【完結】熱血キンジと冷静アリア   作:ふぁもにか

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アリア「|ω・`)チラッ」
アリア「|ω・`)ジィー」
アリア「|ω・`)ワタシノデバン…」
アリア「|ω・`)グスッ」
アリア「|ω・`)ベツニイイモン…」

 どうも、ふぁもにかです。何だかオオカミの身に得体の知れない不安が感じられるサブタイトルとともに63話スタートです。ちなみに。戦闘回になると何かと地の文が増えるというふぁもにかの法則は健在ですので、テキトーに読み飛ばしながら楽しんでくれると幸いです。




63.熱血キンジとオオカミの行く末

 

「ここか……」

「はい。先ほどのオオカミなら確実にここにいます」

「それも『風』とやらが教えてくれたのか?」

「はい。ですが、肉眼でも姿を捉えたので間違いありません」

 

 突如として街中に現れそして姿を消したオオカミを追っていたキンジとレキはとある廃ビルを遠目に立ち止まる。その老朽化の進んでいるのが一目でわかる廃ビルはただいま絶賛解体作業中らしく、本来廃ビルを取り囲んでいるはずの壁はなくなっており、上階部分は鉄骨のみとなっている。

 

「で、オオカミは今どんな感じだ?」

「5階にいます。おすわりの状態のまま微動だにしていません。あの様子から察するに、おそらく私たちの到着を待っているのだと考えられます」

「じゃあ、オオカミの周辺に人はいるか? ほら、ビルの解体業者の人とか」

「大丈夫です。今あのビルは無人です」

「そっか。ラッキーだな」

 

 視力6.0という、驚異的な視力を保持しているレキの力を借りてキンジはオオカミの様子を把握する。あらかじめ想定していたよりは悪い状況に陥っていないことにキンジは安堵の息を零し、わずかに笑みを浮かべた。

 

「レキ、作戦はどうする? やっぱり俺が前衛か?」

「はい。1,2分でいいので、キンジさんはアレの注意を引きつけていてください。その隙に私が遠くから仕留めます」

「わかった。けど、倒せると思ったら俺がちゃっちゃと倒してもいいんだよな?」

「はい。構いません……と言いたい所ですが、今回のとどめは私に譲ってくれませんか? 少し考えがありますので」

「? まぁいいけど」

 

 キンジの瞳を覗き込み、頼み込むようにしてレキが問いかける。何を目論んでの発言かはわからないが、わざわざレキが企んでいることを邪魔する理由はない。キンジはレキが人にものを頼むなんて珍しいななどと思いつつ、レキの頼みごとを承諾した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

『準備OKです。キンジさん、オオカミと接触してください』

「了解」

 

 インカムを通してレキの指示を受けたキンジはバタフライナイフと拳銃を手に廃ビルへと踏み込む。レキは現在、別の廃ビルの射撃ポイントで待機中だ。きっと今頃、自身に例の暗示をかけている頃だろう。

 

「グルルルルルルル――」

 

 キンジが時折軋んだ音を鳴らす階段を上って5階へと到達すると、その先についさっき対峙したばかりのオオカミが悠然と立っていた。キンジの姿を捉えたオオカミは凶悪な牙を見せて威嚇の唸り声を鳴らす。やっと来たか、待ちわびたぞとでも言いたげな唸り声。その態度にはどこか王者の気品のようなものが感じられる。

 

(レキの射撃位置はあそこか……)

『キンジさん。始めてください』

 

 キンジは自分に協力者がいることを悟られないように注意しつつ、レキの位置を確認しようとさり気なく視線をさまよわせる。そして。オオカミの背後にそびえ立つ廃ビル2号からキラリと光が反射して見えることからレキの正確な居場所を把握したキンジはレキの指示よりも早く行動に打って出た。

 

「喰らえッ!」

 

 キンジはオオカミの足を狙って数発銃弾を放つ。先の戦闘でオオカミが銃弾をかわしたのが単なる偶然かどうかを判断するための牽制の攻撃だ。対するオオカミは銃弾がしっかりと見えているのか、最小限の動作で銃弾をかわす。そのままオオカミは次はこっちの番だと言わんばかりに目にも止まらぬ速さでキンジの背後に回り込み、首に噛みつこうと飛びつく。実に肉食動物らしい攻撃方法だ。

 

「ガゥゥアアアアアアア!!」

「くッ……!」

 

 キンジはオオカミの噛みつき攻撃をバックステップで避ける。ズシンという重量感あふれる着地音とともに繰り出されたオオカミの爪撃をキンジはバタフライナイフを使っていなそうとする。だがしかし。オオカミの攻撃の衝撃に耐えかねたキンジの手は後ろと弾かれ、ついバタフライナイフを手放してしまう。

 

(チッ。やっぱこいつの攻撃凄く重いな。これは本格的にかわすしかなさそうだ)

 

 いくら防刃加工がなされている制服を着ているとはいえ、それが効果を発揮するのはあくまで刃物を持った人間相手の場合。強靭な力を秘めた野生動物相手でもしっかり防刃制服が機能してくれる、などといった楽観的な考えは抱かない方がいいだろう。

 

 野生動物らしい俊敏さと凶暴さを兼ね備えたオオカミの怒涛の攻撃を前にキンジはひとまず回避に徹する。多少無理をすればヒステリアモードになるまでもなくどうにか倒せるだろうが、今の俺は一人じゃない。レキという頼もしい味方が控えている以上、敢えて自分一人の力でオオカミ退治に走る必要はない。そのように結論を下したがゆえの行動である。

 

「この!」

 

 とはいえ、自身が囮の役目をかっていることをオオカミ側に悟られたら意味がない。そのため、キンジはオオカミの攻撃の合間を縫うように反撃している風を装いつつ、思い出したように反撃の銃弾を放つ。その際、いかにも必死そうな声を上げることも忘れない。

 

「グルルウウウウアアアアアアアアアア!!」

 

 一方のオオカミは苛立ちの咆哮とともに思いっきり跳躍し、重力を存分に味方につけてキンジに飛びかかる。全力で攻めているにもかかわらず、未だにキンジにダメージを負わせられていないという現状に対する腹立たしさが如実に態度に表れているようだ。けれど。キンジを踏み潰すはずだった前足はまたも床を力強く踏みつけるのみとなった。

 

(――って、これビルの耐久性ヤバくないか? 頼むからもうちょっとだけもってほしいんだけどな……)

 

 そうして。オオカミが巨躯を駆使して飛びかかってくる度にミシリミシリと音を鳴らす床に不安が募るキンジだったが、だからといって戦う場所を変える余裕を与えてくれるほど眼前のオオカミが気長ではないのは一目瞭然だ。

 

(これはワイヤーでも使って少しでも動きを封じた方がいいか? これ以上好き勝手に暴れられても困るしな。それかここらで新しい武器(・・・・・)を試して――)

『撃ちます』

「ッ!」

 

 キンジとオオカミの戦闘が始まってからかれこれ1分。オオカミが天井に届かんばかりに高く跳躍した時、あくまで淡々とした口調でレキから合図が送られる。今まさに新たな手札を切ろうとしていたキンジは即座にバックステップでオオカミから距離を取る。合図をしたら全力で退けとレキから事前に言われていたためだ。

 

 そして。キンジがオオカミから十分に離れたのと同時に、ターンと、レキのドラグノフが火を噴いた音が聞こえた。しかし。どうやって背後&遥か遠方からの銃弾を察知したのか、オオカミはこれすらも薄皮一枚の所で避けてしまう。今、オオカミは自在に身動きの取れない空中にいるにもかかわらず。

 

「おいおい!?」

 

 失敗した。キンジが表情を険しくする中、オオカミを襲う凶弾となりえなかった黒い銃弾はそのまま床を穿つ。刹那、銃弾を中心に床にビキリとヒビが入ったかと思うと、銃弾は鼓膜を破らんばかりの爆発音とともに辺り一帯に紅蓮の炎をまき散らした。

 

「なッ!?」

 

 キンジは巻き上がる爆風から身を守るために思わず両腕で顔を覆う。ついうっかり吹っ飛ばされることのないように両の足でしっかりと踏ん張る。その両腕に守られたキンジの両目が、モクモクと周囲を支配する煙の隙間から、為す術もなく下階へと落下していくオオカミの姿を捉えた。レキが何らかの方法――おそらく炸裂弾(グレネード)でも使ったのだろう――でオオカミが自身の着地場所と定めていた場所を跡形もなく破壊した以上、オオカミの落下は当然の結実だ。

 

 と、そこで。キンジは立ち込める煙の影響でオオカミを見失う。その直後、再びターンとレキの射撃音が微かに響く。そして。ドラグノフの発砲音の後を追うようにズーンと廃ビルを上下に揺らす重低音が反響した。

 

(オオカミは!? 倒せたのか!?)

 

 揺れが収まるまでその場で待機していたキンジはオオカミの生死を確認しようと階段を使って4階へと駆け降りる。もちろん、オオカミの落下地点から飛び降りてショートカットをするような真似はしない。

 

「何て、奴だ……」

 

 キンジは地に横たわるオオカミの姿に戦慄を覚える。果たして、オオカミは生きていた。その体から血を一滴も流していないことから鑑みるにどうやらレキの二発目もオオカミに命中しなかったようだ。オオカミのあまりの回避能力の高さにキンジは息を呑む。

 

 しかし、オオカミに外傷は見られないというのに、オオカミが俺に敵意を見せるだけで全然動こうとしないのは一体どういうことだろうか。上階から落下しただけでどこか体の内部に致命傷を負ったとはとても思えないというのに。

 

「脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾で掠めて瞬間的に圧迫しました。今の貴方は脊椎神経が麻痺し、そのため首から下が動かない。とはいえ、5分もすればまた元のように動けるようになっているでしょうが」

 

 脳裏に湧き上がるキンジの疑問に答えるようにして、いつの間にかオオカミの元へとやって来たレキがオオカミに語りかける。レキは二発目を外してはいなかった。それどころかオオカミの回避能力を計算に入れた上で、どこまでも正確で精密な射撃をやってのけた。レキの並外れた実力を改めて認識したキンジの背にゾゾゾッと戦慄が走る。

 

「主を変えなさい。今から、私に。そうでなければ、都会から姿を消して野生として生きなさい。その他の選択肢は認めません。妙な真似をすればここで射殺します。制限時間は3分です。さぁ、貴方はどうしますか?」

 

 自らしゃがみ込んでオオカミと視線を合わせたレキはオオカミに問いかける。白銀のオオカミはレキを凛と睨む。体の制御がきかず圧倒的不利な立場に立たされているにもかかわらず、オオカミの姿はやはり凛然としている。そこらの人間なら竦みあがっているであろうオオカミの視線をレキは当然のごとく受け止め、淡々とした視線を返す。

 

 無言のまま、微動だにせず、ただただ見つめ合う両者。それからきっかり3分後。キンジが居心地の悪さを感じ、空気を読んで廃ビルから去ろうとした頃。体の痺れから解放されたオオカミはレキに服従するかのように、レキのふくらはぎにスリスリと頬ずりをした。レキは恭順の意思を示したオオカミに応えるように頭をよしよしと優しく撫でる。

 

 視線を交わす。見つめ合う。ただそれだけでオオカミを手なずけるとは。長年連れ添ったペットと飼い主のように見える光景にキンジが内心で驚愕していると、レキの纏う雰囲気が一気に変貌した。その際。レキの琥珀色の瞳がキラーンと怪しく光った、そんな気がした。

 

「そうですか。それでは、これからは私と戦いましょう。24時間年中無休、戦って戦って戦って戦って戦いまくりましょう。お互いの力を最大限にまで高めましょう。遥か高みへ目指しましょう、私の同志。大丈夫です。急所は外しますから」

 

 レキの口から放たれた言葉に、頬ずりをしていたオオカミがビキリと固まった。石像もかくやと言わんばかりに。

 

「さぁ、さぁさぁさぁさぁ」

 

 レキは能面を思わせるような無表情のまま、それでもどこか琥珀色の瞳を爛々と輝かせつつ、ズイズイと顔を徐々にオオカミへと近づけていく。この時、オオカミは切に感じたことだろう。あ、選択肢間違えた、と。

 

「キャゥウウウウウン!!」

 

 結果、オオカミは情けない鳴き声とともに逃げ出した。途中で足をもつれされて派手に転倒するもすぐさま起き上がり、バヒューンとでも効果音が付きそうなほどの猛スピードで逃げていった。その逃げ様からはオオカミの必死の思い、もとい生存本能がひしひしと伝わってくる。

 

「……そうですか。野生に帰るのですね。自分の生き方は自分で決める。誰にも縛られるつもりはない。そういうことですか。彼のモフモフを手放すのは少々惜しいですが、まぁ……それが彼のためにも一番いいのかもしれませんね」

「いやいや。アレ、ただレキに怯えて逃げ去っただけだと思うんだが? というか、アレをこのまま放っておいたら大変なことになりそうなんだが、放置したままでいいのか?」

「大丈夫です。『風』もそう言ってます。……この世界で生きるのは大変でしょうが、彼にはどうか何事もなく天寿を全うしてもらいたいものです。彼にもきっと守るべき家族がいるのでしょうし」

「……もういいや。レキがそれでいいってんならそれで。あれだけ怖い思いをすればもう人間を襲おうなんて思わないだろうしな。……というか、レキがあのオオカミ追ったのって、まさかとは思うけど、ペットにしたかったからとかじゃないよな?」

「そのまさかですけど? それにしても、残念ですね。一応名前も考えたのですが。男ならアザゼル、女ならナイアルラトホテップと名付けるつもりだったんですけどね」

 

 夕日を見据えて純粋にたそがれている風なレキを前にキンジは「おいおい……」と半眼を向ける。夕日とレキとのセットが無駄に絵になっているのが地味にムカつくキンジであった。

 

 けれど。結局わからないままだ。なぜこんな街中にオオカミが現れたのか。わざわざ俺とレキを狙ったのか。俺だけならイ・ウーからの刺客とも考えられるのだが、それだとイ・ウーと関わりのないレキが襲われる理由がない。

 

(けど、これが多分ユッキーの言ってた『オオカミ』だと考えると、次は『魔王召喚の儀式中の凄く怪しい悪魔』ってことになるのか……)

「さて、キンジさん。オオカミの一件が無事に片付いたことですし、さっきの続きをしましょうか」

「……え? さっきの続き?」

「はい。一時休戦と言ったでしょう? では、早速始めましょう」

「え? は? ちょっ、待っ――」

「問答無用です」

 

 キンジが思索を巡らせていると、野獣のごとくギラついた眼光をしたレキがドラグノフを手に再戦宣言をする。かくして。キンジの制止の声もむなしく、レキとの苛烈極まりない戦闘が再開されるのだった。

 

 

 

 ……その後。とある解体作業中の廃ビルが跡形もなく倒壊したのはまた別の話。

 

 

 

 




キンジ→レキのあまりの実力に内心で戦々恐々としている熱血キャラ。いつの間にか『新しい武器』とやらを所持している。
レキ→武偵弾の使用をためらわないバトルジャンキー。白雪の占いで『いつになくやる気な戦闘狂』扱いされている。何気にネーミングセンスが皆無だったりする。

レキ「くにへ、かえるんだな。おまえにも、かぞくがいるだろう」
オオカミ「そうするワン」

 というわけで、63話終了です。まさかのハイマキさんがレキさんの相棒とならないという展開。まぁ、ここのレキさんはかなり魔改造されてますのでハイマキさんがいなくてもきっと何とかやっていける……はず。


 ~おまけ(突発的ネタ:こんなハイマキは嫌だ)~
※ハイマキ好きの人はくれぐれも閲覧厳禁でお願いします。

レキ『準備OKです。キンジさん、オオカミと接触してください』
キンジ「了解(←廃ビル内へと侵入するキンジ)」

オオカミ「……」
キンジ「……(こうして見ると、改めて威厳ってのが感じられるよなぁ。さすがは肉食獣だ)」
オオカミ「……(スクッ ←いきなり後ろ足二本で立ち上がったオオカミ)」
キンジ「……(え、えー。ちょっ、何かこいつ仁王立ちしてるんだけど? それにゴゴゴゴゴゴッって効果音も聞こえてくるんだけど!? え、何これ。何なのこのオーラ? 何がどうなってんの?)」
オオカミ「(´・ω・`)」
キンジ「……(何か言いたげな顔してるな。構ってほしげな顔してるな。つーか表情豊かだな、このオオカミ。人間と遜色ないんじゃないのか?)」
オオカミ「(*´・ω`)y━・~~」
キンジ「……(おい。どこからタバコとライター取り出した? もふもふか? そのもふもふの中からか? というか、最近のオオカミはタバコを吸うんだな。シラナカッタナー、うん。後でアリアにも教えておこう ←現実逃避)」
オオカミ「――待ちわびたぞ、ニンゲン(←キリッとしつつ)」
キンジ「ッ!?(喋った!? こいつ喋ったぞ!? しかも何気に福山ボイス!?)」
オオカミ「アバアアアアアアアアアアアアアルジェエエエエエエエエエエッヒ!!(←両手を広げて高らかに咆哮するオオカミ)」
キンジ「……(吠え声気持ちわるッ!? 何これ、呪いでも付加されてんのか!?)」
オオカミ「キェアアアオルアアアアヴィアアアアアアアアアアッヒ!!(←どこからか取り出したチェーンソーで襲いかかるオオカミ)」
キンジ「ちょっ、チェーンソーとか反則だろぉぉおおおおおお!?(←たまらず逃げ出す強襲科Sランク武偵。気持ちはよくわかる)」

レキ「……」
レキ「……」
レキ「……やっぱり殺しましょうか、あれ(←ペットにするのを止めた子)」

※オオカミさんは後でキンジくんとレキさんが美味しくいただきました。

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