【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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アリア「電柱の陰でずっとスタンバッてました」

 どうも。ふぁもにかです。今の私の執筆具合だと、おそらく原作5巻のVS.シャーロックの話が終了する頃には軽く120話超えてるんじゃないかと思えてしまう今日この頃です。……長い道のり極まりないですね、ええ。

 それにしても、今回のサブタイトルがいつになく意味不明な件について。これだけじゃ何のことを指した言葉かなんてまずわからないでしょうね。

P.S.
ふぁもにか「き、貴様、何者だ!? どうしてここがわかった!? ――なッ!? テスト、だと……ッ!? バカな、もう『時』が来てしまったというのか!? クッ、かくなる上は戦略的撤退を――ッ!? 貴様、何をする!? 止めろ! 放せ! 私から自由を奪わないでくれぇぇぇえええええええええええええええ!」



65.熱血キンジと不死鳥の宿縁

 

 キンジがアリアの調子がおかしいことに疑問を抱き、朝食を提供しつつ白雪から原因を聞き、不意打ち極まりない形で理子と再会し、運悪く中空知の相手をすることとなり、レキと協力してオオカミを撃退し、やる気満々なレキから逃げ延びるという、キンジにとって実に濃厚な一日を過ごしたその晩。

 

「峰さんに接触された!? どういうことですか、キンジ!?」

 

 真剣な表情をしたキンジから不意に「話がある」と切り出され、理子とバッタリ再会したことを告げられたアリアの甲高い声が部屋中に響いた。今日は武偵高に通わずに単独で簡単に済む依頼(※あくまで強襲科(アサルト)Sランク武偵目線の印象である)をちゃっちゃと終わらせていたために、今日から理子が再び武偵高に通い始めたことを知らなかったが故のアリアの反応である。

 

「まぁ落ち着け、アリア。もっとクールに行こうぜ」

「これが落ち着いていられ――むぐッ!?」

 

 キンジは声を荒らげるアリアの口にももまんをねじ込みつつソファーに座らせると、簡潔に事情説明に入る。強襲科Sランク武偵らしい、実に淀みない無駄に流麗な動きである。ももまんをねじ込まれた当のアリアは最初こそ眉で不満をありありと示していたものの、すぐに邪気のない笑顔に切り替わる。ももまん様々である。

 

 

「なるほど。司法取引、ですか……」

 

 数分後。モキュモキュとももまんを堪能しつつキンジの話を聞き終えたアリアはスッと瞳を閉じる。神妙な顔をしようと努めているのにももまん服用効果ですっかり頬が緩んでいる様は見ていて何とも微笑ましい。

 

「で、だ。今の理子を犯罪者として捕まえられない以上、アリアの母親を救うためにはどうにか理子が自主的に証言台に立つように仕向けないといけない。そのためには――」

「峰さんの依頼を引き受けて彼女に貸しを与える必要がある、ということですか」

「そういうことになる」

「その依頼の詳細は聞いていないのですか?」

「あぁ。3日後にテキトーに場所を設けて、そこで話すってさ。で、どうする?」

 

 無意識の内に見た目に違わぬ小動物っぷりを見せるアリアをよそに、キンジはアリアの意思を問う。ちなみに。キンジの口にした3日後云々の話は、中空知から解放されたキンジが教室に戻った時に机の中に置かれていた理子からのメモ書きによるものだ。いくらメモ書きの内容から『イ』と『ウ』と『ー』の文字を抜かして逆さまから読まないと決して解読できない類いの暗号が施されていたとはいえ、さすがに無用心が過ぎるのではないかと理子を心配したのは記憶に新しい。

 

「……様子見ですね。ひとまず話を聞くことにしましょうか」

「ん? いいのか? アリアのことだから、てっきり断るもんだと思ってたんだが……」

「まぁ、さすがにイ・ウーの仕事を手伝わされるのはゴメンこうむりますが、それ以外の依頼なら引き受けても大して支障はないでしょう。あまりくだらないことで時間を無駄にしたくはありませんが、それと引き換えに峰さんの証言がもらえるのなら安いものです。とにもかくにも、まずは話を聞かないことには何も始まりませんしね」

「そっか」

 

 しばしの沈黙の後。アリアは静かな声音で判断を下す。ももまん効果が消え去ったために冷静沈着さを取り戻したアリアの姿は普段の神崎・H・アリアそのものだ。少なくとも今朝までの色々と調子の狂っていたアリアはもうそこにはいない。

 

(……これは嬉しい誤算だな)

 

 アリアにとっての宿敵:峰理子リュパン四世の登場という衝撃的事実によってアリアの様子がすっかり元通りになっている。今朝まで確かに存在していた変なぎこちなさがきれいさっぱり消失したアリアを前に、キンジは内心で安堵のため息を吐いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 そして、3日後。

 

 キンジとアリアは防弾制服のままで、理子が事前に指定した場所へと赴いていた。現在地は秋葉原。インドア系統の趣味を持つ人々にとっての聖地と名高い地点であり、同時に武偵たちの間では秋葉原の人口密度具合から『武偵封じの街』と称される場所である。

 

「おっかしいな、この辺だと思うんだけど……」

 

 人気のない薄暗い路地裏にて。人一人がギリギリで通り抜けられそうな程度の細い道を右へ左へと突き進んだ末に一度立ち止まったキンジは、これまた武偵高で理子から渡された手書きの地図と睨めっこをしていた。

 

 理子の地図は目印や方角の記載こそあれど、距離や縮尺に関する情報が全くもって書かれていない。加えて、その目印も『ここにピンクの服を着た面白いおじさんがいる』だったり『この辺によく吠えるチワワがいる』だったりと、辛うじて当てにできるレベルのものばかりだ。そのため、キンジが地図を凝視して頭を悩ませるという構図が出来上がっているのである。決してキンジが方向音痴というわけではないのであしからず。

 

「……キンジ。もしかしてアレじゃないですか?」

「え? あ、ホントだ。不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)って書いてある」

 

 アリアがスッと指差した方向にキンジが目を向けると、その視線の先に確かに二人の目的地があった。不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)。それが今回、理子が自身の依頼の説明の場として指定してきた店である。ちなみに。この店がどういった系統の店なのかについてキンジたちは知らされていない。

 

「……何だか、妙に雰囲気がありますね」

「あぁ。……開けるぞ」

 

 妙に邪悪なオーラを纏っているように感じられる不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)の看板。どこか空虚さと物々しさとを感じる灰色のドア。キンジとアリアは一瞬入るのを躊躇したものの、ここで引き返すわけにはいかないと、互いに視線を合わせて一つうなずく。そして。二人はいつでも拳銃を取り出せる状態を保った上で、キンジがゆっくりとドアを開けた。

 

「「……」」

 

 ギィィとどこか恐怖をそそる音とともに少しずつ開いていくドア。その隙間からこっそり中の様子を確認しようと目を近づけたキンジとアリアの視界に入ったのは三つの人影だった。短髪に黒のサングラスをかけ、そしてガタイのいい体を黒スーツに包んだ、いかにもマフィア組織に属していそうな男三人が仁王立ちで立っている姿だった。

 

「「……ぇ?」」

 

 肝心の理子の姿がないこと。代わりにサングラスで目が隠れているにもかかわらず人相の悪さが全身から滲み出ている謎の男たちの姿があること。全くの想定外な光景にキンジとアリアは思わず声を漏らす。それは注意深く耳を澄ませていなければまず聞こえない程度の音量だったが、その声を三人の男が見逃すことはなかった。三人はまるで示し合わせたかのように一斉に、ギロリと敵意に満ちた視線をキンジとアリアに向けてきた。

 

「いッ!?」

「ッ!?」

 

 いきなり男三人の鋭い眼光に晒されたキンジとアリアは命の危機を感じ、思わずドアから飛びのく。そのまま二人は一目散に不死鳥の宿縁(フェニックス・フェイト)から逃げようとして、パタッと立ち止まる。いつの間にか、さっき自分たちを睨んできた三人に囲まれていたからだ。

 

(い、いつの間に――!?)

「テメェら、どこの組のモンだ? どうやってここの情報を仕入れた?」

「どこまで聞いた? 洗いざらい吐いてもらおうか」

 

 黒スーツの男たちはキンジ&アリア包囲網を徐々に縮めつつ、それぞれドスの利いた声で問いかけてくる。いや、ここまで来ればもはや脅しである。Sランク武偵二人をその場に硬直させるレベルの威圧のオーラを全身から放ちながら少しずつ近づいてくる男たち。それはその辺のホラー映画を軽く凌駕する怖さだ。

 

「「……」」

「……だんまりか。ならこっちにも考えがある」

 

 状況についていけないキンジとアリア。ただ石のように固まる二人の反応を、二人が生意気にも黙秘権を行使していると判断したのか、三人の男たちの中のリーダー格らしき一人が懐からスッと黒光りする拳銃を取り出す。

 

(あれ? おいおい、ちょっと待て。これ、もしかして理子の奴にハメられた!? まさかヤのつく自由業の皆さんの拠点に乗り込んじゃった!?)

 

「――ッ」

 

 男が凶器を取り出したことにより、頭の中では未だにパニックながら、どうにか応戦しようとキンジは本能的に戦闘体勢に入る。

 

「――えっと、何をやっているのかな? U-1(ウー・アインス)?」

 

 と、その時。キンジとアリア、そして男三人を取り巻く物騒極まりない雰囲気とは明らかに場違いな女声が届いた。すると、今の今まで尋常じゃないオーラを醸し出していた三人が目に見えて狼狽を始める。

 

「お、お嬢!? どうしてここにッ!?」

「そんなことどうでもいいでしょ。それよりそこの二人はボクの招いたお客さんだよ。事前に連絡したはずだけど?」

 

 慌てふためく三人を代表した男もといU-1(ウー・アインス)の問いかけに女性の責めるような声が返される。その声はキンジとアリアにとって聞き覚えのある声だったのだが、肝心の姿は黒スーツの男たちの体格がしっかりし過ぎているために一切見えていない。

 

「……ハッ! ま、まさかこの方々がお嬢の言っていた例の客人ですか!? これは失礼な真似を! 申し訳ありません! エンコ詰めるんで、それでご勘弁くださいッ!」

「「ご勘弁くださいッ!」」

 

 女性の発言を受けたU-1(ウー・アインス)はバッとキンジとアリアの方に向き直ったかと思うとすぐさま両膝をつき、それはもう深々と土下座をする。先までとは打って変わって丁寧語で口早に謝罪を述べたU-1(ウー・アインス)は次の瞬間、どこからかギラリと光を反射する日本刀を取り出す。そのU-1(ウー・アインス)の行動に追随するように残りの男二人もそれぞれシャランと日本刀を鞘から抜き去る。

 

「いやいやいや! いいって! そういうことしなくていいって! 謝ってくれただけで十分だから!」

「そうですよ! みだりに自分の体を傷つけるのはどうかと思いますよ! 貴方たちの気持ちはよくわかりましたから、とりあえず落ち着いてください!」

 

 ヤクザを彷彿とさせる外見。謝罪。エンコ。日本刀。以上の事柄からこれから自身の眼前で発生するであろう展開を予測したキンジは日本刀を掲げる男の手首を掴む形で慌てて男たちの行動の妨害に入る。それにワンテンポ遅れてアリアも男たちの暴走を食い止めにかかる。目の前で見知らぬ他人の指が切り落とされるシーンなんて欠片も見たくないため、二人の表情は必死そのものだ。

 

「「おぉぉ……!」」

「な、何と心優しい御仁たちだ……ッ!」

 

 キンジとアリアが情けをくれたと思ったらしい男たち三人は二人に感動したような眼差しを向ける。つい1分前までは敵意に満ちた眼差しだったこともあり、いきなり純粋な善意に満ちた視線を注がれるという急展開にキンジとアリアは思わずたじろぐ。世紀末の世界に出てきそうな人相をした男たちの掛け値なしのキラキラとした視線を受けた二人は居心地の悪さを感じて一歩後ずさる。

 

「ほら。わかったなら皆戻って。店前で集まってると他のお客さんの迷惑になっちゃうよ?」

「「「――了解です、お嬢!」」」

 

 と、場が沈静化しつつあるのを見計らった女性がパンパンと手を叩いて男たちの迅速な行動を急かす。そして。男たちを店内へと退散させると、女性は「はぅ……」と気の抜けたため息を吐く。

 

「ご、ごめんね、驚かせちゃって。ささ、入ってよ。遠山くん、オリュメスさん」

 

 その後、恐る恐るキンジとアリアの反応を伺うようにして店内へと誘導する女性。それは、いつものように改造制服に身を包んだ峰理子リュパン四世の姿だった。

 




キンジ→ここの所、アリアの扱いが若干雑になっている感が否めない熱血キャラ。中空知美咲、オオカミ、ヤのつく自由業をやっているっぽい男三人と、つい恐れをなしてしまう対象と最近何かと立て続けに出会っていたりする。
アリア→一応メインヒロインなのにここ4話ほど出番のなかった哀れな子。……原作3巻は実質りこりんヒロインの話だから仕方ないよね! うん!
理子→今回はビビり要素が控えめだったビビり少女。ヤのつく自由業をやっているっぽい男三人を従えている模様。さっすがりこりん!
三人のモブ男→ヤクザっぽい外見をしているキャラの濃いモブ三人衆。無駄にハイスペックなため、逃げようとするキンジとアリアの逃走ルートにナチュラルに先回りしたりする。

 というわけで、65話終了です。原作ではメイド喫茶で発生していたりこりんとの会話イベントですが、折角の二次創作なので場所を変更させてもらいました。さて、キンジくんたちがやって来た場所は果たしてどこでしょう? ま、店名でもう予測できると思うけど。


 ~おまけ(ネタ:一方その頃 注目度の高いハイマキさん)~

オオカミ「……(←任務失敗により帰る場所を失い、とりあえず体育館裏に潜伏してるオオカミさん。いつ戦闘狂(レキ)が現れるかわかったものじゃないと恐怖を抱いているためにロクに睡眠もとれず、それなりに衰弱している)」

武藤「……動物園から逃げた、のか……?(←体育館裏に勝手に作った地下室から)」
中空知「そういえば動物実験ってまだやったことなかったなぁ……(←体育館裏の物陰から)」
風魔「……捕獲したら面白そうなことになりそうでござるな。ニンニン♪(←体育館裏周辺の電柱の上から)」
白雪「あの子、誰かのペットなのかな? ……もふもふしたいなぁ。ちょっとでいいから触らせてくれないかなぁ? あ、ビクッてしてる。可愛い(←体育館裏周辺の草むらから)」
ジャンヌ「あの様子から察するにブラドから逃げたようだな。……ふむ、ちょうどいい。そろそろ銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)たる我にも自由の利く下僕が必要かと思っていた所だ(←武偵高から望遠鏡を覗きつつ)」
もう一人の神崎さん「おいおいおいおい!? なんでこんな所にオオカミなんかいるんだよ!? 今は大人しくしてるからいいけど、下手したら大惨事になるぞ!?(←体育館内部から)」

オオカミ「クゥゥン……(やけに見られてる気がするワン)」

 何だかんだで体育館裏に集うことに定評のある主要メンバーたちであった。

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