【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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武藤「……おのれリア充。爆発しろ……」

 どうも、ふぁもにかです。今回は主人公キンジくん不在の幕間回であり、一時はリクエストの多かった例の二人の話です。まぁそんなわけで今回の話は本編自体には全く影響を及ばさないので、見なくても全然問題なかったりします。



64.厨二ジャンヌと変わりゆく日々

 

 時は少しさかのぼる。

 キンジとレキがコーカサスハクギンオオカミと出くわした、ちょうどその頃。

 

「く、屈辱だ……!」

 

 放課後の東京武偵高にて。ジャンヌ・ダルク30世は不機嫌に廊下を歩いていた。夕日に映える銀糸のような髪が歩調とともにたなびく姿はまさに絵に描いたような美少女そのものなのだが、明らかに苛立ちを見せていることがその魅力をわずかながら無効化してしまっている。

 

 さて。一時は策略を巧みに駆使して星伽白雪を誘拐しようとしていた超偵狙いの誘拐魔がどうして制服姿で武偵高にいるのかというと、簡単な話、ジャンヌがパリ武偵高からの留学生として東京武偵高に通うこととなったからだ。司法取引の果てにジャンヌに課せられた条件の一つであるため、当然ながらジャンヌに拒否権はない。

 

(クッ、なぜ我がこんな仕打ちを受けなければならないのだ!? 我は泣く子も逃げ惑う銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)だぞ!? 氷と雷とのハイブリッド超能力者(ステルス)だぞ!? 通わせるなら通わせるで、せめてリコリーヌと同じクラスにするぐらいの配慮があってしかるべきではないのか!? なぜA組じゃなくてB組なんだ!? しかもB組は例のあの女が担任をしているし――)

 

「あ、ダルクさん」

「ひぅ!?」

 

 ジャンヌが頭の中で延々と負の感情をさらしていると、不意に背後から声をかけられる。その際、声をかけられた当の本人の口からつい情けない悲鳴が漏れる。後ろを振り向きたくない思いにどうにか蓋をしたジャンヌがギギギッとぎこちない動きで背後に視線を送ると、そこには噂をすれば何とやら、つい最近ジャンヌにトラウマを植え込んだ2年B組担任:綴梅子が立っていた。

 

「い、いつの間に我の背後を――!?」

「へ? ただ普通に近づいただけやけど?」

 

 動揺に満ちたジャンヌの問いかけに綴は首をコテンと傾ける。傍から見れば非常に可愛らしい動作なのだが、ナチュラルに背後を取られたジャンヌにとって綴の反応は恐怖を助長するだけでしかなかった。

 

「それより新しい環境はどうや、ダルクさん? もう馴染んだかな?」

「ハッ。どうして我がこんな所に馴染む必要がある。むしろ馴染まないといけないのは周りの方だ。何だ、あの群れるだけの低レベルな連中は? 無能にも程がある」

「まぁまぁ、未熟なのは仕方あらへんよ。皆まだ子供なんやし」

「クックックッ。子供だから何だ? そんなもの関係あるか。一般人が到底持ちえない武力を平然と行使することが許された世界で年齢など言い訳になるわけがない、違うか?」

 

 ジャンヌが綴への恐怖をごまかすように綴の甘さを非難すると、対する綴は曖昧な笑みを浮かべて腕を組み、「……う~ん。まぁ、確かに一理あるなぁ」とうなずく。教師としてはジャンヌの意見を認めるのはどうかと思うが、あくまで一個人としては同意できる、といった感じの反応だ。

 

「ま、でも折角こうしてここに通っとるんやし、皆と仲良くしてやってや。やないと――またダルクさんで実験しちゃうかもしれへんよ?」

「ッ!?」

「ほな、また明日♪」

 

 綴はジャンヌの耳元で空恐ろしい発言を残した後、後ろ手でひらひらと手を振りつつその場を去っていった。綴の一言でかつて自分が経験した時計部屋のことを思い出したジャンヌはガタガタと体を震わせる。体のコントロールが効かなくなったジャンヌは自分の体がうっかりくずおれてしまわないように廊下の壁にもたれかかるので精一杯だった。

 

 それから数分後。何とか落ち着きを取り戻したジャンヌは深く深く嘆息する。

 なぜ銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)でありイ・ウーの一員たる自分が学生生活を強いられているのか。理由なんて決まっている。考えるまでもない。

 

(所詮、我が敗者だということか……)

 

 敗者に人権はない。今まではそんな世界で生きてきたのだ。イ・ウーに関する情報を外道極まりない手段で無理やり吐かされた経緯があるとはいえ、そこから考えればこの待遇は素晴らしく優しくて、同時にぬるいものだ。不満はあるが、ここは割り切るしかないだろう。

 

(……クックックッ、覚悟しておけよ。今はあくまで雌伏の時だ、いずれ目にもの見せてやる)

 

 ジャンヌはネガティブに染まった考えを振り払うように軽く頭を左右に振ると心の中で綴への復讐を誓う。それからジャンヌはニィと笑みを浮かべた状態で再び廊下を歩き始める。その赤と青のエセオッドアイの瞳が一人の男子生徒を捉えた瞬間、ジャンヌの双眸はこれでもかと見開かれた。

 

 なぜなら。ジャンヌの視線の先で歩を進めるその男子生徒は、東京ウォルトランドにて花火大会が開催された時、葛西臨海公園駅で男衆に絡まれていたジャンヌを助けてくれた人物――不知火亮――だったからだ。

 

「貴様、あの時の――ッ!」

 

 ジャンヌは思わず不知火を指差し、驚きの声を上げる。同時に自身の容姿を褒められたことがフラッシュバックしたジャンヌは思わず顔をわずかに赤くする。一方。いきなり指を差された不知火は歩みを止めてジャンヌのいる方向へと体を向けると「ん? 誰だ、テメェ?」と胡乱げな眼差しとともに言葉を返した。

 

「なッ!? 誰だ、だと!? 貴様、忘れたとは言わせないぞ、制限なき破壊者(アンリミテッド・デストロイヤー)! 花火大会の時に確かに会ったではないか!?」

「いや、だから誰だよテメェ? テメェみたいな知り合いなんて俺にはいねぇぞ?」

 

 不知火の思わぬ発言にジャンヌはずかずかと不知火へと詰め寄り、襟を両手で掴んで声を荒らげる。しかし、それでも不知火の反応は一貫したままだ。

 

 本当に忘れてしまっているのか。それともただとぼけているだけなのか。桁外れに可愛いなどと平然と言っておきながらこの男は……! とジャンヌが内心でふつふつと怒りをたぎらせていると、ふとジャンヌは当時の自分が黒髪版:神崎・H・アリアの変装をしていたことを思い出した。

 

「――っと、そうか。そういえばそうだったな。それならば我のことがわからないのも無理はないな。うむ」

「おい。なに一人で勝手に納得して――って、待て。その変な喋り方どっかで聞いたような……」

 

 不知火の反応に合点のいったジャンヌは不知火の襟から手を放して得意げに腕を組む。そして。ジャンヌの変わった話し方から曖昧な記憶を引きずり出そうと奮闘する不知火にジャンヌは委細を説明した。もちろん、あの時の自分が星伽白雪の誘拐を画策していたことは伏せてだが。

 

「あー、なるほど。あの時、あの野郎どもに絡まれてた奴か」

「うむ。そうだ。で、だ。……あの時は助けてくれて、感謝する」

「? 何だ、いきなり?」

「なに、あの時は感謝の言葉を伝え忘れていたのでな。またこうして会える機会があって助かった。それもこれも女神の加護の賜物だな」

「……たかがお礼ぐらい、そんなに気にすることじゃねぇと思うけどなぁ」

 

 ジャンヌの感謝の言葉を受けた不知火は投げやり気味に言葉を吐く。ジャンヌがサラリと口にした女神の加護云々については華麗にスルーして。

 

「しっかし、お前も武偵だったのか。なんで神崎さんとそっくりの変装をしてたかは知らないけど、武偵ならわざわざ俺が助けるまでもなかったかもな。余計な手出しだったか?」

「い、いや、そんなことはない。あの時はうかつに力を振るえない状況だったからな」

「そっか。なら問題ないな」

 

 不知火はジャンヌから視線をズラし、窓を通して外の景色を見やる。ジャンヌは何の気なしに不知火の横顔を見つめる。直後。ドクンと、唐突に胸が高鳴る感覚を覚えた。

 

(な、なぜだ? なぜ我はこうもドギマギしているのだ……!?)

 

 ジャンヌは顔面に血液が集中しているような錯覚に内心で狼狽する。今まで感じたことのない未知の感覚に混乱する。まるで自分の体が自分のモノじゃなくなったみたいだ。何がどうしてこうなった。ジャンヌは自身に発生した異常事態に対処するために弾かれたように不知火の横顔から目線を離し、はやる気持ちを収めようと胸に手を当てて深呼吸をする。

 

(お、おおおお落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け餅つけ落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け餅つけ落ち着け落ち着け落ち着け落ち着けぇぇえええええええええええええ――)

「つーかさ」

「――ッ!? な、何だ、制限なき破壊者(アンリミテッド・デストロイヤー)?」

「いや、お前って結構変わった喋り方するんだなって思ってさ。アクセントも独特だし」

「あ、いや、これはカッコいいと――」

 

 気持ちを静めている最中に不知火に声をかけられたジャンヌは裏返った声で応答する。その後、自身の口調について触れてきた不知火にジャンヌは自身の考えを率直に口にしようとして、言葉に詰まる。唐突に、目の前の男相手に己の口調を誇る類いの発言をしてはいけない気がしたからだ。

 

「――コホン。まだ、日本語に慣れなくてな」

「あー、まぁ、日本語って外人からしたら難しいって話だしな。平仮名、片仮名、漢字の三種類をマスターしないといけないってだけで異様に難易度高そうだし」

「ま、まぁな」

 

 自身の直感を信じることにしたジャンヌは咳払いをすると、即興のウソを吐く。対する不知火は「大変だな、お前」と言いたげな瞳をジャンヌへと向ける。

 

「そんじゃ、そろそろお暇させてもらうわ」

「え、あ……」

 

 と、そこで。携帯で現在時刻を確認した不知火は実にあっさりとその場を去っていく。徐々に遠ざかる不知火の姿に言い様もない寂しさを感じたジャンヌの表情に影が差す。

 

 今日は偶然、自分を助けてくれた恩人とも言える男と出会うことができた。しかし、これからも今日みたいに偶然会えるとは限らない。東京武偵高の規模が案外大きい以上、未だ名前も年齢も専攻も知らない一生徒とバッタリ再会しましたなんて状況がそう何度も発生することは期待できない。

 

 いや、顔はしっかりと覚えたのだからまた会いたいのなら探し出せばいいだけだ。探し出すこと自体はそこまで苦労しないだろう。ただ問題はその先にある。

 

 それはあの男が自身に対してあまり友好的な態度を示さなかった点だ。そうなると、今回みたいに何かしら会って話す理由(※例:お礼を直接言う)がない限り、こちらから接触を試みた所で大した成果は得られないだろう。それどころか、下手したら煩わしく思われる可能性だってある。

 

(どうしたらいい? どうしたら今日みたいに話す機会を作り出せる……?)

 

 ジャンヌは必死に頭を働かせる。どうして自分がこんなに躍起になっているのか、会ってもっと色んな事について話したいと思っているのかわからないままに、ジャンヌは己の策士の一族としてのスペックを最大限利用して考えを巡らせる。

 

 

 ――そして。策士ジャンヌは閃いた。

 

 

「ま、待て。待ってくれ」

「あ?」

「その、よかったら、にッ、日本語を教えてくれないか? その、書き言葉は大体何とかなっているのだが、話し言葉に関しては中々覚えが悪くて、苦労しているのだ。だから、手を貸してほしい」

 

 ジャンヌは急いで不知火の進行方向へと回り込むと、不知火の目を一心に見つめて頼みごとをする。もちろん、日本語に苦労している発言は真っ赤な嘘である。というのも、イ・ウーの公用語は日本語とドイツ語であり、ジャンヌはそのどちらもきちんと習得しているからだ。ゆえに、日常生活に支障をきたすレベルはとっくに脱している。

 

 外国人にとって日本語習得は難しい。その認識を相手が抱いている以上、日本語を教授してくれる、なんて展開になれば必然的に眼前の男と会う機会は多くなる。その間にある程度親密な仲にまで進展させれば万事OK。そのような魂胆の元でのジャンヌの作戦である。

 

「ハァ? なんで俺が?」

「えッ……」

「ったく、一度助けたからって何度も助けてくれるなんて思うなよ。そーゆーのはその辺のお人好しな奴にでも頼め。それに、俺から学んだって逆にややこしくなるだけだしな」

 

 我ながらとっさに考えついたにしては中々に良案なのではないか。内心で自画自賛するジャンヌの思考を遮ったのは不知火の突き放したような声だった。不知火は一息にジャンヌの提案を拒否すると、ふぅとため息を吐く。

 

 一方。提案を拒否された当の本人たるジャンヌの表情がまるで捨てられた子犬のような絶望に満ちたものへと変わる。この時。ジャンヌは聖剣デュナミス(以下省略)が折られた時と同等、いやそれ以上のショックを受けていた。が、不知火の言葉はこれで終わりではなかった。

 

「けど、そうだな。もしかしたら偶然、何の用事もない時にテメェの前を通りかかるかもしれないな。その時なら特に問題ない」

「……え?」

「ここで生活するってんなら早めに日本語マスターしといた方がいいだろうし、明日から早速取りかかるか。さすがに毎日とはいかねぇけど、とりあえず放課後でいいか?」

「あ、あぁ。それで構わない」

 

 呆然と立ち尽くすジャンヌをよそに、不知火はどこか歯切れ悪そうに言葉を紡ぐ。その遠回しな発言の意図を瞬時に察したジャンヌはあくまで表面上は冷静に返答する。しかし、心の奥底では狂喜乱舞の有り様と化していた。

 

(……わからない。なぜ我はこんなにも嬉しいなどと思っているのだ?)

「つっても、教えろって言われても何をどう教えればいいかなんて漠然としすぎてよくわかんねぇからな。あらかじめ教えてほしい場所考えとけよ」

「うむ。わかった」

「――っと、そうだ。まだお前の名前を知らなかったな。俺は不知火亮。2年A組で強襲科(アサルト)を専攻してる。お前は?」

「わ、我は銀氷の魔女(ダイヤモンドダスト・ウィッチ)――じゃなくて、ジャンヌ・ダルク30世だ。2年B組、情報科(インフォルマ)所属だ。よろしく頼む」

「あぁ」

 

 ジャンヌの中の冷めた部分が自分自身に疑問を呈する中、ここでようやく自己紹介をしていなかったことに気づいた不知火は改めてジャンヌへと向き直る。そして。互いに名前等を名乗った後、どちらからともなく差し出された手を握るジャンヌと不知火。この出会いを契機に、過去に一度接点があっただけの二人の日々に彩りが生じ始めることを二人はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 ちなみに。

 

「いやぁー、青春やなぁ……」

 

 二人の出会いから握手までの一部始終を陰からこっそり覗いていたとある女教師の存在に二人が気づくことは終ぞなかった。

 




ジャンヌ→司法取引の結果、東京武偵高に通うこととなった厨二少女。不知火の前では、厨二な言動はほとんど鳴りを潜めている(あくまで今の所だが)。割とチョロい。余談だが、時計部屋を経験して以降、時計を一切使わない生活を実践している。
不知火→高1の2学期で夏休みデビューを果たし、不良と化した子。ツンデレ疑惑発生中。何気に『熱血キンジとHSS』以来の42話ぶりの本編登場だったりする。
綴→ここ最近、ジャンヌいじりを趣味としている既婚教師。そのため、ジャンヌに対しては存分にSっ気を発揮している。

Q.ここのジャンヌちゃんはどうしてこんなにチョロい娘なんですか?
A.だってジャンヌちゃんだもの。

 というわけで、64話終了です。不知火くん主催の日本語教室でジャンヌちゃんが不良言語を身につけるフラグですね、わかります(笑)
 それにしても、ここだと不良少年と厨二少女との異色のカップリングですが、原作の二人のカップリングでも悪くないと思うのは私だけですかね?


 ~おまけ(ちょっとしたネタ)~

不知火「ったく、一度助けたからって何度も助けてくれるなんて思うなよ。そーゆーのはその辺のお人好しな奴にでも頼め。それに、俺から学んだって逆にややこしくなるだけだしな。けど、そうだな。もしかしたら偶然、何の用事もない時にテメェの前を通りかかるかもしれないな。その時なら特に問題ない」
ジャンヌ「……え?」
不知火「べ、別にあんたの為に頼みを聞いてあげようとか、そんなこと全然思ってないんだからねッ!(←裏声かつ頬を赤らめつつ)」
ジャンヌ「えぇぇ……(←ドン引き)」
不知火「ねぇ、聞いてるの!?(←ビシッと指差しつつ)」
ジャンヌ「あ、え、う、うむ(←とりあえずうなずくジャンヌ)」
綴「……(←絶句)」

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