手元に置いておきたい。それだけのことよ』

「お金、ですか?」

『えぇ。私はお金を稼ぐことを生きがいの一つにしているの。だってお金があれば何でも買えるもの。地位も、名誉も、人の命も自由自在。時代とともに姿形は変われど、いつだってお金はあらゆるモノを支配する絶対強者。だから私は表社会には決して出せない類いの薬を開発して闇ルートに売りさばく形で莫大なお金を稼いでいるの。で、薬の開発には人体実験が必要不可欠なの。ここまではいいかしら?』

「人体実験、ですか……」

 

 ブラドの説明にアリアの嫌悪感の含んだ声が漏れる。それは誰かに聞いてもらうことを目的にしたというよりは言葉に表すつもりのない本音がつい零れてしまったかのような声色だった。

 

『――そして、峰理子リュパン四世。アレは日頃からバカみたいにビクビク怯えてばかりだけど、意外なことに、その精神は異様に強いの。何が精神的支えになってるのかはわからないけれど、常人なら容易で発狂し壊れてしまうような実験でも、アレは何だかんだで正気を保ち続ける。常人なら1時間も持たない過酷な実験にも当たり前のように耐え抜いてみせる。実際、四世は自力で檻から脱出するまでの数年、様々な実験に耐え抜いてみせた。……四世はね、私にとってローコストハイリターンな金のなる木なの。何せ、四世は早々壊れないからそれだけ色々と実験がはかどるし、実験がはかどればはかどるほど新薬をドンドン作れるもの。そんな稀有でおいしい存在をこの私がみすみす手放すと思う?』

「「……」」

『聞きたいことはそれだけ? それじゃあ、そろそろ始めるわよ。……いい声で泣いてくれるの、期待してるわ』

 

 ブラドは話を打ち切ると、ニタリと獰猛極まりない笑顔を浮かべたまま、待ちの体勢を取る。どうやら自分から襲いかかってくるつもりはないようだ。とはいえ、待ちの体勢と見せかけて俺たちが油断した瞬間を狙ってくる可能性も否めないのだが。

 

「……キンジ。至急、峰さんをどこか安全そうな所に連れていってください。もしも大事な証人が戦闘に巻き込まれて死んじゃったら困りますので」

「わかった」

 

 ブラドとの対決姿勢を示すように一歩前に踏み出したアリアが目線で理子を指し示す。確かに、あんな所に倒れていたらブラドとの戦いの余波をモロに喰らってしまいそうだ。

 

「……素直に理子のことが心配だって言えばいいのに」

「何か言いましたか?」

「いいや、何も」

「ではお願いします。私の体格では峰さんを運べませんので、力仕事はお任せします」

 

 そう言葉を残してアリアはブラドへと一直線に駆けていく。対するブラドは好戦的な眼差しをアリアに注ぐとともにアリアの頭ほどの大きさの拳をギギッと握る。

 

 かくして。キンジとアリアの強襲科(アサルト)Sランク武偵コンビとイ・ウーナンバー2の吸血鬼(ブラド)との戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 

『おいで、ホームズ四世! 絶対的な力の差を思い知らせてあげるわ!』

「上等! 風穴の時間です!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「理子。大丈夫か?」

「遠、山、く……」

(見た感じ、命に別状はなさそうだな)

 

 アリアがブラドへと突貫していく様子をしり目に、キンジは未だスタンガンの痺れから解放されていない理子を手早くお姫さま抱っこする。そのまま理子をどこか安全な場所へと連れていこうとした時、キンジの行く手を阻むように二匹のコーカサスハクギンオオカミがキンジを取り囲む。

 

「ガルルルルル」

(ヤバッ、こいつらのことすっかり忘れてた)

 

 ジリジリと距離を縮めてくるオオカミ二匹を前にキンジは冷や汗を流す。今のキンジは理子をお姫さま抱っこしているために両手が使えない。いくらなんでも両手の塞がった状態で、理子を守りながらオオカミ二匹を相手取るのはあまりに無茶だ。

 

(どうする――ッ!?)

 

 キンジはオオカミ二匹の一挙手一投足を見逃すまいと目を光らせつつも、現状打破の策を導き出そうと必死に頭を回転させる。と、そこで。天啓のようにキンジの脳裏に起死回生の策が舞い降りた。それは軽く博打に近い策だったが、今のキンジに選択の余地はなかった。

 

(これに賭けるしかないか……!)

「――レキ」

 

 キンジがレキの名前を出すと、オオカミ二匹はまるで時が止まったかのようにピタリと動きを止めた。心なしか、オオカミの目が動揺に揺れ動いているように見える。この時、キンジは自身の策が上手くいくだろうことを悟った。

 

(よし、これならいける!)

「その様子だと、お前らにも伝わってるみたいだな。レキのこと」

「「……」」

「あいつ、やっぱりお前らのこと諦めきれてないみたいだぞ。今日は趣向を変えて横浜でお前らのこと探すって言ってたし、今度会ったら絶対に逃がさないようにって首輪も買ってたしな」

「「ガウッ!?」」

「なぁ、お前ら。こんな所でのんびりしてていいのか? こんな開けた場所にいたらレキに見つかるんじゃないのか? あんまりレキの6.0の視力、舐めない方がいいぞ?」

 

 キンジが言葉を重ねていくにつれてオオカミ二匹の震えがみるみる増していく。冷や汗のダラダラ具合がドンドン増していく。そのビクビク具合はビビりの権化:理子を彷彿とさせるほどだ。ちなみに。レキに関するキンジの発言は全てもれなく根も葉もない出まかせである。

 

(よしよし、いい感じに怯えてるな。さーて。最後の仕上げだ)

「――あ、レキ」

「「ギャゥゥゥウウウウウン!?」」

 

 キンジはオオカミの背後に視線を向けてレキの名前を呼ぶ。もちろん、キンジの視線の先にレキの姿はない。しかし。オオカミ二匹は後ろを確認することなく、情けない鳴き声とともに全力で逃走を開始した。

 

(怖がられてるなぁ、レキの奴)

 

 見る見るうちに遠ざかっていくオオカミ二匹の後ろ姿をキンジは半眼でただただ眺める。そして。キンジは逃げ去っていくオオカミ二匹の姿とレキを撒こうと必死に逃げる自分の姿とを重ね合わせ、オオカミ二匹にそこはかとない親近感を抱くのだった。

 




キンジ→レキ効果を利用したとっさのウソでオオカミ二匹との戦闘を華麗に回避した熱血キャラ。ここぞという時に打開案を思いつく辺り、さすがは主人公といった所か。
アリア→一時とはいえ、単騎でブラドと戦うこととなったメインヒロイン。
理子→精神力の強さについてブラドからも一目置かれているビビり少女。何気にブラドがオカマだと前々から知ってたりする。
ブラド→小夜鳴同様、オカマな吸血鬼。お金大好き。メイド服大好き。薬学に精通している。白雪の占いで『やたら大きい鬼』と称されている。

 というわけで、77話終了です。とりあえずブラドとの戦闘が始まるのは79話からになりそうです。いや、別に引き伸ばしをしようとしているワケじゃないんですけどね。ホント、どーしてこうなるのやら……。


 ~おまけ(ネタ:嘘から出た実)~

 横浜ランドマークタワーのエレベーター内にて。

オオカミその1(や、ややややや奴が来てるなんて、じじじじじ冗談じゃないワン!)
オオカミその2(はははははは早く逃げるワン! やややややや奴に追いつかれる前に……! ややややや奴に捕まったら全てお終いだワン!)
オオカミその1(ブブブブブラドの命令なんて知らないワン! こ、ここここここで死ぬのはゴメンにござる! ――って、違う違う! ここで死ぬのはゴメンだワン!)

 チーン(←エレベーターが一階に到着した音)

オオカミその1(よよよよよよし。一階についたワン!)
オオカミその2(早く、はははははは早く外に逃げ――)
??「――ん、ホントにいましたね(←エレベーター前に立つ緑髪の少女)」
オオカミその1&2「「ワウッ!?(←ビクリと肩を震わせるオオカミ二匹)」」
レキ「今夜、横浜ランドマークタワーに行けばオオカミに会えると風が言っていたから来てみたのですが……確かに風の言う通りでしたね。さすがは風です。というわけで……さぁ、私と遊びましょう。アザゼル? ナイアルラトホテップ?(←ドラグノフを構えつつ)」
オオカミその1&2「「……(←ガクガクブルブル)」」

 その後、オオカミ二匹はレキに追い詰められるも、レキの魔の手に囚われる寸前に覚醒。自身に秘められていた始祖の力を認知&行使することでどうにかレキから命からがら逃げきったとか。

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