【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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 どうも。ふぁもにかです。今回の話まではシリアス……のはず。とりあえず、シリアスだと信じることにします。でもって今回は今までの中で一番文字数多いです。特に地の文が跳梁跋扈しています。その文字数、なんと8200字超えです。……少々気合い入れすぎましたね。GWだからでしょうか。どこかで2話に分割した方が良かったかもしれません。まぁ今更ですが。



7.熱血キンジとパートナー

 

 雨が降っている。バケツをひっくり返したかのような激しい雨だ。記録的な豪雨と言っても決して過言ではないだろう。新宿の空は灰色模様となっており、降りしきる雨は警察署を後にしたキンジとアリアに容赦なく降り注ぐ。傘を持たないキンジとアリアの体を容赦なく打ちつける。

 

「……アリア」

 

 キンジの前方をフラフラとおぼつかない足取りで歩くアリア。あまりにいたたまれなくなったキンジがアリアの小さな背中に声を掛けると、アリアはその歩みをピタリと止める。アリアはゆっくりとキンジの方へと体を向けてくる。

 

 アリアの名前を呼んだもののアリアに何て言葉をかければいいのかわからない。今アリアがどんな言葉を求めているのかわからない。あるいは何を言ったとしてもアリアの精神状態をいたずらに悪化させてしまうだけかもしれない。いや、そうとしか思えない。神崎かなえの冤罪のこと、イ・ウーのこと、武偵殺しの真犯人のこと。聞きたいことはたくさんある。けれど。今のアリアにはそれらのことをとても尋ねられそうにない。でも。無言のままでいるのはそれ以上に悪手にしか思えなかった。

 

「キンジ。……どうしてでしょうか?」

「ん? というと?」

「……どうして、どうしてお母さんはいつもいつもあんなに平気そうに笑っていられるのでしょうか。罪を被せられているのに。864年もの懲役判決を受けているのに。……もう最高裁まで時間がないのに」

 

 どんな話題を振ったものか。キンジが頭を捻っているとアリアの疑問の声が届く。雨が容赦なく地面を打ち付けているにも関わらず、アリアの今にも消え入りそうなか細い声はキンジの耳によく響いた。「どうして」と繰り返す今のアリアは小学生相当の小柄な体以上にとても小さく見えた。

 

 ヒステリアモードになった俺なら上手くアリアを慰めることができるかもしれない。ふと思いついたアイディアを俺は首を左右に振って否定する。ヒステリアモードになること自体は簡単だ。兄さんが女装を通してヒステリアモード――カナ――に移行するように、俺も俺独自のヒステリアモード移行方法を既に編み出しているのだから。

 

 しかし。ヒステリアモード時の俺は女性を何よりも第一に考える影響でたいそうキザな言動を取ってしまう。後で通常モードに戻った時に頭を抱えてもんどりうちたくなるほどに恥ずかしいセリフを平気で口にしてしまう。現状でヒステリアモードを行使すれば、アリアを慰めること自体は可能だろう。ヒステリアモードの俺は確実にアリアを立ち直らせる幾通りもの言葉を持っているであろうから。

 

 だが。そうすればアリアが俺のキザ極まりない言動に不必要に翻弄されることは確実だ。下手すればアリアの恋心をも掴んでしまうかもしれない。今ヒステリアモードを使うのは、まるでアリアの弱った心に付け込んで俺に惚れさせようとしているみたいで、酷く嫌だった。

 

「もしかしたら。お母さんは冤罪などではなく……本当に罪を犯したのかもしれません。だから。もう諦めがついているから、あんなに平然と笑っていられるのかもしれません」

「……は?」

 

 ヒステリアモードなしにアリアをどうにかしようとキンジが心に決めた時、アリアはキンジの度肝を抜く言葉を放った。キンジは思わず耳を疑った。今、こいつは何て言った? 全く予期せぬアリアの発言にキンジはアリアを見やって、さらに驚愕に目を見開いた。アリアの透き通るような真紅の瞳が虚ろになっている。濁りに濁っている。この目をキンジはよく知っている。これはあの時の、俺が兄さんの死を現実だと認識した時の、鏡に映った俺の目と同じだ。

 

「私とお母さんは家族ですけど、いつも一緒にいたわけではありません。思考を共有できるわけではありません。隠しごとの1つや2つ、あります。さすがに全部の事件にお母さんが関与しているとは思えませんし、お母さんが進んでいくつもの事件の主犯者になったとも思えませんが……それでも、お母さんにも何か事情があって、それでいくつかの事件を起こした可能性は完全には否定できません」

「アリア。お前何を言って――」

「もしかしたらお母さんを利用しようと企んだイ・ウーの連中が私を人質にしてお母さんを脅して、それでお母さんが犯罪に手を染めたのかも――」

「アリアッ!!」

 

 キンジはアリアを叱咤するように叫ぶとアリアの私服の胸元を掴んで引き寄せそのまま渾身の頭突きを放つ。神崎かなえが実際に罪を犯したのではないかと疑い始めたアリアの思考を中断するための強烈な一撃だ。ゴッという鈍い音が辺り一帯に響くもすぐさま雨にかき消されて地面に吸い込まれるようにして消えていく。

 

「頭は冷えたか、アリア?」

「ッ……頭なら雨のおかげでとっくに冷えていますよ。わざわざ頭突きする必要があったのですか?」

「ああ。頭突きじゃなけりゃアリアにグーで殴りかかってたかもしれないからな。それともそっちの方がよかったか?」

「嫌ですよ、そんなの……キンジこそ、頭を冷やさなければいけないのではないですか?」

「だろうな。けど、今は頭が煮えたぎってる方が都合がいい」

「何ですかそれ……」

 

 キンジ渾身の頭突きがよほど痛かったのか。頭突きの衝撃で数歩後ずさったアリアは『神崎かなえ犯罪者説』を取り下げると額に両手をあてて抗議する。全てをかき消してしまうのではないかと錯覚してしまうほどの豪雨なのだが、それでもアリアが涙目になっているのがよくわかる。

 

 だが。そんなことはどうでもいい。アリアが涙目だろうと関係ない。そう思えるほどにキンジはアリアに怒りの感情を抱いていた。怒りに血が燃えたぎっていた。ヒステリアモードに移行する時とはまた違う、全身の血が沸騰するかのような感覚に身を任せていた。もはや今のキンジにアリアを気遣う心は消え失せている。

 

「アリア。一つ聞く。神崎かなえはお前の何だ?」

「何って、そんなの急に言われてましても――」

「いいから答えろ。お前によって神崎かなえは何だ?」

「……お母さんですよ。私の大好きなお母さんです。私を生んで育ててくれた大切なお母さんです。それがどうしたというのですか?」

「そうだな。神崎かなえはお前の親だ。たった一人の母親だ。大切なんだろ? 大好きなんだろ? 失いたくないんだろ? だったら。母親のことくらい信じてやれよ! お前が母親信じなかったら誰があの人を信じるんだよ!? お前が母親諦めたら誰があの人を助けるんだよ!? くだらないこと考えてる暇があったら、どうやってイ・ウーとかいう奴らを捕まえて母親の冤罪を晴らすか、考えてみたらどうだッ!?」

「――ッ!?」

 

 キンジは再びアリアの胸ぐらを掴んで引き寄せると怒りに任せて怒声をあげる。降りしきる豪雨にも負けないくらいの声でアリアを怒鳴りつける。周囲から遠巻きに野次馬特有の視線を感じるが、今のキンジには気にもならなかった。キンジに至近距離で睨まれたアリアはハッと真紅の瞳を見開く。アリアの死んだ魚のような目にスッと光が戻る。

 

「……キンジ。貴方は、信じてくれるのですか? お母さんが冤罪だって。誰も信じてくれなかったのに?」

 

 アリアは見開かれたままの真紅の瞳を涙で滲ませた状態でキンジを見上げてくる。掠れた高音ボイスで、あたかも一縷の希望にすがりつくかのように尋ねてくる。アリアの涙声が全てを物語っている。誰も信じてくれなかった。それがアリアに自分の母親が実は本当に犯罪者なんじゃないのかなどと疑念を抱かせた理由なのだろう。

 

 人間、皆から似たような否定の言葉を言われると存外堪えるものだ。皆から「それは青だ」と言われ続ければ、実際は黒い物でも青だと思い込んでしまうものだ。黒にしか思えない自分がおかしいと感じてしまうものだ。俺も兄さんのことを酷く報道された時は正直堪えた。身が裂ける思いだった。それだけ、数の力は強大だ。

 

 おそらく。過去にいくら母親の無実を訴えても周囲から否定し続けられたアリアはいつの間にか母親の無実を信じて疑わないはずの心に疑念を宿してしまったのだろう。時間が経つにつれてその疑念の闇は膨らみ、知らず知らずのうちにアリアの心をじわじわと侵食していったのだろう。そして今、この場においてそれが表面化した、そんな所か。

 

 尤も。俺がここにいる以上、これ以上アリアの心に潜むアリアの負の感情の好き勝手にはさせないけどな。ここで『神崎かなえ犯罪者説』を持ち出してくるような疑念の闇には消え去ってもらおう。

 

「当然だ。というか普通に考えておかしいだろ。864年の懲役だっけか? どんだけ精力的に悪事働けばそんだけ刑期が長くなるってんだよ。そんな刑期与えられるの、よっぽど頭のネジの飛んだ狂人くらいだぞ。俺は今までSランク武偵として色んな犯罪者と対峙してきた。だからわかるんだよ。お前の母親は人殺しのカテゴリーに入るような奴じゃないって。あの目は狂人の類いがする目じゃないって。他の奴がどう考えてるかなんて関係ない。俺にはどうしても神崎かなえが濡れ衣着せられた被害者にしか見えない、それだけだ」

「キンジッ……」

 

 だから。キンジはアリアの襟首から手を放すとアリアに肯定の意を伝える。否定され続けたアリアを救済するために肯定の言葉を重ねる。もちろん、キンジ目線の根拠をつけることも忘れない。キンジに母親の無実を信じてもらえたことがよほど嬉しかったのか。アリアのキンジを呼ぶ声に歓喜の念がこめられていることがよくわかる。

 

 そもそも。俺個人に向けて『キンジと言ったか? 私の愛娘は難儀な性格をしていてな。色々と誤解することもあるだろうが、まぁなんだ。テキトーに付き合ってやってくれ』などと初対面の男に自分の愛娘を託すメッセージを残すような真似をする神崎かなえが、1人の母親としてアリアの行く先を案じている神崎かなえが、自ら進んでアリアを悲しませることをするわけがない。

 

 と、そこで。キンジはふと考える。神崎かなえの一件は警察組織が何らかの形で介入しているのではないかと。懲役864年分の罪。それは確実に複数の凶悪犯罪を犯した者に送られる刑罰だ。その犯罪の数は少なくとも10は超えていることだろう。果たして、警察はその全ての犯罪において神崎かなえにたどり着く決定的証拠を見つけたのか。全てのケースで神崎かなえにアリバイはなかったのか。アリアが母親の無実を主張する以上、神崎かなえが現行犯で捕まったとは考えられない。なら、それなりに証拠を集めてからきちんと手続きに則って神崎かなえを逮捕したのだろう。その証拠の信憑性は別にして。

 

 仮に。神崎かなえが実際に犯罪を犯しまくる凶悪犯罪者だったとして。その証拠を残してしまっていたとして。だとすると、警察側の対応は酷く不自然だ。何せ、罪を犯すたびにうかつにも犯罪行為の痕跡を残すような神崎かなえの罪が懲役864年分に膨らむまで、警察サイドは彼女を捕まえられなかった、あるいは放置していたということになるのだから。

 

 スケープゴート。キンジの脳裏にスッとそのような言葉が浮かぶ。あくまで無意識のうちに浮かんだだけの言葉なのだが、妙に的を得ているような気がしてならない。キンジは内心で苦虫を何匹も噛み潰したかのような気持ちに駆られた。

 

「キンジ。改めてお願いします。私のパートナーとなってください! お母さんの冤罪を晴らすために協力してください! もう時間がないんです! お願いしますッ!!」

 

 一方。アリアは不意にあふれ出た嬉し涙を零すまいと雨に濡れた服で乱暴に涙を拭うと、キンジに向き直り頭を下げる。これがアリアの理由。アリアが遠山キンジという人間をパートナーにしたい理由。強襲科(アサルト)Sランク武偵、遠山キンジを戦力に引き入れたい理由。断る理由などどこにもなかった。

 

「そんなの、頭を下げられるまでもない」

「ッ! それじゃあ――」

「あぁ。そういうことだ。よかったな、アリア」

 

 キンジはニッと口角を吊り上げてアリアとパートナーとなることに了承の意を伝える。アリアが最も望んだであろう展開。事実、バッと顔を上げたアリアの顔はすぐさま歓喜で満たされる。だが。不意にアリアは表情を不安そうなものに切り替えると視線を虚空に彷徨わせる。

 

「? どうした、アリア?」

「……いいんですね? 私のお母さんは今現在864年分の罪を着せられています。濡れ衣を着せた相手はイ・ウー。軍事国家も手出しできないレベルの犯罪組織です。私に協力するということは彼らと敵対するということです。正直言って、命がいくつあっても足りないことでしょう。今の発言、撤回するなら今のうちですよ?」

「何だそんなことか。誰が撤回なんてするか。男に二言はない。それに相手がどれだけ強大かなんて関係ない。俺はただ突き進むだけだ」

 

 何たって、俺はいずれ世界最強の武偵になる男だからな。キンジは心の中で一言付け加える。アリアは恐らく俺と共同戦線を組む中で俺が死ぬ、あるいは生活に支障をきたすレベルの障害を負う未来を想起してしまったのだろう。だから。アリアは自身に向かって差し伸べられた手を掴むことを躊躇している。時間が残されていない以上、本当は俺だけじゃなく足でまといにならない程度の実力者なら手当たり次第に助力を求めたいはずなのに、実際はたった1人ですら巻き込むのを躊躇っている。母親が冤罪だと信じてくれないかもしれないなどと理由をつけて協力者集めに向かう心を押しとどめようとしている。ホントに難儀な性格してるな、こいつ。キンジは内心でため息を吐いた。

 

「それに、真っ当な人生を歩んできた人間に凶悪犯罪者のレッテルが貼られるなんて理不尽な展開は個人的に大嫌いでな。そういう劣悪な評価は問答無用でぶち壊したくなるんだよ、俺って奴はさ。つーか、人に協力を申し出た張本人が脅してきてどうすんだよ」

「そ、それもそうですね……」

 

 キンジがアリアをたしなめるように言葉を紡ぐと、アリアは今思い至ったと言わんばかりに目を丸くしてキンジに同意してくる。

 

 ――そう。兄さんの時もそうだった。あの時、兄さんはアンベリール号沈没事故に巻き込まれた際に兄さん以外に誰一人犠牲者を出さなかった。兄さん自身の命を投げ出す形で乗客全員の命をしっかりと守り抜いた。それなのに。いざそのことがニュースで報道されるとやれどうしてプロの武偵のくせに事件を未然に防げなかったのかだ、やれ無能極まりない武偵だとマスコミ各社は口々に兄さんの功績に劣悪な評価を下し始めたのだ。まるで口裏でも合わせていたかのように。

 

 武偵はあくまで武偵だ。未来予知者じゃない。あの事故を未然に防ぐことを武偵に求めるのはお門違いだ。そんなに未然に防いでほしいのなら自称凄腕の占い師にでも頼めばいい。星占いでもタロットカード占いでもやってもらえばいい。武偵にできるのは発生してしまった事件をいかに被害を最小にして収束させるかだ。その点において兄さんはほとんど最高と言っていい結果を残した。確かに兄さん自身が犠牲になったことはマイナスポイントだが、だからといってここまで非難されるいわれはないはずだ。

 

 だというのに。マスコミ連中は兄さんを非難しまくるだけでは飽きたらず、挙句の果てには兄さんの葬式にまで突入してきて傷心の俺にカメラにマイクを突き出し兄さんを糾弾し、俺の返答を待つ始末。あの時、お前らには人の心が備わってないのかと思わず絶句したものだ。冷え切った思考でついカメラを拳銃で撃ち抜き呆然として固まるマスコミ連中に「コロスゾ?」と殺気をぶつけたことは今でも鮮明に覚えている。俺のSランク武偵相応の気迫にマスコミ連中が怯え、その中の2割程度が腰を抜かす様をただジッと見下していたことも記憶に新しい。

 

 その後。俺の言動に過剰反応したマスコミ各社はますます俺や兄さん、ひいては武偵自体に非難の嵐をぶつけまくったのだが、さすがにこれ以上好きにさせるのはマズいと考えた東京武偵高校が俺を擁護する内容の抗議声明を発表したことで事態は沈静化した。抗議声明発表を契機に家族を失った遺族の元に無粋にも乗り込んできたマスコミの行動の方が問題ではないのかと世間がマスコミ各社に批判的な目を向けたことが決定打となったのだ。

 

 結果。マスコミ各社は謝罪した。とはいえ、実際の所はただホームページの隅っこに謝罪文を載せただけだ。ついに俺に頭を下げる人は現れなかったし兄さんへの評価を上方修正することもなかった。

 

 そんなことがあったせいだろうか。俺はアリアの母親が置かれた現状を他人事だと思えない。濡れ衣を着せられた神崎かなえに命を賭して乗客全員を救ったにも関わらず一切正当な評価を与えられなかった遠山金一。俺はこの二人を同一視している。だから。真っ当に生きてきたであろう神崎かなえにそれ相応の評価が与えられていない現状が、やってもいない犯罪で捕まっている現実が、酷く我慢ならない。

 

 きっと。神崎かなえを取り巻く状況を知った以上、例えアリアが俺に協力を求めなくとも、俺は単独で神崎かなえの無実を証明しようと奔走していたことだろう。俺は、遠山キンジとは、理不尽を許せないような奴なのだから。

 

「だけど、一つだけ条件がある」

「えッ?」

「ま・さ・か、俺が何の見返りもなくお前に惜しみなく協力すると思ったのか? 武偵にパートナーになるよう頼むんだからWin-Winの関係になれなきゃ話にならないと思わないか?」

 

 俺はお前限定のヒーローじゃないんだぞ? と言葉を加えるとアリアは視線をキンジから離して思案気な顔を浮かべる。そして。アリアは再びキンジを見やると「ああ、そういうことですか」といった表情でポンと手を打った。

 

「……いくらですか? こう見えて私、結構持ってますよ?」

「金じゃない。というか俺がこの状況で金を要求するような奴に見えたのかよ。ちょっとショックだぞ。……はぁ。まぁいいや。俺にはさ、遠山金一っつう兄さんがいてな。それで――」

 

 俺は話した。俺よりも遥かに強くて、カッコよくて、己の定めた正義に忠実に従って第一線で活躍してきた一流の武偵(兄さん)のことを。その兄さんが死んだこと。でもって兄さんがマスコミ各社にこれでもかと貶められたこと。俺が兄さんの名誉挽回のために高みを、世界最強の武偵を目指していること。話がややこしくなりかねないのでカナ関連のこと含め色々と伏せた所もあるのたが、話せることは全部話した。正直、世界最強の武偵のくだりで笑われると思っていたのだが、アリアは決して笑わなかった。アリア曰く、人の目標を笑うのは趣味じゃないのだそうだ。そのことが意外で、凄く嬉しかった。

 

 ところで。どうして俺がアリアに俺の目的を話したのか。それは単純な話、アリアとパートナーとなる上で、アリアの抱える事情を知っておいて俺自身のことを隠しておくなんて真似をしたくなかったからだ。要するに、気持ちの問題だ。

 

「お前の母親の件が終わってからでいい。兄さんの汚名返上に協力してくれないか? アリア」

「お安いご用です。私もお母さんのことを散々に非難したマスコミ各社には思う所があります。私たちの力を全世界に見せつけて、奴らに目に物見せてやりましょう。キンジ」

「言ったな? これからお前は世界最強の武偵になる男のパートナーになるんだからな。途中でへばるようなら承知しないからな」

「わかっています。キンジこそ途中で挫折なんてしないでくださいね。みっともないですから。……それにしても、今まで純粋に頂点を追い求めてみたことはありませんでしたが、どうしてでしょうね。何だか少しワクワクしてきました」

 

 あたかも事前に示し合わせていたかのように、キンジとアリアは互いの瞳を見つめて「フフフッ」と勝気な笑みを浮かべる。今の二人にはいかなる手段を行使しても決して絶望の淵に陥れることはかなわないだろう。そう思わせる何かが、二人にはあった。

 

「これからよろしくな、アリア」

「こちらこそ。よろしくお願いします、キンジ」

 

 いつの間にか雨脚が弱まっている中、キンジとアリアはどちらからともなく差し出された手を握る。相変わらず両者とも不敵な笑みを浮かべたまま、二人は固い握手を交わす。

 

 かくして。遠山金四郎景元の血を受け継ぐ遠山キンジはシャーロック・ホームズの血を受け継ぐ神崎・H・アリアとパートナーとなるのであった。

 

 

――後に歴史は雄弁に語る。この時、後にも先にも類を見ない伝説のコンビが誕生したのだと。

 




キンジ→説教もできる熱血キャラ。
アリア→原作アリアより少々メンタルが弱い。熱血キンジの影響でほんの少しだけ熱血化している。

キンジ&アリアの共通見解
「「首を洗って待っていろ(いてください)、マスコミ連中」」

 マスコミの皆さん逃げて。超逃げて。国外逃亡して。地の果てまで逃げて。宇宙空間に逃げて。虚数空間に逃げて。時空間転移して。でないと……大変なことになりますよ?

 さて。次回からはそれなりに笑い要素を含んだいつもの内容に切り替わることでしょう。シリアス展開とはしばらくお別れです。ええ。さらば、シリアス。


 ~おまけ(NGシーン)~

キンジ「アリア。お前何を言って――」
アリア「もしかしたらお母さんを利用しようと企んだイ・ウーの連中が私を人質にしてお母さんを脅して、それでお母さんが犯罪に手を染めたのかも――」
キンジ「アリアッ!!(ズガン! ←渾身の頭突きの衝突音)」
アリア「――ッ!?(パサッ ←アリアの頭から桃色の何かが落ちた音)」
キンジ&アリア「……(←桃色の何かを凝視しつつ)」
キンジ「アリア、お前……カツラだったのか」
ハゲアリア「……………何か、すみません」
キンジ「いや、俺も……何か、ごめん」

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