どうも、ふぁもにかです。今回はついに紅鳴館殴り込み回です。あと、今回は前回までのカオスフルな突発的番外編と比べると比較的大人しい展開になってるかと思われます。まぁこの前はいくら番外編だからってちょっとやり過ぎ感がありましたしね、特に我らが主人公:キンジくんの辺りが。わ、私だってたまには自重しますよ。……しばらくしたらまた暴走するでしょうけど。
キンジが音楽室でジャンヌと邂逅してから4日後。理子のサポートの元でキンジとアリアが紅鳴館に潜入する当日。その早朝。キンジの住む男子寮にて、キンジが見たのは変わり果てたアリアの姿だった。
「あはは~、蝶々が飛んでるぅ~。ヒラヒラァ~って、アハハ~。待ってよ蝶々さぁ~ん♪」
穢れきった真紅の瞳と目元の隈の酷さが特徴的なアリアは終始ヘラヘラとした笑みとともにフラフラ~と謎の踊りを披露しながら、ただただ宙へと両手を伸ばしている。当然ながら、虚空に蝶々なんて舞っていない。覚せい剤でも服用したのではないかと思えるほどにおかしな言動を取るアリアの姿にキンジは思わず後ずさる。一般の感性を持つ者であれば至極当然の反応である。
「……り、理子。あれは何だ?」
「え? ……オリュメスさん、だけど?」
「いや、それは知ってる。そうじゃなくて、なんでアリアがあんなメンヘラ状態になってんだ?」
キンジは明らかに精神に異常をきたしているアリアを指差して隣の理子に問いかける。キンジは理子がアリアを連れ去ってから4日間、一度もアリアと会っていなかった。とはいえ、定期的にメールのやり取りをしていたキンジはアリアに関して大した心配はしていなかった。その結果が眼前のメンヘラ少女アリアたん☆の爆誕である。
理子から話を聞いた所、理子はアリアを連れ去った後、二人でインターネットカフェに入り浸っていたらしい。というのも、どこからかアリアがメイド関連の知識に疎いとの情報を手に入れた理子が紅鳴館潜入作戦を始める前に急ピッチでアリアに知識を叩きこもうとしたかららしい。
ちなみに。俺が理子の手から逃れられたのは、普段から俺が武藤オススメのアニメやらゲームやら小説やらを楽しんでいることを知っている理子が、俺には既にある程度の執事に関する知識が備わっているものと判断したからだとか。
「そ、それでね。とりあえず、オリュメスさんと一緒にメイドの登場するアニメの鑑賞会をしたんだよ。72時間ぐらいずっと」
「な、72時間!?」
「うん。例え付け焼刃だとしてもオリュメスさんにはメイドのあり方について知ってもらう必要があったからね。……それにしても、オリュメスさんって
「……いやいやいや、その考えはおかしい」
「? そう?」
(幼児体型ゆえに他の小学生並みの睡眠時間を必要とするアリアに72時間連続でアニメを見させるとは……理子って何気に鬼畜だな)
いくら母親の形見を取り戻したいからってこれはいくらなんでも容赦がなさ過ぎるだろう。現在進行形で踊り狂うアリアの様子を平然と見やる理子の姿にキンジは戦慄する。同時に。普段からオススメの小説やアニメについて紹介してくれた武藤にキンジは心から感謝した。
「じゃあ、そろそろ紅鳴館に行こっか」
「あ! ご主人さまぁ~。見て見て、蝶々がいっぱいですよぉ~♪」
「……理子。少しでいい。頼むから、アリアを寝かせてやってくれ。紅鳴館に行くのはそれからでも遅くはないだろ?」
「え、でも――」
「ご主人さまぁ♡ 脱ぎ脱ぎのお時間でぇすよぉ~」
「三徹してたのは理子も一緒なんだろ? だったら理子もアリアと一緒に休んだらどうだ? 休める時に休んだ方がいいに決まってるし、万全の準備を怠ったせいで
キンジの提案に難色を示す理子。何としてでもアリアに休息を与えたいキンジは理子を説得しようとさらに言葉を重ねていく。対する理子はキンジの失敗の言葉に反応したらしく、震える声で「失敗……」と呟く。その表情が見る見る内に青ざめていくのが手に取るようにわかった。
ちなみに。先ほどから時折聞こえてくるアリアの声を気にせずに二人が会話を続けていられるのは偏に磨き抜かれたスルースキルの賜物である。尤も、理子の場合は天然も混じっていそうだが。
「そ、そうだね! 遠山くんの言う通りだね! じゃあ、その、お言葉に甘えて。……えっと、8時になっても起きなかったら起こしてくれない、かな?」
「ん、わかった」
「にゃーん、にゃんにゃにゃにゃんにゃんにゃーん。にゃーん、にゃんにゃにゃにゃーん。にゃんにゃん、にゃんにゃにゃにゃんにゃんにゃーん。にゃん、にゃにゃにゃにゃにゃんにゃんにゃーん♪」
キンジに目覚まし時計の役目を頼んだ理子は椅子に腰かけてテーブルに突っ伏したかと思うと、すぅすぅと小さい寝息を立て始める。突っ伏して数秒で眠りに就いたことから理子も表に出さなかっただけで相当眠かったのだろう。
(どうせ寝るならベッドで寝ればいいのに。空いてるんだし)
そんなことを考えつつキンジは視線を理子からアリアに移す。次いで、何がおかしいのか「にゃはッ、にゃははははははははははは~♪ わふぅ、風穴風穴きゃっほ~い♪」と5歳児のごとく周囲をきゃっきゃと駆け回るアリアを、キンジは「……悪い、アリア」という謝罪の言葉とともにスリーパーホールドで気絶させる。そして、安らかに眠れますようにと心の中で願いながらアリアをベッドに横たえるのだった。
◇◇◇
数時間後。しばしの休憩を終えたキンジたち三人はモノレール、タクシーと交通機関を利用して横浜郊外の紅鳴館にたどり着いた。尤も、移動の際に8時以降になっても全く起きる気配がなかったアリアをキンジが背負うことになったのだが。
今現在、先頭を歩くのはあらかじめ大人な女性に変装した理子。キャリアウーマンらしいキビキビした動きで紅鳴館の門前まで赴く理子の後ろを歩くのがキンジと目覚めたばかりのアリア。派遣会社の人間に扮する理子が新たなハウスキーパーとしてキンジとアリアを連れてきたと思わせるための寸法だ。もちろん、今のアリアはラリっていない。
そして、門前にて。理子は門の前で呼び鈴を鳴らそうとした手をふと止める。疑問に思ったキンジが理子の背中を覗いてみると、理子の体がわずかながらフルフルと震えているのが読み取れた。知らない人と話すのは俺でも少しは緊張する。ビビりの理子なら尚更なのだろう。
「そんなに身構えなくていいんじゃないか、理子?」
「ふぇ!? い、いや、えーと、ななな何のことかなぁー? 遠山くん?」
キンジは軽い気持ちで理子に声をかける。他愛のない会話で少しでも理子の緊張を取り除くのが狙いだ。しかし。背後からの声にビクンと肩を震わせる理子の様子から鑑みるに、理子の緊張を解すというキンジの目論みは見事に逆効果となったようだ。これ以上余計なことは言わない方がいい。自身の方へと振り返ってきた理子にキンジは「あ、いや。なんでもない」と言葉を返した。
その後。理子はふと目を瞑ると「大丈夫大丈夫。頑張れボク。あれだけちゃんと予行練習したんだから大丈夫――」などと自分を奮起させようと何度も自分自身に言い聞かせる。それから。意を決したのか、理子はクワッと目を見開くと同時に呼び鈴を鳴らした。
「はーい。今開けまーす」
少しの間をおいて。堅牢な門の向こうから軽いノリの声が届く。いかにも宅配業者相手に新婚の若妻が言いそうな口調だったが、それにしては聞こえてきた声は少し低かった。例えるなら声の低い男が無理に女声を出そうとしているかのような声。言葉と声とのギャップに違和感を感じたキンジが頭にハテナマークを浮かべていると、門の向こうから徐々に人影が見えてきた。
「あら? 貴方たち――え゛?」
軽快なステップを刻みつつやって来た紅鳴館の管理人は、キンジとアリアを見ながらコテンと可愛らしく首を傾げる。そして。管理人は首を傾げたまま、ビシリと固まった。その反応は当然だろう。何せ、俺たち三人と目の前の人物は知り合いだったのだから。
「は?」
「え?」
「ふぇ?」
一方。キンジたち三人も姿を現した管理人の姿に思わず固まっていた。スラっとした細身の長身体躯にストレートに伸びる銀の長髪が特徴的な管理人の姿は、いくら顔に薄く化粧が施されていても、ピンクの口紅が塗られていても、爪にネイルアートが施されていても、魔女っ娘を彷彿とさせる黒のコスプレ衣装を着ていても、確かに見覚えがあったからだ。
(さ、小夜鳴先生!?)
キンジたちを出迎えたの管理人の名は小夜鳴徹。なぜか魔女っ娘のコスプレをしている、東京武偵高の男性教師だった。
◇◇◇
そのため。その美貌や人当たりのよさから男女問わず人気が高く、教師の模範と言っても過言ではない存在。それがキンジ、アリア、理子三名の小夜鳴徹に対する共通認識であり、これが早々覆されるようなことはない。そのはずだったのだが――
「こちらへどうぞ、お三方」
――今、キンジたち三人の目の前にいるのは三人のよく知る儚くも凛々しい小夜鳴先生像を完膚なきまでに破壊しつくす一人の魔女っ娘だった。その当の魔女っ娘小夜鳴たん☆はキンジ一行を応接室まで案内する。その歩き方もどこか女性チックだ。
門前で出くわした当初は「今貴方たちが見ているものは幻です。現実ではありません」や「んん、小夜鳴徹? あぁ、それは私の弟です。私は徹の双子の姉の小夜鳴晶です」や「いやぁー、これ実は罰ゲームでしてね。あは、あはははー」などといった苦しすぎる言い訳を駆使して全力でごまかしにかかっていた小夜鳴先生だったが、自身のごまかしが俺たちに一切通じないとわかった途端にオカマ属性を遠慮なくさらけ出し始め、今やすっかり開き直っている。
(それなりに似合ってるのが何とも言えないんだよなぁ。イケメンは女装しても似合うとは言うけど、兄さん限定の話じゃなかったのか……)
「では改めまして。正午からで面会をご予定させていただいておりました、
魔女っ娘衣装の小夜鳴からソファーに座るよう促され、小夜鳴とキンジ一行が向かい合うように座った後。コホンと一つ咳払いをしてから丁寧な口調でどうにか己の役割を果たそうとした理子だったが、早速噛んだ。よほど痛かったのか、自身が派遣会社の人間を演じていることを忘れて「うぅ、舌かんだ……」と涙目になっている。
「あらあら、もしかして新人さん?」
「は、はい。そうなんです、え、ええと……すみません」
「謝ることないわ、師堂さん。最初から仕事の上手な人なんていないもの。これから少しずつ精進していけばいいわ」
「か、管理人さん……!」
小夜鳴の機嫌を悪くしたのではないかと縮こまる理子に小夜鳴はニッコリと微笑みかける。まるで子供の成長を見守る親のような慈愛に満ちた眼差しとともに優しく語りかける。魔女っ娘衣装を装備していてもなお、小夜鳴先生のイケメンオーラは健在のようだ。
「それにしても意外でしたよ。小夜鳴先生の性格もそうですけど……このような、その、個性的なお屋敷に住んでいたとは思いませんでした」
「性格の件は内緒でお願いね? 遠山くん、神崎さん?」
理子の代わりに何か話題を作ろうと考えたキンジの言葉に小夜鳴はパチッと片目を閉じて人差し指を「シー」と唇に当てる。今にも「てへッ」と言わんばかりの表情だ。
(男のウインクなのにあんまり気持ち悪く思えないってどういうことだよ……イケメン補正か?)
(何でしょう、女性にしか似合わないはずの仕草のはずなのに小夜鳴先生にも微妙に合っている辺りが非常に反応に困りますね……)
「それと、ここは私の家じゃないの。私はただここのご主人に地下を研究施設として使わせてもらってるだけ。彼は私の研究に投資もしてくれるから、本当に彼には頭が上がらないわね」
「あの、そのご主人は今こちらにいらっしゃるのですか? もしいらっしゃるのであれば、事前に2人と顔合わせをした方がよろしいかと思うのですが」
「……すみません、師堂さん。彼は今遠い所に住んでいるの。それに私も彼とは直接会ったことはないから、多分遠山くんと神崎さんの雇用期間中には会えないと思うわ。ごめんなさいね」
「い、いえ。こちらこそすみません」
キンジとアリアがそれぞれオカマな小夜鳴の所作に戸惑いを見せる中、二人の目の前では申し訳なさそうに眉を寄せる小夜鳴と慌ててペコペコと頭を下げる理子の構図が広がっていた。
(直接会ってないって……顔も知らない奴に投資してもらって、研究施設も貸してもらってるのか? ……出会い系サイトか何かでブラドと交流してるってことでいいのか?)
(多分そうでしょうね。ですが、それって……小夜鳴先生がブラドに利用されてるような気がしてならないのですが……)
(……まぁ、その辺りは俺たちが口を挟むようなことでもないし、ひとまずスルーしよう。とりあえず小夜鳴先生は俺たちを雇ってくれるみたいだし、ここは余計なことは言わない方がいいだろ)
(それもそうですね)
小夜鳴の発言に引っ掛かりを覚えたキンジは小夜鳴に気づかれないようにアリアと目と目で会話し、二人そろって軽くうなずく。かくして。知人に会ったり知人の知られざる一面を知ったりという予想外の出来事こそあったものの、結局は紅鳴館で働くこととなったキンジとアリアであった。
キンジ→前回と比べるとかなりまともに見える熱血キャラ。安全確実に人を気絶させる方法としてスリーパーホールドを採用している。
アリア→睡眠時間不足のせいで色々とおかしなことになっていた子。ラリっていた当時の記憶は全て抜け落ちている。また、何気に最初の狂ってたシーン以外で全然声に出して喋ってなかったりする。それでいいのか、メインヒロイン。
理子→アリア相手に強制的に72時間耐久アニメ鑑賞をやらかした子。派遣会社の人間に変装したものの、理子クオリティは健在の模様。偽名として師堂神奈の名を採用している。
小夜鳴先生→実に人格者な武偵高教師に見せかけた、女装趣味を持つオカマ。魔女っ娘コスプレがマイブーム。女装はそれなりに似合ってる(気持ち悪くはないが、体格のせいで女装に違和感を感じるレベル)。白雪の占いで『紛うことなきメガネ』扱いされている。
というわけで、73話終了です。女装癖でオカマな小夜鳴先生をようやく登場させることができました。なので、これからたくさんオカマな小夜鳴先生を登場させ――たい所ですが、この辺の紅鳴館での話はちょっとダイジェスト風味でいこうと思います。何だかそろそろ原作三巻クライマックスたるブラドとの戦闘シーンが書きたくて書きたくて仕方なくなってきましたので。脳内ではもうブラドとの戦闘をどう展開させるか確定してますしね。
~おまけ(いきなり次回予告:悲劇的ビフォォーアフタァァー)~
キンジ「次回、リフォームを行うのは横浜郊外にある紅鳴館。600坪もの広大な土地の内、300坪分を占める洋館です。しかし、広々としているはずの紅鳴館は鬱蒼としていて薄暗く、気味の悪い印象が拭えません。雰囲気の悪い家を開放感あふれる心地いい家に。依頼人:小夜鳴徹の要望を受けて一人の匠が立ち上がります。その名は修羅アリア。常に時代の先の先を行く斬新性と異常なまでの破壊衝動から建築業界のゾルフ・J・キンブリーと称される、常軌を逸した風穴職人であり、好きな言葉は『風穴』、座右の銘は『風穴量産』、決め台詞は『風穴の時間です』という、風穴の神に魅入られた稀代の
理子「え、ええええ!? ちょっ、違うよ遠山くん!? 何か別の番組になっちゃってるよ!? これお家をリフォームする二次創作じゃないからね!?」
キンジ「ま、心配するなよ理子。あくまでアリアがやるのは
理子「な? じゃないよ、遠山くん!? それもっとダメだからね! 人様のお家を勝手に壊しちゃダメだってば!」
アリア「ふふふ、腕が鳴りますね。何たって今日は絶好の風穴日和ですからね(ニヤリ)」
理子「オリュメスさんもやる気にならないで、お願いだから!」
紅鳴館の坪数に関してはテキトーですので、あしからず。